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番外編:陽だまりの午後
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──結婚から五年が経った。
フェルナンドと結ばれ、この異国の地で新たな人生を歩み始めてからの日々は、穏やかで、けれど毎日が愛おしい出来事に満ちていた。
イザベルは朝早く、屋敷の広い庭に面した窓を開け放った。
初夏の陽光がやわらかく差し込み、風に乗ってバラとラベンダーの香りが漂ってくる。
「……今日も良い天気ね」
無意識に口にした言葉に、背後から低い笑い声が返ってきた。
「イザベル、君は毎朝同じことを言っている」
まだ寝間着姿のフェルナンドが、柔らかく乱れた金髪を掻き上げながら近づいてくる。
その姿に思わず頬が熱を帯びるのは、十年経った今でも変わらなかった。
「だって、本当に毎日が……奇跡みたいなんだもの」
小声で告げると、彼はイザベルを抱き寄せ、頬に口づけを落とした。
「君がそう思ってくれるなら、私にとっても奇跡だ」
大きな胸に額を押し付けると、心臓の鼓動が規則正しく響いてきて、不思議と安心感に包まれる。
⸻
朝食の席には、二人の子どもたちがすでに待ち構えていた。
五歳になる長男・エドゥアルトと、三歳の長女・セシリア。
「ママ! 今日は騎士団の訓練を見に行ってもいい?」
「だめよ、あなたはまだ授業があるでしょう?」
「ええ~!」
頬を膨らませるエドゥアルトに、フェルナンドが豪快に笑いながらパンをちぎって渡した。
「我慢しろ、エドゥ。騎士になるのは逃げない。まずは読み書きを完璧にしなきゃ、剣を振る資格はないんだぞ」
「うぅ……」
父親譲りの蒼い瞳を潤ませる息子の頭を、イザベルは優しく撫でた。
そのやり取りを見ていたセシリアは、ぱちぱちと手を叩きながら笑っている。
「パパ、エドゥがまたしょんぼりしてるのー!」
鈴のような声が食堂に響き渡り、思わずイザベルも笑みをこぼした。
⸻
朝食のあと、イザベルは庭に出て薬草の世話をした。
この十年間で、彼女の癒しの力はさらに磨かれ、今では騎士団の治療役として欠かせない存在になっていた。
土に触れ、緑を撫でていると、不意に背後から温かな視線を感じる。
「やっぱり、君は土や花と一緒にいるときがいちばん綺麗だ」
いつの間にかフェルナンドが隣に立っていた。
「もう……仕事は?」
「部下に任せた。今日は昼から街へ出よう。家族みんなで」
彼の誘いに胸が高鳴る。結婚して子どもができても、こうしてさりげなくデートのように誘ってくれるのが、イザベルには嬉しかった。
⸻
午後、街の広場では音楽隊が奏でる調べに合わせて人々が踊っていた。
屋台からは焼き菓子の甘い香りが漂い、子どもたちは目を輝かせて走り回る。
イザベルはフェルナンドと手をつなぎながら、その賑わいを見守った。
「十年前、ここに来たときのことを覚えてる?」
ふと彼女が尋ねると、フェルナンドは苦笑して頷いた。
「覚えているさ。あのときの君は、傷だらけで、壊れてしまいそうで……それでも笑おうとしていた」
「……私も覚えてるわ。あなたが差し伸べてくれた手の温かさを」
視線が絡み合い、胸の奥が甘く切なく満たされていく。
「イザベル。君は私の奇跡だ」
「……私にとっても、フェルナンドは光なの」
その瞬間、セシリアが走り寄ってきて、二人の足に抱きついた。
「パパ! ママ! 一緒に踊ろ!」
彼女の無邪気な笑顔に、二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
⸻
夕暮れ時、家に戻った一家は、暖炉の前で丸くなって過ごした。
子どもたちが眠りについたあと、イザベルはフェルナンドの肩に寄りかかる。
「ねえ……幸せって、こんなにも温かいものなのね」
「そうだな。けれど私はまだ満足していない」
「え?」
不思議そうに見上げると、彼はイザベルの左手をとり、薬指に光る指輪に口づけを落とした。
「君と一緒に過ごせる時間を、もっともっと積み重ねたい。たとえ百年先まで」
「……私もよ」
涙が滲む視界の中、唇が触れ合い、言葉よりも深く心が結ばれる。
⸻
夜が更けても、窓の外には満天の星が輝いていた。
十年前、絶望の淵で見失った未来。
けれど今は、愛する夫と、愛しい子どもたちとともに歩む日々が、何よりの宝物となっている。
「ありがとう、フェルナンド。これからも、ずっと……」
小さな囁きに、彼は穏やかな寝息で答えていた。
その音を子守唄にしながら、イザベルは安らかな眠りへと落ちていった。
フェルナンドと結ばれ、この異国の地で新たな人生を歩み始めてからの日々は、穏やかで、けれど毎日が愛おしい出来事に満ちていた。
イザベルは朝早く、屋敷の広い庭に面した窓を開け放った。
初夏の陽光がやわらかく差し込み、風に乗ってバラとラベンダーの香りが漂ってくる。
「……今日も良い天気ね」
無意識に口にした言葉に、背後から低い笑い声が返ってきた。
「イザベル、君は毎朝同じことを言っている」
まだ寝間着姿のフェルナンドが、柔らかく乱れた金髪を掻き上げながら近づいてくる。
その姿に思わず頬が熱を帯びるのは、十年経った今でも変わらなかった。
「だって、本当に毎日が……奇跡みたいなんだもの」
小声で告げると、彼はイザベルを抱き寄せ、頬に口づけを落とした。
「君がそう思ってくれるなら、私にとっても奇跡だ」
大きな胸に額を押し付けると、心臓の鼓動が規則正しく響いてきて、不思議と安心感に包まれる。
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朝食の席には、二人の子どもたちがすでに待ち構えていた。
五歳になる長男・エドゥアルトと、三歳の長女・セシリア。
「ママ! 今日は騎士団の訓練を見に行ってもいい?」
「だめよ、あなたはまだ授業があるでしょう?」
「ええ~!」
頬を膨らませるエドゥアルトに、フェルナンドが豪快に笑いながらパンをちぎって渡した。
「我慢しろ、エドゥ。騎士になるのは逃げない。まずは読み書きを完璧にしなきゃ、剣を振る資格はないんだぞ」
「うぅ……」
父親譲りの蒼い瞳を潤ませる息子の頭を、イザベルは優しく撫でた。
そのやり取りを見ていたセシリアは、ぱちぱちと手を叩きながら笑っている。
「パパ、エドゥがまたしょんぼりしてるのー!」
鈴のような声が食堂に響き渡り、思わずイザベルも笑みをこぼした。
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朝食のあと、イザベルは庭に出て薬草の世話をした。
この十年間で、彼女の癒しの力はさらに磨かれ、今では騎士団の治療役として欠かせない存在になっていた。
土に触れ、緑を撫でていると、不意に背後から温かな視線を感じる。
「やっぱり、君は土や花と一緒にいるときがいちばん綺麗だ」
いつの間にかフェルナンドが隣に立っていた。
「もう……仕事は?」
「部下に任せた。今日は昼から街へ出よう。家族みんなで」
彼の誘いに胸が高鳴る。結婚して子どもができても、こうしてさりげなくデートのように誘ってくれるのが、イザベルには嬉しかった。
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午後、街の広場では音楽隊が奏でる調べに合わせて人々が踊っていた。
屋台からは焼き菓子の甘い香りが漂い、子どもたちは目を輝かせて走り回る。
イザベルはフェルナンドと手をつなぎながら、その賑わいを見守った。
「十年前、ここに来たときのことを覚えてる?」
ふと彼女が尋ねると、フェルナンドは苦笑して頷いた。
「覚えているさ。あのときの君は、傷だらけで、壊れてしまいそうで……それでも笑おうとしていた」
「……私も覚えてるわ。あなたが差し伸べてくれた手の温かさを」
視線が絡み合い、胸の奥が甘く切なく満たされていく。
「イザベル。君は私の奇跡だ」
「……私にとっても、フェルナンドは光なの」
その瞬間、セシリアが走り寄ってきて、二人の足に抱きついた。
「パパ! ママ! 一緒に踊ろ!」
彼女の無邪気な笑顔に、二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
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夕暮れ時、家に戻った一家は、暖炉の前で丸くなって過ごした。
子どもたちが眠りについたあと、イザベルはフェルナンドの肩に寄りかかる。
「ねえ……幸せって、こんなにも温かいものなのね」
「そうだな。けれど私はまだ満足していない」
「え?」
不思議そうに見上げると、彼はイザベルの左手をとり、薬指に光る指輪に口づけを落とした。
「君と一緒に過ごせる時間を、もっともっと積み重ねたい。たとえ百年先まで」
「……私もよ」
涙が滲む視界の中、唇が触れ合い、言葉よりも深く心が結ばれる。
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夜が更けても、窓の外には満天の星が輝いていた。
十年前、絶望の淵で見失った未来。
けれど今は、愛する夫と、愛しい子どもたちとともに歩む日々が、何よりの宝物となっている。
「ありがとう、フェルナンド。これからも、ずっと……」
小さな囁きに、彼は穏やかな寝息で答えていた。
その音を子守唄にしながら、イザベルは安らかな眠りへと落ちていった。
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