ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第一章 演武

1 ゲームとは…

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「ゲーム?」

私は…眼を限りなく細めて、目の前の人間達を見ている。
人々は…皆思い思いに仮面を被り、その表情を隠しているが…。
たとえ表情が見えずとも、悪趣味な人間の臭いがプンプンするから、何を思っているのか…
手に取るようにわかる。

「そう…。せっかくかの有名な、ギリアム公爵閣下とオルフィリア公爵夫人がいらしてくださった
のですから…。
主催者として、あらん限りの趣向を凝らさせていただきました。
ゲームに勝利しましたら…お望みの物を差し上げます」

熟女…と、言ってよい年齢。しかし…その年齢に反比例するかの如く、ナイスバディを保った
芳醇な体は…おおよそ男を引きつけてやまないだろう。
私は心の中で、舌打ちした。
こちらの取り戻したいものを景品にされたら、やらざるをえまい。

「どのようなゲームでしょうか?」

「それを申しては、興ざめですが…。
そうですね。例えるなら、動物を模したゲームとでも、申し上げさせていただきます」

私は…動物を模した…というあたりで、ピンときた。
それと…私はこの主催者たる熟女に…私と同じ匂いを感じるのさ。
商売女の臭い…。
でも…明らかに私と違う趣向の持ち主…。
ただ私は、前世の経験から、その趣向が何なのか、かなり正確に見抜いていた。
私は…そばにいるギリアムに、耳打ちする。

「……面白そうですね。せっかくですから、主催者のご意向に乗ろうかと思いますが…。
1つだけ条件を付けさせてください」

「何でしょう?」

「まず…最初は私の、好きにさせていただけませんかね?
多分…私の経験した事のない、ゲームでしょう?
誰かが…手本を見せてしまっては、ちょっとつまらないな…と、思いまして…」

すると熟女は…その仮面の下で、唇の端を大きく持ち上げたようだ…。
ホンット、手に取るようにわかるよ。
仮面被っているからって、ポーカーフェイス崩すなよぉ。
商売人なら、特にな!!

「まあ…。オルフィリア公爵夫人はとても、チャレンジャーでらっしゃる。
わかりました。そのご意思を尊重しますわ。
でも…こちらも1つ、条件を付けさせていただけますでしょうか?」

「と、いいますと?」

まあ…想定内だよ。アンタのつけたい条件ってな、多分…。

「ギリアム公爵閣下にも、できればゲームに参加していただきたいのです。
失礼ながら、動物役として…」

まあ…序列第一位の公爵様に、動物になれは、それだけで失礼だ。
でも、ここはそう言うゲームを提供する場所…言うだけ野暮ってもんだ。

「わかりました。いいですよ」

私は…ギリアムに頷かせる。

「では…こちらにお入りください。ギリアム公爵閣下…」

かなり…特注性の檻だと、直ぐにわかった。

「ここにお入りいただいて…鍵は私が保管させていただきます。
ああ、ご心配なく。
いつでもわかるように、首に下げさせていただきますので」

仮面を被っていてもわかる、下卑た笑い…。
おおよそ、人の醜い部分をさらけ出させて、笑い者にするのに慣れている人間の笑いだ。

ま…いいさ。
私もアンタと似たような部分がある。

けどな!!

決定的に違うものがある!!
私は!!嫌がるやつに、強要したことはねぇ!!

アンタたちが攫った…アンナマリーは返してもらう!!

私は…小道具だと渡されたそれを持ち…心の中で誓いを立てる。

さあ!!
かかって来いやぁ!!

このヘドネが…まとめて相手をしてやるよ!!


---------------------------------------------------------------------------------------


アンナマリーが攫われたことが分かった日…ギリアムは王立騎士団から帰るなり、私にしっかりと
報告してくれた。
事が事だけに…急ぎティタノ陛下の元へ…は、行かず、

「ギリアム…。デオリード宮殿まで行くとして、何とか時間内に済ませられませんか?」

これは…一番大事。
ギリアムの愛馬・ポチ…めちゃ早い。

「物理的に無理でしょうね…。まずデオリード宮殿自体が、療養のための施設として
作られた経緯があるので、王都の外にあります。
そこに行くには、馬でも半日かかるから、いかに私のポチとはいえ、同時出席は無理です」

……こりゃいよいよ、策略を感じずにはいられないな…。

「大丈夫です…。仮面舞踏会の方に参加しますよ…。人の命がかかっていますし…」

ギリアムはサラッと言ってくれているが、

「ティタノ陛下は…よくよく頭を下げれば、事情を分かってくださるかもしれません。
しかし…もし多大な失礼を働く輩がいたら…アナタと私…最低でもどちらかが残らねば、
折角の両国の関係に、ヒビが入るやもしれませんよ?」

もしも…これがジョノァドたちの画策だとしたら、絶対質の悪いの入れる!!
そして…ある事ない事言いふらすだろう。
一応無礼講にはしてあるし、私と仲の良い夫人たちに、事情を極秘で説明して…協力して
貰うにしても…限界はあるだろう。

「それはそうですが…。ひとまず人の命を優先すべきだ」

……こういう所が、ギリアムのいい所なんだよね。
間違いなく、ファルメニウス公爵家の威信は鈍るだろうに…。
でも…もし質の悪いのが、大事なみんなに何かしたら…それはそれで嫌だ。

ファルメニウス公爵家は大抵の困難には、立ち向かえるけど…。
あああああああ!!!テレビ電話かスマホをくれぇ~!!

私は…しばし長考したが、

「あの…一つ聞いていいですか?」

「なんです?」

「顔も見せず…声も出さず…ギリアムだと認めてもらう方法…ないですか?
あ、頭脳プレーは除いてください」

ギリアム…ちょっと上を向いて考えてから、再度私を見たが、

「それは…何より力ではないでしょうか?」

フォルトの方が早かった。

「ギリアム様は…あまり深く考えておりませんが、大の男を片手で持ち上げただけでなく、
砲丸のように、遠くに飛ばす…。
これが出来るのは、ギリアム様ぐらいですよ」

「それって結構、有名な話?」

「はい…。ギリアム様と力比べしたい…と言う人間が結構いた時、面倒くさいと言って、
ギリアム様がお見せになったのが…。
一番重そうで、体格のいい方の首根っこを掴み上げ、軽々と放り投げました。
皆さまそれ以降、力比べなどと、言わなくなりました」

そう言えば…初めて会った時も、100㎏越えの男を片手で吊り上げて、ぶん投げてたっけ…。

私は…ニヤリと笑い、

「それなら…何とかなるかもしれません。ギリアムはファルメニウス公爵家に残ってください」

「な、なんですって!!」

ギリアムが本気で驚愕するから…、私は作戦を話した。
そうしたら…。

「なるほど…それなら、いけるかもしれませんね!!」

ギリアムの顔が、一気に明るくなる。

「では!!早速特訓と行きましょう!!
…と、その前に、ティタノ陛下にご報告せねば…」

ひとまず…何とかなりそうで、良かった…。

私達はティタノ陛下の元へ行き…事情と作戦を話した。

「ほ~う、何だか面白い事を、やろうとしておるのぉ…」

とっても楽しそうだ…。
相手に対して、卑怯だなんだと、怒る感じはない…。

やっぱりね…。

この人は…謀略をめぐらされた中を、生き抜いてきている。
私達に…この程度弾けないハズが無いと思っているし、弾けなければ、自分の目がバカだった…で、
すませるタイプなんだろう。

……だから、扱いがめっちゃ難しいんだよな…。

「私は…最初からいると、敵に対策を取られると思われます…。
ですので…ファルメニウス公爵家にいても、潜伏する予定です。
しかし…耳も目もいいので、ティタノ陛下に失礼を働く輩がいないかどうか…、しっかりと観察して
対処いたしますので、何卒その手腕…見ていただけると、ありがたく存じます」

ギリアムが…不敵な笑みを浮かべ、口上を述べると、

「そうじゃな…。余興としては、十分じゃろ。せいぜいわしを、楽しませろ、ギリアム公爵よ」

にいぃっと笑い、こちらも…爽やかどころか、不敵な笑みだよ…。

「しっかし、敵はお前たちを潰したくて、必死じゃな…。
けっこうけっこう。敵が多いという事は、それだけ能力があるという事じゃよ」

……昔の話をちらっと聞いただけで…、この人がいかに周りから潰されそうになったか、
伺えるな…。
身分が低くて、能力が高いと…上の嫉妬を一身に買うからな…。

「まあ…勝手に印璽を使われた、ツァリオのバカ親父は、見事に制裁を加えたからの。
後は…印璽を使ってわしの記事を出した奴じゃな…」

「流星騎士団…?じゃかなんだかの、トップと…その周り…か。
あと、ケルカロスのバカ嫁…と。
そんな暇があったら、バカ娘の調教をすりゃーいいのにのぉ」

その意見には、大賛成。

「まあ…裏で糸を引いているのは、ジョノァドでしょうがね…確実に…」

「お前が…潰したくても、潰せん奴か?そんなに厄介なのか?」

「ええ…。実は他国の王族とも繋がっていましてね…。
長男が他国で…裏表関わらず、王族の支援をして、信用を得ているのです。
そちらの力を使われたら…外交問題に発展する可能性がありますので…ね」

ギリアムは…何とも歯がゆそうな顔だ。

「まあ…それだけ能力があるという事じゃろ?
わしにも宿敵と呼べる者が何人かいるが…致し方ない事じゃ」

うわお。ティタノ陛下が潰しきれない奴って…誰や?

「ひとまず…明日の公開演武には、通常通り出ましょう…。
相手の目的は…あくまで歓待パーティーで、私達を除外することですから…」

私は…決意を新たに、きゅっと唇を締める。

「そうだな…。
デオリード宮殿は、どこに囚われているかがわからずに、乗り込むには広すぎる。
人質を無事、救出するためには…その時まで平常心でいるほかない」

ギリアムも…私の覚悟に呼応してくれた。

そんな私たちを…ティタノ陛下は満足げに見ている。
多分…下手な観劇より、よっぽど面白そうだと感じているんだろう…。
ご期待を裏切らないように、しないとな…。
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