【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

文字の大きさ
134 / 432
第4章 凶兆

123話 キカン 其の3

しおりを挟む
「ア、あか、あかい……赤い目……」

 映像の向こうのスサノヲが口から絞り出した言葉に私の言葉が重なった。

 そう、彼の目は真っ赤に染まっていた。ハバキリが……いや、欠片の力をほんの少しだけ解放した。だが彼らにソレは理解出来ない、もはや正気ではないから。いや、最初から正気では無い様に思えた。

「俺は旗艦うえに戻る、邪魔をしないでくれッ!!」

 それは只の叫び、何の変哲もない意志表示。だがその声を聞いた全員が震えあがる。

 最初に行動を起こしたのは連合軍、彼らはその言葉を聞くや武器を放り投げて逃げ出した。次に行動を起こしたのはヤタガラス、彼らは連合軍が逃げ出す様を見ると伊佐凪竜一とスサノヲを交互に見つめていたが、やがて連合軍と同じく逃げ出した。

 残ったのはスサノヲ4人だけ。流石に逃げ出すような無様は晒さないが、誰もがそれも時間の問題と思えるほどに酷い顔をしている。

 ズタズタに引き裂かれた精神状態は後ほんの少しだけ何かあれば容易く崩れ落ちるような危うさを秘めており、刀を構える精強な肉体は恐怖に震えている。

 カグツチに関する知識を修めたスサノヲならば現状をよく理解している筈だ、己を顧みれば真面に戦えない精神状態だと簡単に気付く。

 今、彼等を支えるのは矜持きょうじだ。スサノヲに選ばれたと言う矜持、なろうと思ってなれる存在では無い、狂気に近い鍛錬を果てしなく繰り返した末に漸く門戸が開かれるその場所に辿り着いた、神に選ばれたという矜持。

 しかし、ソレは今や呪いの様に彼等を縛る。自らは選ばれた、選ばれたのだから優れている筈だ、優れているのだから負ける筈が無い、負けてしまえばこれまでの苦労全てが水泡に帰す。こうあらねばならない、こうあるべきだ、これ以外を認めない……

 ソレは持ってはならない固定観念、歪んだ矜持。いつ芽生えたのかは問題ではない。ただ、苦労も知らなければ知識もない地球人がスサノヲの座を得た事実への激しい嫌悪と憎悪に彼等は憑りつかれている。だから、彼らは止まれない。

『スゲェな』

『うん。さっすが地球の英雄だね』

『あの時と比べれば大分弱いけどな。ところで、アイツ等なんで急に怯えだしたんだ?』

『さぁ?僕にもわからないよ』

 魔女と神父の見つめる先には広がるのは且つて見た光景。死に瀕した伊佐凪竜一が逆境を押し返すその姿に半年前の姿を重ねた2人は感嘆と安堵の声を漏らした。

 確かに突如として復活し敵を薙ぎ倒す雄姿は頼もしく映るが、一方で理解し難い状況も起きている。突如として苦しみ悶えたスサノヲと、蜘蛛の子を散らす様に逃げ出したヤタガラスと連合軍の有様に納得のいく回答を魔女と神父は出せず、故に魔女の言葉には僅かな困惑と不安が混じる。

 今この状況を正確に理解できるのは私達監視者だけであり、それ以外には伊佐凪竜一が突如として人外染みた力に目覚めたとした認識できない。

 今、その人外染みた力で持って彼はスサノヲを容易く蹴散らした。一度体勢を整えたスサノヲ達は、ならばと4人掛かりの波状攻撃を行うが、その程度の連携では欠覚との同調を始めた彼の肉体に傷一つ付けるどころか動かす事すら叶わない。

 事実、彼は鈍色の刀をその身体で受け止めるに止まらず、その内の一本を無造作に握り締めると容易くへし折った。

 カグツチにより極めて高い剛性を付与された筈の刀がまるで木の枝を折る様にパキンッと音を立てて折れる光景にスサノヲ達の視線が重なる。全員が折られた刀と伊佐凪竜一を交互に見つめた直後、全員が隠し切れない程の恐怖を露わにした。

 目を合わせてしまった。彼の赤い目を、不気味に輝く血よりも濃い虹彩を直に見てしまった。

「あ……あぁ……」

 力にならない呻き声と同時にスサノヲの1人が崩れ落ちた。ドサリという音と手放した武器が床を転がる音が酷く鮮明に耳に残る。

 ピクピクと辛うじて肉体が痙攣する様子から辛うじて生きている様子が確認できるが、少なくとも暫くは戦うは言うに及ばず、いや下手をすれば……

「クソッ!!」

「バケモノがッ!!」

「人でもないのに英雄を気取るつもりかッ!!」

 3人の気勢を上げる声に意識が逸れた。不幸にも視線から僅かに外れていた為に意識を保っていた彼等は、各々に叫びながら再度攻撃を繰り出した。が、彼我の戦力差は圧倒的。それは最早大人と子供の戦い、いや象と蟻の戦いに等しく、如何に鍛えたスサノヲであれ伊佐凪竜一に害を成す事は出来ない。

 一番の要因は互いの精神状態。スサノヲ達は恐怖に震えその実力を十全に発揮できないのに対し、伊佐凪竜一の意志は対照的なまでの強さを取り戻している。精神や意志と言った要素はカグツチを扱うのに最も重要な力であり、例えどれだけ肉体的に強かろうが高い技術を持とうが意志次第で引っ繰り返される。無論、容易では無いが。

 A-24が彼の意志の強さを高く評価していると知った時、私はタダの一般人という理由で強く否定した。寧ろ、スサノヲとして長い時間を過ごしたルミナの方が強い意志を持っていると、欠片に認められたのは彼女の力と意志だと……だが現実には伊佐凪竜一が覚醒への兆候を見せた。

 希望。その二文字が不意に頭を過った。A-24が伊佐凪竜一を評した言葉、我が主が待ち焦がれる者、どれだけ待っても現れず、どれだけ探しても見つからなかった者。

 その希望が彼だと?やがて希望の二文字が抜け落ち、空いた隙間をそんな疑問が埋め尽くした。だけど、本当に彼自身が極めて強い意志を持つならば……欠片に完全同調しその力を解放できるのならば……

 ドサリ、ドサリと立て続けに2つの影が床に崩れ落ちた。希望の象徴であるかもしれない伊佐凪竜一の足元に2人のスサノヲが転がっている。

 意識を逸らしたのはほんの一瞬だけだ。なのに、意識を思考に逸らした僅かの時間に彼はスサノヲ2人をいとも容易く戦闘不能にした。残ったのはただ1人。だが、その相手が仲間達と同じく床に崩れ落ちるのは時間の問題かと思われたが、有ろう事か戦場から逃げ出してしまった。

 スサノヲにあるまじき醜態と平時ならば糾弾するところだが、正直そんな気も起きない。

 逃げたところで何も出来ないし、仮に伝えたとて現実に責めを受けるのは逃げた方だ。宇宙へと繋がる玄関口、短距離転移用の門を生成する施設の護衛という最重要任務からの逃亡は極めて重罪。故に逃げたところで誰にも報告できない。

 そんな事実を知ってか知らずか、伊佐凪竜一は逃げ行く背中が小さくなる様を無言で見送った。一時はどうなるかと思われたが何とか無事に終わったようだが、事態は思わしくない。先のスサノヲの様な考え方が旗艦アマテラス全域に広まっていた場合、戻ったところで安全の保障は何処にもない。

「な、何だ貴様はッ!!」

 不意に……そんな声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...