ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 8

木野 キノ子

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第3章 反撃

17 答えの出ない問い…

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「オルフィリア公爵夫人…大変不躾ですが、別件の話をさせて頂いても、よろしいでしょうか?」

……ジュリアは私が嫌だ…と言えば、止まるんだろうな。
だから…、

「構いません。何でしょうか?」

ジュリアは一呼吸おいて、

「ラスタフォルス侯爵家との、揉め事について…です」

「……やはりそちらに、話が行きましたか」

グレンフォ卿は…ローエンじい様時代に、近衛騎士団の副団長をしていたんだ…。
だから…今の近衛騎士団には、世話になった人間がそれなりにいる。
ベンズ卿も…その一人だろう。
いくら今…引退しているからと言って、無視できないのだろう。

「どう言ってきているのです?」

「出来ましたら…話し合いの場を設けていただきたいと…」

「何を話したいと?」

「お詫びが…したいそうです」

「それだけですか?」

「はい…そう聞いております」

「2つの理由でお断りいたします」

即…答えた。

「理由はお聞かせくださいますか?」

「もちろん…。
まずグレンフォ卿がどうであれ、グレリオ卿は…私だけでなく、ギリアムに対しても、非常に
無礼な態度を取りました。
だから…怪我をしたのは、完全に自業自得…。
なのに、不当な目にあったと、巷で吹聴しておりますので…」

「え…」

おや、驚いた…。
これは初耳だったっポイな。
すると代わりにクァーリア夫人が、

「そのグレリオ卿と仰る方…グレンフォ卿と違って、かなり迂闊なようですね…」

と。全くそのとーり。

「ファルメニウス公爵家自体が、しっかりとした調査機関を持っている上、王立騎士団と
フィリアム商会…この3つがそれぞれ独自に…、あらゆるところに枝葉を伸ばしている。
ファルメニウス公爵家にまつわる吹聴など、耳に入らないハズはない」

「その通りです…。
ただ…ジュリア侯爵夫人とベンズ卿のお立場もあるかと思いますので、ベンズ卿に王立騎士団に
立ち寄って頂ければ、詳しい事…お話します。
もちろん、フィリアム商会も…です」

「ご配慮…本当に痛み入ります」

ジュリアは…深々と頭を下げてくれた。
爵位が下の人間にだって、証拠もなしにこんな事言えん。

「もう一つは…お詫びだけでなく、高い確率で別件の話が出ます…。
むしろそれがメインだと思われますのでね…。
つまり…お詫びにかこつけて、本当の目的が違うなら、それこそ詫びる気があるのですか?と
言いたくなります」

ダイヤの話を…しないとは思えない。

「こちらが…それについて話すことは、何もございません。
それだけお伝えください」

すると…ジュリアは少し、手元のカップに手を添え、考えつつ、

「この話は…ご不快にさせるかもしれません…。
ですが、皆が…口々に話している事ゆえ、お耳に入れたく存じます」

「……なんでしょうか?」

だいたい予想はつくが…、ジュリアはやっぱり、言い方が上手いね。

「オルフィリア公爵夫人の私兵が…夫人を襲う前の事は…一切調書を取っていない事…。
不安に思う方が、一定数出ております。
それについて…どう説明しておりますか?」

はっ、やっぱジュリアは力があるわぁ。

「そうですね…王立騎士団でも、ファルメニウス公爵家の使用人からも、同じことを言われました。
それに対する私の答えは…。
人は皆過去があり、ほじくり返されたくないものも、必ずあるものだ。
罪を償うと彼らは決めたのだから、できれば未来を見てほしい…
とね」

「まあ、少し補足しますと…私は国が貴族と認める身分はありましたが、おおよそ平民より惨めな
暮らしをしてきました。
少し前、ギリアムが母親にされたことの話をしましたが…、私は似たり寄ったりなことを、他人に
されましたよ…。
それも…何度も…ね」

これには…ポーカーフェイスが板についている2人も、驚愕の色を隠せなかった。

「だから…それを根掘り葉掘り聞かれたら、物凄く不快だし、ハッキリ言って、聞いてきた人間の
為に、何かしようと思えません」

「だから私は…現時点で、彼らがしっかりと私の役に立ってくれている事を、重視しているだけ。
過去は…喋りたいときに喋ってくれればよいと、思っています。
一生喋りたくないことは、そのままでいい…とも思っている…。
これが私の答えです」

「ありがとうございます…」

こうして…ファルメニウス公爵家でのお茶会は終わりを告げた。

さて、ジュリアとクァーリア夫人が帰った後…。

「ひとまず…裏工作、ご苦労様、みんな…」

「いいえ~。奥様の為でもありますけど、ダイヤの為でもありますから」

ただいま、アジトに来て、2度目の一服をしている所だ。

「でも…奥様よくわかりましたね~、アイツが遊び人だって」

ハートが言ってきたから、

「そりゃ…色んな人間を見ているからね。
誠実な美形ももちろんいるけど、あれは…完全に遊び人タイプだった。
しかも…簡単に女が寄ってくるから、味を締めちゃってるタイプ」

これはむしろ…今世より、前世での経験がデカいんだけどね。

「引っかけたら…すぐ乗って来たでしょ?
頼んだ人には、十分お礼しておいてね…また…動いてもらうかもだから」

「もっちろん!!今は…金がたっぷりありますからね」

その辺は…間違わない連中で良かった。

「あ…でも…みんなが奥様に会いたがってましたよぉ~」

「あらそうなの?じゃあ…久しぶりに行こうかしら…。
今…目立った動き、したくないし…」

「わ~い、ありがとうございます、奥様~」

ハートは…嬉しそうだ。
クローバがスージーさんの所が好きなように…、あそこはハートの大のお気に入りだ。

私が微笑ましく見ていると、

「おね~ちゃ~ん!!」

遠くの方から、ギルディスが…。

「あら、お昼寝終わったの?」

「うん!!」

「よくここが、わかったわね」

このアジト…かなり見つけづらくしてあるのに…。

「なんとなく!!」

…野生の勘というヤツか…。

「じゃあ…みんなで遊びましょうか!!」

「わ~い」

こうして…しばしの平和を満喫したのだった。
その夜…帰ってきたギリアムに、

「……何かありましたか?」

と、唐突に聞かれてびっくりゃ。ちょっと考え事してたの…わかったみたい。

「いえ…。マギーがケイシロンに嫁ぐとき…もう少し具体的な例を出すべきだったかな…と。
人の想像力は人によって違う…。少ない言葉で多くを悟るのは…マギーには無理だった…」

この収穫祭の件で…だいぶやり玉にあげられ…サンドバッグ状態だからね…。
小狡いヤツや悪辣な奴だったら、こんな事思わない。
太陽の家で…みんなに好かれていたのは、まぎれもなくマギーの人格が良いからだ。
それを…無くしてほしくは…ない。ふと…そんなことを思っちまう。

「……思う所はあるかもしれませんが、フィリーのせいではありません。
そして…こちらが必要以上に介入するのは、やはり越権行為です。
幸いローカス卿もローエン閣下も、人格は紛れもなく良いのだから、あちらで考えることです。
私も…折を見て聞いてみますよ。フィリーの望みなら…ね」

「よろしくお願いします」

私の頭にふと浮かんだのは…前世の世界のTVの中…。
不祥事を起こし記者団に…TVの向こうの人々に詫びている人たち…。
若かろうが、年取ってようが、そういう立場の人たちだった…。

いいか悪いかは別として…そういう立場だった人達…。

私はそれもあって、ファルメニウス公爵夫人になりたくなかった…。
でも選んだ…。自分でなるって…。
マギーもそう。自分で選んだんだ…。
私と…同等クラスの立場に…身分になると…。

私には私の人生があって、マギーにはマギーの人生がある…。

ああ…。
なんて…。
なんて難しいんだろう…。
人間て…。

「フィリー」

また考え込んでいたら、いつの間にか…ギリアムが私の顔を覗き込んでいた。

「かつて私に…あなたは言いましたね?
私のために…外に出ると。私がバカにされるのは嫌だと…そう言って…。
とても嬉しかったんです…。本当に…心配だけど、嬉しかったんです…。
だから最終的に、貴方を止めませんでした」

何を言いたいんだろう?

「私はね…あなたのためなら何でもできる…。
だから覚えておいてください」

眼が…怖いくらい真剣だね…。

「たとえ聖人聖女と言われる人間であっても…。貴方に寄生しタカるだけの害虫と判断したら…。
私はその人間を屠ります!!」

「……ダメですよ。王立騎士団団長がそのようなことを言っては…」

「関係ありません。私は…この世界の何より、あなたが大事です。自分よりも…」

私の眼に映るギリアムは…、プレイなどではなく、確実に実行するだろうこと…わかる。

「やめてください!!私は望んでいません!!」

「なぜ?」

「貴方が…責められるだけです」

「私は数多くの人間を、戦争で殺傷しました。今更一人二人関係ない」

「平時と戦場は違う!!」

「何が違うんですかねぇ…。どちらも人の命を奪うことには、変わりないのに…」

「だって…戦争は、やらねば殺されるじゃないですか!!」

「平時だってそれはあります」

「だから正当防衛による、情状酌量が認められているでしょう!!」

「正当防衛は、何をもって正当防衛というのですか?
私が貴方を苦しめる人を殺して…何が悪いんですかねぇ…」

私は思わず…両手でギリアムの頭を鷲掴みにする。

「本当に…やめてください」

「だったらあなたも、これ以上思い悩まないでください。
いい大人が自らした選択を、貴方は尊重したに過ぎない。
あなたは…十分よくやった。無自覚な搾取者の事を、これ以上気に掛ける必要はない」

そうして私に口付けるギリアム…。
その唇は…いつもの熱を孕むどころか、何処か…冷たい。
でも…私を…私の事だけを想っている熱さもある…。

……たまーにギリアムが…私の精神年齢より上じゃないかって、気がしちまう。

ひとまず…考えるのはもうやめよう。
どうせ答えは出ない。
私の事を…こんなに思ってくれる人の熱を…余すことなく吸収して、私も熱を与えよう。
答えの出ぬ問いをそこに置き…私はひとまずギリアムに手を引かれ…自室から夫婦の寝室へ…行くのだった。
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