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転生:幼年期編
その4 奇跡はあったが魔法は無かった。
しおりを挟む更に三年が経過し、俺は六歳になった。
身体は順調に成長している━━誠に不本意ながら、まるで男の子っぽくない方向へとだが━━し、文字も粗方憶えることができたため、最近は剣の稽古と、父の書架に忍び込んで本を読むのが楽しい。
自分の生まれた家の事や、この世界のことについてもだいぶ知ることが出来た。
どうやら我が生家であるゴルドレオン家と言うのは、木っ端ではあるが男爵の地位と、猫の額ほどの領地に領民を持つ末端の貴族であり、それと同時に騎士の家系でもあるらしい。
当然の事ながら、今の俺の名前は轟 竜磨ではなくリュクスニア。
【リュクスニア・デラ・ゴルドレオン】
それが今生で生涯付き合っていく自分の名前になる。
そんなゴルドレオン家は、国から雀の涙程度の俸給を貰って領地を管理・運営しながら、王族の係累や大貴族などから警護や護衛の依頼を引き受けて報酬を貰うことで、馬鹿みたいな贅沢をしない限りは不自由なく暮らしていける程度に財政を賄えているようだ。
第一子であり跡継ぎになる予定なのであろう俺が生まれたことで暫く腰を落ち着けていたそうなのだが、最近は父もそれらの仕事で頻繁に家を空けるようになってきていた。
領民達の生活は狩猟と農耕が主で、あとは少数の酪農といったところ。
特産と呼べるような産物は特に無いようなのだが、塩以外の食糧を領内だけで大抵自給出来てしまっているところが少々不思議に思える。
領民達の生活力が高いのか、父や家宰達の領地運営の手腕が巧みなのかは解らないが、悪いことではないのだろうから、そう言うものなのかと思っておくことにした。
……魔法?
そんなものはありませんでしたよ? 少なくとも俺の人生には……
魔法を使うためには、何は無くとも体内に存在していると言われる魔力。
そして、その魔力を正しく操るための魔力操作能力。
最低でもこの二つが必要になる。
先ずは魔力。
俺が前世からの感覚を多分に引き摺ったままだったからなのか、魔力と言うものが一体どのようなものであるのか、まるで見当も付いていなかった為、最初こそ少々躓きはしたが、母と手を繋いだ状態で魔力を少し流してもらったところ、「あっ、これか!」という感じで知覚出来るようになったので問題無い。
自分の身体の中心。 大体心臓のある辺りからじわじわと湧き出して、今もこうして身体の中をゆっくりと廻っているのがわかる。
次に魔力操作能力。
とりあえず自分の身体の中に魔力があることだけはしっかりと解ったので、そこに感覚を合わせながら動け動け流れろ流れろと根気良く念じてみたところ、コツを掴むまでに半日ほどかかったが、どうにか無事に動かせるようになった。
元から体内を廻っていた魔力を後押しするような感じで更に速く廻らせてみたり、渦を巻かせてみたりしながら操作能力を鍛えていると、だんだんとスムーズに動かせるようになってきたような気がする。
だが、最後に「身体の中で生まれた魔力を感じ取り、操作して掌に集めたら放出してみましょう」と言われて困惑した。
これに成功すると、掌がぼんやりと光ったり、掌から小さな光の玉が出てきたりするらしいのだが、どれだけ頑張ってみても俺のこの手は光って唸らなかったし、光の玉も出て来はしなかった。
魔法とは、目で見る事は出来ないが世界のあらゆる場所に満ちていると言われている根源存在たる霊素と、自身の体内で生み出された魔力を一定の法則、手順に従って衝突・反応させることによって発生する現象の総称である。
そう、両親から教わったのが、つい一月ほど前のこと。
霊素は世界のあらゆるところに満ちているので、乱暴な話、そこにある程度の量の魔力をぶつける事さえ出来れば、何かしらの魔法に近しいものを発現させることが出来るのだが、どうやら俺には、その霊素と反応させる、ぶつけるための魔力を身体の外に放出する能力が著しく欠如しているらしい。
魔力を身体の外に全く出せないと言う訳ではないようなのだが、全力で、それこそ何処かの血管が切れそうなぐらいに頑張って捻り出してみても、真っ暗な闇の中ですら思い切り目を凝らさないとわからないぐらいに、本当にうっすら~と掌が光る程度が限界だった。
これが具体的にどの程度の魔力であるかと言うと、一般的に知られている魔法の中でも初歩の初歩にして必要魔力の最も少ない最下級魔法である【手水】━━指先で触れた場所にコップ半分ぐらいの量の水を生み出す魔法━━を、通常の五倍以上の時間をかけることで漸く発現させることが出来たように見えて、実は生み出せる水の量がコップ半分の更に三分の一。 調子が良い時ですらコップに四分の一の水を出すのがやっとと言う程度の魔力でしかないと言うのだから、なんだかもう、色々とお話にならない。
あれから半月以上も只管に魔力操作の練習を続けているが、今のところ放出出来る魔力の量はまるで増えていない。
そもそも、通常であれば、魔力は体内で生み出された先から湯気か煙のように勝手に全身から放出されて、大気に溶けて消えていってしまうものらしい。
本来であればそんな感じで散って消えてしまっている魔力を、散らないように操作・制御して魔法を発現させるために必要な分だけ纏め上げ、掌や拳などと言った一箇所に集中させる。 と言うのが一般に魔法操作能力と呼ばれているものだと聞いた時、俺はただ首を傾げることしか出来なかった。
魔力は、むしろ体内に長く留め置く事の方が難しい性質を持っているそうなのだが、自分の場合は全くその逆。 身体の中をまるで血液のように循環こそすれ、殆ど外に出てくれないとは、之如何に。
カメハメ波に足が生えて全速力で走り去っていく様を幻視して、半日ばかり不貞寝した。 完全に想定外の事態である。
しかも、それは両親にとっても同様の事態だったようで、父は「まっ、まあ、魔法が使えないんだったらその分、剣の腕を磨けば良いさっ」とぎこちなく笑い、母は「根気良く、根気良くねっ! ニアちゃんにはわたしがついているわっ! 一緒に頑張りましょう!」なんて具合に励ましてくれたものの、いつの間にやら家族の中では、この話題に触れる事が禁忌となりつつあった。
まあ、世界は違えどこうして生まれ変わることが出来て、優しく暖かな両親の下で不自由の無い━━神託に起因するある一点を除いては━━人生を歩ませてもらえているこの奇跡には感謝しかないのだから、魔法が使えない程度の事には目を瞑ってしまっても良いんじゃないだろうか?
前世にはそもそも魔法なんてものが存在していなかったのだから、きっとそれほど不便になるような事もあるまい。
……よし。 無かった! 俺の人生には元から魔法なんてものは存在してなかった! それで良いじゃないか。
一度くらいは空を翔んでみたり霊丸とかギャリック砲的なものとかを撃ってみたりしたかったけどな!
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