ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

文字の大きさ
28 / 43
第4章 飄々

1 王立騎士団師団長たちの色々

しおりを挟む
リグルド卿がファルメニウス公爵家に押し掛けてきた翌日…。

早朝の王立騎士団の食堂に、ギリアムの側近5人衆の姿があった。

その中の一人…リグルド卿の顔は、元の顔の判別がつかないほど
腫れあがっていた…。

そんなリグルド卿にデイビス卿が、

「アナタは頭は良いけど、本当に…本当にバカなんですね」

と、ため息交じりに言った。

「ちょっ…仲間の傷に、塩塗って楽し…いてて…」

口の中もだいぶ切ったようで、喋るのがつらいよう…。
しかし、そんなことは日々体を鍛え、悪人を武力で制圧するのが仕事の
人間達には、同情されるはずもなく、

「あのな!!」

ガイツ卿の怒号が響く。

「伝書鳩で事情を知った後のテオルド卿は…本当に小さくなって
団長に謝り倒していたんだぞ!!」

いろんな意味で言葉が出ないリグルド卿に変わり、

「ボクさぁ」

ヴァッヘン卿が口を開く。

「母からリグルド卿とは、この先最低限の付き合いにしなさいって、
ハッキリ言われたよ?
この前開いたお茶会で、ステンロイド男爵夫人から、色々話を聞いた
らしくてさー」

珍しく鋭い眼光を、

「そんなのボクが決める事だって、言ったけど…。
母がそう言うのも、ある意味当たり前だよね?」

リグルド卿に向けていると、デイビス卿が代わりに話し出す。

「フェイラ嬢もクレア嬢も…団長にかなりアプローチしていたから、
悔しいのはわかります。
しかし!!」

デイビス卿の眼光は、眼の細さも相まって、さらに鋭い。

「やったことが陰湿かつ、悪質すぎます!!」

誰が誰とも言葉を交わさず、しばしの静寂の後、

「みんなテオルド卿とリグルド卿の身内だから、表立って言わねーけど」

レオニール卿は頭を掻きながら、

「そうじゃなかったら、今頃は罵詈雑言が飛び交ってるぜ」

盛大なため息とともに、のたまう。

「…火消しも、あまり上手くいっていないようだしな。
やはり、コッソリやるのは難しいか?」

デイビス卿は少し眉間にしわを寄せ、レオニール卿に尋ねる。

「…別に秘密裏にやらなきゃいけない事なんか、前にもありましたから。
重要なのはそこじゃないっすよ」

レオニール卿が真剣な目をし、

「みんな正直、あんまり熱が入んないんすよ。
テオルド卿には世話になってるし、リグルド卿のことは変わらず仲間だと
思ってるけど…まずはオルフィリア嬢がどうしたいのか聞きたいって…
みんな言ってるんす。
ま、かく言うオレもそーですけど」

デイビス卿に訴えれば、

「まあ、当然ですね」

という答えが返ってくる。

「ウチの第3師団は…もともと専門にしている仕事の性質上、平民が多い
のは、知ってるでしょう?
オルフィリア嬢は平民も貴族も関係なく、気さくに接してくれていたし、
みんなと仲良くしたいって、手が足りない時の雑用なんかも進んでやって
くれていた」

するとレオニール卿がさらに話す前に、

「そうだよなぁ。
それに団長に言いにくいことを、オルフィリア嬢が伝えてくれたりして
いたから、みんな助かってたんだよな」

ガイツ卿が横から口を出す。

「団長の寵愛ぶりを考えれば…いくらだってわがまま勝手にふるまっても
いいと思いそうなのに…そんな素振りを全く見せない、考えてもいないような
オルフィリア嬢が、みんな好きなんだ」

これは別に第3師団に限った話ではなく、他の師団の団員達にも言えた。

そんな最中リグルド卿が、机に突っ伏したまま、

「オレだって…」

今にも消え入りそうな声を出す。

「もうどうすればいいのか…わからなくって…」

それを聞いた全員が、同時にため息をついた時、

「失礼いたします」

団員が入ってきた。

「ギリアム団長が、皆さんをお呼びです」

その声が終わった直後、皆が皆無言で立ち上がり、食堂を後にするの
だった。


-------------------------------------------------------------------


さて、約束の日がやってきた。
早朝のファルメニウス公爵家では、

「ん?」

「ありゃ?」

テオルド卿とローカス卿は、ファルメニウス公爵家正門前で、見事に
お見合いをしていた。

「テオルド卿!!ローカス卿!!
本日は来ていただき、ありがとうございます」

互いが来ると知らず、呆けていた二人に、私は元気よく挨拶した。

「おお、オルフィリア嬢。
今日はよろしくお願いします」

テオルド卿が、かなり丁寧なあいさつをしてくれた。
ローカス卿はちょっと、不思議そうな顔をしている。

「本日は身分を隠して頂くようお話ししましたが…、お二人が知り合い
だと言う事も、あえて言わないでください」

二人はしばし顔を見合わせたが、

「わかりました」

私の指示に、素直に従ってくれた。
よかった、よかった。

「それでは馬から降りて、私と一緒に馬車に乗って移動しましょう」

「馬で行くのはダメなのですか?」

「ん~、ダメではないのですが…先ほど言ったように、身分を隠して
頂かねばならないので…」

この世界での馬は、とてもコストがかかる高価なものだ。
平民で乗馬がたしなめるのは、よほどの金持ちか、馬に乗る役職に
ついたものに限られる。

「隠してくれとは言われていますが…、身分がバレるとヤバいことに
でもなるんですか?」

「そう言う事ではないですよ。
実際、身分を隠した貴族の方が、奉仕しに来てくださることもよく
あります。
大抵皆さん、気づいても気づかないふりをしてくださいますし、
危害を加えるのでなければ、誰でも受け入れる場所です」

「なら…」

「しかし今回は…お二人の正体は出来るだけ隠しておいた方が良い
と…私が判断いたしました」

するとローカス卿が、

「わかりました。
オルフィリア嬢に、全面的に協力すると言いましたからね。
黙って従いましょう」

と。
……ありがたいなぁ。

「そう言う事でしたら…私もそうしましょう」

テオルド卿も続いてくれた。

ひとまず二人の馬は、ファルメニウス公爵家で預かることにして、
私と同じ馬車に乗ってもらった。

「これからどこに行かれるのです?」

テオルド卿が聞いてきたので、

「フィリアム商会が運営している、孤児院&難民施設です」

「そこで何を?」

「ええと…その施設では試験的に色々な作物や果樹を育てていて…
今日はその収穫と、施設内の整備・修繕を行う予定なのです」

「それは…随分な人数になるでしょうね」

ローカス卿は少し気が進まなそう。
まあ、最近の近衛騎士に対する世間の風当たりを考えれば、当然っちゃ
当然か…。

「ええ、ですが人がいくらいても足りないくらいなのです。
ですからお二人にも来ていただいて、助かりました」

私はあえてローカス卿の懸念には触れない。
今日は、案ずるより産むが易しで行くからさ~。

さて、二人を連れ立ってやってきたのは、王都のはずれ。
敷地面積の広さに二人は驚いていたけど、王都から外れれば、もっと
広い所はあるんだけどねぇ…。
そして予想通り、沢山の人が集まっていた。

「おお!!オルフィリア様だ!!」

「みんな!!
オルフィリア様がいらっしゃったぞ!!」

人々は口々に私の名前を呼ぶ。
こしょったいね、ホント。

「皆さん、今日はご苦労様です!!」

私は人々の歓声に答えながら、笑顔を浮かべる。

「外からも、人手を募っているのですか?」

施設の入り口に人の列ができているのに気づくとは…、やっぱローカス卿
できる人やね。

「ええ。
実はこの施設では、色々な製品を試験的に作っていまして…意見を聞く
為に前回手伝ってくださった方に配ったのです。
それが意外に好評だったみたいで…。
今日は前回より沢山、集まってくださいました」

そう。
前回、商品の宣伝目的で、給金の他に試供品を差し上げたら、思いのほか
当たった。

「あと施設同士の報告会もある予定なので、特に人が多いのです。
まあだからこそ、収穫と整備を一緒にやることにしたのですが…」

「なるほど」

「では二人とも、あちらでくじを引いてください」

「はい?」

「最初の持ち場は、公平にくじ引きなんです。
そのあと、仕事の進み具合を見て調整します」

私の説明に納得してくれたようで、2人ともくじを引き、各々の場所で作業に
あたる。

私は全体の進み具合を見て回り、調整をどうしたらいいかを考えるのが
主な仕事だ。

2人は側溝の掃除を担当することになった。

少しして様子を見に行けば、ローカス卿はかなり溶け込んでいた。
もともと身分で人を区別しない、気さくな人だからな~。

それも私が最近の状況を、何とかしてあげたくなった理由の一つ。

しかし身分を全く気付かれていないローカス卿に対し、テオルド卿はと
言えば…。

周りからチラチラ見られていた。

うん、やっぱりね~。
私の勘が当たったわ。

それじゃあ、後は…。

いっちょ雲になったつもりで、飄々と行くか~。

私がそんなことを思っていると、何やら建物の方が騒がしくなってきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...