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第7章 平穏は遥か遠く
266話 目的は姫の……
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幸運の星の力を垣間見たアックスが立てた予測は正しかった。事象の制御という力だけでも信じ難いのに、願えばなんでも叶うなんて出鱈目にも程がある。
「あのオッサンの予測、当たってたわね」
「あぁ。道理でウチの神様が匙投げる訳だ。つーか予測を捻じ曲げるなんて相性最悪だろ」
「我らが神ですら演算出来ないとなれば、恐らくその力は因果律を無視するのか」
「つまり原因が有って結果が有るという原理を無視して望む結果を意のままにに引き起こせると言う事ですか?幾ら何でも、いや……待って下さい。それ、本当なんですか?」
「ゴホッ……疑うのか?」
「普通は疑うでしょう?それだけではなく、その力が正しいとするならばレイディアントの件が矛盾します。姫様の力が誇張抜きならば、疫病など簡単に食い止める事が出来た筈。なのに現実は止められず、相当数の犠牲が出てしまったのは何故でしょう?何か見落としがあるのか、それとも」
怪訝そうな表情を浮かべる医者の言葉に、タガミ達が傍と気付いた。確かに、因果律を無視する力ならば事故の1つを無かった事にする事など雑作も無い。が、無情にも多数の被害者を出し、加えて過大な出費に相当数からの謂れなき禍根まで買った現実はどう考えても守護者の言と食い違う。
「条件」
口を閉ざした医者に代わり、クシナダが続けた。
「そう、条件よ。もしかしたら何か条件が有るんじゃない?普通に考えれば、因果律を無視する力をノーリスクで使えるなんて考えたくないしさ」
「有り得るな。で、その条件を満たせなかったから被害が拡大した。守護者と当時の姫様はその事実を公にしたくなかったから過大な補償で無理矢理黙らせたってんなら一応筋は通るよなぁ」
「少し……ゴホッ、違う」
守護者が語る星の秘密が余りにも異次元過ぎるが故、過去の出来事との整合性は取れず。そんな中でクシナダが思いついた"力の使用条件"は解決の糸口になるかに思えた。が、直後に苦悶の表情を浮かべながら成り行きを見守っていた守護者が咳き込みと共に否定した。よく見れば呼吸が少し荒くなっている。医者の男は急いで彼の元に駆け寄る。
「多少不安定ではありますけど、命に別状はありません。疲労に失血が重なっているから無理もないですが」
「大丈夫だ……違うと言った理由は少しだけ……まだ全て説明していないからだ」
守護者は仰向けになると一度大きく深呼吸を行い、そして続きを語り出した。どうやらまだ力の全てを語っていないと、その言葉に4人の目の色が変わる。
「違う?」
「ひ、姫の力は余りにも強く特異であった為に、歴代の守護者総代を通して守護者だけにしか教えられない。姫と対になる神にすら秘匿した……運命傅く幸運の星、その力は"他者の幸運を無尽蔵に吸い上げ、自らの幸運に変換する"だ」
「オイ何だよそりゃあ!!」
「ハァ、嘘でしょ!?」
「何と馬鹿げた」
「ひ、非常識過ぎる!?」
各々が、絶句した。幸運の星の力は余りも想定外すぎて、だから酷く狼狽し、それ以上に恐怖した。無論、私もだ。力の本質を知り、背筋に寒い何かが伝う。怪我を負った守護者が話した姫の力、他者から幸運を吸い上げて自らの糧とするという能力が真実ならば、つまり連合とは言ってみれば姫の為の餌と換える事が出来る状態、良い感情など抱ける筈もなく。
守護者の言葉は偽りだと、私達を混乱させる罠だと頭が否定したがる。が、考えれば考える程に納得してしまう。他人から幸運を吸い上げ、己の力に転換するなんて力が暴露されれば混乱必死で、だからこそ当人である姫も守護者も徹底して秘匿したと考えれば辻褄はあう。
「だがよぉ、幾ら何でもよぉ!!」
「それって、つまり幸運の星の傍に居る人全員が際限なく不幸になるって事?」
「有り得ん……姫の周囲に不幸が連続するなんて話は聞いた事が無いぞ!!」
スサノヲ達の動揺は計り知れず。彼等と旗艦の神が拮抗しなければならない幸運の星の力は常識を外れ過ぎており、均衡を守れる筈もなく。今までスサノヲとして歩んだ道と歴史は薄氷を履むが如し、姫が願えば簡単に崩れ落ちる茶番でしかなかいと知った3人の狼狽え方は特に酷い。
「確かに。ですが、広く浅く吸い上げていると仮定すればどうでしょう?恐らく、星に起因する不幸は日常よくある程度と誰もが受け流すでしょうから認知などされません。ただ、そう仮定した場合、少なくとも連合全域が姫の影響下と考えねばならないのですが」
「あぁ、確かにそう考えも出来るか。いやはや、先生が居てくれて助かったぞ。コイツはちょいとワシ等の頭の限界を超えとる」
「煽てても何も出ませんよ」
煽てられた医者の表情が僅かに崩れた。が、男は続けてこう語った。"問題はそこではない"、と。既に冷え切った表情は、この後に語る内容の重要性を雄弁に語る。
「もし、ココまでの全てが真実であるならばオレステスの目的がはっきりした事になりませんか?」
医者がそう重ねると、僅かに遅れて最悪の可能性へと至った全員の目が丸くなる。
「ちょっと先生それってもしかして、もしかしちゃうの?」
「オイオイオイ、もしここまでの全部が本当だとすると……姫様に故郷を奪われたって考えてるとすれば」
「えぇ。間違いなく幸運の星が原因って考えるでしょうね、アイツ」
「オレステスがフォルトゥナ=デウス・マキナの母君を恨んでいても不思議じゃあない。いや、寧ろ全てが姫君一族に継承される幸運の星と言う力で、それを恨んでいるならば」
「目的は姫の……抹殺」
タガミが辿りついた結論に、それ以外の誰もが異を唱えず黙り込んだ。何と言う事だろうか。辿り着いた結論に4人は言葉を失い、守護者は呆然とし、遠方から聞く私もまた驚き呆然と見つめる以外の行動を取る事が出来なかった。
確かに名も知らぬ医者の話した疫病の話は真実だ。私の手元にある端末にもその情報は保存されている。その情報によれば、婚姻後に連合の惑星を外遊していた先代の姫君は惑星レイディアントに降り立った直後に体調を崩した、時を同じくして疫病が流行り始めたと記されている。ソレは既に治療法が確立されているどころか数十年前に根絶が確認された筈だった事、更に姫が惑星に現れた直後と言うタイミングを知った当時の民達はこれを姫が招いたと非難、各地で暴動を起こした。
姫はこの事態に対し自らが原因では無いとの言及は避けたものの、今回起きた不幸に対する哀悼の意と共に過大な補填を惑星に充てた。が、それでも病で愛する人を失った者の怒りの火が消える筈もなく。誰もが無意味に姫君を恨み、各地でテロ紛いの行動が勃発した事でただでさえ悪かった治安は一気に悪化した。鎮圧の為に守護者とスサノヲが共同で作戦を展開しなければならない程に。
結果、この事件は現連合における禁忌として扱われ、惑星レイディアントですら禁句とされ、語る事は疎か歴史からも抹消された。最もレイディアントの支配層から見れば渡りに船だったであろう。過大な補償と権益確保に止まらず、連合の頂点に貸しまで作れたのだから。
もし、総代補佐オレステスがこの惑星出身ならば、そして自らの出生を偽り姫君に接触したのならば、この2つから描き出される最終目的は姫の殺害しかない。が、一方でそれが可能かと言われると甚だ疑問だ。映像を見れば未だその結論に辿り着かない4人の話が続く。
「あのオッサンの予測、当たってたわね」
「あぁ。道理でウチの神様が匙投げる訳だ。つーか予測を捻じ曲げるなんて相性最悪だろ」
「我らが神ですら演算出来ないとなれば、恐らくその力は因果律を無視するのか」
「つまり原因が有って結果が有るという原理を無視して望む結果を意のままにに引き起こせると言う事ですか?幾ら何でも、いや……待って下さい。それ、本当なんですか?」
「ゴホッ……疑うのか?」
「普通は疑うでしょう?それだけではなく、その力が正しいとするならばレイディアントの件が矛盾します。姫様の力が誇張抜きならば、疫病など簡単に食い止める事が出来た筈。なのに現実は止められず、相当数の犠牲が出てしまったのは何故でしょう?何か見落としがあるのか、それとも」
怪訝そうな表情を浮かべる医者の言葉に、タガミ達が傍と気付いた。確かに、因果律を無視する力ならば事故の1つを無かった事にする事など雑作も無い。が、無情にも多数の被害者を出し、加えて過大な出費に相当数からの謂れなき禍根まで買った現実はどう考えても守護者の言と食い違う。
「条件」
口を閉ざした医者に代わり、クシナダが続けた。
「そう、条件よ。もしかしたら何か条件が有るんじゃない?普通に考えれば、因果律を無視する力をノーリスクで使えるなんて考えたくないしさ」
「有り得るな。で、その条件を満たせなかったから被害が拡大した。守護者と当時の姫様はその事実を公にしたくなかったから過大な補償で無理矢理黙らせたってんなら一応筋は通るよなぁ」
「少し……ゴホッ、違う」
守護者が語る星の秘密が余りにも異次元過ぎるが故、過去の出来事との整合性は取れず。そんな中でクシナダが思いついた"力の使用条件"は解決の糸口になるかに思えた。が、直後に苦悶の表情を浮かべながら成り行きを見守っていた守護者が咳き込みと共に否定した。よく見れば呼吸が少し荒くなっている。医者の男は急いで彼の元に駆け寄る。
「多少不安定ではありますけど、命に別状はありません。疲労に失血が重なっているから無理もないですが」
「大丈夫だ……違うと言った理由は少しだけ……まだ全て説明していないからだ」
守護者は仰向けになると一度大きく深呼吸を行い、そして続きを語り出した。どうやらまだ力の全てを語っていないと、その言葉に4人の目の色が変わる。
「違う?」
「ひ、姫の力は余りにも強く特異であった為に、歴代の守護者総代を通して守護者だけにしか教えられない。姫と対になる神にすら秘匿した……運命傅く幸運の星、その力は"他者の幸運を無尽蔵に吸い上げ、自らの幸運に変換する"だ」
「オイ何だよそりゃあ!!」
「ハァ、嘘でしょ!?」
「何と馬鹿げた」
「ひ、非常識過ぎる!?」
各々が、絶句した。幸運の星の力は余りも想定外すぎて、だから酷く狼狽し、それ以上に恐怖した。無論、私もだ。力の本質を知り、背筋に寒い何かが伝う。怪我を負った守護者が話した姫の力、他者から幸運を吸い上げて自らの糧とするという能力が真実ならば、つまり連合とは言ってみれば姫の為の餌と換える事が出来る状態、良い感情など抱ける筈もなく。
守護者の言葉は偽りだと、私達を混乱させる罠だと頭が否定したがる。が、考えれば考える程に納得してしまう。他人から幸運を吸い上げ、己の力に転換するなんて力が暴露されれば混乱必死で、だからこそ当人である姫も守護者も徹底して秘匿したと考えれば辻褄はあう。
「だがよぉ、幾ら何でもよぉ!!」
「それって、つまり幸運の星の傍に居る人全員が際限なく不幸になるって事?」
「有り得ん……姫の周囲に不幸が連続するなんて話は聞いた事が無いぞ!!」
スサノヲ達の動揺は計り知れず。彼等と旗艦の神が拮抗しなければならない幸運の星の力は常識を外れ過ぎており、均衡を守れる筈もなく。今までスサノヲとして歩んだ道と歴史は薄氷を履むが如し、姫が願えば簡単に崩れ落ちる茶番でしかなかいと知った3人の狼狽え方は特に酷い。
「確かに。ですが、広く浅く吸い上げていると仮定すればどうでしょう?恐らく、星に起因する不幸は日常よくある程度と誰もが受け流すでしょうから認知などされません。ただ、そう仮定した場合、少なくとも連合全域が姫の影響下と考えねばならないのですが」
「あぁ、確かにそう考えも出来るか。いやはや、先生が居てくれて助かったぞ。コイツはちょいとワシ等の頭の限界を超えとる」
「煽てても何も出ませんよ」
煽てられた医者の表情が僅かに崩れた。が、男は続けてこう語った。"問題はそこではない"、と。既に冷え切った表情は、この後に語る内容の重要性を雄弁に語る。
「もし、ココまでの全てが真実であるならばオレステスの目的がはっきりした事になりませんか?」
医者がそう重ねると、僅かに遅れて最悪の可能性へと至った全員の目が丸くなる。
「ちょっと先生それってもしかして、もしかしちゃうの?」
「オイオイオイ、もしここまでの全部が本当だとすると……姫様に故郷を奪われたって考えてるとすれば」
「えぇ。間違いなく幸運の星が原因って考えるでしょうね、アイツ」
「オレステスがフォルトゥナ=デウス・マキナの母君を恨んでいても不思議じゃあない。いや、寧ろ全てが姫君一族に継承される幸運の星と言う力で、それを恨んでいるならば」
「目的は姫の……抹殺」
タガミが辿りついた結論に、それ以外の誰もが異を唱えず黙り込んだ。何と言う事だろうか。辿り着いた結論に4人は言葉を失い、守護者は呆然とし、遠方から聞く私もまた驚き呆然と見つめる以外の行動を取る事が出来なかった。
確かに名も知らぬ医者の話した疫病の話は真実だ。私の手元にある端末にもその情報は保存されている。その情報によれば、婚姻後に連合の惑星を外遊していた先代の姫君は惑星レイディアントに降り立った直後に体調を崩した、時を同じくして疫病が流行り始めたと記されている。ソレは既に治療法が確立されているどころか数十年前に根絶が確認された筈だった事、更に姫が惑星に現れた直後と言うタイミングを知った当時の民達はこれを姫が招いたと非難、各地で暴動を起こした。
姫はこの事態に対し自らが原因では無いとの言及は避けたものの、今回起きた不幸に対する哀悼の意と共に過大な補填を惑星に充てた。が、それでも病で愛する人を失った者の怒りの火が消える筈もなく。誰もが無意味に姫君を恨み、各地でテロ紛いの行動が勃発した事でただでさえ悪かった治安は一気に悪化した。鎮圧の為に守護者とスサノヲが共同で作戦を展開しなければならない程に。
結果、この事件は現連合における禁忌として扱われ、惑星レイディアントですら禁句とされ、語る事は疎か歴史からも抹消された。最もレイディアントの支配層から見れば渡りに船だったであろう。過大な補償と権益確保に止まらず、連合の頂点に貸しまで作れたのだから。
もし、総代補佐オレステスがこの惑星出身ならば、そして自らの出生を偽り姫君に接触したのならば、この2つから描き出される最終目的は姫の殺害しかない。が、一方でそれが可能かと言われると甚だ疑問だ。映像を見れば未だその結論に辿り着かない4人の話が続く。
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