ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第四章 裁判

7 ハートの考え

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マガルタの第一声は、やはり私の想像通りだった。

「アナタは先の公開演武で…服を殆ど剥がされた状態で戦いましたよね」

「異議あり!!本件と全く関わりがありません!!」

バートンがすかさず出たが、

「この質問は!!
オルフィリア公爵夫人…ひいてはファルメニウス公爵家が、兵にどこまで何を強要させているか、
確認するためのものです。
重要な事ですので、ご許可願います!!」

裁判長のお答えは、

「異議を却下します」

だった。

……ふむ。
昨今の新聞記事を賑わせているし、色々な憶測が飛んでいるから…本人の口から、しっかりと
喋らせてしまったほうが、いいという判断だろうな。
私でもそうすると思う。

「それにより、世間では波紋が広がり、一部かなり下卑たショーに起用されているようです。
それについて、どう思われますか?」

女性を裸で戦わせるなんて…と、当然言っている連中はいる。
特に…貴族の奴らはな。

「別にどうも思ってませんよ?
言うヤツはどこにでもいるから、別に言わせとけって感じですけど?」

非常にあっさり答えたよ…。本当に私と似てる。

「では…このままで良いと?」

「ええ。アタシのほうに、特に支障は出てませんので」

すると…マガルタが少し間をおいて、

「アナタの経緯を調べさせていただきましたが、娼館で育った経歴をお持ちですよね?」

「異議あり!!
本件と関りがない上、公開演武以上に関係がない事です!!」

ただこのバートンの言には、

「あ~、バートン先生、いいですよ。
この件は、アタシもハッキリさせたいと思ってたんで、続けて欲しいです」

ハートの方が先に反応した。
こうして…質問は続けられることになった。

「アナタは…体を晒すことに、抵抗がないかもしれません。
しかし…他の女性騎士が、同じとは限らない。心を痛めている人間もいると、思わないのですか?」

するとハートは…少し薄ら笑った状態で、

「嫌ならやめりゃぁ、いいじゃないですか」

「は?」

マガルタはハートのこの言葉は…ちょっと予想外だったようだ。

「アタシは確かに娼館で育ちました。親に僅かな金と引き換えに、売られたんです。
口減らしのためにね。
つまり…アタシは娼館で生きていくしか、選択肢が無かったんですよ」

「もし…仮に奴隷として売られて、女性騎士をやるしかなかった…と言うなら、同情します。
でも…アタシの相手はそうじゃない。
恵まれた環境で育って、騎士にならなきゃ死ぬわけじゃなかったのに、自分で騎士の道を選んだ。
一生食っていける金があるのに、イヤイヤやる理由って、なんですか?他の奴もそう。
やめりゃいいじゃないですか」

ハートの言っていることは、正論なのだが、マガルタもさるもので、

「そう言った問題ではないのですよ。やめた所で、醜聞は一生付きまといます」

問題点を提起するが、

「だったら私が何を言おうが、何をやろうが、一生変らないでしょう?
私に何ができるってんですか?」

更なる正論で被せるだけ。ハートも結構やる方だ。

「それに…フィリアム商会で女性騎士を雇ってますけど…、そっちは醜聞はみんなで対応して
いますよ。
今の所…業務に支障はないし、揶揄してくる奴には、男性も含めて一丸となってます。
そのおかげで、言ってくる奴今の所いないですよ」

「それに対して、私の相手の女性騎士の所属する騎士団は、一体何をやっているんですか?
醜聞に対処しきれないなら、対処している所に、教えを乞うべきじゃないの?
それもやらずに野放しなら、まずはそっちを追求すべきでは?」

ハートも…ちゃんと考えているようだ。
スペードほどじゃなくても、クローバほど考えなしじゃないんだよね。

ドロテアの醜聞に対処しきれないなら、頭を下げて来るべきなんだ。
それが出来ないなら、自分たちでがむしゃらに模索すること…。

でも…ダリアはそんなことに、かまけていられないのだろう。
ダイヤをどうやって、ラスタフォルス侯爵家に入れるか…。
それだけに注力してしまっている。

そうすることによる不利益…わかってて受けるつもりなら、いいんだけどね…。
さて、どうだろうね…。

「だったら…アナタはこの先も、場合によって真っ裸で戦うと?」

マガルタが…ちょっと焦ってきちゃってるみたい…。

「ええもちろん。そもそもそうできないなら、奥様の護衛から手を引けと言われましたし、
私もそれは当然だと思っています。
ご当主様が女性騎士を起用しなかった理由は、もう皆さまご存じだと思いますので、
省きますが…服を剥がされたくらいで戦力が落ちるような人間を、男だろうが女だろうが、
ご当主様は大事な奥様の護衛にするつもりは無い…と、ハッキリ言われましたから」

「私は強要されたわけじゃなく、心底奥様の護衛がやりたかったので、マッパにされても
敵が倒れるまで、戦いますよ。
もちろん、往来の真ん中だろうと…ね」

すごーく楽しそうに…笑った。

対するマガルタは、嫌な汗が出てきているようで、ハンカチで額を拭っている。
ハートは…以外と頭が良いんだよ。

ハートがキッパリと、自分は気にしていない…強要されてもいない…と、言った以上、さらに
追求しても無駄だろうな。

お次は…ああ、ジョーカーだな。

「失礼ながら、アナタだけ年齢がだいぶ上なのに…同じ修練や仕事量になっていますね…。
それについて…」

「不満なぞないが?
そもそも…そんなことで便宜を図ってくれるような所に、務めたことなんぞ一度もない。
実力のあるなししか問われんかった。
子供だろうが、歳食ってようが、失敗して死んだら同じ。弔いも報酬も無しじゃ。
ついでに言えば、ファルメニウス公爵家は成果をあげれば、しっかりと報酬を払ってくれるが、
わしが大半の人生いた所は、成果を上げても難癖付けて、報酬払わんのいっぱいいたぞ?」

…まあ、予想はしてたが…ね。
ジョーカーは…お前はなにが言いたい?…と、顔に書いて、マガルタを見る。

「し、しかし…一度引退したと、お聞きしています。
それなのに過酷な場所にまた戻ったのは…やはり子供同然の私兵が心配だったからでは
ないのですか?」

これ…暗にウチが、みんなをひどい目に遭わせるんじゃ…ってことだね。
社交界でちょっとならした奴なら、すぐわかる。
しょーもね。

「そりゃ違うな。わしの子供たちは…断頭台を免れない罪を犯した。
それは紛れもない事実じゃろ?だが…奥様とご当主様は、助けてくださったんだ。
その恩に報いたいだけじゃよ。そもそもその前の悶着で…どういう性格の方々か、よくわかっとった。
まあ…しいてもう一つ言うなら…」

ジョーカーは…少し楽しそうになり、

「どれだけ頑張っても、正当な評価をこの歳までしてもらえんかったからな…。
全うに評価してくれる人たちが、わしの事をどう見るのか…。
単純な興味じゃよ。
結果を言わせてもらえば…大変満足しとる。
わしが生きてきた世界で見知ったことだけでも、貴重な情報じゃし、財産だと言ってくださってな。
だから…ファルメニウス公爵家に骨を埋めてもらいたいもんじゃよ。
それが…わしの今の希望じゃな」

もっともらしく、カラカラと笑いながら言った。

マガルタは…それに反比例するように、どんどん顔色が悪くなる…。
思っていた結果と…全く逆なんだろうな…。
まあ…フィリー軍団の他の人間とは接触できなかったから、しょうがないだろうが…。

何だか…またちょっと、思考の波が押し寄せてきた…。

私に言わせれば…この案件は時間をかけるべきだったと思う…。
ゴギュラン病の時は2年…いや、ジョノァドがキンラク商会に入ったのが3年前なのを考えれば、
3年の準備期間を置いた。
その位…慎重になっていい案件だった。
もちろんダリアが収まらなかったと思うが、そこは…グレンフォ卿に抑えてもらうなり、
すればよかったんだ。
そうやって…グレンフォ卿の信頼も、得ていれば…別の方法があったかもしれない。

それなのに、こんな早急になったのは…。
やはり、上位のカードの抑えが利かなくなったからだろう…。
私が仮に…2年、男爵令嬢でいたならば…もっと入念な準備ができたハズだ。
でも…私は偶然とはいえ、さっさと公爵夫人になっちまった。
そして…社交界でその存在感と影響力を、かなり持つに至った。

ギリアムが救国の英雄となった時と同じ…。
多大な権力を一気に持ったにもかかわらず、それに振り回されることなく、着実にやる…。
これが出来る人間は、できるだけ早く排除しないと…後がなくなる。

さらに私が子供でも産めば…私の地位は王家だって、動かせなくなる。
バカ王女と王后にしてみりゃ…それが絶対に許せない。
そしてジョノァドは…失敗者の烙印を押され、二度と上に協力してもらえなくなる可能性がある。
いや…キンラク商会の時の失敗があるから、処刑に近い形にされるかもしれない…。

どんなにずるがしこくたって、悪知恵が働いたって…権威者にはそれが耐えられない。
結果…断行するしかなかったのかもな…。
こんな…穴だらけの状態で…。

私が思考の波に漂っていたら…いつの間にやら証言台にジェードの姿が…。

「アナタは…目が見えないと伺いましたが、危険な仕事以外の適職を薦めたりはされなかった
のですか?」

「……」

「フィリアム商会には、アナタのような生まれつきの弱者のための施設が、あると伺いました。
そこに行けば、無理なく安穏とした生活を、送れるとは思いませんか?」

「……」

ジェード…何も喋らん…。
そういやすっかり忘れてたけど…ジェードって気に入らない人間とは、口きかないんだった。
でも…。

公の裁判でまで…それやらないでぇ~!!!

「あの…何か喋ってくださいませんか?」

マガルタも…別の意味で困惑してる。

「……好きに」

やっとこさ、口を開いた。

「好きに喋っていいのなら…」

その言葉をもって…またも訪れる沈黙…。

「ど、どうぞ…」

そう言いざるを、得なかったようだ。

「オレはね…。生来目が見えん。だから…眼あきとは全く違うものが、見えるんだ。
それで言うとね…」

「アンタは…アンタらは、オレを…オレたちを、奥様から引き離したいんだよ。
質問や感情の抑揚から…それがよ~くわかる。
だから…オレが言いたいことは一つさ」

見えないハズの目で…真っすぐマガルタを見据え、

「オレは…死ぬまで奥様とご当主様の所にいる。
これは…オレの未来永劫変わらぬ欲望であり、願望だ…。
だから、それを邪魔する奴は…」

何だか変に開いた間が…奇妙な空気を醸し出す。

「消す!!!」

静かな声が…その決意と重さを、より確かなものにしている。
ジェードの言葉が…外野のざわつきを、一切消せないものにしたことは…言うまでもない。

「オレが言いたいのは、それだけだ」

この後は…また、何を聞いても、ジェードは一切喋らなくなった。
ギリアムとは別の意味で…証言台に立たせちゃいかん人間だ…うん。
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