ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第1章 茶会

3 マナーとは…

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「そこのアナタ…今何とおっしゃいました?」

マナーという言葉を口にした、中央の令嬢を、かなり凄みの
きいた眼で見据えている。

「え…」

タジタジしとるな。
さっきの勢いどこ行った?

「マナー…とおっしゃいましたね」

静かで…とっても迫力あるわ~。

「お三方は…フィリー様がしっかり、ご挨拶したにもかかわらず、
名前さえ名乗ってらっしゃらない。
そんな方々から、マナーという言葉が出た以上…。
公爵家のマナー指導を担当する者として、口を挟ませていただき
ます!!」

ホントにエマの声は凛としてて、相手に有無を言わせないな~。
令嬢たち、完全に縮こまってら。

「まず相手が名乗ったのに、己の名を名乗らないのは論外です。
フィリー様の入り口でのいざこざは、名を名乗らないことへの
いいわけにはなりません」

「第二に…会での食事をある程度するめることは、好意として
捉えますが、相手が何度断っても強く勧めるのは…悪意として
捉えざるを得ませんし、大変に品のないおこないです!!」

う~ん。
ド庶民歴の長い私から見ても、当たり前のことしか言ってない
ぞ~。

「お三方のマナー講師とは、私、面識がございます。
今日のことについて、どのように思うか、後日ゆっくり聞いて
みようかと思います」

「そっ…それは待ってください!!」

「もっ申し訳ありませんでした」

「ど…どうか…」

おりょ…全員青ざめて必死だな~。
ってことは、聞ーてたとーりなんだなー。

貴族社会でのマナー講師は、実はかなり重要なポジションにいる。
優秀なマナー講師を迎えられれば、それだけで良縁に恵まれる
こともあるくらい。
逆に優秀なマナー講師がやめたとなると…マナー講師側にわかり
やすい理由がない限り、そこの令嬢には大抵悪評が付きまとう。

今回の例って…面倒見切れないって言われても、おかしくない
状態だよな~。

「エマ…ちょっといいかしら」

ここで登場したのは…やっぱりタニアおばはんだ。

「この3人はクレアの友人なの…私が今日のために特別に用意
したお茶だったから…つい、むきになってしまったみたい。
若さゆえのことですから、今日は大目に見てあげて」

ま、指示した方としては、助け舟を出さんわけにはいかんよなー。

「いかがいたしましょう、フィリー様」

「え…ちょっとエマ…」

「無礼をはたらかれたのは、私ではなくフィリー様です。
フィリー様にお決めいただくのが、妥当かと…」

そらそーだ。
あ、おばはんまたひきつった。
まあこんな三下ども、相手すんのもそろそろ飽きたし…。

「タニア侯爵夫人…。
もし一つ条件を飲んでいただければ、私への無礼はタニア侯爵
夫人の顔を立て、不問にしようと思います」

「な…なんでしょう?」

「このお茶会でこの後も、このお三方に私に対し、名前を名乗ら
ないよう言ってください」

「え…」

「私は最初から名乗る気のない方々の名前など、今更知りたくも
ありませんので」

「わ…わかりました。
いいわね、3人とも!!」

「は…はい…」

3人が答え、お開き。
そしてその後の私のテーブルは…あ~、お通夜より静かになって
すがすがしいわ~。
別にアンタら同士で喋るなたぁ、言ってないんだけどねぇ。

ま、静かになったところで考える。

お茶会が私への通達より1時間早く始まったとすると…そろそろ
終盤。
そしてエマは私の味方だと、ハッキリわかったろうから…。
まずエマを私から何らかの手で、引き離そうとするだろうな…。
まあ、そこは想定内だから、エマが離れた後が本当の勝負っと。

そんな事を考えていたら、何やら主催者側の使用人が、エマに
耳打ちし始めた。

「何かあった?」

「馬車の御者に少々…問題が…」

話ずらいってことは、いいことじゃ絶対ない。
ん~、なるほどね。

「行ってきて、エマ。
私は大丈夫だから」

「しかし…」

「大丈夫だってわかってるでしょ?
無理はしないし」

「わかりました」

そうして私からエマが離れたのを待っていたかのように、クレア
が立ち上がり、

「皆さん!!お茶会ももうすぐ終わりです!!
皆さんにプレゼントを用意させていただきました!!
ご足労いただきますが、素晴らしいもののため、ご容赦ください」

こういう場合も貴族社会では、暗黙の了解で序列順だ。
クレアは主催者ゆえ、準備の為か奥へ移動…する前にルイーズ嬢
の所へ来て、何やらひそひそ。
ルイーズ嬢の手を引っ張り、奥へと消える。

何だったんだ?

疑問符を浮かべていると、レティア王女が立ち上がり、侍女と共に
使用人に案内され、奥へと消える。

そのあとにぞろぞろと、他の令嬢が続く。
私のテーブルにいた3人も、そそくさと行ってしまった。

んで、最後まで残ったのは…私とフェイラ嬢だ。

私は当然、身分的には一番下だし、プレゼントなぞに興味はない
けど、一応礼儀として行かにゃぁな~。
なにか仕掛けて来るかな~。
などと考えながら座っていた。

すると突然、

「オルフィリア嬢!!大丈夫でしたか?
先ほどの方々、本当にひどいですね!!
あんな方たちだったなんて…」

などとデカい声で言いだすものだから…。
いや、ビックリして思わず立ち上がっちゃったよ。
フェイラ嬢はどんどん近づいてくる。

「そもそも初めから、オルフィリア嬢が嘘を言っていると決め
つけていたのもおかしいし、マナーがなっていませんね!!」

……う~ん、キミは一体何が言いたいのかね?フェイラ嬢…。
そもそもキミだって、クレアが出した私宛の偽の招待状、見た
でしょーが。
それ見たら、そもそも私が嘘ついていないって、信じる人間の
方が稀だよ?
特に私に敵愾心があるならなおのこと。

「私、こんなひどい人たちと一緒にいることが、恥ずかしくて
しょうがなかったです」

じゃ、帰ればよかったろが。
途中退席オッケーなんだからさ~。

「私!!オルフィリア嬢の力になりたいし、友達になりたいん
です!!」

…まあ大抵の人間は、敵ばっかりの所に放り込まれたら、その
言葉に感動するんだろうけどさ…。
私は敵しかいないことは覚悟してきてるし、この程度のことで
傷つくような、か細い神経の持ち主じゃねーよ。

あとなぁ!!
私は建国記念パーティーで、キミがすごい敵愾心むき出しの目
して、私を睨んでたの見ってっからさー。
その代わり身を信じろって方が、無理だよ、うん。

「オルフィリア嬢!!もっとたくさんお話ししましょう!!
あの方たちがオルフィリア嬢がいない時にもひどいこと言って
いたんですよ!それもお聞かせします」

バカたれ!
聞かせんな!
何言ってたかなんて想像つくし、興味もないわ。
時間の無駄!!
それに他人の悪口言ってくる奴は、同調するとこっちを主犯に
するってのが、ほとんど常だったんだよ。

こっちの意見を聞かぬうちに、フェイラ嬢はどんどん近づいて
くる。

私は少し後ずさる。

………あのさぁ!!!
私と仲良くってのを、信じてもらいたいんならさぁ!!
まずキミが背中に何隠してるか、見せろや!!
さっきから熱く語っている最中もずっと、左手が背中から一切
出てきてないのよ、うん!

前世の経験上、やろうとしていることは何パターンか思いつく
けど…、一つ確かなことは!!
どれをやる気にせよ、私に利は一切ねぇっ!!!

「…フェイラ嬢は皆さんの所に行かないのですか?
なら私は行きたいので、失礼しますね」

さりげなーく、ムーンウォークで遠ざかる。
だって、背中見せたらそれこそ、何されるか…ねぇ。

そしたらフェイラ嬢が、慌てて左手に持っていたティーカップの
お茶を、自分自身で頭からかぶった。

…………………………………。
ふ~ん、それか。

使い古されているけど、味方が多い時は、いい手ではあるんだよね。

さてさて、どうするかねぇ。
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