とある村人A~Z

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カルナ村にて

その6 託宣の女神

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 さて、レイシアちゃんの話はこれぐらいにしておいて絵芝居を観よう。
本日うちの村に訪れてくれたのは、ギブリール一座という旅の絵芝居一座だった。
既に何代か投影師と役者が入れ代わったりしてはいるものの、絵芝居が世に認知されるようになる割と初期の頃から活動を続けている一座だそうで、実は俺は、この村に住まわせてもらうようになる前、他所の街で一度だけ同じ一座の演目を観たことがある。
巨大な魔蟲マチュウと青い服の少女の心の触れ合いを描いた物語は、素晴らしいものだった。
あと、やたらカッコイイ爺さんが印象的だった。
『薙ぎ払うのよね』
七日間で世界を滅ぼすとか、あれは怖いわー。

 本日の演目は、空から堕ちてきた少女と、その少女を助ける少年の物語だそうな。
空を飛ぶとか落ちるとか、全然想像できないなぁ……
『のんびり飛ぶのは気持ち良いのよー?』
なん…… だと?
飛べるってのか? 女神様は。 いや、女神だしな。 飛べてもおかしくはないのか…… うん。 そういえば女神だった。
『私に対してもう少し敬意を持ってくれて良いと思うのだけれど?』
せめて神殿とか持ってるってんなら説得力もあるんですけどねぇ……
女神様に出会って━━で良いんだろうか? 姿なんか見たこともないんですけども━━からそれなりに探し回ってみたけど、女神ユークリディアの神殿なんて、誰も知らない上に欠片も残ってないじゃないですか。
『ぐぬぬ……』



 託宣の女神ユークリディア
それが年がら年中俺の頭に語りかけてくる女神様の名前である…… らしい。
彼女には、世間一般では運命と呼ばれているような、「誰が何をした結果どうなる」と言ったような人の行動の流れの先を、それこそ何十年というぐらいのずっと先まで見通すことができる力があるのだそうで、その力を使って人々を不幸から遠ざけ、より善い方向に向かっていけるように助言をするというのが、女神としての役割であり、存在意義でもあるらしい。
 二千何百年もの昔のことになるそうだが、当時の彼女はその力を遺憾なく発揮し、人々が平和で幸福な生活を営めるようにと、彼女に仕える巫女や神官の口や手を借りて人々に神託を与え、導いていたんだそうな。 それはそれは平和で善い世の中だったんだとかなんとか。
しかし、ある時を境に巫女とも神官とも一切の会話が出来なくなってしまい、そこから当時の彼女を崇めていた宗教、宗派は急速に廃れてしまうこととなった。
女神様の声が届かなくなってしまったことで、その信仰の根幹にあった神託そのものが失われてしまったわけだから、仕方の無いことだったのかも知れない。
二千年以上が経過した今では、もう神殿の支柱の一本すら残っていないのだと言う。

 そんな女神様が、どういう訳だか俺の頭の中に語りかけてくるようになってから、三百年程が経つ。
当初は、「ついに俺にもお迎えが来たのか」と、決めなくてもいい覚悟を決めて、自分の入る墓の場所まで考えてから、お世話になっていた村の人々に別れを告げに行く寸前までいったものだが、少し話を聞いてみれば、人の頭の中で女神を名乗って憚らないこの声は、どうやらそういった存在━━死神だとかその手の宣告をするような連中━━ではないご様子。
自分の頭がおかしくなったのかとも思ったものだが、それもまた違うようだと腹を括ってじっくりと会話を重ること三日余り。
まるで頭に入ってこなかった小難しい話を散々聞かされたような気がするが、最終的には雰囲気のようなものでなんとなく状況を理解した俺は、それはもう天災のようなものだったのだと諦めることで自分を納得させることにして現在に至る。
何故こんなことになってしまったのか、原因は女神様にもわからないというのだから、俺なんかには尚更わかる訳はない。
どうにか他の人間に変えられないのかと何度も相談はしているのだが、一向に良い返事を貰える気配が無く、本当にお手上げの状態なのだそうだ。
女神様がとれる中でありとあらゆる手段を講じてみたそうのだが、どれだけ頑張ってみたところで、この人界にいる生き物の中では俺だけとしか会話を繋げることが出来なくなってしまったらしい。
まさか女神を名乗る者が嘘を吐くとは思いたくはないが、この状態は俺に結構な負担を強いてくるので、いつかは改善してもらいたいものだ。
『だからいつも感謝しているじゃない?』

 女神ユークリディアの神託と言う名の加護が健在で、神殿があって巫女も神官も大勢いた大昔とは違い、突然、何処の馬の骨とも知れない俺のようなしがない村人が「聞いたことも無い名前の女神様からの神託を届けに来ました」なんて言って現れたところで、一体誰が、何人の人間がそれを信じるだろうか?
答えは限りなく零に近付いたものとなるだろう。 自分が神託を受ける側であったなら?と仮定してみたところで、やはり零には違いない。
聞く耳持たずの門前払いで済めばまだ良いが、下手をすれば余計な揉め事や厄介ごとに発展する可能性が恐ろしく高いのが、この手の予言やら神託やらといったものの特徴と言ってしまっても過言ではない。
これで相手が国や世界だなんてものだったなら本当にどうしようもないところなのだが、幸か不幸か、彼女の神託は対象を個人としたものに限られる。
ならば、偶然出会った旅人が酒の席で披露する笑い話に織り交ぜて。
偶然訪れた村にの村人から聞かされる昔話として。
偶然大通りで肩を触れ合わせた通行人からの噂話として。
そんな「偶然を装ってさり気なく」をモットーに神託に沿った助言を与えたり手助けをするというのが、人々から忘れ去られてしまったにも関わらず変わらぬ加護を与えようとする女神様に対して、今の俺に出来るせめてもの手助けといったところだろう。
この身一つでは、どう頑張ったところで限界がある為、神託を伝えられる人間の数や範囲は、出来る限り絞って貰っている。
副作用として、個々の神託の重要性が跳ね上がる傾向にあるのだが、そこはもう考えるだけ無駄だと諦めることにした。
近年、特に勇者や強い力を持った人間関連の案件が増えつつあって、そろそろ俺は禿げるんじゃないかと密かに心配している。 頑張ってくれ俺の頭皮よ。
『大丈夫だと思うんだけどなー』
時にはダンジョンに潜り込んで奥にある罠を一つだけ解除するなんてこともあったりするが、普通の人間よりも多少頑丈な身体を得ているというだけで、俺は恐らく、死ぬときはあっさりと死んでしまうだろう。 そんな余計な確信だけはあるので、そういった働きは極力ご遠慮願いたい。 竜が住んでる場所なんてのはモッてのホカだし二度と御免である。
神ならぬ人の身では、この先もどれだけこの女神様に付き合っていく羽目になるのか解りはしないが、出来れば程々にお願いしたいものだ。
『前向きに検討させていただきます』
本当に、心の底からお願いします。



 翌朝、まだ日も昇らないうちからハンスが家までやって来た。
時期にも寄るが、農村の朝は概ね早いと言っても良いんじゃないかとは思う。
ただし、それはあくまで仕事があるときの話だ。
今日は一日休む予定だったから昼近くまで寝ているつもりだったと言うのに、一体どういう了見なんだろうか?この馬鹿は。
「ほらアルフ! 早く起きろよ! 今日は釣りに行く約束だろう? 四十秒で準備しなっ!!」
「ハンス…… あれは昼からの約束だったろうに……」
あいつ…… 絶対今の台詞を言いたかっただけだろう。
『私もあのお婆さん好きだわ~』
確かにあの絵芝居は凄く面白かった。
お陰で昨夜は一座を歓迎する宴の盛り上がりも凄まじいものになった。
四人の役者さんらの前なんて、感想を伝えたい者やら握手を希望する者やらで、最初から最後まで、ずっと列が出来ていたほどだ。 あ、声優って言うんだっけか。
『今、外で待ってる貴方の友人は一人で四回並んでたわよね』
本当にどうしようもないなアレは!
しかし、声優さんらの前の列が凄かったのは確かだが、少し離れたところで村長と二人でちびちび飲んでいた投影師さんの背中が瞼に焼きついて離れないのは何故なのだろうか?
『世の不条理が垣間見られた瞬間よね』

 ヒロインの少女役を演じていた丸顔で背の低い可愛らしい女の声優さんなんかは、「結婚してください!」とか「妹になってください!」とか「踏んでください!」とか言いながら押しかける若い衆に囲まれて苦笑を浮かべていたっけ。
あんな状態では碌に食事も出来ないだろうに、「役者さんも大変だなー」と、暫く眺めていたのだが、「あ、わたしこう見えても三十七なんですよ? 実は、この子は私の娘なんです~」と、もう一人の背の高いほうの女の声優さんを引き寄せて笑ったときに生まれた怖いほどの静寂は、投影師さんの煤けた背中と一緒に、当分の間、夢に見そうなぐらい鮮明に脳裏に焼きついている。
あの人、普通の人族の人ですよね?
長命種エルダーの血なんて一滴も入っていない、混じりっ気なしの純粋な百パーセント人族だったわ』
ある意味恐ろしい生き物を見た気がする。
他の若い衆と一緒に、ハンスまで「嘘だあああああ!!」とか叫びながら川に飛び込んでいたが、あいつ、ほんの一瞬だけだったけどリーネちゃんが怖い顔で睨んでたのに気付いてなかったんだろうなぁ……
此間コノアイダようやく告白したばっかりだったのにねぇ……』
しかしまあ、あの絵芝居は本当に良かった。
それは認めるが……
『滅びの呪文はご入用ですか?』
あの馬鹿野郎の目の前でお願いします。
可能だってんならあの馬鹿に「目があああぁぁぁっ!!」って叫ばせてやりたい。



 その後しばらくの間、当然のごとく村中であの絵芝居の中の台詞が大流行した。
準備するやつと目のやつ。 それとやっぱり人気は滅びの呪文。
お子様連中の叫び声がそこら中で毎朝毎昼毎晩響いていた。
一体何千、何万の浮遊都市が空の彼方に消えていったのか想像もつかない。
そして、準備するやつは村長がやたらと使いまくっていて正直ウザかった。
『奴はとんでもないものを盗んで行きました。 それは……』
……あれ? そんな台詞ありましたっけ?


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