ひとまず一回ヤりましょう、公爵様5

木野 キノ子

文字の大きさ
5 / 44
第1章 狩猟

4 バカは死んでも治らない

しおりを挟む
至極冷たい目をしたまま、ギリアムはゆっくりと…しかししっかりと、己の剣で地面に線を引く。

「どうしたんだよ、ギリアム…」

ローカス卿はいまいち呑み込めないようだが、

「ローカス卿…この線から向こうには足を出さないようにしろ」

「ああ?」

訳が分からないが、一応線の外に出た。

「私の記憶する限り…だいたいこのくらいだったな…」

「何がだよ?」

するとギリアムの空気が明らかに変わる。

「この二人が…」

眼光が…突き刺さる。

「アイリン夫人のサロンで、フィリーにティーカップを投げつけた距離さ」

その場の空気が…時間が止まる。
ここにいる者たちは…多かれ少なかれ優秀だ。
ギリアムが何をしようとしているのか、わかっただろう。

あ、いかんいかん。
わからんのが多分確実に2人いる。

「ちょっとぉ、なにぃ?」

「女の子が泣いていたら、普通慰めるのが…」

うん、やっぱわかってない。

「最後のチャンスをやる…」

わかってない奴に構わないギリアム。

「1分以内にここから消えろ!!
さもなくば…」

ギリアムの手の中で、ぽんぽんと上に放られるティーカップが踊る。

「どうなっても、構わないという意思表示とみなす!!」

「はっ、なるほどな…」

ローカス卿は…ギリアムを止めるつもりはないようだ。

レベッカは…何も言わない。
その表情は…下を向いているため、見えなかった。
スタリュイヴェ侯爵は能面笑顔のままだ…だが…、その口の端が少しばかり…上に動いたようにも
見えた。

「な、何なのよ…」

空気が変わっていることは、さすがに気づいたようだが…。
ギリアムの意図までは、連想できないようだ。

「ギリアム様、もうすぐ式典が始まりますよ」

私は今にもティーカップを投げつけそうな勢いで、二人を睨むギリアムに、声をかける。
私の周りには…師団長たちと護衛騎士…。
実を言うとね。
ちょっと離れたところで、様子を伺っていたのだよ。

「フィリー…」

先ほどとは打って変わって、とても優しい声になる。
そして改めて、レベッカとバカ2人の方を向き、

「そういうわけですからあなた方もそろそろ、ご自分のスペースに帰ったらいかがですか?」

冷静にのたまう。

「ちょっ…!!命令しないでよ!!」

「そうよ!!あんたのせいで!!私らはサロンを出禁になったのよ!!」

おいお~い、その言い方が許されたのって、アイリン夫人のサロン前日までだぞ~。
そしてすべて自業自得だぞ~。

「誰にモノを言っている――――――――――――――――っ!!」

ギリアムの咆哮で、周りの木々が揺れ動く…マジで!!

「ここにいるのはオルフィリア・ファルメニウス!!
このギリアム・アウススト・ファルメニウスの妻にして、正式なるファルメニウス公爵家の夫人!!
貴様らはファルメニウス公爵夫人より偉いというのだな!!」

2人とも震えて動かなくなっちまった。
私に対して謝ったりするのは嫌だが、さりとてギリアムの言っていること、完全に正しいって、
流石にわかるようだ。

「ギリアム様…」

私はギリアムに耳打ちする。
するとギリアムは、少しばかり口の端を持ち上げ、

「さてと…じゃあ…先ほどの続きをするか」

ティーカップを再びポンポンとし出す。

「ちなみに…私がカウントを言い出してから…すでに50秒が経過したが、わかっているか?」

ポリネアとラファイナは…わかってねぇな…やっぱ。
ただ怯えているだけ。

「…59秒」

あーあ、知らないよぉ~。

次の瞬間…乾いた空気が音より先に…3人の令嬢たちの横をすり抜けた…。

「ぎゃぁぁああぁぁあぁ―――――――――――――っ!!」

何かが軋む音と同時に、悲鳴が響き渡る!!
悲鳴の主は…ジョノァド・スタリュイヴェ侯爵だ。

う~ん、さすがにこれは能面笑顔維持できんよね。
ギリアムの投げたティーカップは、ジョノァド卿の弁慶の泣き所あたりを直撃…。
ただでさえ、何かが当たると痛い所なのに…。
折れてんな…あれ…。

「ななな、何を…!!ギリアム公爵閣下!!」

レベッカが超驚いてら…いつものポーカーフェイスどこ行った?
苦痛で顔をゆがませるジョノァド卿の近くに…近衛騎士が駆け寄り、応急処置をする。
……手際良いね、やっぱ。

「簡単な事さ」

レベッカの問いに、ギリアムはシレっとした声で、

「私は不始末の責任は、通常上が負うものを思っているからな。
レベッカ嬢の不始末を…父親であるジョノァド卿に負ってもらったまで」

「なっっ!!私は不始末など!!」

「アイリン夫人のサロンで!!」

ギリアムの口調が強く…重くなる。

「キミはポリネア嬢とラファイナ嬢の友人でありながら…2人の行為を注意するどころか
擁護した。
つまりキミは…ティーカップを投げつけられるくらい、どうってことないと判断したとみなす。
そしてキミにそんな教育を施したのは、他ならないジョノァド卿だからな。
本当にたいしたことが無いか、しっかり体験してもらおうと思っただけさ」

ギリアムよ…本当に楽しそうだねぇ…。
この父娘には、昔に相当な煮え湯を飲まされているからなぁ。
これに関してだけは、止めなくていーや。

「な、何をおっしゃっているのですか!!どこにそんな証拠が!!」

いつもの余裕が微塵もないね。
仕方ないけど。

「私がこの耳で直接聞いて、この目で直接現場を見ているんだが?」

ギリアムの顔は…微笑んでいるんだけど、背筋が凍るほど冷たい。

「嘘だと思うなら…ガルドベンダ公爵家に確認を取ってみろ…。
正式に許可をもらって、入っているからな…」

正式に許可…とは言い難いんだが、そんなこと口が裂けても言わんわ。

レベッカは…崩れ落ちちゃったよ。
さてと…後は…。

「お二人とも…さっさと退席した方がいいですよ?」

私は震えながら動かない、ポリネアとラファイナに言う。

「へ?」

「次はお二人の番ですけど?」

ここまで言ってようやっと…バカ2人は状況を把握したようだ。

「ちょっと!!あたしたちにティーカップをぶつける気!!」

「そんなひどい!!」

いや…自分の行為の棚上げも…ここまでくると称賛するよ…。
あ、悪い意味でね。

「酷い?」

おや、ギリアムじゃなくローカス卿だ。
いい加減…怒ったっぽい。

「その酷いことを、お前らはオルフィリア公爵夫人にやったんだろ?
ギリアムにティーカップをぶつけられたって、自業自得だっつーの」

「まったくだな、ローカス卿…。
さて、ここに集まったみんなはどう思うかな?」

ギリアムが少し芝居がかっている…。
まあ、普段やらんが、こういうのもうまいのよね…。
んで、もちろん…ポリネアとラファイナの味方をする人間は…一人もいなかった。
スタリュイヴェ侯爵はとっくに担架で運ばれたし。
まあいても、この2人の味方をしたとは思えんが。

「な…なによ、なによぉ…」

「私たちが全部悪いって言うのぉ…」

そうだけど?
むしろそれ以外のなんだというんだい?

「さて…では、次のカウントダウンを始めるか…」

ギリアムが次のティーカップを手に持ち、またポンポンと弄び始めた。

「え…う…嘘ですよね…」

2人はまだ…望みありげにギリアムを仰ぎ見るが、そんな2人にギリアムは、

「私は、嘘は大嫌いだ」

すっごく冷たい笑顔をお向けになった。

「いっ、いやぁああぁぁ―――――――――っ!!」

脱兎のごとくとは正にこのことやな。
令嬢用のスカートで、よくあんなスピード出せるなぁ…ってくらいのスピード出しとる。
そんなに出すと…お、やっぱり。
盛大にスッ転んだ。
お決まり!

そして崩れ落ちたレベッカを、私は丸っと無視して、

「ギリアム様…ひとまず本当にそろそろ式典の準備をしませんと」

「そうだな…ローカス卿!!
ひとまず話はあとにしよう」

「ああ、そうだな。
そろそろ行かんと、本当にマズい」

崩れ落ちたレベッカを置き去りにし、私たちはその場を離れた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...