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第7章 平穏は遥か遠く
267話 その先に待つ崩壊
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「より正確には、幸運の星の依代である姫一族の全滅じゃろうな」
「私も同じ結論です。もし我が身に同じ不幸が降りかかったと考えて、更に不幸の元凶となった星の力を知ったならば、恐らく同じ結論へと至るでしょう。よほど高潔な人物ならば別でしょうけど」
世間一般におけるあの男の評価は、所謂"王子様"。見た目も良く、更に実直な上に極めて高い実力を持ち合わせる、正におとぎ話に登場する完全無欠で女性の理想を体現した存在。が、その内面は極めて短絡的で、且つ冷酷無比。そんな仮面の下の本性を知っているタガミとクシナダは揃えて首を横に振った。
「そう考えれば故郷含めた過去一切が不明な理由も納得出来るわね」
「あぁ。姫がその力で一都市を壊滅させたレイディアント出身なんて馬鹿正直に言える訳がねぇ。復讐を考えて近づいたんなら尚の事だ」
「試験の段階では身元の確認は行われんが、通過したとなれば話は別。身元の調査は厳重に行われ、過去の犯歴から犯罪組織との繋がりまで入念に調査される。奴が何事も無く守護者に就いておる事実から判断すれば、アイアースのヤツも関わっているのはまず間違いない、か」
「そう言えば姫がずっとナギ君と行動してたのもかぁ。婚約者って形で傍にいたんだから、良からぬ気配を察知したのかもね」
クシナダの言葉にあぁ、と全員が反射的に頷いた。ここ数日で一番不可解な状況も、オレステス達が姫の殺害を企んでいるというフィルターを通すと寧ろ自然な行動に見えてくる。
姫は半年前に地球と旗艦を救った英雄に助けを求めたかった。守護者とスサノヲの戦力はほぼ拮抗しており、故に両者が激突するとなると何方が勝利するか不確定、故に姫は一縷の望みと共に大雷と共に地球へと逃亡した。しかし、助けを求めようとしたはいいが彼の人となりや実力を判断する間に見つかってしまい、そうこうする内に連れ戻された、そんなところだろう。
「だんだん点と点が繋がってきたな。とするならばアイアースは目的の一致を理由にオレステスを勧誘したのだろうが、だが一体どうして奴まで幸運の星を狙うのだ?」
「有体に連合の頂点に座りたいとかじゃねぇのか?ウチの神様は降りたんだから、後は姫様がいなくなれば、ってな感じでさ」
「でも、一番大きな問題が有るよね?どうやって幸運の星を持つ姫を殺害するつもりなのかな?」
そう、それが一番の問題。クシナダが突いた今までの推測を阻む最大の障壁にそれまで饒舌に動いていた口が固く閉ざされた。彼女の言葉通りココまで全てに辻褄があっていたと仮定した場合、他者の幸運を無尽蔵に吸い上げ、依り代たる姫の幸運へと変換する星の存在が最大の壁として立ちはだかる。その性質は無敵、最強、全能、チートその他諸々、あらゆる陳腐な賛美が相応しい完全無欠の能力。誰しもが渋い表情と共に唸る。
「ある程度ですが、推測は出来ます」
ただ1人、医者を除いて。3人の視線が吸い寄せられるように白衣を纏った男の冷たい表情へと向かう。
「所詮オレステスは部外者、星の力について何も知りません。恐らく今回の首謀者は守護者総代アイアースという男でしょう。だとするならば、その男は姫を殺す手段を知っていたが時が来るまで待っていた事になります。そして今、条件が揃った。1つ、姫を殺害し得る動機を持つ人間が婚約者となる。そして2つ目は」
「もしかして、もしかしてアレかッ!?つまり姫の伴侶だけが姫を殺せるってコトか?」
「えぇ。そう考えれば合点は行くのではないかと。理屈は一旦置いておき、完全無欠と思われる幸運の星には実は小さな綻びが有る。事象制御、因果律をも無視する絶大な力は唯一、自らの伴侶にだけは及ばない。そう仮定すれば守護者が強引に婚姻の儀を押し進める理由も納得出来るのでは?」
「そうよね、そう考えれば確かに儀式を邪魔されたくないよね?だって儀式が流れちゃったら2人は伴侶じゃない、つまり姫を殺せない」
「それに対になる神の不在も条件に入っているだろうな。もしアマテラスオオカミが健在なら間違いなくスサノヲを派遣した筈だ。だが神はその立場を退いた挙句に行方不明で、均衡する事が求められるスサノヲと守護者の力関係は半年前からコッチ一向に改善していないってのは好機以外のナンでもねぇよな?」
「確かにタガミの言う通り守護者側にしてみれば今この時が絶好の好機であり逃したくない。じゃから強引にでも事を推し進めたのか」
医者の推測を切っ掛けとし、一見すればバラバラで、それぞれが関係ないように見えた事象が姫の殺害というピースを中心に埋まり始める。描き出されるのは幸運の星への復讐。
「しかし、水を差すようで申し訳ないのですが所詮は推測です。証拠は無理としても、せめてもう少し何か情報があれば良いのですが」
が、やはりというか、致し方ない話ではあるが確証が無い。せめて推測を後押しする情報を、と医者は周囲に尋ねると……
「1つ知ってるぜ」
曖昧で不安定な状況が作る不穏な空気を明快な返答が押しのけた。医者の背中を押したのはタガミ。そう言えばこの男、確か夢は守護者となると吹聴していたのを思い出した。となれば主星の歴史を余すところなく調べている可能性もあり得る。
「お前、何か知っておるのか?」
「ぬか喜びさせないでよ?」
彼以外は酷く冷静なのは致し方なく。タガミと言う男は能力に反し子供っぽい言動がしばしば挟まる為、周囲から信頼は成果に反し高くない。疑惑の眼差しは当然で、やる時はやるが基本お調子者という人間の評価なんてそんなモノだ。が、全員から向けられる不信の眼差しを受け、タガミは静かに口を開く。
「今から、何年位前だったかなぁ、確か60年とか70年とか位前だったかな、婚姻の儀の後に行われる諸惑星外遊が突然延期されるって記録を見たんだ。それ自体は別に過去に何度も起きてるから別に不思議でもなんでもないんだが、それから何年か後に姫の死亡が大々的に報道された。死因は病死だと当時の守護者総代が発表したんだが、具体的な詳細は一切不明。だけど、此処までの話を聞いた後だと別の見方が出来るよなぁってさ」
「つまり、病死は嘘で本当は当時の伴侶に殺害されたって事?」
「あぁ。で、その事件で幸運の星の"弱点を知った可能性はあると思うぜ」
タガミの話にイスルギは成程、と相槌を重ねた。その情報でまた幾つかの疑問が解消した。アイアース=デュカキスは代々守護者を輩出するデュカキス家。100年どころか下手をすれば1000年単位で姫と関わって来た名門中の名門ならば、姫に関するあらゆる情報を収集していても不思議では無く、その中には当然不利益な情報も含まれてると考えて良い。アイアースは姫の弱点を知り、己が連合の頂点に立つ夢想を現実のものとする為にオレステスを引き込んだ、そんな絵図が各々の瞼にはっきりと映る。
「とすると、やっぱりタケミカヅチ暴走から神の封印に至る一連も、半年前の戦いも仕組まれてたんだ」
クシナダも推測を重ねる。アイアースが仮に姫を謀殺したとて、もう一柱の神がいては何も成せない。だからアイアースは旗艦の神を失墜させる為、タケミカヅチ計画を発動すると同時に暴走事故を意図的に引き起こす為にタナトスを派遣し、更にスサノヲを守護者の管理下に置く大義名分の為に半年前の戦いを引き起こした。しかし失態もある。勝利を見込んだ地球との戦いに敗北した事、そして英雄を生み出してしまった事だ。
「かもしれんな。それよりも先生、70年前の件について何か知っておるか?」
「済みません。ソチラは流石に目を通した事が無いので何とも。しかし死因に異常が有ろうが無かろうが、守護者を介する形で齎されたものですから改竄されている可能性もありますが、そうですね……ダメ元で調べてみても良いかも知れません。少々お待ちを」
イスルギの言に医者は端末からデータベースに接続を行う。明滅するディスプレイに無数のデータの羅列され、洪水のように流れ始める光景をタガミ達は漠然と眺める中、"そんな事が"、"有り得ない"と誰かが囁く。
「あの人に限って、だって本当に姫君を心から……」
視線をベッドに移せば、今まで眠っていた守護者達が顔面蒼白で天井を眺めながら力なく過去を零す姿。自分達の行動の裏で起きている出来事の大きさ故に、知らなかったと慰めたい自己弁護したいという気持ちさえもが吹き飛んでいる心境が苦悶に崩れた顔が物語る。
もし姫を亡き者に出来たならば守護者は護るべき対象を殺害した事になり、そうなれば逆賊の汚名を被るのは必至。また連合を支える神の命を手折れば連合の崩壊は確実で、そうなればこれまで維持してきた秩序は崩壊、各惑星はここぞとばかりに勢力拡大に動くだろう。
惑星間戦争時代の到来。仮にこの目論見が実現してしまえば金と地位どころでは無い事など明白で、それどころか仲間に引き入れた理由も姫を殺害した犯人の身代わりとする可能性すら考えられるのだから正気ではいられないだろう。
「私も同じ結論です。もし我が身に同じ不幸が降りかかったと考えて、更に不幸の元凶となった星の力を知ったならば、恐らく同じ結論へと至るでしょう。よほど高潔な人物ならば別でしょうけど」
世間一般におけるあの男の評価は、所謂"王子様"。見た目も良く、更に実直な上に極めて高い実力を持ち合わせる、正におとぎ話に登場する完全無欠で女性の理想を体現した存在。が、その内面は極めて短絡的で、且つ冷酷無比。そんな仮面の下の本性を知っているタガミとクシナダは揃えて首を横に振った。
「そう考えれば故郷含めた過去一切が不明な理由も納得出来るわね」
「あぁ。姫がその力で一都市を壊滅させたレイディアント出身なんて馬鹿正直に言える訳がねぇ。復讐を考えて近づいたんなら尚の事だ」
「試験の段階では身元の確認は行われんが、通過したとなれば話は別。身元の調査は厳重に行われ、過去の犯歴から犯罪組織との繋がりまで入念に調査される。奴が何事も無く守護者に就いておる事実から判断すれば、アイアースのヤツも関わっているのはまず間違いない、か」
「そう言えば姫がずっとナギ君と行動してたのもかぁ。婚約者って形で傍にいたんだから、良からぬ気配を察知したのかもね」
クシナダの言葉にあぁ、と全員が反射的に頷いた。ここ数日で一番不可解な状況も、オレステス達が姫の殺害を企んでいるというフィルターを通すと寧ろ自然な行動に見えてくる。
姫は半年前に地球と旗艦を救った英雄に助けを求めたかった。守護者とスサノヲの戦力はほぼ拮抗しており、故に両者が激突するとなると何方が勝利するか不確定、故に姫は一縷の望みと共に大雷と共に地球へと逃亡した。しかし、助けを求めようとしたはいいが彼の人となりや実力を判断する間に見つかってしまい、そうこうする内に連れ戻された、そんなところだろう。
「だんだん点と点が繋がってきたな。とするならばアイアースは目的の一致を理由にオレステスを勧誘したのだろうが、だが一体どうして奴まで幸運の星を狙うのだ?」
「有体に連合の頂点に座りたいとかじゃねぇのか?ウチの神様は降りたんだから、後は姫様がいなくなれば、ってな感じでさ」
「でも、一番大きな問題が有るよね?どうやって幸運の星を持つ姫を殺害するつもりなのかな?」
そう、それが一番の問題。クシナダが突いた今までの推測を阻む最大の障壁にそれまで饒舌に動いていた口が固く閉ざされた。彼女の言葉通りココまで全てに辻褄があっていたと仮定した場合、他者の幸運を無尽蔵に吸い上げ、依り代たる姫の幸運へと変換する星の存在が最大の壁として立ちはだかる。その性質は無敵、最強、全能、チートその他諸々、あらゆる陳腐な賛美が相応しい完全無欠の能力。誰しもが渋い表情と共に唸る。
「ある程度ですが、推測は出来ます」
ただ1人、医者を除いて。3人の視線が吸い寄せられるように白衣を纏った男の冷たい表情へと向かう。
「所詮オレステスは部外者、星の力について何も知りません。恐らく今回の首謀者は守護者総代アイアースという男でしょう。だとするならば、その男は姫を殺す手段を知っていたが時が来るまで待っていた事になります。そして今、条件が揃った。1つ、姫を殺害し得る動機を持つ人間が婚約者となる。そして2つ目は」
「もしかして、もしかしてアレかッ!?つまり姫の伴侶だけが姫を殺せるってコトか?」
「えぇ。そう考えれば合点は行くのではないかと。理屈は一旦置いておき、完全無欠と思われる幸運の星には実は小さな綻びが有る。事象制御、因果律をも無視する絶大な力は唯一、自らの伴侶にだけは及ばない。そう仮定すれば守護者が強引に婚姻の儀を押し進める理由も納得出来るのでは?」
「そうよね、そう考えれば確かに儀式を邪魔されたくないよね?だって儀式が流れちゃったら2人は伴侶じゃない、つまり姫を殺せない」
「それに対になる神の不在も条件に入っているだろうな。もしアマテラスオオカミが健在なら間違いなくスサノヲを派遣した筈だ。だが神はその立場を退いた挙句に行方不明で、均衡する事が求められるスサノヲと守護者の力関係は半年前からコッチ一向に改善していないってのは好機以外のナンでもねぇよな?」
「確かにタガミの言う通り守護者側にしてみれば今この時が絶好の好機であり逃したくない。じゃから強引にでも事を推し進めたのか」
医者の推測を切っ掛けとし、一見すればバラバラで、それぞれが関係ないように見えた事象が姫の殺害というピースを中心に埋まり始める。描き出されるのは幸運の星への復讐。
「しかし、水を差すようで申し訳ないのですが所詮は推測です。証拠は無理としても、せめてもう少し何か情報があれば良いのですが」
が、やはりというか、致し方ない話ではあるが確証が無い。せめて推測を後押しする情報を、と医者は周囲に尋ねると……
「1つ知ってるぜ」
曖昧で不安定な状況が作る不穏な空気を明快な返答が押しのけた。医者の背中を押したのはタガミ。そう言えばこの男、確か夢は守護者となると吹聴していたのを思い出した。となれば主星の歴史を余すところなく調べている可能性もあり得る。
「お前、何か知っておるのか?」
「ぬか喜びさせないでよ?」
彼以外は酷く冷静なのは致し方なく。タガミと言う男は能力に反し子供っぽい言動がしばしば挟まる為、周囲から信頼は成果に反し高くない。疑惑の眼差しは当然で、やる時はやるが基本お調子者という人間の評価なんてそんなモノだ。が、全員から向けられる不信の眼差しを受け、タガミは静かに口を開く。
「今から、何年位前だったかなぁ、確か60年とか70年とか位前だったかな、婚姻の儀の後に行われる諸惑星外遊が突然延期されるって記録を見たんだ。それ自体は別に過去に何度も起きてるから別に不思議でもなんでもないんだが、それから何年か後に姫の死亡が大々的に報道された。死因は病死だと当時の守護者総代が発表したんだが、具体的な詳細は一切不明。だけど、此処までの話を聞いた後だと別の見方が出来るよなぁってさ」
「つまり、病死は嘘で本当は当時の伴侶に殺害されたって事?」
「あぁ。で、その事件で幸運の星の"弱点を知った可能性はあると思うぜ」
タガミの話にイスルギは成程、と相槌を重ねた。その情報でまた幾つかの疑問が解消した。アイアース=デュカキスは代々守護者を輩出するデュカキス家。100年どころか下手をすれば1000年単位で姫と関わって来た名門中の名門ならば、姫に関するあらゆる情報を収集していても不思議では無く、その中には当然不利益な情報も含まれてると考えて良い。アイアースは姫の弱点を知り、己が連合の頂点に立つ夢想を現実のものとする為にオレステスを引き込んだ、そんな絵図が各々の瞼にはっきりと映る。
「とすると、やっぱりタケミカヅチ暴走から神の封印に至る一連も、半年前の戦いも仕組まれてたんだ」
クシナダも推測を重ねる。アイアースが仮に姫を謀殺したとて、もう一柱の神がいては何も成せない。だからアイアースは旗艦の神を失墜させる為、タケミカヅチ計画を発動すると同時に暴走事故を意図的に引き起こす為にタナトスを派遣し、更にスサノヲを守護者の管理下に置く大義名分の為に半年前の戦いを引き起こした。しかし失態もある。勝利を見込んだ地球との戦いに敗北した事、そして英雄を生み出してしまった事だ。
「かもしれんな。それよりも先生、70年前の件について何か知っておるか?」
「済みません。ソチラは流石に目を通した事が無いので何とも。しかし死因に異常が有ろうが無かろうが、守護者を介する形で齎されたものですから改竄されている可能性もありますが、そうですね……ダメ元で調べてみても良いかも知れません。少々お待ちを」
イスルギの言に医者は端末からデータベースに接続を行う。明滅するディスプレイに無数のデータの羅列され、洪水のように流れ始める光景をタガミ達は漠然と眺める中、"そんな事が"、"有り得ない"と誰かが囁く。
「あの人に限って、だって本当に姫君を心から……」
視線をベッドに移せば、今まで眠っていた守護者達が顔面蒼白で天井を眺めながら力なく過去を零す姿。自分達の行動の裏で起きている出来事の大きさ故に、知らなかったと慰めたい自己弁護したいという気持ちさえもが吹き飛んでいる心境が苦悶に崩れた顔が物語る。
もし姫を亡き者に出来たならば守護者は護るべき対象を殺害した事になり、そうなれば逆賊の汚名を被るのは必至。また連合を支える神の命を手折れば連合の崩壊は確実で、そうなればこれまで維持してきた秩序は崩壊、各惑星はここぞとばかりに勢力拡大に動くだろう。
惑星間戦争時代の到来。仮にこの目論見が実現してしまえば金と地位どころでは無い事など明白で、それどころか仲間に引き入れた理由も姫を殺害した犯人の身代わりとする可能性すら考えられるのだから正気ではいられないだろう。
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