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第8章 運命の時 呪いの儀式
327話 闇が、動き出す
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深紅の改式から縦横無尽に降り注ぐ青い刀身は無慈悲に降り注ぎ、戦場に存在する全てを削り取り、切り裂く。
建造物群は無残に崩れ落ち、面影すら無い。スサノヲ達も防壁を容易く突き抜ける雨に攻撃を中断、回避を余儀なくされる。防壁を持たないセオ、アレムとアックス、戦闘不能に陥った白川水希はカルナに手を引かれる形でタケルが展開する防壁の中に逃げ込む。現状、戦闘を継続するのはルミナだけとなったが、改式を追い縋る彼女を豪雨が妨害する。
圧倒的。絶望的。しかし、その絶望に微かな光が射す。淀んだ、昏い光。青天から降り注ぐ雨は、敵味方を区別しない。雨は、守護者達をも襲った。味方から放たれた想定外の攻撃に、防壁を持たない数合わせの守護者達は為す術なく、豪雨の中に屍を晒す。
「どういうつもりだ、お前はッ!!」
「一体どっちの味方だッ!!」
「ウフフッ、でも私の仲間はちゃんと避けられているわよ?自分の弱さを棚に上げないで下さる?」
双方からの非難は至極当然。が、女は悪びれず。仲間が避けられている、回避できない方が悪い、どれだけ被害が出ようがどうでも良いと言い切るその性格は狂気以外の何物でもなく。
その狂気に、誰もが思い知る。数などものともしない人知を超える最強の超兵器、神代三剣の一振りが戦場に降り立つ意味を、その力が悪意を持つ者の手に渡ればどうなるかを。
人類の切り札、人類の希望たる刃は今や絶望へと転化した。ルミナ以外で唯一拮抗しているのはタケルの防壁のみ。しかし、絶望は少しずつ侵食する。タケルの為に用意された専用兵装クナドは苛烈な攻撃の前に一つ、また一つとその機能を停止し始めた。
万事休す。と思われたが、戦場を絶望で青く染め抜いた雨が不意に止んだ。同時、上空から女の乾いた笑い声が木霊す。漸く、誰もが現状を認識した。僅か前まで戦場を染めた血の赤とカグツチの白は完全に霧散しており、雨が降り注いだ範囲内には何一つなかった。
規格外の能力が与えた桁違いの被害は正に絶望の顕現。それを成し得た刃の青い輝きが、無情な程に冷たい光を放ちながら戦場の彼方此方に突き刺さる光景は、ソレを見た全ての人間に等しく同じ感情を刻む。恐怖。神代三剣を相手に数など無意味、たった1人に為す術なく敗北する恐怖。次いで警鐘。力は、意志は正しく振るわねば容易く全てを滅ぼす。
「それでもッ!!」
希望を嘲笑う女の声を振り払う、別の声。青天の空から降り注ぐ声は戦場を超え、遥か遠くまで響いた。旗艦全域に響き渡ったその声に誰もが驚き、自然と声の方へと視線を向ける。探す必要など無い。誰もが即座に解する。英雄ルミナを見る。
肉眼で、映像で、その姿を見た全員が気付く。彼女だけがこの状況において絶望に抵抗している、と。ある者はただ呆然と、ある者は息も絶え絶えと言った様子で、ある者は激痛に絶えながら、ある者は出会ったばかりの仲間の為に虚勢を張る様に平然と佇み、隠し切れない極度の疲労を何とか隠しながら、しかし誰もが彼女を見つめた。視線を、外せない。
「彼も、私も最後まで諦めないッ!!」
その雄姿に、誰もが自然と溜息を零した。彼女はその為に戦っている。顔も見えず、ここ数日碌に顔を合わせる事も出来なかったもう1人の英雄、伊佐凪竜一と共に戦っているのだ。目に見える場所にいるかどうかなど彼女には関係ない。
刹那、映像が彼女の異変を捉えた。目。ほんの僅かに映った彼女生来の青く美しい虹彩がジワジワと侵食され始め、瞬く間に血よりも濃い赤へと染まった。白と赤、その中心にある真っ黒い瞳孔のコントラストは、以前とは違い一瞬の光景ではない。
ハバキリが、監視者達が"欠片"と呼ぶ力が覚醒へと至る兆候。覚醒が始まればどうなるかも、当然よく理解している。故に、監視者は焦る。この状況を打開する要素、覚醒には弊害が存在する。が、状況は止まらない。止められない。
「オイ、タケル。どうなってんだよ!?」
「やはり、あの時と同じ……」
タガミの問いに、タケルは言い淀んだ。彼でさえ認めたくない現状に、苦悩に満ちた表情に、全員が一様に悟る。ニニギから引き出した情報は出まかせではなかったと。
無理もない。人類の切り札と信じられてきた神代三剣の力に滅すべき敵の力が使用されているなど荒唐無稽過ぎる。意志を消滅させるマガツヒの力をその身に宿しながら意志を保つなど、連合の常識から考えれば有り得ない。だから、誰もが偽証を強要されたと、情報操作の一環だと思い込んだ。が、現実は予測の遥か上を行く。
動揺が広がる。情報だけならば問題ない、知るだけならば不安を抱く必要も無い。現実を見ない限り問題は無い。が、今その証明が成された。マガツヒの力をその身に取り込んだ英雄は遠からずマガツヒに変異する。恐喝という形でニニギがもたらした予言が偽りでない証拠が唐突に突き付けられる。
波紋は広がり続け、程なく弊害を告げる声が監視者の耳を掠めた。
「た、大変です!!黒点観測部門から連絡!!マガツヒの反応を確認!!相対濃度は……」
「何だよ!!」
「どうしたの?」
「マイナス……26、尚も出鱈目な勢いで降下中……測定不可。位置計測、終了。場所を映します。あ、あのコレ、コレ……」
オペレーターが、全知的生命体の敵が存在する場所を映し出した。目線は虚ろ、声は震え、額にはうっすらと汗が滲む。
「艦長から、マガツヒの反応が……」
映像が捉えたのは、大聖堂上空を人外の如き速度で飛び回るルミナ。見た者を魅了する、美しい銀の髪が光に反射する光景。しかし、今やその姿は恐怖の象徴と化した。システムが、彼女を不倶戴天の敵と認識した。
「あの話は、出鱈目じゃなかったのか!?じゃあ、敵になる……のか?」
「そんな訳ッ!?」
「落ち着け!!今はそんな事はどうだっていいだろ」
「良くないでしょ!?マガツヒになったのなら倒さないと、殺さないとコッチが逆に殺されちゃうだろ!!」
「敵か味方かどっちなのよ!?」
「わかんねーよ!!だけどこの事実は変えられないだろ!!こうなっちゃった事実はもう変わらないんだよ!!」
遅かった、と監視者が呟く。後悔すれど既に遅く、地球で起きた奇跡の一部が発現した。過去、伊佐凪竜一とルミナが地球で起こした現象、欠片覚醒の初期段階。
遅いか早いかの違いだけで、何れ目にする事になったであろう事態。監視者は愚痴る、あの時は運が良かったのだと。
2人が呼び込んだ計測上限を大幅に超える大量のカグツチにより、計測機器の大半が破損、現状を正しく測る手段が消失した事。生き残った僅かな計測器に自壊プログラムを走らせれば事足りたという事実は、神の封印により人手が足りなくなった監視者視点から見れば正しく幸運だった。が、二度も起きず。しかも最悪のタイミングでの暴露は監視者に止まらず、スサノヲ達の心も蝕む。
「マガツヒの脅威は知っています。しかし俺は彼女の為に戦います。彼女はあの時、地球を救ってくれた時から何も変わっていない」
継戦を望むセオの言葉に、スサノヲ達の反応は鈍い。彼等が死力を尽くそうが、事態は僅かも動かない。
「私も同感です……ところであの、苦しそうですけどどうかされたんですか?」
しかし、続くアレムの言葉に諦観が払拭される。スサノヲ達は彼女の様子に驚き、次にセオを見て二度驚いた。2人共に、ルミナが放つマガツヒの波動に何らの影響を受けていない。
「どうって……君達はこの底冷えするような、極寒の吹雪の中に放り出された様な感覚は無いのか?」
「え?いえ、特に」
「どういう事だ?何故、君達だけ……」
「ハバキリと言う粒子は、過去その効力を弱められた上で地球中に放出されてイた。可能性は二つ。何れマガツヒになる兆候か、さもなくば耐性を獲得したか」
「朗報だか悲報だか分からんな」
「何にせよ、現状で真面に戦えるのは私とタケルに地球から来た2人だけ。戦力低下は敵も同じでしょうが、依然として不利です」
ガブリエルの言葉に全員が戦場を見渡す。敵も見方も一様に、顔に苦悶の表情が貼り付く。
「予想以上ですね。覚悟していたとは言え、まさか此処までとは……」
「信じ難いがどうやらそのようだ、クソッ。想定外だ、まさかこれ程とは……」
改式から、苦悶が零れ落ちる。タナトスの仲間達も同様に、操縦席でマガツヒの恐怖に心身を侵食されているようだ。全員が全員、唐突に寒空に放り出された様な感覚に襲われ真面に動けない。平然を装うのは現状では僅か4名、更に復帰すれば白川水希も加わり5名となる。が、地球からの助っ人3人は戦力とするには余りにも力不足。
「覚悟しろ」
「チィッ、まさかこんなに早く!?」
上空を見上げれば、深紅の改式が空を踊る。ニニギの言葉がいきなり真実となる事態を想定していなかったタナトスは、己が苦悩を空に吐き出した。しかし、一方で精細な動きは些かも曇らず。モニター越しの視認という軽減措置を無視して肉体と精神を蝕む恐怖の波動を、意志のみで強引に抑え込む。
双方共に戦力となるのはごく僅か。しかし、戦力の大幅低下は何時までも続かない。この現象はマガツヒの存在により空間中のカグツチ濃度が急激に低下する事が原因と解明されている。原因が分かれば、解決策を用意するなど容易い。遠からず、戦闘区域に大量のカグツチが散布され、そうすれば事態はまた振出しに戻る。
僅かな時間だが、スサノヲ側にしてみれば戦況を押し返す千歳一隅の好機。が、動けない。この情報は守護者達も知っており、防戦に徹している。
互いが互いを睨み合う膠着状態。しかし、誰ともなく視線を上に向けたのを切っ掛けに、互いを睨み合う視線が一つまた一つと、吸い寄せられる様に空へと向かう。混迷する旗艦の趨勢は視線の先、ルミナとタナトスに委ねられた。
※※※
戦場から遠く離れた黒点観測部門もまた混乱していた。全員が仲良く右往左往する原因は直属の上司、ニニギの一存で今日この日までルミナに関する情報一切を秘匿し続けた結果。現状の責任の一端が自分達にあるのではと、黙っていた罪悪感に己が首を絞められる感覚に襲われている。
が、それだけではない。旗艦の各部門から怒涛の様に寄せられる苦情が更なる苦境に追いやる。最初は片手で数えられるほどだったソレは瞬きする度に数を倍々に増やし、気が付けば全員一丸でも処理不可能な程に膨れ上がった。
"どうして隠していた?"、"信用していなかったのか?"、"隠し事が好きなようだな"等々、誰も彼もがストレートに不満と厭味をぶつけ、ただでさえ疲弊した精神を更に削り取る。何時終わるとも知れない、拷問に等しい時間。しかし、事態は最悪を更新し続ける。
けたたましい警報が旗艦の全域に鳴り響いた。
直近では半年前に鳴った、最高段階の緊急避難警報。マガツヒ襲来を告げる絶望の音。マガツヒ、今はヤソマガツヒと呼称される敵性存在が活動を開始する前兆を告げる音。
「ウソだろ、ヤソマガツヒが動き……まさか、しまったッ!!」
観測部門の全員が、一様に気付いた。タナトスの言葉の真意、絶望の意味をいち早く理解した。神代三剣が一つ、カグツチを操るスサノヲと守護者が無数に存在する戦場、マガツヒへと変貌しつつある英雄。これ等の要素によりカグツチ濃度が急激に上昇、マガツヒ襲来のトリガーとなる危険域を超えた。
だが、彼らは知らない。ヤソマガツヒが動き出した真の理由を知らない。それは連合全体を含めても同じで、真実へと至る者は驚くほどに少ない。真実とはマガツヒが動き出した理由、ソレは探している物が放つ波動を感じ取った為。その為だけに宇宙中を駆け回るマガツヒは、半年前に続き再びその波動を感知した場所へ進撃する。
幸い半年前は伊佐凪竜一とルミナが引き寄せた超高濃度のカグツチにより撤退した。が、両者は分断されてしまった。もう、奇跡は起きない。
建造物群は無残に崩れ落ち、面影すら無い。スサノヲ達も防壁を容易く突き抜ける雨に攻撃を中断、回避を余儀なくされる。防壁を持たないセオ、アレムとアックス、戦闘不能に陥った白川水希はカルナに手を引かれる形でタケルが展開する防壁の中に逃げ込む。現状、戦闘を継続するのはルミナだけとなったが、改式を追い縋る彼女を豪雨が妨害する。
圧倒的。絶望的。しかし、その絶望に微かな光が射す。淀んだ、昏い光。青天から降り注ぐ雨は、敵味方を区別しない。雨は、守護者達をも襲った。味方から放たれた想定外の攻撃に、防壁を持たない数合わせの守護者達は為す術なく、豪雨の中に屍を晒す。
「どういうつもりだ、お前はッ!!」
「一体どっちの味方だッ!!」
「ウフフッ、でも私の仲間はちゃんと避けられているわよ?自分の弱さを棚に上げないで下さる?」
双方からの非難は至極当然。が、女は悪びれず。仲間が避けられている、回避できない方が悪い、どれだけ被害が出ようがどうでも良いと言い切るその性格は狂気以外の何物でもなく。
その狂気に、誰もが思い知る。数などものともしない人知を超える最強の超兵器、神代三剣の一振りが戦場に降り立つ意味を、その力が悪意を持つ者の手に渡ればどうなるかを。
人類の切り札、人類の希望たる刃は今や絶望へと転化した。ルミナ以外で唯一拮抗しているのはタケルの防壁のみ。しかし、絶望は少しずつ侵食する。タケルの為に用意された専用兵装クナドは苛烈な攻撃の前に一つ、また一つとその機能を停止し始めた。
万事休す。と思われたが、戦場を絶望で青く染め抜いた雨が不意に止んだ。同時、上空から女の乾いた笑い声が木霊す。漸く、誰もが現状を認識した。僅か前まで戦場を染めた血の赤とカグツチの白は完全に霧散しており、雨が降り注いだ範囲内には何一つなかった。
規格外の能力が与えた桁違いの被害は正に絶望の顕現。それを成し得た刃の青い輝きが、無情な程に冷たい光を放ちながら戦場の彼方此方に突き刺さる光景は、ソレを見た全ての人間に等しく同じ感情を刻む。恐怖。神代三剣を相手に数など無意味、たった1人に為す術なく敗北する恐怖。次いで警鐘。力は、意志は正しく振るわねば容易く全てを滅ぼす。
「それでもッ!!」
希望を嘲笑う女の声を振り払う、別の声。青天の空から降り注ぐ声は戦場を超え、遥か遠くまで響いた。旗艦全域に響き渡ったその声に誰もが驚き、自然と声の方へと視線を向ける。探す必要など無い。誰もが即座に解する。英雄ルミナを見る。
肉眼で、映像で、その姿を見た全員が気付く。彼女だけがこの状況において絶望に抵抗している、と。ある者はただ呆然と、ある者は息も絶え絶えと言った様子で、ある者は激痛に絶えながら、ある者は出会ったばかりの仲間の為に虚勢を張る様に平然と佇み、隠し切れない極度の疲労を何とか隠しながら、しかし誰もが彼女を見つめた。視線を、外せない。
「彼も、私も最後まで諦めないッ!!」
その雄姿に、誰もが自然と溜息を零した。彼女はその為に戦っている。顔も見えず、ここ数日碌に顔を合わせる事も出来なかったもう1人の英雄、伊佐凪竜一と共に戦っているのだ。目に見える場所にいるかどうかなど彼女には関係ない。
刹那、映像が彼女の異変を捉えた。目。ほんの僅かに映った彼女生来の青く美しい虹彩がジワジワと侵食され始め、瞬く間に血よりも濃い赤へと染まった。白と赤、その中心にある真っ黒い瞳孔のコントラストは、以前とは違い一瞬の光景ではない。
ハバキリが、監視者達が"欠片"と呼ぶ力が覚醒へと至る兆候。覚醒が始まればどうなるかも、当然よく理解している。故に、監視者は焦る。この状況を打開する要素、覚醒には弊害が存在する。が、状況は止まらない。止められない。
「オイ、タケル。どうなってんだよ!?」
「やはり、あの時と同じ……」
タガミの問いに、タケルは言い淀んだ。彼でさえ認めたくない現状に、苦悩に満ちた表情に、全員が一様に悟る。ニニギから引き出した情報は出まかせではなかったと。
無理もない。人類の切り札と信じられてきた神代三剣の力に滅すべき敵の力が使用されているなど荒唐無稽過ぎる。意志を消滅させるマガツヒの力をその身に宿しながら意志を保つなど、連合の常識から考えれば有り得ない。だから、誰もが偽証を強要されたと、情報操作の一環だと思い込んだ。が、現実は予測の遥か上を行く。
動揺が広がる。情報だけならば問題ない、知るだけならば不安を抱く必要も無い。現実を見ない限り問題は無い。が、今その証明が成された。マガツヒの力をその身に取り込んだ英雄は遠からずマガツヒに変異する。恐喝という形でニニギがもたらした予言が偽りでない証拠が唐突に突き付けられる。
波紋は広がり続け、程なく弊害を告げる声が監視者の耳を掠めた。
「た、大変です!!黒点観測部門から連絡!!マガツヒの反応を確認!!相対濃度は……」
「何だよ!!」
「どうしたの?」
「マイナス……26、尚も出鱈目な勢いで降下中……測定不可。位置計測、終了。場所を映します。あ、あのコレ、コレ……」
オペレーターが、全知的生命体の敵が存在する場所を映し出した。目線は虚ろ、声は震え、額にはうっすらと汗が滲む。
「艦長から、マガツヒの反応が……」
映像が捉えたのは、大聖堂上空を人外の如き速度で飛び回るルミナ。見た者を魅了する、美しい銀の髪が光に反射する光景。しかし、今やその姿は恐怖の象徴と化した。システムが、彼女を不倶戴天の敵と認識した。
「あの話は、出鱈目じゃなかったのか!?じゃあ、敵になる……のか?」
「そんな訳ッ!?」
「落ち着け!!今はそんな事はどうだっていいだろ」
「良くないでしょ!?マガツヒになったのなら倒さないと、殺さないとコッチが逆に殺されちゃうだろ!!」
「敵か味方かどっちなのよ!?」
「わかんねーよ!!だけどこの事実は変えられないだろ!!こうなっちゃった事実はもう変わらないんだよ!!」
遅かった、と監視者が呟く。後悔すれど既に遅く、地球で起きた奇跡の一部が発現した。過去、伊佐凪竜一とルミナが地球で起こした現象、欠片覚醒の初期段階。
遅いか早いかの違いだけで、何れ目にする事になったであろう事態。監視者は愚痴る、あの時は運が良かったのだと。
2人が呼び込んだ計測上限を大幅に超える大量のカグツチにより、計測機器の大半が破損、現状を正しく測る手段が消失した事。生き残った僅かな計測器に自壊プログラムを走らせれば事足りたという事実は、神の封印により人手が足りなくなった監視者視点から見れば正しく幸運だった。が、二度も起きず。しかも最悪のタイミングでの暴露は監視者に止まらず、スサノヲ達の心も蝕む。
「マガツヒの脅威は知っています。しかし俺は彼女の為に戦います。彼女はあの時、地球を救ってくれた時から何も変わっていない」
継戦を望むセオの言葉に、スサノヲ達の反応は鈍い。彼等が死力を尽くそうが、事態は僅かも動かない。
「私も同感です……ところであの、苦しそうですけどどうかされたんですか?」
しかし、続くアレムの言葉に諦観が払拭される。スサノヲ達は彼女の様子に驚き、次にセオを見て二度驚いた。2人共に、ルミナが放つマガツヒの波動に何らの影響を受けていない。
「どうって……君達はこの底冷えするような、極寒の吹雪の中に放り出された様な感覚は無いのか?」
「え?いえ、特に」
「どういう事だ?何故、君達だけ……」
「ハバキリと言う粒子は、過去その効力を弱められた上で地球中に放出されてイた。可能性は二つ。何れマガツヒになる兆候か、さもなくば耐性を獲得したか」
「朗報だか悲報だか分からんな」
「何にせよ、現状で真面に戦えるのは私とタケルに地球から来た2人だけ。戦力低下は敵も同じでしょうが、依然として不利です」
ガブリエルの言葉に全員が戦場を見渡す。敵も見方も一様に、顔に苦悶の表情が貼り付く。
「予想以上ですね。覚悟していたとは言え、まさか此処までとは……」
「信じ難いがどうやらそのようだ、クソッ。想定外だ、まさかこれ程とは……」
改式から、苦悶が零れ落ちる。タナトスの仲間達も同様に、操縦席でマガツヒの恐怖に心身を侵食されているようだ。全員が全員、唐突に寒空に放り出された様な感覚に襲われ真面に動けない。平然を装うのは現状では僅か4名、更に復帰すれば白川水希も加わり5名となる。が、地球からの助っ人3人は戦力とするには余りにも力不足。
「覚悟しろ」
「チィッ、まさかこんなに早く!?」
上空を見上げれば、深紅の改式が空を踊る。ニニギの言葉がいきなり真実となる事態を想定していなかったタナトスは、己が苦悩を空に吐き出した。しかし、一方で精細な動きは些かも曇らず。モニター越しの視認という軽減措置を無視して肉体と精神を蝕む恐怖の波動を、意志のみで強引に抑え込む。
双方共に戦力となるのはごく僅か。しかし、戦力の大幅低下は何時までも続かない。この現象はマガツヒの存在により空間中のカグツチ濃度が急激に低下する事が原因と解明されている。原因が分かれば、解決策を用意するなど容易い。遠からず、戦闘区域に大量のカグツチが散布され、そうすれば事態はまた振出しに戻る。
僅かな時間だが、スサノヲ側にしてみれば戦況を押し返す千歳一隅の好機。が、動けない。この情報は守護者達も知っており、防戦に徹している。
互いが互いを睨み合う膠着状態。しかし、誰ともなく視線を上に向けたのを切っ掛けに、互いを睨み合う視線が一つまた一つと、吸い寄せられる様に空へと向かう。混迷する旗艦の趨勢は視線の先、ルミナとタナトスに委ねられた。
※※※
戦場から遠く離れた黒点観測部門もまた混乱していた。全員が仲良く右往左往する原因は直属の上司、ニニギの一存で今日この日までルミナに関する情報一切を秘匿し続けた結果。現状の責任の一端が自分達にあるのではと、黙っていた罪悪感に己が首を絞められる感覚に襲われている。
が、それだけではない。旗艦の各部門から怒涛の様に寄せられる苦情が更なる苦境に追いやる。最初は片手で数えられるほどだったソレは瞬きする度に数を倍々に増やし、気が付けば全員一丸でも処理不可能な程に膨れ上がった。
"どうして隠していた?"、"信用していなかったのか?"、"隠し事が好きなようだな"等々、誰も彼もがストレートに不満と厭味をぶつけ、ただでさえ疲弊した精神を更に削り取る。何時終わるとも知れない、拷問に等しい時間。しかし、事態は最悪を更新し続ける。
けたたましい警報が旗艦の全域に鳴り響いた。
直近では半年前に鳴った、最高段階の緊急避難警報。マガツヒ襲来を告げる絶望の音。マガツヒ、今はヤソマガツヒと呼称される敵性存在が活動を開始する前兆を告げる音。
「ウソだろ、ヤソマガツヒが動き……まさか、しまったッ!!」
観測部門の全員が、一様に気付いた。タナトスの言葉の真意、絶望の意味をいち早く理解した。神代三剣が一つ、カグツチを操るスサノヲと守護者が無数に存在する戦場、マガツヒへと変貌しつつある英雄。これ等の要素によりカグツチ濃度が急激に上昇、マガツヒ襲来のトリガーとなる危険域を超えた。
だが、彼らは知らない。ヤソマガツヒが動き出した真の理由を知らない。それは連合全体を含めても同じで、真実へと至る者は驚くほどに少ない。真実とはマガツヒが動き出した理由、ソレは探している物が放つ波動を感じ取った為。その為だけに宇宙中を駆け回るマガツヒは、半年前に続き再びその波動を感知した場所へ進撃する。
幸い半年前は伊佐凪竜一とルミナが引き寄せた超高濃度のカグツチにより撤退した。が、両者は分断されてしまった。もう、奇跡は起きない。
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センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
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