ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第2章 事後

5 フィリーにとっての、ギリアムとは

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ギリアム様が私にとって、どういう人か…ですか?」

私はフォルトに聞き返す。

「はい」

「う~ん、そうですね…」

私はワザと少し、間を置いた。

「愛する人であり…一人の人間…ただの男…かな、うん」

フォルトはちょっと意外そうな…きょとんとした顔になった。

「もう少し、詳しくお聞きしても?」

「ん~、そう言われても…言葉通りなんだよね…うん。
それ以外に言いようがない…んだよね、うん」

いやこれ、ホント。
それ以外にどう言えっての?逆に。

するとフォルトは少し考えこんで、

「わかりました。
では質問を変えても?」

「どーぞ、どーぞ」

「フィリー様はなぜ、ギリアム様の求婚を一度断ったのですか?」

う…それかぁ。
まあ、初っ端は執着系の痛い奴…って意識があったから、わりと
速攻でお断りしたんだが…。
まさかそれは言えんから、他の理由を言おう、うん。
どっちにせよ、出たとこ勝負だな。

「私がギリアム様の求婚を断ったのは…昨日のお茶会みたいな
メンドいことが、一生付きまとうだろうって、予想できたのが
まず一つですね」

「…他の理由もあるのですか?」

「あとは…私がギリアム様と一緒になったとして…ギリアム様に
与えてもらえるのと同じくらい、私に返せるものがあると思えな
かったから…だな、うん」

フォルトはかなりぎょっとしてたが、私は続ける。

「だってさぁ、ギリアム様の名声とか肩書って…20そこそこの
人間が持つレベルを、遥かに超えていたから―――下手すりゃ
与えられるだけになりそーだな~って」

フォルトは固まったまま、動かない。

「ギリアム様はそれでもいいって言うかもしれないけど…私が
嫌なのよ!!そーゆーの…」

そう…。
前世の旦那たちは…私に与えすぎたんだ。
私はそれをわからず…搾取し続けて…結果として旦那たちを
壊してしまった。
今思うと、本当に訴えられてもおかしくなかったのに…。
フツーに離婚するだけで済ませてくれたし、共有財産だって
均等に分けてくれた。
愛情はもうないけれど、感謝はしてるんだ、今でも!!

「幸い婚約っていう、婚家に入って色々試せるいい制度があった
から、利用させてもらうことにした」

「んで、一緒に暮らしてわかったの。
肩書や実績がどうであれ…ギリアム様は一人の人間、ただの男
だって…」

「私の一挙手一投足にワタワタして…変な気ぃ使って、私が
笑顔になると、すごく嬉しそうな顔をする…。
私という人間が大好きな、一人の人間…」

「私じゃなきゃ、絶対嫌だって言う…一人の男!」

あ、なんかさっきの話の続きみたいになった。
繋がったんなら、よかよか。
なんか口が乗ってきたから、もう少し滑らしてみよ。

「でもそんな一人の人間は…私と同じ年のころに、あまりに重い
重責を、人々に負わされた…。
なのに潰されることも、擦れることもなく、受け入れた。
……ううん、それだけじゃない!!
自分の苦しみ関係なく、人に善行を施し続けた!!」

「ギリアム様が戦争を速攻で終わらせて、人々に支援したことで
…救われた命は数えきれなかったハズだ!!
それは紛れもない事実!!
私は食うや食わずだった時期があるから…、無償で救ってくれる
人の手が、どれだけ尊くてありがたいものか、よく知ってる!!」

自然と拳を握る。

「なのにどうしてギリアムが!!
好きな人と幸せになりたいっていう、ごくフツーの願いを叶える
ことが許されないんだよ!!
おかしーダロ!!
一番人を幸せにした人だよ!!
一番幸せになんなきゃ、おかしーだろ!!」

何だか音が止まらない。

「薬盛ってモノにしようとしたり!!
装飾品にしようとしたり!!
甘い汁吸おうとするなら、せめて大事にされることなんか望むな
っての!!」

呼吸が苦しい。
でも…。

「私にとってギリアムは、一人の男。
何の変哲もない、ただの男…でも。
私を一番愛してくれる男で、私を一番大切にしてくれる男…。
そして!!私が一番大切にしたい男!!」

「だから私は戦うことにしたんだ!!
ハイエナみたいに群がってくる女どもから、ギリアムを守る
ことにしたんだ!!」

言わずにいられない…。

「お茶会の後さぁ!!ギリアムずーっと苦しんだんだ!!
自分が有名になんなきゃ、私を苦しめずにすんだのかって…。
バカ言うな!!
そういう事やるやつは、ギリアム関係なく、やるときゃやる
っつーの!!
私はそんなに弱くない!!
たくましいんだって一晩中言って…ギリアムはようやっと
落ち着いた…クソ!!」

馬車の背もたれに、思いっきりもたれかかる。

「ゴメン、フォルト…。
何言ってんのかさっぱりわからなくなった…ちょっと頭整理」

と言いながら、私はフォルトを見て…言葉が止まった。

フォルトの目から、大粒の涙がこぼれていたから…。

「フィリー様…」

「あ…はい…」

なんか、別な意味で私の頭、真っ白…。

「ギリアム様と出会ってくださって、ありがとうございます。
ギリアム様を愛してくださって、ありがとうございます!!」

泣きじゃくりながら…私の手を取って…言った。

そしてしばし時間が過ぎる。

「落ち着きました?」

いや、マジビビった。

「申し訳ございません…お見苦しい所を…」

「いや…私も色々わけわかんないこと言ったし、言葉使いも
だいぶ汚かったし…」

いつの間にか、ギリアム呼び捨てにしてたし…。

「いえ…フィリー様がギリアム様のことを、しっかりわかって
くださっていることがわかり、嬉しくて…」

うわ、また泣きそうだよ…。
話題変えよ。

「きょ、今日の用事はだいたい終わったけど…。
あと一つ、フォルトに頼もうと思っていたことがあるの」

「何なりと」

うお、一段と前のめりだ。

「会いたい人がいるの…でも、絶対その人に強要しないで
欲しい」

「どちらさまでしょう?」

「名前は知らないけど…お茶会の時、ギリアム様の隣にいて、
ギリアム様をずっと抑えてくれていた人」

「!!ギリアム様から…」

「何も聞いていないよ。
でも、確信してる」

「なぜ?」

「まずお茶会にはギリアム様が飛び出してきても、おかしくない
場面がいくつもあったことが一つ。
そしてギリアム様の腕に…強く人に握られた跡があるのを、昨日
確認したから。
あとはベンズ卿に連絡を取ったって言ってたけど、ギリアム様は
その場を離れなかったろうから、使いに出された人がその場に
いたってことでしょ?」

「なるほど…しかし強要しないというのは?」

「ギリアム様を抑えるのは、並大抵の胆力じゃできない。
ものすごく大変な仕事を、見事にやってくれたから、当然私は
お礼がしたい…でも」

「……」

「それはあくまで私の気持ち。
相手が望んでいるかはわからない。
感謝の気持ちが強ければ強いほど、私は相手に押し付けたくない」

するとフォルトはため息一つつき、馬車の窓を二回叩いた。

「……だ、そうだ、ジェード。
どうする?」

「へ?」

馬車…今、走ってますよね~。

すると一瞬、風がぶわっと吹く。
馬車の扉が開いたように見えたが…。
気づくと閉まってて…。

「え…」

中にはいつの間にか…人がいた。

「え?ええ?」

私の頭、本日二度目の真っ白…。

なにが…おこってるの~。

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