猫のレミ

つなざきえいじ

文字の大きさ
1 / 1

猫のレミ

しおりを挟む
小さな島の小さな町に小さな小学校が在ります。
この学校の片隅に、今はもう使われていない倉庫が…。

ここに、一匹の黒猫が住んでいます。
島の人達からは、クロとかノラと呼ばれていますが、黒猫は女の子。
そんな名前で呼ばれても知らん顔です。

「なんだよあの猫、愛想無いなあ。」

「可愛げが無いよな。」

島民たちは、しだいに黒猫をかまわなくなり、黒猫も島民たちと距離を置く様になりました。


そんなある日、黒猫が学校を散歩していると校舎の中から可愛い音色が聞こえてきました。

♪~♪♪~♪~♪♪~♪~…

教室の窓をのぞいて見ると小さな女の子が、玩具のピアノを弾いています。
興味を持った黒猫は、初めて自分から人間に声をかけました。

『…ねえ、この窓開けて中に入れてよ…。』

急に声をかけられ、女の子は驚きましたが、黒猫を見つけると笑顔を見せます。
そして窓を開け、黒猫を教室へ招き入れました。

「こんにちは、黒猫さん。
あなたのお名前は?」

黒猫は、クロとかノラと呼ばれなかったことを嬉しく思いましたが…、

『…私…、捨て猫だから…。
名前…、無いの…。』

と、哀しそうに答えます。

すると女の子は、ピアノの前に座り…。

「じゃあ、私が名前をつけたげるね!
…あなたの名前は…。」

と、ピアノを弾きます。

♪レ♪ミ…
「レミね! 私の名前は…。」

♪ソ♪ラ…
「ソラだよ。 よろしくね、レミ!」

名前をもらったレミは、大喜び。
自分もピアノを弾きたいとソラにお願いしました。

「どうぞ。」

ソラにうながされてレミはピアノの前に…。

♪レ…♪ミ…
…ニャ、ニャ、ニャアァァ~…。

レミは、自分の名前とピアノの音がよっぽど気に入ったようです。

♪レ…♪ミ…♪レ…♪ミ…♪レ…♪ファ…
…ニャン!…。

レミの手はピアノを弾くのに向いていないので、誤って“♪ファ”を弾いてしまいました。
するとソラが、レミの後ろからピアノを弾き始めます。

♪~♪♪~♪~♪♪~♪~…

「レミがリズムだよ! さあ、弾いて!!」

♪レ…♪ミ…♪レ…♪ミ…♪レ…♪ミ…

「そうそう、上手い上手い。」

レミは、あまり上手く弾けませんでしたが、ソラがレミのリズムに合わせてくれました。
レミは、嬉しそうに楽しそうにピアノを弾きます。


しばらく演奏を続けていましたが、慣れないピアノにレミが音を上げました。

『…もう、駄目…。
手が動かないよ~…。』

「じゃあ、ちょっと休もっか。」

レミとソラは、ピアノを止めて仲良くお話します。


『ソラは、この学校の生徒なの?』

「うん! 2年生だよ。」

『何で一人なの?』

「上級生が、みんな卒業しちゃって…。
私、一人だけになっちゃったの…。」

『先生は?』

「今、夏休みだから先生は居ないよ。」

『夏休みなのに、何で学校に居るの?』

「…家に赤ちゃんが居て、ピアノを弾くと泣いちゃうの…。
でも、私ピアノ好きだから…。
それで、先生に相談したら教室のカギを貸してくれたの。
夏休みの間、自由に使っても良いって言われたんだよ。」

『ふーん…。』

いつも一人で遊んでいたレミは、ソラとお話出来ることが嬉しくって、いっぱい質問しました。
しばらくすると、

「ソラちゃーん!
帰りますよーっ!!」

と、校庭から声が…。

「あっ! ママだ!!
はーい! いま行きまーす!!」

そう言って、ソラは教室のロッカーにピアノを片付けます。
それを寂しそうに見つめるレミ…。

『…もっとピアノ…、弾きたいな…。』

「ごめんねレミ。
教室、閉めなくっちゃいけないんだ…。」

「そうだ! 明日、一緒に練習しよ!」

『本当!!』

「うん! 約束!!
朝は、お手伝いがあるから、お昼からね。」

『絶対だよ! 待ってるから!!』

この日から毎日、ソラとレミはピアノを練習するようになりました。


ソラとレミが出会ってから数日が経ちました。

♪~♪♪~♪~♪♪~♪~…

レミは、ソラから教わった簡単な曲が弾けるまでに上達していましたが…。

♪~♪♪~♪~♪ドレ!
…ニャーー…。

レミの手は大きいので、たまに2つの鍵盤を同時に叩いてしまいます。

「うふふ…。」

ソラは、そんなレミを見て楽しそうに笑うのでした。


練習が終り、ピアノの片付け…、ソラはレミにお話します。

「明日からお婆ちゃん家へ行ってくるから、当分お別れだね。」

『いつ帰ってくるの?』

「来週の日曜日に帰ってくるよ。
だから、それまでピアノ練習しててね。」

『…ソラが居ないと教室使えないから…。
練習出来ないよ…。』

「そっか! …うーん…。
じゃあ、ピアノ貸したげる!」

『えっ! 本当!!』

「うん! レミのお家に連れてって!!」

ソラは、ピアノを抱えるとレミの家へ向かいます。


レミに連れられて来たのは、学校裏の倉庫。
今は使われておらず、入り口の扉も壊れていました。

「おじゃましま~す…。」

倉庫の奥には、壊れた跳び箱と破れたマットが置かれています。
マットが、レミのベッド。
ソラは、ピアノをベッドの前に置きました。

「ここで良い?」

『うん! ありがとう!!
ソラが居ない間、練習するね!!』

レミは、早速ピアノの練習を始めます。

♪~♪♪~♪~♪♪~♪~…

「じゃあレミ。 また来週ね!」

そんなレミを見ながらソラは、お別れしました。


翌日も朝からレミは、ピアノの練習。

♪~♪♪~♪~♪♪~♪~…

レミは、まだ教えてもらっていない、ソラの得意曲を練習していました。

(ソラ、ビックリするかな…。
ふふふっ…。)

ソラの驚いた顔を思い浮かべ、レミは微笑むのでした。


ソラと別れてから数日が経ちました。
毎日、ピアノの練習をしていたレミですが、
今日は、ソラとの約束の日…。
ソラが帰ってくる日です。
ピアノの練習どころではありません。

定期船は一日一便、夕方の到着ですが、レミは朝からソワソワ、屋根に上っては港を眺めています。
夕方近くになって、とうとう我慢できなくなったレミは港へ…。
定期船到着の一時間前から港でソラを待ちます。


一時間後、定期船が港に到着しました。
乗客たちが、船から降りてきます。
レミは、嬉しそうに駆け出し、ソラを探します。

…ソラは、どこにも居ませんでした…。

(あれ? ソラ、どうしたんだろ?
予定、変わったのかな…?)

ソラが帰ってこなかった事を不思議に思いながら、レミは学校に戻りました。

(明日、帰って来るのかな…?)

レミは、ピアノの前に座りましたが、ソラのことが気になってしかたありません。
うわの空で、ピアノを弾くと…。

♪ソ…

ソの鍵盤を弾いてしまいます。

『あっ!』

レミは何かに気付いたように、その隣の鍵盤を弾きます。

♪ラ…

(♪ソ♪ラ…
ソラだよ。 よろしくね、レミ!)

ソラとの出会いを思い出したレミは、楽しそうにピアノの練習を始めます。

♪~♪♪~♪~♪♪~♪~…

この日は、夜遅くまでピアノの音が響いていました。


翌日、定期船の到着時刻。
レミは、港へ行きましたが、ソラは帰って来ませんでした。


次の日も…、その次の日も…。
ソラは帰って来ませんでした。


約束の日から一週間が経ちました。
レミは、毎日港へ通っていましたが、ソラは帰って来ませんでした。
今日も残念顔で学校へ戻ろうとした時、島民の声が聞こえてきました。

「…ソラちゃん、帰って来れないって…。」

「…島より、街の方が良いだろうね…。」

「…しばらく、向こうに居ることになりそうだって…。」

途切れ途切れに聞こえてきた話から、当分ソラは島へ帰って来ないことが分かりました。

(えっ!?
ソラ…、帰って来ない…。
約束したのに…、帰って来ない…。)

レミは、島民の言葉にショックを受け、トボトボと学校へ戻ります。


倉庫に戻ったレミは、ピアノをジッと見つめていました。
しばらくして、ピアノの足を咥えるとズルズルと倉庫の裏に引きずっていきます。
レミは、もうピアノを弾きたくなかった、見たくなかったのです…。


翌日から、レミは港へ行かなくなりました。
でも、ソラのことが気になるのでしょう。
定期船の到着時刻が近くなると、屋根に上っては港を眺めているのでした。


夏の終り、翌日から二学期を迎える日。
ソラは、まだ帰って来ません…。

夕方、定期船の到着時刻。
レミは屋根の上、いつもの様に興味が無いふりをして横目で港を眺めています。
しばらくすると島の人々が、続々と港に集まってきました。
いつもとは、様子が違います。

(…もしかして、ソラが帰って来るのかも!!)

レミは、屋根から飛び降りると走って港へ向かいます。


レミが港に着くと、ちょうど定期船から乗客が降りてくるところでした。
その中にソラちゃんのママが…。

(やった! ソラ帰ってきたんだ!!)

レミは、嬉しそうに駆け出し、ソラを探します。

…ソラは、どこにも居ませんでした…。

ふと、ソラちゃんのママを見ると…。
島のみんなが、ママを囲んでいます。
ママは、布に包まれた四角い箱を大事そうに抱えていました。
その箱に向かって島のお婆さんが…、

「お帰り、ソラちゃん…。
痛かったろう…。
辛かったろう…。」

と、話しかけています。

「大丈夫かい?
元気だしてね…。」

「まだ7歳だろ。
早いよ…、早すぎるよ…。」

島のみんなは、泣きながらソラちゃんのママに話しかけています。
ソラは、街で交通事故に遭い入院していましたが、先日息を引き取ったのでした…。


レミは、じっと話を聞いていました。
やがてソラが、亡くなった事を知るとレミの目に涙が溢れます。

(…ソラが…、死んだ…。
ソラ…、ソラちゃん…。)

レミは、フラフラとその場を離れます。
その時、ママの声が聞こえてきました。

「どなたか、レミって子…、知りませんか?
娘が、
『レミ…、ごめんね…。 約束、ごめんね…。』
って、ずっと…、うなされて…。
うっうううっ……。」

ママは、泣きながら崩れるようにしゃがみ込んでしまいました。

『うわあぁぁーーーっ……。』

レミは、泣き叫びながら学校へ駆け戻ります。

『ごめん…。
ごめんね、ソラちゃん…。
うたぐったりして…。
信じられなくって…。
ごめんね…。』


学校に着いたレミは、倉庫の裏へ。
そこには雨に打たれ、泥で汚れた玩具のピアノが…。
レミは、ピアノを弾いてみます。

♪レ…♪ミ…

ピアノは、ソラが初めて弾いてくれた音を奏でます。

(あなたの名前は…。 レミね!)

レミの脳裏に、初めてソラに出会った日が…、共に過ごした日々が浮かんで来ます。

(私の名前は…。 ソラだよ。)

♪ソ…、キンッ! キンッ!キンッ!

玩具のピアノは壊れていました。
何度も何度も♪ラを押しましたが、キンッ!キンッ!…、と硬い金属音が響きます。

レミは、思い出していました。
ソラと遊んだ暖かな教室…、もう二度と戻らない幸せな時間…。

『…ソラ…、ソラちゃん…。
ソラちゃーん…。
うぇーん、うぇーん…。』

キンッ!キンッ!…。

倉庫からは、レミの泣き声と壊れた♪ラの音が、いつまでも響いていました……。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

青色のマグカップ

紅夢
児童書・童話
毎月の第一日曜日に開かれる蚤の市――“カーブーツセール”を練り歩くのが趣味の『私』は毎月必ずマグカップだけを見て歩く老人と知り合う。 彼はある思い出のマグカップを探していると話すが…… 薄れていく“思い出”という宝物のお話。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

人柱奇譚

木ノ下 朝陽
児童書・童話
ひたすら遣る瀬のない、救いのない物語です。 ※デリケートな方は、閲覧にお気を付けくださいますよう、お願い申し上げます。 昔書いた作品のリライトです。 川端康成の『掌の小説』の中の一編「心中」の雰囲気をベースに、「ファンタジー要素のない小川未明童話」、または「和製O・ヘンリー」的な空気を心掛けながら書きました。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。

桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。 それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。 でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。 そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。

ぼくのだいじなヒーラー

もちっぱち
絵本
台所でお母さんと喧嘩した。 遊んでほしくて駄々をこねただけなのに 怖い顔で怒っていたお母さん。 そんな時、不思議な空間に包まれてふわりと気持ちが軽くなった。 癒される謎の生き物に会えたゆうくんは楽しくなった。 お子様向けの作品です ひらがな表記です。 ぜひ読んでみてください。 イラスト:ChatGPT(OpenAI)生成

処理中です...