【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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終章 呪いの星に神は集う

373話 悪魔対神

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 旗艦大聖堂――

 銀河の対極に位置する主星に響いた遠き呼び声に惹かれる様にルミナが動く。

 ほんの僅か前には立つ事さえ困難だった様子とは思えない程にしっかりと地面を踏みしめると、ナノサイズになった神剣をその身に纏わせながら一歩ずつゆっくりと歩き始める。

 迷い無く歩くその行動に彼女の能力と容姿が相まり、視線と意識が集中する。無論、肆号機シゴウキも。

「何をトロトロと、直ぐに殺してやるよォ!!」

 遥か上空から聞こえる悪意に満ちた声に、それでも彼女は歩みを止めない。それどころか声も音も、存在自体も完全に無視している。もう、彼女の心は肆号機には無い。

「死……ネ!?」

 唖然。全員の視線が集まる最中、肆号機の100メートルを超えようという巨大な体躯が両断された。空を見上げれば、黒い光の筋が残光を残しながら陽光に霧散する光景。誰の攻撃か、など考えるまでもない。伊佐凪竜一の放った斬撃が、銀河の反対という超長距離から時空を無視して届いた。

 旗艦の青天を切り裂く次元斬に機竜は無数の破片を巻き散らしながら崩れ落ちる。その最中、ルミナの姿は旗艦大聖堂から消えた。

「直ぐに向かう」

 そんな余韻を戦場に残して。つい先ほどまで彼女が確かにこの場に居た証として、全員の鼓膜と記憶を揺さぶった。

 ※※※

 ――オリンピア大聖堂

「あの女ッ何処に……衛星軌道上だと!?馬鹿なッ、そんな位置から正確に、いやそれ以前にどうやって来たッ!?」

 晴天輝く青空目掛け咆える神に、誰もが等しく空を見上げた。大勢の視線が集まる先、大聖堂跡地の遥か上空、地上からでは視認できない35000キロ以上離れた場所にルミナがいた。彼女は眼下に広がる青い星目掛け引き金を引いた。銃はバラバラに砕け散りながら、一発の弾丸を撃ちだす。

 本来ならば衛星軌道上からの超長距離射撃の際は転向力|《コリオリ》、風、重力その他諸々の要素を考慮する必要があるが、今の彼女には不要。既にこの宇宙を支配する物理法則から逸脱した彼女の力が籠った弾丸は一瞬で数万キロ以上を跳躍、即座に神へと着弾した。

「クソがァ!!どうやって、どうやってェ!?」

 単純ながら視認も回避も不可避という非常識な銃撃に神は再び怯んだ。声には怒りと恐怖がない交ぜになっている。

「俺が呼んだ」

「なッ。有り得ん、どれだけ距離があると思っている!?正確に呼び寄せられる訳が無いだろうが!!クソッ、だがまだ負けてはいない!!まだ星の力は俺に味方している!!」

「お前の味方は何処にもいない!!」

「舐めるなクソガキがッ!!」

 叫ぶアルヘナは、星から無尽蔵に吸収したカグツチと星自体を材料にジェミニドラゴンを瞬く間に復元させた。未だ地中深くに埋もれた下半身が星に根付く限り超巨大な機竜は回復し続け、同時に分体である竜を生み落とし続ける。正しく神と呼ぶに相応しい竜は、更に咆哮と共に分体を生成しながら、更に無数の魔法陣を幾つも展開させた。

 その幾何学模様が周囲のカグツチを取り込みながら白く輝き、消失した。何かをした。が、少なくとも地上側には何らの影響もない。

「通常空間と断絶した、もう貴様でも抜け出せんぞッ。そこで惨めに死んで行け!!」

 アルヘナの絶叫に釣られ、全員が再び空を見上げた。攻撃対象は衛星軌道から狙撃するルミナ。誰にも確認出来ない遥か上空、衛星軌道上に展開された巨大な立方体に彼女が閉じ込められた。悪辣な男の言によれば、立方体の内部は現実世界と断絶された空間だという。

 再び絶望が滲む。見えずとも誰も疑わない。数万光年を飛び越えた彼女が、たかだか数万キロ程度にここまで時間が掛かる訳が無い。銀河の端と端に分かれてしまった2人を、アルヘナが展開した原初魔導が阻んだのだと、叶わぬ再会に心が軋む。

 ……彼を除いて。

 伊佐凪竜一は再びムラクモを振り抜いた。真黒い刃は再び空間を斬り裂くが、またしても不自然な軌道と共にジェミニドラゴンの横を掠めた。攻撃が当たらない。何度攻撃しても幸運の星の力が邪魔をする。攻撃が当たらないと言う結果に書き換えられる。

「見ろッ、やはり幸運は俺に……グウゥッ!?」

 星が再び因果を歪めた事で攻撃は逸れた筈。が、巨躯が何かに激しく揺さぶられた。攻撃は掠めた黒い剣閃の影から飛び出した何かが行った。意識外の攻撃に未だ不完全な星の力が重なった結果、因果関係の書き換えが僅かに間に合わなかった。

 アルヘナは巨躯を大きく揺らがせる程の攻撃を行った何かを見た。ゆっくりと消滅する黒い剣閃から姿を見せたのは、衛星軌道上に展開された"二度と出られない空間"に閉じ込められた筈のルミナだった。

「馬鹿なッ、おのれぇッ!!」

「「覚悟しろッ!!」」

 巨躯から怒りと憎しみと呪いを籠めた一際大きな声を、それ以上に大きな2人の声が掻き消した。

「ふざけるなァ、誰に言っているッ!!」

 神の怒りに惑星が大きく震え、同時に星を巡るカグツチが更に失われる。更に恒星から星を巡る神道を流れるカグツチさえもが際限なく神へと流入する。

 強大な力を蓄えた竜が英雄の目の前に立ちはだかる。且つて地球で起きたあの戦いと同じように、力に自我を飲み込まれた男が再び立ちはだかった。が、今はあの時とは違う。

 人々は見た。戦う手段とそれ以上の意志を持った2人の英雄の目に煌々と輝く光を、カグツチを奪われ闇へと堕ち行く戦場に、恒星よりも鮮烈に輝く光を見た。

 最早、英雄を責める声も罵る声は何処にも存在しない。悪魔マガツヒの力を取り込み、悪魔マガツヒその者となった事実など些末な事象。同じく、神か悪魔かという問題も。彼等が何を考え、どんな意志の下で、何を行うかが重要だと誰もが気付いた。

 死の星へと変わりつつあるこの場所に、かつての英雄が遂に揃った。理不尽で不条理な罰を人に与える神に抗う為に、それを望まなかった神の奸計を無視し、意志が成し得る必然のままに再び出会った。それは何をもってしても、例え別空間に閉じ込められようが止める事など出来ない。

 アルヘナが作り上げた対象を別次元に閉じ込めた原初魔導はルミナの攻撃に蹴り抜かれ、伊佐凪竜一の攻撃により完膚なきまでに破壊された。次元を隔てる壁など障害にすらならない。

 しかし満身創痍。伊佐凪竜一は度重なる連戦が、ルミナも連戦と100万の量産型の大半を一撃で葬り去った影響が今だ肉体に残る。だが、それでも2人の眼差しに死の色は無い。恐怖も迷いも無いその目を見たアルヘナは殊更怒りに震える。

「貴様らがどう足掻こうが勝てんと言うのが、何故分からん!!」

 神は怒り狂い、自らの傍で未だ増殖を続ける分身をけしかけた。骨だけで構成された竜の群れは2人に襲い掛かるが、容易く撃退された。白い光の筋が無数に走ったかと思えば容易くバラバラにされるその光景を、伊佐凪竜一とルミナは驚きの目で見つめた。

「お前達は本体を叩け」

「俺が頼めた義理では無いが、頼む」

 2人の眼前に立っていたのはスクナとオルフェウス。肩で息を切らしながらも、しかし彼等の目にも諦めと絶望は無い。

「お願いします」

 間髪入れず答えたルミナにスクナは彼女の身に起きた心境の変化を察し、"随分と素直になった"と顔を綻ばせる。が、その笑顔も長く続かない。見上げる程の巨躯が空気を震わせた。

「いい気になるなよ、俺は神だぞ!!貴様らも、貴様らも其処に居る貴様らも、此処にいる全員が俺達の技術で生み出されたのだぞ!!カインが恒星の近くにある惑星を巡り、あるいは作りだし、生命の種を蒔き、芽吹いた実が貴様等だ。俺は貴様等を生み出した文明の残り火、神だぞ。崇め敬え称え捧げ怯えかしずけ、地にひれ伏し許しを請え!!俺は、貴様ら程度が対等に見ていい存在ではないのだ!!それに幸運の星が味方している事実を忘れたかッ!!」

 英雄に触発されるかの如く行動を起こすスクナとオルフェウスの態度に神の怒りは更に燃え上がる。抵抗を許さない。逆らう事も許さない。ただ従順に、自らの言う事だけを聞けとばかりに一方的な恭順を求める。大勢がその言葉に行動に恐怖を覚えた。事象制御という力を用いて連合の安寧秩序を維持してきた歴史を知れば、誰もがその力に平伏しても何らおかしくは無い。

 が、その程度では英雄は止まらない。スクナとオルフェウスが道を作り、伊佐凪竜一とルミナがその先にいる巨大な竜に向けて刃を振るう。巨大な防壁をいとも容易く貫かれ、本体に甚大な被害を与える。

「クソッ!!まだ力の制御が完全じゃないのか!!何故星は貴様らを殺さんのだ!!」

 異変。僅か一撃で、アルヘナは気付いた。何時の間にか、いやルミナがこの星に飛び込んで来た直後から星の力が鈍り始めた事に。

 しかし、遥か上空から一帯に遍く響き渡る驚き戸惑う声は、直後に訪れた一際大きな衝撃と、それにより巨躯が大きく揺れ動いた事で中断された。誰の仕業なのか、そんな感情が籠った数多の視線が巨躯の遥か上空に集まると、やがて一つの影が地上に降り立った。巨躯を軋ませ大きく揺さぶる一撃を放ったのは……
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