ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第四章 裁判

9 ギリアム登場

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ギリアムは…改めて話を始める。

「まず前提として、私は…王立騎士団に就任当時、支部の状況を直接確認するため、国中を
回りました」

「それは覚えている。ご苦労だった」

通常なら…書面で済ませてもいいのに、戦争の影響や、父親の後始末のために、全国津々浦々を
回ったんだよ。自分の足で。

「収穫祭の後、ダイヤにできるだけ…覚えている事を話してもらいました。
幼いころの記憶ゆえ、酷く断片的でしたが…幸いにもダイヤの子供の頃暮らした街は、開発が進んで
おらず、ダイヤの記憶にあった場所は、私が遠征で行った場所と一致しましてね…。
聞き取りを行った結果、多数の人間が、グレッド卿及びイザベラ夫人の顔を…覚えておりました」

は~、ギリアムに丸投げした安心感で、外野の一層のどやどやが気になら~ん。

「ダイヤの顔がグレッド卿と瓜二つだったのも、幸いして…彼がキリアンである事、疑う人は
ほとんどおらず、快く話をしてくれました。
その中でも…教会の神父さんにだけは、グレッド卿は自身の正体を明かしており…様々な遺品を
預けていたのです。その中には…偽名のキリーだけではなく、グレッド卿の本名が書かれたものも
ありました。グレッド卿が埋葬されたのも、この教会です。
ダイヤが…グレッド卿とイザベラ夫人の子供であることは、ほぼ間違いないと断定いたしました」

「それだけの証拠が揃ったのに、ラスタフォルス侯爵家に連絡を取らなかったのですか?」

王后が…すかさず非難めいた声を、もっともらしく上げたが、

「その答えなら、簡単です。王立騎士団に捜索願が出されていなかったからです」

うっわ、また外野のどよどよが…。

「私は…闇組織を検挙し、随分な数…奴隷とされていた人間を救ったがね。
もちろん誘拐されて、家族が必死で探していた例もあったが…。
残念な事に、口減らしのために、親がそういった組織に売り払った例もあったんだ。
そういう人間の元に行くとね…露骨に嫌そうな顔をしたものさ。
今更戻されても、迷惑。厄介払いしたんだから、そちらで引き取れとね」

そーなんだよね…。そう言う子…私も施設で見て…可哀想なくらい、影が出来てた…。

「だから…ダイヤの顔が、グレッド卿と瓜二つだと思った時点で、グレッド卿が失踪してからの
捜索願を、全て検証したよ。支部に出されたものも、含めてね。
でも…一度も出された記録はなかった。だから…こちらからあえて、連絡は取らなかったのさ。
ダイヤも関わることを、拒否したしな」

「それはアナタの父親のせいですっ!!!!」

ダリアが思わず叫んだ…。まあ、でしょうね~。

「アナタの父親は王立騎士団を私物化し、自分の言う事を聞かない人間を、ことごとく痛めつけて
いた!!
だから…アナタの父親に弱みを握られることを恐れ、言わない人間が多数出たのです!!
出したくなくて、出さなかったわけではありません!!」

涙ながらに崩れ落ちたもんだから、外野のざわめきにギリアムを非難するものが混ざってる…。
まあ…泣いているのは芝居じゃないだろうし、言っている事は正しいだろうけど…。

何だか私は…もやもやした。

なんでかって?

だってさぁ…。

「確かにそうかもしれない…。
だが…私が王立騎士団の団長に就任してから4年…いや、もうすぐ5年になる。
その間…アナタが言うように、私の父の時代には弱みを握られたくなくて、届を出せなかった人間が、
それなりの数、訴えてきて届を出していったのですよ」

おっと、ギリアムの言が始まっちまったから、そっちに集中せな。

「もう10年以上も経過しているものが、ざらにあったぞ。
もちろん誠心誠意、捜査した。今も続いているものもある。
そう言う事例は私が王立騎士団で、力を振るうごとに増えていった。
にも拘らず…出さないのだから、私としては、慎重にならざるを得なかった」

う~む、鉄壁要塞大魔神の上に、完璧超人なんだよなぁ…ホント。
ダリアを見れば…何だか、口惜しそうな…それでいて何かを隠しているような…だなぁ…。

私は…その顔から、ちょっと予想がついた。
4年前…ギリアムへの女性騎士の立場向上のための進言…。
おそらく、ギリアムと言う人物を見極める意味もあったんだろう。
ただ…わからないのは、ギリアムの言は…かなり真っ当なんだよなぁ…。
ローエンじい様だって、だからこそ、ギリアムに取り合ったんだ。
なのに何で…冷たくあしらわれた…なんて、言ったんだろう…。

でもおり悪く…。
ギリアムが王立騎士団に就任してから日が浅い状態で、ローエンじい様が近衛騎士団を引退
しちまった。
それと共に…グレンフォ卿も引退したから、本当に接する機会がなくなった。
しかもギリアムもラスタフォルスも、社交界に積極的に出たいタイプじゃないと来た…。
故意ではなく偶然にも…情報統制が掛けられちまったようなもんだ。

何だか…私は寒気がした。
ある人物の…執念めいたものを、感じずにはいられなかったから…。

しっかし…。外野も言葉が無くなっているようだな。
ギリアムが…ここまでしっかり、やっていると思わなかったのか?

だとしたら…ギリアム・アウススト・ファルメニウスを舐めすぎだっての。

「た、例えそうだったとしても、もう少し態度を柔軟にしてもいいのではないですか?
せっかく…長い間離れ離れになっていた家族が、奇跡的に再開できたのですから…」

レファイラ…苦しくなってきたな。
でもギリアムは追撃を緩めない。

「レファイラ王后陛下…。
失礼ながら、それは…お互いが家族を探し求めていた場合にのみ、適応されます。
ダイヤのように…今更、身分持ちになりたくない、関わるのも嫌…という人間も、いるのです」

これはダイヤに限らず、一定数いる。
庶子がいい例だ。
今まで放置してたこと棚に上げて、跡継ぎがいなくなったから、来い…みたいな一方的な奴いる
からさ…。

「しかし…血筋的には嫡長子となるのでしょう?このままでは…」

この言葉は、暗にお家騒動を示唆しているが、

「そう言った欠点を加味し、ダイヤはこのままファルメニウス公爵家の籍にいたいと、言っている
のです。ダイヤ、こっちに来たまえ!!」

お呼びがかかったので、ギリアムの横へ。

「もしこの場で…ラスタフォルス侯爵家の相続権放棄者の手続きを終わらせたら、キミも少しは、
あちらへの態度を緩めないか?もちろん、話をする場には、暫く私とフィリーも同席する」

ギリアムの提案は突発的だったが、

「それはいいですよ。そもそも私はガルドベンダ公爵家での話し合いで、その事を提示しました。
私を…名実ともにファルメニウス公爵家にいられるようにしてくれれば、多少なりとも歩み
寄ることは、構わないと思った。
このまま強硬姿勢だと、奥様とご当主様に、迷惑がかかりそうでしたしね」

ダイヤはしっかり対応した。

「フム…。ラスタフォルス侯爵家と仲良くなる意志が、ないワケではないのだな?」

「もちろんです、国王陛下…。
私は一度、私の希望さえ聞いてくれれば、態度を緩めると言いました。決裂しましたがね」

国王陛下にも、キッチリ対応してるよ…。貴族の対応が身についてきてるな…。

「ならば…この場で、ラスタフォルス侯爵家の籍に無理に入れずともよかろう。
ファルメニウス公爵夫妻はしっかりとしているのだから…よくよく話をしてはどうだ?
ファルメニウス公爵家の護衛騎士であれば、むしろ誉れになるのだから、良いであろう?」

ああ…。とってもなド正論をあざーす!!
相続権放棄者にしろとはさすがに言えないけど、この場は…これで納めたいわ。
私だって…体がまだ本調子じゃないから、これでお開きになるなら、その方がいい。

「こ、国王陛下!!それはおやめください!!
何卒この場で、ダイヤをラスタフォルス侯爵家にお返しください!!
話をしようにも、ファルメニウス公爵夫妻は、一切取り合ってくれないのです!!」

あのなぁ…私がちょっとピキッと来たのと対照的に…ギリアムは何だか…。
私が違和感を感じていると、ギリアムは…ちょっと芝居がかった盛大なため息をつき、

「わかった。ダリア夫人がそこまで言うなら、言わせてもらうがな…」

前置きをした…。
その唇が…私にしかわからない状態で緩んだ…。
……と言う事は、言わせたかった言葉を…引き出せたんだろう。

「私とフィリーがここまで強硬な態度になったのには、いくつか理由がある。
その一番重要な部分は、ダイヤが関わりたがらなかったからだが…。
それを差し引いても、ダリア夫人の態度がそうさせているんだよ」

本当に呆れている…と、口調に出す。

「それは言いがかりです!!
そもそもダイヤがこちらの血筋だと、分かっていながら何の協力もせず、秘匿して…」

いや…それこそ、言いがかりぞ。

「ギリアム公爵閣下…。
それはあまりに、情け容赦がなさすぎませんか?」

マガルタが出てきたよ…。そういやまだ、判決下ってないんだっけ。

「子供を…長い間探していた親というのは、とかく平常心も冷静さも、保てない事が多い。
その態度をもって、話を聞かないというのは、あまりにも…」

語尾をわざと小さくして…いかにもギリアムが非人道的…って、印象を与えたいんだろうけど、
弁が立ちすぎるくらい、立つ人間には、通じないと思うけど?

「そんなことは当たり前だ。
先ほど誘拐事件なり失踪事件なりを、王立騎士団で扱っていると言っただろう?
みな…多かれ少なかれ、平常心も冷静さも欠いているよ。
だからこそ、フィリーを傷づけそうになった一件は…殆ど不問にしたはずだ。
その後だって、手紙を突き返すこともしなかったし、ガルドベンダで鉢合わせした時も…
フィリーはダイヤと話をさせてやっただろう?
ダイヤを閉じ込めたまま、全く会わせないなど、していないぞ」

ふん!!会場がざわめいているってことは…そう言う勘違いしてた奴、多いんだな…。
意図的か、偶然かまでは…わからないけど。

「私がダリア夫人の態度が…と、言ったのは、それを差し引いても…という事さ。
まず…ダイヤへの手紙だが、グレンフォ卿に関しては、一週間に一度程度…近状報告と、
わだかまりを解く機会を、与えてくれないか…?という、大変常識的な期間と内容だ」

「だが…ダリア夫人、ダリナ嬢とグレリオ卿に関しては…毎日届くんだ!!」

あら…外野の方々が、またもざわめく。さすがに良識があれば…異常だってわかるよね。

「内容は…全て似たり寄ったり!!とにかく会おう、話をしよう、話をすればわかり合える…。
そんな内容を…毎日毎日送ってくるんだ!!
ファルメニウス公爵家の護衛騎士は、そんなに暇そうに見るのか?」

「な、何の証拠があってそんな…」

おやおや…。ダリアがまた声をあげたよ。ダイヤが手紙は燃やしてるって、言ったからな…。
でもよ。ギリアム・アウススト・ファルメニウスは…そんな甘い男じゃない。

「証拠ならあるぞ。
ダイヤがラスタフォルス侯爵家からの手紙を、燃やして捨てたいと言った時、キミは読まなくて
いいから、私と私が指定する者には、手紙を読ませてくれと言ったんだ。
ラスタフォルス侯爵家とのいざこざが、上手くまとまればいいが、裁判になったりしたら、
証拠品として使えるかもしれんからな。今の所燃やさずに、保管してあるぞ。
もちろんいつ届いたか、誰が持ってきたか…使用人の名前まで、全部控えてある」

さすが、几帳面大魔王だ、うん。将来禿げないか、オババは心配やぞ。
まあ、禿げてもエッチが満足できれば、私はオッケーやけど。

「ダイヤはオッケーしてくれて、私の書斎の前の、焼却炉と書かれた箱に、毎日放り込んで仕事に
行く。最近では、ウチの日常茶飯事風景になったな。いい加減やめさせてやりたいよ、全く…」

そうよね。最近では…手紙のあまりの多さに、ダイヤがこちらに申し訳ない…と、言っている
始末だもん…。

「この手紙の異常さだけでもアウトなのに…。
さらにダイヤが手紙を全く見ていないと、ガルドベンダでの話し合いでわかった時、だいぶ
ショックを受けていたそうだな?
護衛騎士というものの過酷さは、十分わかっているハズなのに、よくそんな考えが出来たな。
確かにそちらは療養中で時間があったかもしれんが、こちらも同じだと、なぜ思うのだ?
おまけに…便箋1枚でも大変なのに、手紙一通、平均10枚だぞ、まったく…」

ギリアムの声が…芝居じゃなく、怒気を孕み始めたよ…。
かく言う私も、思い出してちょっと、むかっ腹たってるけど。
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