ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

文字の大きさ
23 / 59
第三章 前哨

1 宴の後の悪だくみ

しおりを挟む
「奥様ぁ~~~~。ご無事ですかぁ――――――――――――――――っ!!」

わんこ君の調教を終えた私に…帰ってきて、待機していたみんなが…一斉に寄って来た。

「大丈夫よ…。体はもう、ほとんど治ってる。だから…安心してちょうだい」

みんなの顔を見て…私も安心した。

「申し訳ありません!!やはり分散して、直ぐに帰るべきでした…」

スペードが…申し訳なさそうに言っているから、私は思わず、

「あのね!!ギルディスの速さに、誰もついてこれないでしょ?
それに…せっかく取り戻したアンナマリー嬢を、奪われるわけにはいかなかった。
だから…一番信頼できる、アナタ達に任せたの!!
よくやったわ。ありがとう!!」

アンナマリーは無事に家族の元に帰り…アルフレッドとも再会できたらしい。

「それよりも…こっちも色々と動きがあったから、報告するわ」

私は自分でしても良かったのだが、過保護なギリアムが、私の代わりに説明した。
まあ…説明は私より、確実に上手いからいいんだけど。

「ふざけんなぁ――――――――――――――――――――――――――――っ!!」

みんなが絶叫したのは…言うまでも無いだろう。
口々に文句を言いつつ、スッゲー怒ってる。

「奥様が裸になったのは、マーガレット夫人と子供を助けるためでしょ!!」

……色々はしょってない?アンタらも…。

「ご当主様!!奥様!!オレらなんでもやりますよ!!」

「どんな汚れ仕事でも、こなせる自信あります!!」

何だか…必死の形相で迫ってきている…。ありがたいけどね。

「ひとまず…作戦を考えたから、その通りに動いてちょうだい。
下調べも含めて…ね。話はそれからよ」

「はい!!」

いいお返事だ。

「あ…でも…。ダイヤの裁判はどうするんです?」

ハートの素朴な疑問だった。

「そんなもん、無視だ、無視!!そもそもオレは、あいつ等と仲良くする気は、一切ねぇ!!
こんな時に、ホントに何考えてんだよ!!奥様に迷惑しかかけないなんて!!」

ダイヤ…怒り心頭来ている所、悪いんだけど…。

「それは予定通りにするわよ!!そもそも…ダイヤの裁判も、相手の企みの1つなんだから。
せっかくシルスがうまくやってくれてるんだから、思いっきりぶっ壊すわよ」

私の力強い言葉に、

「はい!!奥様!!」

ダイヤだけでなく、全員が返事をした。

「それではフィリー…ひとまず、ご挨拶に行きましょうか」

「へ?」

私は…とても素敵な…でも、楽なドレスにお着換えさせられ…。

連れていかれた場所には…。

「お~う、オルフィリア公爵夫人!!大事無いか?もう起きて大丈夫か?」

ティタノ陛下?もうお帰りのお時間では?
なんでまったりと、ティータイムを楽しんでいるんだろう?
私が…そんなことを顔に書いたのが、分かったみたいで、

「滞在を伸ばすことにしたんじゃよ。もともと片付かなければ、その予定じゃったしな!!
それに…」

何だか…楽しそうに、

「お前たちが、お詫びにと用意した、旅行の目的地…。
ギリアム公爵に聞いたら、随分と画期的で、面白い施設を作ったそうじゃないか…。
そのおかげで、死にかけていた街…だけでなく、近隣の街も非常に活気づいたとな…」

ああ…何だかわかってきた。

「リュクシュイ村の件があるからのぉ…。是非とも視察したくなったんじゃよ」

そう言った名目で…本国と家臣を…納得させたのか…。
まあ実際に、見てみたいのは本当なんだろうけど…。

「そのような過分なお引き立て…ありがとうございます。
歓待パーティーでの失態を…取り戻す機会を与えていただき、恐悦至極に存じます」

私は…できるだけ綺麗な形で…お辞儀をした。

「そんなにかしこまらんでいい!!とにかく体を休めろ!!」

そう言ってもらえるだけでも、ありがたいなぁ…。
私は…ギリアムやみんなに引き続き、心がじんわりしてくる。
エネルギーチャージできそうだ。

「…で?お前はどう動く?ギリアム公爵よ」

今度は…私の時とは打って変わって、とても…不敵な笑みをたたえている。

「ひとまず…売られた喧嘩は買うのみですよ。ティタノ陛下とて、そうでは?」

私が…閨でよーく、言い聞かせたから…冷静に考えてくれてる。
よかったよかった。

「まあの…。だが…」

ここから…不敵な笑みに、怒気が籠る。

「仮にもこのわしの、歓待パーティーをめちゃくちゃにしたんじゃ。
一枚かませろ!!」

ギリアムを真っすぐ見据え…かなり強めのオーラを放っている。
それを浴びて…へーぜんとしてられる、ギリアムもすごいけど…。

「……実は、5日後に王宮でパーティーが開かれるようでしてね…。
それに夫婦共々、出席するよう言われているのですよ」

「なにぃ?」

ティタノ陛下の顔が…少し歪んだよ…。怒りの方向性に…。

「オルフィリア公爵夫人の状況は、伝えてあるのじゃろ?」

「ええ。あの会場にいた人間には、国王陛下も含めて、状況をお話してあります。
全て知っているハズですよ」

「しょーもないのぉ…。そのくらい抑えろっちゅーんじゃ!!
確かにあのクッチェンバラスのバカ娘に、多少の配慮は必要じゃろうがな」

あ、説明が遅れました。クッチェンバラス王国ってのは、レファイラ王后陛下の実家国ね。
ウチとのパワーバランスはトントンだから、どうしても…強く出れない部分もある。
ティタノ陛下は…怒るの通り越して、呆れてる…。

「いえ…。むしろ私は好機と見ていますよ…。まあ、フィリーの策でもありますがね」

「ほお…。聞かせい!!」

眼が…ランランと輝いている…。

「では…わたくしが…」

私はさらに喋ろうとしたギリアムを、制した。
自分の策は…自分で説明したい。

「実は3日後に…ティタノ陛下にもお話した、ウチのダイヤの裁判が開かれます」

「なにぃ?」

ここでも…すっごく渋顔になっちまった。

「お前たちの方に、通達は来たのか?
そもそも…わしが帰る予定だった日から3日後など…。よほど危急の案件でなければ、行われん
だろ?」

この辺は…国を隔てても、あまり違いが無いらしい。
こちらへの通達は…今日来たよ…うん。

「ええ、その通りです。どうやら…何者かが、裁判所に圧力をかけ、こちらに届かないように
していたようです。
私が…末端をあまり攻撃しないのも、こういう時に不利になります…」

ギリアムが…すかさず出る。

「そこは変えないでください…ギリアム。
ただし…例え命令されたとしても、私に…毒を盛った人間は、許さなくていいですから」

「もちろんだ。それを許したら、極論、命令されて殺人を犯した人間を、許すことになる」

まあ、わかってると思ったよ。

「最初私は…ダイヤをラスタフォルス侯爵家の跡取りに据える事で、様々な利権や弱みを握る
事が、目的だと思いました」

ダイヤは脛に傷の持ち具合が、軽犯罪じゃすまないレベルだからね。
いかようにも…崩せるし、脅しようがあるのだろう。
もっともそれは…ダイヤがラスタフォルス侯爵家に執着している場合だと思うんだが…。
それでも多少の使いようはあるのだろうな…。

「しかし…それだけではないような気がします」

「というと?」

ティタノ陛下が興味深げに、私を見つめる。

「恐らく…ダイヤをラスタフォルス侯爵家に入れる際…私兵の仲間も一緒に引き取る…。
そう言ってくるような気がします。
ダイヤと一緒に育ってきた者たちの…つながりが非常に強い事は…調べればすぐにわかります
からね。
そうすれば…ファルメニウス公爵家に行く理由が、なくなると思っていても、おかしくない」

「そんな馬鹿な事があるか!!オレは…仲間と一緒に、ここに!!いたいんです!!
奥様の私兵として、一生を過ごしたいんです!!」

ダイヤがたまらず出てきたが、ティタノ陛下の御前のため、慌てて少し下がらせた。

「あ~、かまわん、かまわん。わしもそいつら気に入っておるよ」

そう言ってもらって、ホッとしたよ…まったく。

「ラスタフォルス侯爵家は…先代ファルメニウス公爵家と比べれば、遥かにマトモですが…。
それでも中に入ってしまったら、分かりませんからね…。
もちろん私も、彼らを手放す気はありません」

「ただ…重要なのは、私から…私兵をはぎ取りたいんですよ…黒幕は」

私の言に、

「そりゃ、そうじゃろ。間違いなく、そいつらは優秀じゃよ。
ファルメニウス公爵家のパーティーで…刺客の入り込むすきがあったのは、そいつらがいなかった
からだと言っても、過言ではあるまい」

ティタノ陛下は頷きながら、答えた。

ファルメニウス公爵家の護衛騎士は…当然優秀だけどね。
こと…暗殺や裏家業の考え方だったら、こいつ等が一番わかっている。
それに…同業者ってのは、同業の匂いや感覚を…鋭敏にキャッチできる。
私だって…どんなに隠してても、なんとなく…娼婦だって、分かる…。
今世でもね。
トランペストが敵だった時…私がジェードばっかり、連れて歩いたのは、まさにそれがある。
ギリアムも…そうしろって言ったからね。

「だから…その企み自体…裁判でぶっ潰して、御覧に入れます!!」

私は…力いっぱい答えた。

「できるのか?」

「ええ…。こちらの伏兵が、とてもいい仕事をしてくれて…。
手の中で踊らされている事…気づいていない模様ですので」

不敵な笑みを顔に張りつけつつ、ティタノ陛下の目を真っすぐ見る。

「なるほどな!!しかし…わしも噛ませろと、言ったはずだが?」

「ティタノ陛下には…5日後の王宮でのパーティー…。
その場で大いに活躍して、頂きとうございます…」

「策を聞かせい!!」

私は…自分の策を話し続け…時折ギリアムとティタノ陛下が…注略や案を出してくれたものを…
ふんだんに取り入れていくのだった…。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。  手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。 大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。 成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで? 歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった! 出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。 騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる? 5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。 ハッピーエンドです。 完結しています。 小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

処理中です...