ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 8

木野 キノ子

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第4章 現状

1 失態に次ぐ失態…

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「こっっの、大馬鹿者がぁぁ―――――――――――――――――――っ!!」

空気どころか、建物全体を揺らすような怒号は…コウドリグス侯爵家の使用人が、こぞって驚いた
ことは、言うまでもない。

コウドリグス侯爵家の応接間…。
ローエンとローカス…、そしてベンズとジュリア、グレンフォと車椅子に乗ったグレリオが
いた。

グレンフォに怒られているのは…グレリオだった。

「ご、ご主人様…。坊ちゃまはまだお怪我が治っていないゆえ、そのような…」

グレリオの車椅子を押している使用人が言うのだが、

「遊べる時点で、怪我人ではな―――――――――――――――――いっ!!」

全くのド正論をかまされて、黙るしかなかった。

「ベ、ベンズ卿…、おじい様を止めてくださいぃぃ」

グレリオは非常に情けない声を出して、助けを求める。
コウドリグス侯爵家とラスタフォルス侯爵家は…爵位も近いし、同じ武の家門として何世代も
しのぎを削っていたから、お互いかなり見知っているのだ。
だから…ベンズ卿は、グレリオを子供のころから知っている。

しかし…、

「グレンフォ卿の言う通りだ。
そもそも…怪我が治らぬうちから、遊びに行って自分の自業自得は隠しつつ、ファルメニウス公爵家の
悪口とは…開いた口が塞がらん」

一蹴に伏される。

「だ、だって、だって…あんまりだって、みんな言ってくれて…だから…」

「それも…周りの1つの手だったんだと、思うぞ」

ベンズ卿…ため息つきつつ、

「ファルメニウス公爵家は…正確なタレコミに対しての報奨金は、他の貴族と類を見ないくらい多く出す。
だから…ワザと不満を持っている奴をおだて、話をさせている間に、他の人間がタレ込むのさ。
現行犯で抑えれば…報奨金はさらに跳ね上がるからな。
後日やらせでないことの確認が取れれば、金が出る…そう言う寸法さ。
王都では…有名な話だぞ?
だから…ファルメニウス公爵家の悪口なんか言ったら、その日のうちどころか、喋っている時点で伝わる
とさえ、言われているんだ」

「え~~~」

地方を…拠点にしていたのだろう。
王都の事には疎いようだ。

「跡継ぎにするなら…もう少し、情報を制すること…教えた方が良いのでは?
あと…口が軽すぎます。
仮にも上位の家の悪口を、場末の酒場で吹聴するなど…、しかも複数…」

ベンズ卿は手に書類の束を持っている。
王立騎士団とフィリアム商会からの報告書…自分でもしっかりと裏を取ったのだろう。

「教えては…いるんだがな…」

どうも…出来が悪いらしい。
そんな最中…。

「遅くなりました!!おじい様!!」

グレリオとは違う…何とも快活な声が、部屋の中に響くのだった。

快活な声の主は…女性で…一見するとグレリオに、とてもよく似ていた。
見る者が見れば…双子ではないかと思うくらい…。
つまり、当然かなりの美人である。
身にまとっているのは…ドレスではなく乗馬服…に、見える。
とても朗らかないい笑顔で、グレンフォに挨拶している。

「おお、ダリナ…。よいよい、お前は仕事が忙しかったのだから」


グレンフォも…ダリナの顔を見て、少しだけ顔が緩んだ。
遅れてきたダイナの為に…皆がそれぞれ、今まであったことを話したのだが…。

「っっ!!なに馬鹿やってんのよ、あんたはぁ―――――っ!!」

非常にいい角度で、グレリオの頭に、手刀が入った。

「い、いったっ!!何するんですか、お姉様!!私はケガ人ですよ!!」

「うるさい!!遊べれば、怪我人じゃないわ!!」

すっごい剣幕で、責め立てている。

「その辺にしておけ、ダリナ…。ひとまず今後の対策を練らねばならん!!」

グレンフォの言葉で、行動を止めたが、

「でも…その私兵って…そんなにお父様と似ているのですか?」

ダリナの問いに、

「ああ…わしも見た時…かなり驚いた…。(ローエン)」

「私も…かなり驚きましたねぇ…。グレッド卿にそっくりで…(ベンズ)」

さすがと言えばさすがだが…ローエンとベンズは、心情をおくびにも出さなかったようだ。

「オレは…グレッド卿の顔を、直接は知らないが…肖像画を見せられて、かなり…似ていると
思った(ローカス)」

グレッドとは…グレンフォの息子で、ダリナ・グレリオの父に当たる人物だ。
ラスタフォルス侯爵家の事情は…少々複雑である。
グレッドは…自身の婚約者の妹を好きになり、駆け落ちしてしまったのだ。
しかし…生活は当然厳しく、最初の子を…養子に出してしまった。
その後、ダリナが2歳、グレリオが生まれたばかりのころ…グレッドは死に、食い詰めた母親は、
実家に戻ってきた…という。

「それが分かった当時…わしもダリアも、養子に出された子を、本当に探したのですが…。
グレッドもイザベラ(ダリナ・グレリオの母)も偽名を使っていたうえ…。
養子の斡旋をしたのも、誰だかつかめなかった…。
手続きは…全てグレッドがしたようで…」

とても…悲痛な面持ちで、落ち込むグレンフォ。

「まあ…わしもお前から聞いて、何か力になれんかと思ったが…何もできずに、すまんなぁ」

「いいえ!!とんでもございません、ローエン閣下…。
私の事情をくんでくださり、急な休みをとっても、大丈夫なようにして頂けただけで…、
本当にありがたかったです」

苦い顔をしたローエンに、グレンフォがお礼を述べる。

「しかし…養子に出された子が、ダイヤであるという証拠は…」

姉に叩かれた頭を撫でつつ、グレリオが言う。

「だから!!それをこれから調べるんじゃない!!」

弟の発言に呆れつつ、ダリナは言う。
マイペースの弟と、キビキビした姉という、よくある構図のようだ。

「だがそうなると…ファルメニウス公爵家に数々の失礼を働いたのは、本当にマズかったな…。
ただでさえ、聞き出しずらい問題なのに…さらに、口が堅くなってしまったぞ、おそらく…」

ベンズが顎を触りつつ、眉毛を寄せている。

「そのようです…。
ラスタフォルス侯爵家として手紙を何度か出したのですが…、返事は今の所、無いので…」

グレンフォはいよいよ頭を痛そうにしている。

「お二人が出て来るパーティーで…お会いした時にお詫びし、尋ねては?」

ダリナの意見はもっともなのだが、

「それも…難しいですね。
お誘いはひっきりなしに来る方々ですが…、基本あまり、社交活動が熱心ではありません。
だから…公式行事も暫くない以上、出てこられること自体が珍しいでしょうし…。
出てこられたら、一斉に沢山の人が群がるので、時間を取ってもらうのも、至難の業です」

ジュリアが答えた。
するとダリナが少しだけ考えて、

「では…コウドリグス侯爵家に、お呼びすることは出来ますか?
ケイシロン公爵家と違い…問題は起きていないのでしょう?」

すると…ジュリアは扇子を開き、

「そもそも…ラスタフォルス侯爵家が居る時点で、いらっしゃらないと思います」

口元を隠す。
ダリナは…ちょっと微笑みながら、

「そこは…ほら…ラスタフォルス侯爵家と、コウドリグス侯爵家の仲ではありませんか…。
少しばかり融通をきかせて頂ければ…」

弟よりは…力があるようだが、

「……ハッキリと、要求をお言いください」

ジュリアと比して、どうかと言えば…。

「…祖父を助けると思って、話し合いの場を設けていただけませんか?」

「先日のお茶会でお話しましたが、きっぱり断られたので、次の機会をお待ちください。
私が言えるのは、それだけです」

ジュリアは…断固拒否と思えば、容赦はしない。
次の機会というが、ジュリアがフィリーに話をするかは、分からないし…。

「お願いいたします!!祖父も…祖母も、養子に出された兄については…本当に今でも…
探していらっしゃるのです。
その手掛かりを見つけたかも…と、大変喜んでらっしゃいました。
その心を…何卒くんでいただきたく…」

「であるならば、アナタが足繁く社交界に通い、ギリアム公爵閣下とオルフィリア公爵夫人が
いらっしゃるのを待ち、いらっしゃった時に、そのようにお話になるべきです。
ああ…まずは平身低頭のお詫びが一番大切なのも、付け加えさせていただきます」

ああ言えばこう言う…やはりジュリアも得意だ。

「い、いえ…私は仕事がありますので…それほど時間が取れなくて」

急に…ダリナが渋る。
はきはきとして、竹を割ったような性格のようだから、社交界の空気が…合わないのだろう。
そして当然…ジュリアはダリナの言葉の、裏に隠されたものを読み取った。

「それでしたら…ダリナ嬢の…」

この言葉に…ダリナがピクリときた。

「再度申し上げさせていただきますが…、私のことは!!嬢ではなく、卿とお呼びください!!」

胸に手を当て…ジュリアの目を見て、ハッキリと言ってのけた。
ジュリアは一瞬目をつぶったが、すぐ開き、

「失礼いたしました、ダリナ卿…。
ですが、ご自身が動けないなら、ご自身の伝手を使ってやるべきことかと思います」

口元は…扇子で隠したままだ。

「それがその…私の伝手で、頼れるのはジュリア侯爵夫人ぐらいでして…」

やっぱりちょっとバツが悪そう。
ジュリアは…扇子を静かにたたみ、

「私も…以前に申し上げましたよね」

ゆっくりと話し出す。

「私は…女性であっても、やる気があるなら騎士になってもおかしくない…と。
しかし…男女関わらず、社交界に出ない事には…賛成できません…と」

「貴族の世界では…社交界を完全に切り離すことは、できません。
情報収集がしたければ…まずは社交界といわれるくらいですから。
そして…人脈を広げるのも、社交界です」

「ですから…今回の伝手不足は、完全にダリナ卿ご自身の不始末なのです。
私は…ラスタフォルス侯爵家の為に、私にできることはいたしました。
あとは…ご自身で何とかするべきことです」

ここで…ジュリアは視線をグレンフォの方に移す。

「お帰りになる…と、おっしゃっていたグレンフォ卿が…パーティー終了まで残られたのは、
ひとえにそれが、目的ではございませんか?
暫く顔を見せない人間が、いきなり出てきて、根掘り葉掘り聞かせろ…では、警戒して誰も
口を開きません」

「仰る通りです、ジュリア侯爵夫人…」

即座に言ったグレンフォが、頭をかいている。
このことから察するに…ラスタフォルス侯爵家自体が、あまり社交界に熱心に出て来るタイプでは
無いのだろう…。

「わ、私の力不足は認めます!!しかし…できるだけ早く、おじい様とおばあ様の為に、事を
ハッキリさせて、差し上げたいのです。
もし直接お会いできないのなら…、ジュリア侯爵夫人の方から、事情をご説明して、ダイヤと言う方の
情報を聞き出して頂けないでしょうか!!」

「お断りいたします」

静かに…でも、即座に言ってのけた。
そのまま…言葉なく黙っているジュリアの姿を…少しの間だけ、見つめていたダリナだったが、

「そのような事を申されるとは…ジュリア侯爵夫人はオルフィリア公爵夫人に勝つことが出来ないと
お考えなのですね?
ジュリア侯爵夫人は…近衛騎士団の代表格の夫人ではありませんか。
下に示しがつきませんよ?」

少し…小馬鹿にしたようなしぐさをしているが、おそらく芝居…。
ジュリアには自分を怒らせて、いいように動かそう…という、ダリナの下心が丸見えだった。
そして何より…。

「私がオルフィリア公爵夫人に勝つことが出来ない…と言うのは、まがう事なき事実ですので、
致し方ございません」

心の底から思っていたことだからこそ…ジュリアの口調は抑揚なく、でもハッキリと聞こえるモノ
だった。
これには…逆にダリナの方が、面食らってしまった。

「そ…そのようなことは…。
ジュリア侯爵夫人は、社交界で指折りの実力者では、ございませんか…」

声が…小さい。

「私にどの程度の実力があるか…は、分かりかねますが…少なくとも、オルフィリア公爵夫人より
下なのは、確実です!!」

ジュリアは…一気に畳み掛ける。

「もちろんこのことは…他の方もお認めになるでしょうから、いくらでも喋って頂いて
かまいません、ダリナ卿」

とってもいい笑顔で、締めくくる。
ダリナは…それ以上何も言えなかった。

「まあ…わしも社交活動は積極的にしとらんし、社交界にも疎いが…。
この前行った、近衛騎士団への説明会で…オルフィリア公爵夫人の力は、十分にわかったわい」

ため息交じりのローエンが話し始めた。
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