【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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終章 呪いの星に神は集う

372話 奇跡 再び

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「何とか転移出来ないのか?」

 艦橋の監視者にルミナが問う。援護に駆け付けたブラッドとメギン、及び両者が擁する惑星最高戦力の投入と肆号機の超絶的な演算能力消失により旗艦での戦いが終息するのは時間の問題となった。

 しかし旗艦側が決着するだけでは意味が無い。主星オリンピアには全ての元凶アルヘナがいる。幸運の星を手中に収めた男を止めなければ、何れ銀河に生きる全ての存在から幸運が吸い上げられ、まかり間違って勝利でもすれば銀河中の知的生命体が皆殺しにされる。

「私が持つ専用転移装置ならば行けなくはないですが」

 微かな希望。未だ立ち上がれず、刀を支えに辛うじて姿勢を維持する彼女の目が監視者の言葉に輝く。

「でも無理です。あの星付近の時空が酷く不安定で」

 しかし、直ぐに消えた。

「なら、その付近で良い」

 それでも諦めない。監視者の言に被せた彼女らしくない無茶で無謀な提案は、掻き毟られる程の心情の表出。旗艦に広がる希望とは真逆の悲観に満ちた目が見つめる先には神に抗う伊佐凪竜一の姿。彼女の視線はもうずっと彼だけを追い続ける。映像に映る彼が傷つく度、彼女の感情が大きく揺らぐ。努めて冷静に振る舞う心の内には怒り、悲しみ、様々な感情が渦を巻く。

「無茶です。その状態で向かっても返り討ちにあうだけです。それに今の状態で強引に転移したら何処に飛ばされるか予測出来ません。状況が改善次第、今はコレが精一杯です」

「そんな」

 それまで平静を貫こうと必死で耐えた彼女の顔に悲壮の色が浮かんだ。そんな彼女の意志とは真逆に、伊佐凪竜一は死力を尽くす。その顔が、平静を取り戻そうと必死に努めるルミナを揺さぶる。如何に彼が強かろうが、幸運の星の相手に1人では無謀。希望の敗北が過る。

「ハハハッ、漸く理解したか?では死ね。貴様等も、未だに抵抗する蠅共も、俺に歯向かう奴は全員死ね!!そして知れ!!オレは貴様らの自由を、理想を、願いを、何一つ許していない!!神が無限の愛情で人を救うなどと言う戯言はなぁ、惰弱な精神が生んだ幻、歪んだ願いなんだよッ!!」

 勝利を確信する者、絶望に打ちひしがれる者、それを眺めるしか出来ない者。様々な者の様々な思いが渦巻くオリンピアの戦場に、神の雄叫びがあがる。

 最終決戦の場となった惑星は尚も枯れ行き、光が徐々に失われ行く。恒星からの光は溢れているというのに酷く薄暗い。その光景は、勝利を確信した神以外の全ての心情と重なる。惑星全体が闇に近づく。同様に、不幸も星とソコに生きる全ての人間を闇に染める。見回せば、何処も彼処も混迷を極めていた。

「……る」

 誰かが、何かを呟いた。誰もが小さな小さな呟きを聞き逃した。最初に気付いたのは彼を一番よく見ていたルミナ。映像越しでは聞こえない言葉に彼女はゆっくりと立ち上がった。次いで監視者達が気付く。全員が揃って伊佐凪竜一の様子に違和感を覚え、映像を拡大し、聞いた。

「次元……斬る」

 伊佐凪竜一が、はっきりとそう言った。

「いや、幾ら何でも……」

「まさか……それは出鱈目過ぎる」

「人の能力では、無理……」

 しかし、信じる事など出来ない。それは監視者に止まらず、伊佐凪竜一の声を聞いた全員が同じ結論を出した。何をするつもりか理解出来ても、そんな真似が出来る訳がないと頭が否定する。

 が、直ぐに改めた。"ああ、そうか"と、ため息の様な台詞が重なる。諦めていない。敗北を疑ってもいない。伊佐凪竜一の目には僅かの曇りもない。その意志に呼応し、引き寄せられたカグツチが彼の周囲を舞い踊る。

「聞いて」

 伊佐凪竜一の意志は、遥か遠く離れたルミナにも伝播する。旗艦大聖堂跡地に彼女の声が木霊した。

「行ってくる」

 笑顔で、一言。何処に行くのか。いや、何となく察している。が、どうやって行くのか。誰にも、彼女にすら理解できていない。しかし、それでも彼女は確信をもって言い切った。

「あぁ、無事を祈る」

 全員を代表する形で真っ先に反応したタケルが、微笑みと共に返した。何も分からない位に情報が欠落しているのに、彼はその一言に全てを察すると笑顔で見送った。やがて、彼女を見る全員も同じく理解する。直感的に、彼女が何処に向かうのかを察した。伊佐凪竜一の下へ行くつもりだと。

「来い!!」

 伊佐凪竜一の叫びが、旗艦大聖堂に響いた。この場に居ない男の声、決して届くはずの無い声に、連合全ての視線がオリンピア大聖堂を映す映像に映る伊佐凪竜一に、否……その意志に呼応するムラクモに吸い寄せられる。刀が、彼の意志に呼応する様に力を解放する。刀身から何枚も護符が剥がれ落ち、黒色の刀身が剥き出しにする。刃が、一層に濃さを増した。誰も、アルヘナでさえ異様な力を放つ漆黒の刀身から目を離せない。

 その闇が、空を抉り取った。伊佐凪竜一が渾身の力を込め真っ黒い刀身を振り抜くや、一筋の黒い剣閃がまっすぐジェミニドラゴン目掛けて突き進む。

「ハ、ハハハ、何処を斬っている!!」

 空間を切り裂く剣閃は、ジェミニドラゴンの直前で不自然に逸れた。幸運の星の作用により、巨躯に触れる事すら叶わないまま大きく逸れた。剣閃は遥か上空まで黒い軌跡を残し、そのまま何も起こさないまま静かに消滅した。攻撃は失敗に終わった。

「何を呼んだの?」

「俺に分かる訳が」

 "来い"という言葉は結局何だったのか。一体何を起こすつもりでいたのか。オリンピアで戦うクシナダとオルフェウスは消えゆく黒い軌跡に疑問を零した。只1人、スクナを除いて。

「退いた方がいいな」

 彼とてそんな真似が非常識で、人には不可能な所業だと認識している。しかし、半年前の神魔戦役時に伊佐凪竜一とルミナが起こした奇跡を目の当たりにしたスクナは確信する。不可能を可能にすると、奇跡を再び起こすと。故に、隣で呆然とするクシナダとオルフェウスに逃げるよう指示を出した。

「何だと……おい、まさか!?」

「理屈とか考えるだけ無駄でしょ?良いからさっさと退くよ」

 相変わらず2人には何も見えないし感じない。が、スクナが確信をもっているならば真実であろうと、だけが見る事が出来た、あるいは直感したのか。何れにせよスクナの助言に何かを察したアレスとクシナダは急いでその場から退避し始める。

「何が……?」

 伊佐凪竜一の妙な自身に満ちた目と、直後に見たスクナ達の行動に違和感を覚えたアルヘナは疑問と共に空を見上げる。が、何もない。見えるのは突き抜けるような青い空、世界を照らす恒星の白い姿だけ。

 ズン――

 直後、遥か上空から飛来した何かが見上げる程に巨大な竜に直撃、巨躯諸共に周辺を激しく振動させた。それだけに止まらず、正確無比に頭部を狙った何かを受け、悪魔の如き巨人の竜を模した頭部が見事に破壊され破片を周囲に撒き散らした。

「何だッ、何が起こったァ!?」

 混乱したアルヘナの声が、巨躯の内部から戦場に遍く轟いた。

 神を自称する男でさえ自らに襲った攻撃の正体が分からなかった。いや、誰も理解など出来ない。空から、何かが降り注ぐ。まるで流星の様に、遥か上空から神を射貫く光。誇張抜きで光速と呼べる圧倒的な速度と正確さにアルヘナは事態を把握どころか回避行動すらとれず、直撃を受け続ける。

 が、やがてその正体に辿り着いた。正確にジェミニドラゴンを狙う流星の出処、その正体を理解したジェミニドラゴンは空に女の名を咆えた。

「ルミナ……ザルヴァートル!!」
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