お前んトコの親父さん、異世界で男の娘になったってよ。 ~もし妻と子供達に知られたら、俺はその場で舌を噛んで死ぬ~

W-Song

文字の大きさ
5 / 5
転生:幼年期編

その4 奇跡はあったが魔法は無かった。

しおりを挟む



 更に三年が経過し、俺は六歳になった。
身体は順調に成長している━━誠に不本意ながら、まるで男の子っぽくない方向へとだが━━し、文字も粗方憶えることができたため、最近は剣の稽古と、父の書架に忍び込んで本を読むのが楽しい。
自分の生まれた家の事や、この世界のことについてもだいぶ知ることが出来た。



 どうやら我が生家であるゴルドレオン家と言うのは、木っ端ではあるが男爵の地位と、猫の額ほどの領地に領民を持つ末端の貴族であり、それと同時に騎士の家系でもあるらしい。
当然の事ながら、今の俺の名前はトドロキ 竜磨タツマではなくリュクスニア。
【リュクスニア・デラ・ゴルドレオン】
それが今生で生涯付き合っていく自分の名前になる。

 そんなゴルドレオン家は、国から雀の涙程度の俸給を貰って領地を管理・運営しながら、王族の係累や大貴族などから警護や護衛の依頼を引き受けて報酬を貰うことで、馬鹿みたいな贅沢をしない限りは不自由なく暮らしていける程度に財政を賄えているようだ。
第一子であり跡継ぎになる予定なのであろう俺が生まれたことで暫く腰を落ち着けていたそうなのだが、最近は父もそれらの仕事で頻繁に家を空けるようになってきていた。

 領民達の生活は狩猟と農耕が主で、あとは少数の酪農といったところ。
特産と呼べるような産物は特に無いようなのだが、塩以外の食糧を領内だけで大抵自給出来てしまっているところが少々不思議に思える。
領民達の生活力が高いのか、父や家宰達の領地運営の手腕が巧みなのかは解らないが、悪いことではないのだろうから、そう言うものなのかと思っておくことにした。



……魔法?
そんなものはありませんでしたよ? 少なくとも俺の人生には……



 魔法を使うためには、何は無くとも体内に存在していると言われる魔力マギニス
そして、その魔力を正しく操るための魔力操作能力。
最低でもこの二つが必要になる。

 先ずは魔力マギニス
俺が前世からの感覚を多分に引き摺ったままだったからなのか、魔力と言うものが一体どのようなものであるのか、まるで見当も付いていなかった為、最初こそ少々躓きはしたが、母と手を繋いだ状態で魔力を少し流してもらったところ、「あっ、これか!」という感じで知覚出来るようになったので問題無い。
自分の身体の中心。 大体心臓のある辺りからじわじわと湧き出して、今もこうして身体の中をゆっくりとメグっているのがわかる。

 次に魔力操作能力。
とりあえず自分の身体の中に魔力があることだけはしっかりと解ったので、そこに感覚を合わせながら動け動け流れろ流れろと根気良く念じてみたところ、コツを掴むまでに半日ほどかかったが、どうにか無事に動かせるようになった。
元から体内を廻っていた魔力を後押しするような感じで更に速く廻らせてみたり、渦を巻かせてみたりしながら操作能力を鍛えていると、だんだんとスムーズに動かせるようになってきたような気がする。

 だが、最後に「身体の中で生まれた魔力を感じ取り、操作して掌に集めたら放出してみましょう」と言われて困惑した。
これに成功すると、掌がぼんやりと光ったり、掌から小さな光の玉が出てきたりするらしいのだが、どれだけ頑張ってみても俺のこの手は光って唸らなかったし、光の玉も出て来はしなかった。 



 魔法とは、目で見る事は出来ないが世界のあらゆる場所に満ちていると言われている根源存在たる霊素アテルスと、自身の体内で生み出された魔力マギニスを一定の法則、手順に従って衝突・反応させることによって発生する現象の総称である。
そう、両親から教わったのが、つい一月ほど前のこと。
霊素アテルスは世界のあらゆるところに満ちているので、乱暴な話、そこにある程度の量の魔力をぶつける事さえ出来れば、何かしらの魔法に近しいものを発現させることが出来るのだが、どうやら俺には、その霊素と反応させる、ぶつけるための魔力を身体の外に放出する能力が著しく欠如しているらしい。
魔力を身体の外に全く出せないと言う訳ではないようなのだが、全力で、それこそ何処かの血管が切れそうなぐらいに頑張って捻り出してみても、真っ暗な闇の中ですら思い切り目を凝らさないとわからないぐらいに、本当にうっすら~と掌が光る程度が限界だった。

 これが具体的にどの程度の魔力であるかと言うと、一般的に知られている魔法の中でも初歩の初歩にして必要魔力の最も少ない最下級魔法である【手水ドロップ】━━指先で触れた場所にコップ半分ぐらいの量の水を生み出す魔法━━を、通常の五倍以上の時間をかけることで漸く発現させることが出来たように見えて、実は生み出せる水の量がコップ半分の更に三分の一。 調子が良い時ですらコップに四分の一の水を出すのがやっとと言う程度の魔力でしかないと言うのだから、なんだかもう、色々とお話にならない。

 あれから半月以上も只管ヒタスラに魔力操作の練習を続けているが、今のところ放出出来る魔力の量はまるで増えていない。
そもそも、通常であれば、魔力マギニスは体内で生み出された先から湯気か煙のように勝手に全身から放出されて、大気に溶けて消えていってしまうものらしい。
本来であればそんな感じで散って消えてしまっている魔力を、散らないように操作・制御して魔法を発現させるために必要な分だけ纏め上げ、掌や拳などと言った一箇所に集中させる。 と言うのが一般に魔法操作能力と呼ばれているものだと聞いた時、俺はただ首を傾げることしか出来なかった。
魔力は、むしろ体内に長く留め置く事の方が難しい性質を持っているそうなのだが、自分の場合は全くその逆。 身体の中をまるで血液のように循環こそすれ、殆ど外に出てくれないとは、コレ如何に。
カメハメ波に足が生えて全速力で走り去っていく様を幻視して、半日ばかり不貞寝した。 完全に想定外の事態である。

 しかも、それは両親にとっても同様の事態だったようで、父は「まっ、まあ、魔法が使えないんだったらその分、剣の腕を磨けば良いさっ」とぎこちなく笑い、母は「根気良く、根気良くねっ! ニアちゃんにはわたしがついているわっ! 一緒に頑張りましょう!」なんて具合に励ましてくれたものの、いつの間にやら家族の中では、この話題に触れる事が禁忌タブーとなりつつあった。



 まあ、世界は違えどこうして生まれ変わることが出来て、優しく暖かな両親の下で不自由の無い━━神託に起因するある一点を除いては━━人生を歩ませてもらえているこの奇跡には感謝しかないのだから、魔法が使えない程度の事には目を瞑ってしまっても良いんじゃないだろうか?
前世にはそもそも魔法なんてものが存在していなかったのだから、きっとそれほど不便になるような事もあるまい。
……よし。 無かった! 俺の人生には元から魔法なんてものは存在してなかった! それで良いじゃないか。
一度くらいは空を翔んでみたり霊丸レイガンとかギャリック砲的なものとかを撃ってみたりしたかったけどな!


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...