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第一章 演武
2 公開演武第二幕スタート
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様々な人々の思惑を乗せ…公開演武後半戦がスタートした。
この日も…私はティタノ陛下に抱えられ、人々の好奇の目を受けながら、へーぜんと
公開演武の舞台の前に立つ。
第六試合…リグルドvsローカス
このカードもまた、見ごたえをその名前だけで、人々に与えるものだった。
後半戦の初戦を飾るに、まさに相応しいだろう。
テオルドがローエンの弟子であったため、2人の剣技と戦い方は…素人目にも大分似ていた。
物心つく前から…すでに剣を握らされた…そんな生活をした2人である。
そして、2人の主たる師匠は、実力本位主義もさることながら、身内びいきを一切許さず
毛嫌いしたため…それこそ他人の子では見逃されるような些細なミスも、絶対許して
もらえなかった。
こうして…若いうちから叩かれた鉄は、それにめげる事も無く、見事にその刃を鋭いものに
したのだから、生き方が合っていたのだろう。
まがう事なき実力者の2人の勝負は…どちらが勝ってもおかしくなかった。
剣一つで様々に飛び交い、見る者を興奮させた。
その2人の勝敗を分けたのは…、センスと集中力であったろう。
もちろんどちらも、それは十分に持っていただろうが…。
僅差で、ローカスに軍配が上がった。
幼いころより頭角を現し続けた実力はもちろん…ギリアムに全く勝てなかった経緯が、
本人の才能をより磨かせるための、飽くなき修練をもたらした。
それが…勝敗を分けたと言ってよかった。
第七試合…ジョーカーvsカルシン
カルシンは…テオルドと同世代で、侯爵家の次男として生まれ、自身の地位は伯爵位である。
兄が家を継ぐと同時に、近衛騎士団に入団した。
自身に兄に成り代わろうなどという野心はないのだが、周りが…どうしても放っておかなかった
ため、元々兄の護衛を務めていた腕を買われ、勧誘が来たのを幸いに入団したのだ。
実直真面目ゆえ、騎士として勤めるには大変向いているのだが、やはり…社交活動には
むかなかったようで、もっぱら剣を振る生活をしている。
自身は俗世を半ば離れた、その生活を気に入っていた。
そんなカルシンとジョーカーの戦いは…まさに柔と剛の戦いそのものだ。
トランペストもそうだが、それを仕込んだジョーカーも、非常に多種多彩な武器を使いこなす
人間だった。
おおよそ騎士らしくない戦いだが、意表を突くからこそ、もともとの力を底上げしていた。
翻したマント中から、飛び交う暗器と、それに少しでも気を取られたら、鋭い短剣の一撃が
お見舞いされる。
カルシンは…それを全て長剣でいなすのだから、やはり腕を認められただけある。
もっともそれは…日夜真面目に剣を振り続けた…そんな剛直な人間だからこそ、得られた力で
あろう。
しかし…ジョーカーの凄い所は、その攻撃の幅である。
徐々に…暗器の数を増やし、相手の払落しの限界を超えた時、自身の短剣を、的確に
相手の喉元に突き立てた。
こうして…第七試合はジョーカーの勝利に終わった。
第七試合…ガイツvsゼクト
ゼクトは…伯爵家の生まれだが、家庭事情が複雑かつ、人によっては、悲惨と見えるものだった。
母親はゼクトが8歳の時に死亡して、父親はさっさと再婚し、そちらにも男の子が2人生まれた。
この後妻の器は…残念ながら大きくなかった。
ゼクトを寄宿舎に追いやり、その間に、自分の子を跡継ぎとして、一門に認めさせてしまったのだ。
行き場を失ったゼクトは、近衛騎士団に入団し、今日に至る。
だが幸運にもゼクト自身は、跡継ぎなど煩わしいと思っていたようで、好きな剣術を思う存分やれる
今の立場が気に入っているよう。
ガイツは…家具職人の長男に生まれたが、本人は手先が器用でなく、ついでにやる気もなかった。
むしろ…弟の方がよっぽど向いていたので、本人はもっぱら売れた家具の配達をしたりして、
家業を手伝っていた。
そんな折…戦争が起こり、レオニールの領地と同じように、ガイツの領地の貴族も徴兵を行った。
だがガイツは…自分が残るより、家の技術をしっかり学んだ弟が残った方がいいと判断。
兄弟仲が良かったことも、1つの理由だろう。
だから徴兵ではあったが、ほとんど志願兵と変わらない心情で戦争に参加。
本人の喧嘩っ早い性格もあって、戦場ではかなりの活躍をした。
ギリアムと直接の面識はなかったが、その聖人君子っぷりに感銘を受け、戦争終了後、家には
帰らず、王立騎士団の入団試験を受け、存分に実力を示し、師団長になったのだ。
さて、そんな2人の戦いは…まさに力と力のぶつかり合い。
お互い身長が2m越えであるため、鍔迫り合いも…まさに圧巻だった。
そして二人とも…戦う事が本当に好きなようで、非常に楽しそうだった。
幾度となくぶつかり合い、力を込められた…武器の方が耐えられなかった。
渾身の力で合わさった武器が…弾け飛び、粉々になった。
この勝負は引き分け。
2人は互いに大笑いしつつ、互いを称え合っていたから…見ていてとても楽しくなった。
第八試合…ジェードvsノリス
ノリスの家庭事情もまた…かなり複雑だ。
ノリスの父は、結婚をしたが子供に恵まれなかったため、遠縁から複数の子供を養子にした。
そして…かなり激しく互いを競わせるようにし、脱落した子は、容赦なく追い出された。
ノリスもまた脱落した一人で、元の家に帰ることも出来ず、そんな折…起こった戦争で
志願兵となり、従軍した。
幸い功績を上げることが出来たため、男爵位を授かることが出来た。
しかし…当然領地など無いから、近衛騎士団に入団して、その剣一本で食っていくことを
決める。
腕はあり、剣術自体が嫌いじゃないのが、せめてもの救いだろう。
行く当てが無いし、元々最下位層であるため、努力するしかなく、それでも上位の者に、色々
厄介ごとを押し付けられたりしていた。
ローエンが率いるようになって、ようやっと報われた形だ。
そんなノリスとジェードの戦いは…と言えば…。
ジェードは基本、非常に自分勝手かつ周りの空気を読めるのだが、あえて逆の行動を取るような、
天邪鬼な一面がある。
それは…フィリーの元に来て、フィリー軍団となった時に、さらに強くなった。
ギリアムだと変な顔をする行動も、フィリーだと許してくれるから。
だから…公式行事だろうが、大衆が見ていようがお構いなしだ。
ジェードが最初に使った武器は…小麦粉の粉…。
闘技場全体に、小麦粉の粉をまき散らし、当たり一面に飛び交った。
まあ…眼潰しだよ、要するに。
小麦粉の粉自体が目に入ったり、視界が悪くなったと同時に…相手の懐に入り込み、勝負はついた。
ジェードは…眼を開けていようが、つぶっていようが、もともと見えないから。
小麦粉の粉が目に入らないようにさえすれば、ジェードの動きを阻害するものは、何もない。
今までで、一番…最速で終わったものだから、観客が…唖然としてたよ、うん。
ショー的要素、一切なし。
ジェードらしいっちゃ、ジェードらしい。
第九試合…クローバvsドーガル
ドーガルは伯爵家の次男だが、子供のころからかなりの乱暴者と評判で、本人もその評判に
違わず、喧嘩っぱやかった。
体格も…成長すると高身長な上、筋骨隆々になったため、両親が持て余し、成人と同時に
近衛騎士団に無理やり入団させた。
だが…ドーガルにとって武で己をたてられる場所は、まさに水を得た魚であった。
どんどん周りを押しのけ、自分の力を示した。
乱暴者ではあるが、醜悪ではなかったため、ローエンと合わないという事も無い。
しごきに関しても、難なく耐え…るどころか、かなり嬉々として、やっているという、変わり者だ。
そんなドーガルとクローバの戦いは…騎士半分、喧嘩半分といった所だ。
原則武器は使うのだが、クローバは武器のない肉弾戦も非常に得意だ。
時折それを繰り出すが、ドーガルとて幼いころから、勉強より殴り合いをやって来た人間のため、
その当時に培った勘所で…かなり的確に対応した。
そんな二人の勝敗を分けたのは…根も葉もないが武器性能だ。
どうしても互角な戦いの勝敗は、これがデカい事がままある。
先のガイツとゼクトの戦いは、お互いが国からの支給品であったため、武器性能自体は
互角だった。
しかし…今回、ドーガルが使っていたのは、国からの試供品。
クローバが使っていたのは、ファルメニウス公爵家がその技術と粋を凝らし、金に糸目を付けずに
作った、超のつく一級品。
ギリアム・アウススト・ファルメニウスは…自分はまだしも、フィリーを守る護衛が使うものは、
常に一級品しか許さないから。
ドーガルも…それがわかったようで、かなり悔しそうだった…。
第十試合…ハートvsドロテア
私は…ここで少し、深呼吸をする。
この次の試合が…この公開演武での隠れた目玉…と言っていいからだ。
ドロテアには辛い事になるだろう…。
だが…絶対に私は…アンタの決意も犠牲も…無駄にはしない!!
モントリアは…このオルフィリア・ファルメニウスの全てをかけて…潰す!!
「ティタノ陛下…この試合…特に面白き余興となると思われます…。
もう少し近くで見ても、よろしいでしょうか?」
そんな…殺伐とした空気は出さず、笑顔で話しかける。
「おう、そうか。
なら、前に出よう」
ティタノ陛下がかなり乗り出してくれたので、本当に良く見える。
演武会場に上がるハート…対するは…ドロテアだ。
会場の熱気は最高潮…。
だったら…最高のショータイムになるはずだ。
そして…試合が…始まる!!
まあ…ドロテアはさすがっちゃ、さすがだった。
それなりに…有名になるだけあって、その腕は、かなりの卓越ぶりを感じた。
私は…武術は、護身術程度しか知らんが、それでも凄い…と思った。
おそらく…しっかり鍛錬してきたんだろうなぁ…。
それだけに…残念でならない。
モントリアの正体に…長い事気づかなかったなんて…。
だけど、ジェードがハートも手練れだと評しただけあって…、負けてないどころか…余裕を
感じる。
「オルフィリア公爵夫人よ…。予定通りいくのか?」
小声で話しかけてきた、ティタノ陛下。
ティタノ陛下だって…この試合の意味を知っているから…。
顔が…締まっている。
「ええもちろん。やりますよ」
私はあくまで自然に…言った。
本当は…私がやれたらいいんだけどね…。
私は悪人を断罪するために、素っ裸になる必要があるなら、いくらでもなってやるし、
一切気にせんからさ。
「そうか…」
ティタノ陛下は一瞬だけ、下を向いた。
そのころガルドベンダ公爵家のブースでは…。
「あ~ん、惜しい!!もう少しで倒せたのにぃ!!」
メイリンがキーキー言っていた。
「少し静かにしろよ、お前…」
アルフレッドはかなりイライラしながら、メイリンに口だけで注意する。
アンナマリーが心配ではあるが、下手な動きは出来ない。
その焦燥感が…いつものホンワカした雰囲気を、完全に殺してしまっていた。
「ちょっと、お兄様!!
せっかくドロテアが活躍しているのに!!」
「興味ないって言ったろ?
あいつのことも、あいつのすべてが、オレにとっては興味ない」
だからかなり…冷たい言い方になる。
「何なのよ!!ちょっとぐらい…」
「うるさいな!!もう話しかけるな!!ドロテアなんて、どうでもいい!!」
やっぱり冷たく言い放つ。
涙目になるメイリンに、
「メイリン様…。ひとまずドロテアの応援をしましょう」
モントリアが優しく語り掛ける。
「あ、うん…。でも、モントリアは残念だったね…。修練中に怪我するなんて…」
「致し方ございません。騎士をしていれば…つきものですから」
メイリンは…モントリアのその言葉を最後に、ドロテアの応援に集中する。
その後ろで、アルフレッドが…憎々し気に睨んでいるのは…当然、気づかなかった。
(修練中の怪我ぁ?よく言うよ…。モントリアから聞いたんだ。
ドロテアが…修練中にやってきて、いきなり…死角から脅かしたのが原因だ…って。
ティタノ陛下に認められるための晴れ舞台…。オレに活躍を見てもらいたかったからだと…。
証拠はないから、言わないでくれと、モントリアは言っていたが…。
ドロテアは…卑怯者の上、恥知らずじゃないか…。おまけに…勘違いバカと来てる。
十分強めに拒否したつもりだったが…もっとしっかりと、拒否しなきゃダメだな…)
会場の熱気の中、ハートとドロテアの…武器を打ち合う音が、雷のように、歓声をつんざく。
両者一歩も譲らず…だろうな。
この日も…私はティタノ陛下に抱えられ、人々の好奇の目を受けながら、へーぜんと
公開演武の舞台の前に立つ。
第六試合…リグルドvsローカス
このカードもまた、見ごたえをその名前だけで、人々に与えるものだった。
後半戦の初戦を飾るに、まさに相応しいだろう。
テオルドがローエンの弟子であったため、2人の剣技と戦い方は…素人目にも大分似ていた。
物心つく前から…すでに剣を握らされた…そんな生活をした2人である。
そして、2人の主たる師匠は、実力本位主義もさることながら、身内びいきを一切許さず
毛嫌いしたため…それこそ他人の子では見逃されるような些細なミスも、絶対許して
もらえなかった。
こうして…若いうちから叩かれた鉄は、それにめげる事も無く、見事にその刃を鋭いものに
したのだから、生き方が合っていたのだろう。
まがう事なき実力者の2人の勝負は…どちらが勝ってもおかしくなかった。
剣一つで様々に飛び交い、見る者を興奮させた。
その2人の勝敗を分けたのは…、センスと集中力であったろう。
もちろんどちらも、それは十分に持っていただろうが…。
僅差で、ローカスに軍配が上がった。
幼いころより頭角を現し続けた実力はもちろん…ギリアムに全く勝てなかった経緯が、
本人の才能をより磨かせるための、飽くなき修練をもたらした。
それが…勝敗を分けたと言ってよかった。
第七試合…ジョーカーvsカルシン
カルシンは…テオルドと同世代で、侯爵家の次男として生まれ、自身の地位は伯爵位である。
兄が家を継ぐと同時に、近衛騎士団に入団した。
自身に兄に成り代わろうなどという野心はないのだが、周りが…どうしても放っておかなかった
ため、元々兄の護衛を務めていた腕を買われ、勧誘が来たのを幸いに入団したのだ。
実直真面目ゆえ、騎士として勤めるには大変向いているのだが、やはり…社交活動には
むかなかったようで、もっぱら剣を振る生活をしている。
自身は俗世を半ば離れた、その生活を気に入っていた。
そんなカルシンとジョーカーの戦いは…まさに柔と剛の戦いそのものだ。
トランペストもそうだが、それを仕込んだジョーカーも、非常に多種多彩な武器を使いこなす
人間だった。
おおよそ騎士らしくない戦いだが、意表を突くからこそ、もともとの力を底上げしていた。
翻したマント中から、飛び交う暗器と、それに少しでも気を取られたら、鋭い短剣の一撃が
お見舞いされる。
カルシンは…それを全て長剣でいなすのだから、やはり腕を認められただけある。
もっともそれは…日夜真面目に剣を振り続けた…そんな剛直な人間だからこそ、得られた力で
あろう。
しかし…ジョーカーの凄い所は、その攻撃の幅である。
徐々に…暗器の数を増やし、相手の払落しの限界を超えた時、自身の短剣を、的確に
相手の喉元に突き立てた。
こうして…第七試合はジョーカーの勝利に終わった。
第七試合…ガイツvsゼクト
ゼクトは…伯爵家の生まれだが、家庭事情が複雑かつ、人によっては、悲惨と見えるものだった。
母親はゼクトが8歳の時に死亡して、父親はさっさと再婚し、そちらにも男の子が2人生まれた。
この後妻の器は…残念ながら大きくなかった。
ゼクトを寄宿舎に追いやり、その間に、自分の子を跡継ぎとして、一門に認めさせてしまったのだ。
行き場を失ったゼクトは、近衛騎士団に入団し、今日に至る。
だが幸運にもゼクト自身は、跡継ぎなど煩わしいと思っていたようで、好きな剣術を思う存分やれる
今の立場が気に入っているよう。
ガイツは…家具職人の長男に生まれたが、本人は手先が器用でなく、ついでにやる気もなかった。
むしろ…弟の方がよっぽど向いていたので、本人はもっぱら売れた家具の配達をしたりして、
家業を手伝っていた。
そんな折…戦争が起こり、レオニールの領地と同じように、ガイツの領地の貴族も徴兵を行った。
だがガイツは…自分が残るより、家の技術をしっかり学んだ弟が残った方がいいと判断。
兄弟仲が良かったことも、1つの理由だろう。
だから徴兵ではあったが、ほとんど志願兵と変わらない心情で戦争に参加。
本人の喧嘩っ早い性格もあって、戦場ではかなりの活躍をした。
ギリアムと直接の面識はなかったが、その聖人君子っぷりに感銘を受け、戦争終了後、家には
帰らず、王立騎士団の入団試験を受け、存分に実力を示し、師団長になったのだ。
さて、そんな2人の戦いは…まさに力と力のぶつかり合い。
お互い身長が2m越えであるため、鍔迫り合いも…まさに圧巻だった。
そして二人とも…戦う事が本当に好きなようで、非常に楽しそうだった。
幾度となくぶつかり合い、力を込められた…武器の方が耐えられなかった。
渾身の力で合わさった武器が…弾け飛び、粉々になった。
この勝負は引き分け。
2人は互いに大笑いしつつ、互いを称え合っていたから…見ていてとても楽しくなった。
第八試合…ジェードvsノリス
ノリスの家庭事情もまた…かなり複雑だ。
ノリスの父は、結婚をしたが子供に恵まれなかったため、遠縁から複数の子供を養子にした。
そして…かなり激しく互いを競わせるようにし、脱落した子は、容赦なく追い出された。
ノリスもまた脱落した一人で、元の家に帰ることも出来ず、そんな折…起こった戦争で
志願兵となり、従軍した。
幸い功績を上げることが出来たため、男爵位を授かることが出来た。
しかし…当然領地など無いから、近衛騎士団に入団して、その剣一本で食っていくことを
決める。
腕はあり、剣術自体が嫌いじゃないのが、せめてもの救いだろう。
行く当てが無いし、元々最下位層であるため、努力するしかなく、それでも上位の者に、色々
厄介ごとを押し付けられたりしていた。
ローエンが率いるようになって、ようやっと報われた形だ。
そんなノリスとジェードの戦いは…と言えば…。
ジェードは基本、非常に自分勝手かつ周りの空気を読めるのだが、あえて逆の行動を取るような、
天邪鬼な一面がある。
それは…フィリーの元に来て、フィリー軍団となった時に、さらに強くなった。
ギリアムだと変な顔をする行動も、フィリーだと許してくれるから。
だから…公式行事だろうが、大衆が見ていようがお構いなしだ。
ジェードが最初に使った武器は…小麦粉の粉…。
闘技場全体に、小麦粉の粉をまき散らし、当たり一面に飛び交った。
まあ…眼潰しだよ、要するに。
小麦粉の粉自体が目に入ったり、視界が悪くなったと同時に…相手の懐に入り込み、勝負はついた。
ジェードは…眼を開けていようが、つぶっていようが、もともと見えないから。
小麦粉の粉が目に入らないようにさえすれば、ジェードの動きを阻害するものは、何もない。
今までで、一番…最速で終わったものだから、観客が…唖然としてたよ、うん。
ショー的要素、一切なし。
ジェードらしいっちゃ、ジェードらしい。
第九試合…クローバvsドーガル
ドーガルは伯爵家の次男だが、子供のころからかなりの乱暴者と評判で、本人もその評判に
違わず、喧嘩っぱやかった。
体格も…成長すると高身長な上、筋骨隆々になったため、両親が持て余し、成人と同時に
近衛騎士団に無理やり入団させた。
だが…ドーガルにとって武で己をたてられる場所は、まさに水を得た魚であった。
どんどん周りを押しのけ、自分の力を示した。
乱暴者ではあるが、醜悪ではなかったため、ローエンと合わないという事も無い。
しごきに関しても、難なく耐え…るどころか、かなり嬉々として、やっているという、変わり者だ。
そんなドーガルとクローバの戦いは…騎士半分、喧嘩半分といった所だ。
原則武器は使うのだが、クローバは武器のない肉弾戦も非常に得意だ。
時折それを繰り出すが、ドーガルとて幼いころから、勉強より殴り合いをやって来た人間のため、
その当時に培った勘所で…かなり的確に対応した。
そんな二人の勝敗を分けたのは…根も葉もないが武器性能だ。
どうしても互角な戦いの勝敗は、これがデカい事がままある。
先のガイツとゼクトの戦いは、お互いが国からの支給品であったため、武器性能自体は
互角だった。
しかし…今回、ドーガルが使っていたのは、国からの試供品。
クローバが使っていたのは、ファルメニウス公爵家がその技術と粋を凝らし、金に糸目を付けずに
作った、超のつく一級品。
ギリアム・アウススト・ファルメニウスは…自分はまだしも、フィリーを守る護衛が使うものは、
常に一級品しか許さないから。
ドーガルも…それがわかったようで、かなり悔しそうだった…。
第十試合…ハートvsドロテア
私は…ここで少し、深呼吸をする。
この次の試合が…この公開演武での隠れた目玉…と言っていいからだ。
ドロテアには辛い事になるだろう…。
だが…絶対に私は…アンタの決意も犠牲も…無駄にはしない!!
モントリアは…このオルフィリア・ファルメニウスの全てをかけて…潰す!!
「ティタノ陛下…この試合…特に面白き余興となると思われます…。
もう少し近くで見ても、よろしいでしょうか?」
そんな…殺伐とした空気は出さず、笑顔で話しかける。
「おう、そうか。
なら、前に出よう」
ティタノ陛下がかなり乗り出してくれたので、本当に良く見える。
演武会場に上がるハート…対するは…ドロテアだ。
会場の熱気は最高潮…。
だったら…最高のショータイムになるはずだ。
そして…試合が…始まる!!
まあ…ドロテアはさすがっちゃ、さすがだった。
それなりに…有名になるだけあって、その腕は、かなりの卓越ぶりを感じた。
私は…武術は、護身術程度しか知らんが、それでも凄い…と思った。
おそらく…しっかり鍛錬してきたんだろうなぁ…。
それだけに…残念でならない。
モントリアの正体に…長い事気づかなかったなんて…。
だけど、ジェードがハートも手練れだと評しただけあって…、負けてないどころか…余裕を
感じる。
「オルフィリア公爵夫人よ…。予定通りいくのか?」
小声で話しかけてきた、ティタノ陛下。
ティタノ陛下だって…この試合の意味を知っているから…。
顔が…締まっている。
「ええもちろん。やりますよ」
私はあくまで自然に…言った。
本当は…私がやれたらいいんだけどね…。
私は悪人を断罪するために、素っ裸になる必要があるなら、いくらでもなってやるし、
一切気にせんからさ。
「そうか…」
ティタノ陛下は一瞬だけ、下を向いた。
そのころガルドベンダ公爵家のブースでは…。
「あ~ん、惜しい!!もう少しで倒せたのにぃ!!」
メイリンがキーキー言っていた。
「少し静かにしろよ、お前…」
アルフレッドはかなりイライラしながら、メイリンに口だけで注意する。
アンナマリーが心配ではあるが、下手な動きは出来ない。
その焦燥感が…いつものホンワカした雰囲気を、完全に殺してしまっていた。
「ちょっと、お兄様!!
せっかくドロテアが活躍しているのに!!」
「興味ないって言ったろ?
あいつのことも、あいつのすべてが、オレにとっては興味ない」
だからかなり…冷たい言い方になる。
「何なのよ!!ちょっとぐらい…」
「うるさいな!!もう話しかけるな!!ドロテアなんて、どうでもいい!!」
やっぱり冷たく言い放つ。
涙目になるメイリンに、
「メイリン様…。ひとまずドロテアの応援をしましょう」
モントリアが優しく語り掛ける。
「あ、うん…。でも、モントリアは残念だったね…。修練中に怪我するなんて…」
「致し方ございません。騎士をしていれば…つきものですから」
メイリンは…モントリアのその言葉を最後に、ドロテアの応援に集中する。
その後ろで、アルフレッドが…憎々し気に睨んでいるのは…当然、気づかなかった。
(修練中の怪我ぁ?よく言うよ…。モントリアから聞いたんだ。
ドロテアが…修練中にやってきて、いきなり…死角から脅かしたのが原因だ…って。
ティタノ陛下に認められるための晴れ舞台…。オレに活躍を見てもらいたかったからだと…。
証拠はないから、言わないでくれと、モントリアは言っていたが…。
ドロテアは…卑怯者の上、恥知らずじゃないか…。おまけに…勘違いバカと来てる。
十分強めに拒否したつもりだったが…もっとしっかりと、拒否しなきゃダメだな…)
会場の熱気の中、ハートとドロテアの…武器を打ち合う音が、雷のように、歓声をつんざく。
両者一歩も譲らず…だろうな。
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それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない
櫻野くるみ
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