【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

文字の大きさ
203 / 432
第6章 運命の時は近い

189話 交渉

しおりを挟む
「何をやって……くッ、頭が……クソ……お前等よく聞けッ!!」

 理解不能な状況に理解不能が更に重なり、更にダメ押しでもう一度折り重なった。スサノヲ達と片腕を斬り飛ばされた守護者4人の視線の先には不意に苦しみ始めたオレステスが映る。 

 部下の醜態を見たからか、それとも怒りが限界を超えたからか、あるいは人外染みた力の反動か。何れにせよ、突然苦悶に顔を歪め、頭を押さえ始めた男の様子に人外を通り越し化け物に片足を突っ込んだ先ほどまでの強さも意志も感じない。

 ほんの少し、オレステスは息を整え、胸元から薬を取り出すと乱雑に口へ放り込んだ。派手な戦闘で空いた大きな穴からそよぐ風の音に錠剤を噛み砕く音と荒い息遣いが混じった不協和音がフロアに木霊する。

「俺達に必要なのは本能のままに動く獣ではなく、確たる意志で目的を完遂する覚悟を持った戦士だけだ。だが貴様らは戦士である名誉を捨てた。俺は獣を仲間に持った覚えはないし躾けるほど暇でもない。今、この瞬間を持って貴様らを守護者から解任する」

 その身を理不尽に襲った頭痛に耐えているのか、それとも薬が即座に効果を発揮したのか、やがて男は淡々と、冷徹に吐き捨てた。お前達に用はないと。自業自得としか言えない状況に哀れな守護者達も、スサノヲも何も言わない。暫しの間、無言の間が横たわる。無残に開いた壁の穴からそよぐ静かで穏やかな風の音が聞こえた。事態は終息……

「そうしたかったのだろう?任務にかこつけてまで女を犯したかったのだろう?好きにすればいい、獣に語る口を俺は持たない。だがスサノヲ共々よく聞け、貴様ら全員ここから出るな。もし出れば……」

 しない。正しく嵐の前の静けさ。あと一言で全てを語り終えるその前に、不意に、不自然な程に言葉が途切れる。不意に、周囲の空気が一瞬で冷えたような、そんな感覚に襲われた。

 刹那――

「コロス」

 絞り出した最後の一言と同時、オレステスは再び振り返った。誰も、何も語らなかった。語れなかった。殺意に淀んだその目を見た全員の身体が反射的に強張る様子をカメラは捉えた。射殺さんばかりの目には先ほどの騒動よりも一層濃く明確で強烈な殺意が籠っており、獣と断じられた守護者達は腰砕け、目に涙を浮かべ、あるいは堪えきれず意識を喪失した。

 最早ソコにいるのは欲望を剝き出しにする獣ではない、ただの大きな子供だ。

「クソ共が」

 視界に映るスサノヲと元守護者の様子を見たオレステスは最後にそう吐き捨てると刀を納め、壁に空いた穴へと歩を進める。進む先には黒雷が控えており、男は外で待っていたソレの手に飛び乗ると瞬く間に姿を消した。二転三転する避難フロアでの戦いは、当事者全員に何が起こったのか分からないと言う印象を植え付けたまま唐突に終焉した。

「な、何だったんだ?」

「分かる訳ないでしょ?」

 タガミとクシナダは互いの顔を見てそう呟いた。周囲のスサノヲ達も同様であり、誰もがオレステスの行動に何らの合理性も見出せない一方、それはそれとして九死に一生を得た事実に湧く。

 が、現状は芳しくない。目の前の問題が解決しただけであり今後の目途が全く立っていないからだ。また同時にオレステスの言葉が彼らを縛る。"外に出れば殺す"と、あらん限りの殺意と共に放った言葉は決して不甲斐ない部下だけに向けられた訳ではない。

「どうします?」

「ウン?そうねぇ、先ずは……」

 オレステスのお陰で助かった女性陣の1人、クシナダは駆け寄った仲間の質問に対する回答とばかりに無様を晒す守護者達を見つめ……

「オイオイオイ……まさかとは思うがよォ?」

「そのまさか。誰か治療してあげて。まさか全部取られてないよね?」

 躊躇いなく指示を飛ばした。

「その辺は抜かりなく。でも、コイツ等の為に貴重な治療薬を使っていい理由が……」

「あぁ。利なんか無ぇだろ?」

 タガミでさえ渋る指示に、当然の如く他のスサノヲ達も反発するか酷い不快感を示す。

「ンふふ、あるよぉ」

 しかしクシナダに迷いはない。彼女はツカツカと守護者の元へと近寄り首根っこを引っ掴むと……

「交渉しましょ?私達はアンタ達を助ける。アンタ達はその代わりに知る限りの全ての情報を吐いてもらう。別にどっちでもいいんだよ、そのまま死にたいならね?」

 ほぼ恫喝に近い交渉を始めた。更に畳み掛けるように斬り落とされた腕の一本を拾い上げると……

「繋がるモンも繋がらなくなる、早くしなよ?」

 守護者に向けて放り投げた。

「あぁ、そう言う事ね」

 彼女の意図を察したタガミは素っ頓狂な声を上げた。目まぐるしく変化するだけならばまだしも、異様としか表現しようのない状況を前に思考が追い付かなかったようだ。またソレは他のスサノヲも同じく。守護者達の小間使いとしてこき使われた挙句、疲弊を押して参加した無謀な救出作戦の終わりに発生した異常な光景を前にすれば思考が鈍るのもまた致し方なしか。

「当たり前でしょ?でなきゃ助けないし助けたくもない。アイツが何であんな訳わかんない真似したのか分からないけど、だけどこんな機会もう二度と来ない。だからこのまま黙って見逃がすわけにはいかない」

「そう考えれば確かに。それにあのまま事が進んだところで情報を引き出せはしなかったでしょうが、しかし腕を斬り落としてまで中断する理由も無いですよね?」

「そもそも私達が見捨てれば彼等はココで終わり。それに、例え助けようとしても出血量次第ではその前に死ぬ可能性もある訳ですから、計画にしては杜撰すぎます。これも計画の内、とは考えにくいですね」

「でも、そもそもどこまで情報を握っているか……」

「それは後回し。さぁ、どうする?守護者解任されたアンタ達に戻る場所なんて無い。でも引き出せた情報の内容次第じゃァちょーっとだけ口利いてあげてもいいけど?」

 クシナダはそう言うと不敵な笑みを浮かべ、真意を察した残りのスサノヲ達は彼女の意向に沿おうと衣服や装飾品の中に隠した治療薬を取り出し、これ見よがしに見せつける。

「わ、分かった……助けてくれるなら……知る限りの全てを話す」

 予想通り元守護者達はアッサリと折れた。飴と鞭とか、もっと高度なとかそういった次元ではない。クシナダの交渉が功を奏した理由は1つ。この連中に潔く死を選ぶ程の覚悟も意志も持ち合わせていないと看破しという、それだけの話だ。

「オーケー。タガミ記録したよね?」

「勿論バッチリよ。ツー訳でよ、もしお前等裏切ったらコレ守護者側に流すからな」

「そんな事……しなくてもいい……もう、何もかもどうでもいい」

 僅か数分前とは立場が逆転した元守護者の面々は、放心状態でありながらもはっきりと情報を流すと宣言した。タガミは捨て鉢な態度に少々呆れ、"あーそうかい"と盛大な溜息と共にぼやいたが、しかしその顔は直ぐに綻んだ。確信に近づける、そんな情報が手に入る喜びが顔いっぱいに広がる。

 こんな状況でありながら、と考えるのは無粋。何せ誰が、何を目的に、何を行うかすらはっきりとしない状況に漸く光明が射したのだ。気が付けばタガミ以外のスサノヲ達の顔色も綻んでいた。が、一方でクシナダだけは相変わらず冷たい視線で守護者達を見下ろす。

「後、アンタ達さぁ襲うにしても相手選びなよ。私達スサノヲだよ?アンタ達のとは訳が違うのよ?」

 何か言っておきたいとばかりにクシナダは治療を受ける守護者達に口を開いたが、その語気には露骨な嫌悪感が、視線には心底からの侮蔑が混ざる。

「な……何を……?」

「油断した瞬間アンタ達の誰かの喉笛噛み千切ってたって話よ。伊達に神様の犬やってないのよ私達。アイツがいなくなったら即、殺してたわよ」

 オレステスと比較すれば随分と可愛げのある感情、殺意を剥き出しにするクシナダは、"ばっかじゃないの"と話を締め括ると全員から視線を外すように顔を背けた。

 表出する感情、その源泉にあるのは抵抗できない状態の女を襲おうとした事もそうだが、その相手がスサノヲだという理由の方が勝っている。スサノヲを襲うというのは自力で立ち上がれない赤子が屈強な大人を襲うに等しい暴挙。故に彼女は怒り、それ以上に呆れた。

「怖ぇ……」

 一方、タガミはそんなクシナダにドン引きした。お前もスサノヲだろうが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...