【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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第4章 凶兆

113話 神か、悪魔か? 其の2

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 どうしてこうなってしまったのだろう。最悪の形でその幕を切った戦いを見た私の感想は酷く月並みで陳腐だった。

「そうこなくちゃなぁ?」

「では程ほどに行くが、頼むからまた逃げてくれるなよ」

「だ、だめ……」

 敵の挑発に伊佐凪竜一は実体化させた刀の柄を強く握り締め、セオは構えた銃の先に射殺さんばかりの鋭い視線を向ける。逃げるつもりはない。その意志を示す2人を見たハシマは掠れた声で呼びかけるが、力ない声が届く道理は何処にもない。

 叶わぬ願いが夜の闇に霧散した直後、否定された戦いが夜の闇から表出した。真っ先に行動したのは伊佐凪竜一。彼は一直線で山県大地へと飛びかかると同時に刀を振り下ろした。美しい一筋の剣閃は夜の闇を両断し、衝撃波を伴いながらアスファルトを抉る。が、山県大地は怒りに任せた単調な一撃を容易く側面に回避すると強烈な拳を隙だらけの顔面に叩き込んだ。

 ドンという大きな音とカメラを小刻みに揺らす程の衝撃を受け吹き飛ばされる伊佐凪竜一に山県大地は容赦なく追撃する。アスファルトに窪みが出来る程の脚力で吹き飛ばした相手に一瞬で追いつくと、服を掴み、アスファルトに叩きつけ……

「あ?誰だよ邪魔する馬鹿野郎は?」

 直後、横っ腹を掠める様に飛来した銃弾に舌打ちした。恍惚に歪んでいた男の表情が一瞬で怒りに染まった。

「あーそうか?テメェから死ぬかオイ?」

 後方を見れば車窓から身を乗り出し援護射撃を行うアレムの姿。邪魔をされた山県大地は激情に駆られたが、次の瞬間……伊佐凪竜一が起き上がると無防備な背中を思い切り殴り飛ばした。その様子を見れば先程受けた攻撃の痛みなど全く感じていないと言った様子か、さもなくば感覚を忘れるくらいに怒っているかの何方かだろう。

「ッ痛ぇなテメェ!!」

 背後からの一撃に山県大地は激高する。

「どうしてお前は、それ以前になんで生きてるんだ!!」

「知るかよンなモン!!なんか白い光が宙を舞ってて、気が付いたら目を覚ましていただけだ。ハハッ、人生何が起こるか分からんよなぁ!!」

「ならもう戦う必要はッ……」

「あるンだよッ!!」

 戦う理由など無い。多くの人間はそう判断する。私もそうだし、伊佐凪竜一も同感だからこそ口を突いて出たのだ。が、即座に否定した、された。

「まだ生きてる、生かしちゃおけない奴等がまだ生きてるッ!!それにお前だッ!!」

「俺?」

「そう。ただそれだけで戦うには十分だろ?お前を超えるッ!!それが俺の生きる理由なんだよ、それが無くなっちまったら俺には何も残らねぇんだよ!!それが今の俺を生かしてるんだ!!後も先もねぇ、ただその為だけにッ!!」

 戦う理由、生きる事に拘る理由を聞いた私はどんな顔をしていただろうか。彼は……歪んでいる。

「勝っても負けても先が無いじゃないか、そんな生き方じゃあ!!」

 そう。勝敗だけに拘泥し、生死さえ顧みない生き方の先には何もない。

「構わねぇよ、人生なんてのはナぁ!!何をしたか残したか、どうやって生きたか、死んだかが重要なんだよ!!長く生きるだけなんてなぁ、何も残せない生き様なんてのは道端に落ちてる石ころ程の価値もネェんだよッ!!大体テメェは何時までンな戯言言ってやがる!!やっぱりお前は駄目だなァ、そんなんじゃ誰も救えねぇよアホがッ!!」

 互いを認めない両者は本音をぶつけ合い、殴り合う。言葉を拳で殴り合う。果て無い殴り合い、地面は抉れ、橋に掛かる鉄骨は折れ曲がり、電柱はへし折られる。周囲に被害が及べば、反宇宙連合は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。烏合の衆じゃないか、アレじゃあ。

 しかし悪い事ばかりではない。我先にと逃げ出す連中にハシマを気に掛ける余裕などある筈も無く、気が付けば彼は解放され地面に力無く横たわっていた。

「クッ、このままじゃ……」

「よそ見してる場合かよオイ!!」

 今度は伊佐凪竜一が隙を見せた。山県大地はがら空きの胴体を思い切り蹴り飛ばすと、思い切り吹き飛ばされた伊佐凪竜一は力無く横たわるハシマの傍まで吹っ飛ばされた。

「だ、だ、じょう……ぶです、か?」

 痛みをこらえ立ち上がる伊佐凪竜一に力無くハシマの様子は余りにも痛ましい。偶然か必然か、間近でその様子を見た伊佐凪竜一は悍ましい怪我に顔をしかめた。

「俺はいい、お前こそひどい有様じゃないか!!」

「僕は……もう駄目でしょう。お願い……ですから逃げ……」

「断る、必ず助ける!!」

「むり……ですよ。身体にね、……巻きつけられてる……です。ハハ……ワンパターンです……ね」

 彼はその言葉に驚きハシマのスーツをめくると力無く膝を付いた。余りにも無残で残酷な光景。だがもう1人、フォルトゥナ姫も同じ光景を見てしまった。人を人と思わぬ所業を、まだ年端もいかぬ少女は再び見てしまった。

「どうして……」

「貴方が私を助けた時に……使う……つも……だった……でしょう……お願いです」

 彼はその言葉に躊躇した。助けたいが助けられない。また人が死ぬ、今度も自分が原因で死ぬ。

「何だ?」

「まさか……グッ!!」

「よそ見してちゃあ駄目じゃないか、なぁ、セオ」

 一方、セオを追い詰めるカーティスは残酷な光景を恍惚の表情で見つめる。その様は下種、外道と呼ぶに相応しい。

「ハハハハッ、アイツ……アイツやりやがった!!」

 直後、周囲の光景が一変した。山県大地はその光景を笑いながら見つめる。太々しい態度を崩さない山県大地の視線の先には、伊佐凪竜一が黒い腕輪を外す光景。直後、彼の周囲に凄まじい勢いでカグツチが集まり始めた。

 その光景は且つて地球で見たあの時と比較出来ない程に小さく弱々しい。且つて地球を救った力をルミナ=AZ1というピースが欠けた状態で強引に使用した為だが、それでも現状を打破するには十分すぎる。

 周辺のカグツチ濃度は瞬く間に10を超え、周囲に夜の闇を照らす様に粒子が舞い踊る。それは漆黒の空間にエネルギーを放出しながら舞い散るナノマシンか、もしくは地球に存在する蛍という虫の発光によく似ている幻想的な光景。その中に伊佐凪竜一は立っている。

「使えねぇな」

「元より期待もしていない。さて、どうする?」

 驚いた。山県大地とカーティスは無様に逃げ出した反地球組織をこき下ろすばかりで、伊佐凪竜一の引き起こした現象に微塵の関心も寄せていない。どうやら逃げるつもりは無いようだが、しかし異常としか表現しようが無い選択だ。

 彼がその力を解放したならばあの2人が勝てる見込みなど万が一にも無い。解放前の伊佐凪竜一と互角に戦っていた山県大地は元より、その辺の人間に毛が生えた程度のカーティスなど物の数ではない。

 幾ら何でもその程度の情報は既に知っている筈、なのに彼らは微塵も気に掛けていない。どれだけ考えても理解出来ない。この男達は一体何を目的にこんな真似をしているのか、その余裕の根拠は何処にあるのか。

「じゃあ行きますかね」

「そうか、じゃあコイツを片付けたら加勢に回ってやるよ」

 山県大地は躊躇いなく伊佐凪竜一目掛けて突撃し、カーティスは足元から忌々しそうに見上げるセオを冷たく見下ろす。

「どうしても続けるのかッ!!」

「当たり前だァ!!」

 伊佐凪竜一の言葉を聞いても尚、男は止まらない、止まれない。もう散々に思い知らされた事実に彼は一度目を閉じ、再び見開くと桁違いの速度で山県大地を殴り飛ばした。

「クソッ、二度もやりやがっ……」

 派手にブッ飛ばされた山県大地は川沿いに建つ家屋の壁をぶち破ると、その奥へと姿を消した。僅か一瞬。怨嗟の言葉を吐き出す暇さえ与えず山県大地を強制退場させた彼は、次にカーティスへと視線を向けた。

「チッ、不味い……」

 当たり前だとツッコミを入れたくなる呟きが聞こえたが、やはりその男も全てを言い終える事は出来なかった。見誤ったのか、単に間抜けなのか、伊佐凪竜一の圧倒的な能力に思考が追い付かなかったカーティスの目の前には既に彼がいた。並び立てば両者の体格差が一層浮き彫りになるが、現状で体格差など些細な違いでしかない。

「化け物がッ!!」

「これでも人間だ!!」

 カーティスの銃をまるで玩具の様に握り潰した伊佐凪竜一は眼前で吠える男を殴り飛ばした。"うぉぉ"と、そんな情けない声に続いてバシャーンという音が聞こえた。どうやら川に落ちたらしい。彼は1人で追手の2人を退け、残るはこれまでの戦闘を不気味に静観していた黒ずくめの一団のみとなった。

 しかし……連中は何故か一向に動く気配を見せないどころか不気味な位にその場に佇んでいる。その状態を見れば、意志や心と言った代物があるのかと疑う位に微動だにしない。

「何だ、どうして?」

 セオもまたその不可解な行動に疑問を持ったのだが、行動を起こさないというならばそれに越したことは無い。多勢に無勢である事もあるが、それ以上の問題が発生している。

 桁違いの力の代償に加えココまでファイヤーウッドからの連戦の疲労が表出したのか、伊佐凪竜一は片膝をついていた。ハァハァと息を大きく荒げる様子は酷く痛ましい。

 反宇宙組織は逃げ、当面の敵である山県大地とカーティスも姿を見せないとなれば逃げるべきだろう。ソレは伊佐凪竜一も、彼を抱えて立ち上がるセオも、車中からその様子を窺っていたアレムも理解している。彼女は運転席に移動すると、アクセルをフカし出発の準備完了を伝えた。

「行きましょう。彼は此方から直ぐに警察に連絡を入れます。爆発物処理班が何時到着するか不明ですが、今はソレに賭けて下さい」

 窓の外から叫ぶその言葉にセオは即断で行動を起こし、伊佐凪竜一はハシマに向け"必ず助ける"と、そう叫んだ。夜の闇を照らすカグツチの光は霧散し街に再び静寂と闇が訪れたかに思えたその時……事態が大きく動いた。
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