ひとまず一回ヤりましょう、公爵様4

木野 キノ子

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第3章 二頭

2 ガルドベンダ公爵家

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フォルトだけじゃなく、ギリアムの顔色まで変えるってことは…やっぱアイリン夫人も
一筋縄じゃいかない人なんやなぁ。

「失礼ながら奥様…アイリン夫人のサロンには、ご招待されない限り参加しないと…」

「事情が変わりました」

「わかりました…では、準備を…」

すぐに動こうとしたフォルトを、

「私が参加したいのは、3日後のサロンです」

フリーズさせた。

「それは…お勧めいたしません!!」

結構口調がきつくなるフォルト。
だよねぇ。
アイリン夫人のサロンは、原則一カ月前に一見さんの募集を締め切る。

「フィリー…、アイリン夫人は大変礼儀を重んじる人だ。
参加したいのなら、正規の手順を踏むべきだ。
ごり押しなどしたら…」

「わかっています、事情がありまして…」

私は昼間のクァーリア夫人とのいきさつを話す。
あ、エマは私の横にずっといたから、終始すましている。

「フィリー…アイリン夫人のサロンは大変質が良いと評判だし、アイリン夫人自身も
不当ないじめを許すような人じゃない」

「私もそう思います」

たださぁ…私の懸念が当たっていた場合…本当にヤバい事になるかもだからさぁ。

「だったら!!」

「ギリアム様…私がファルメニウス公爵夫人の扱いを受けること…私に許可なく
了承したのでしょう?」

「な…なんで今、その話を…」

お、眼ぇそらした。
自覚はあるのね、よしよし。

「別に怒っていませんよ?
条件付きとはいえ、私は私の意志でファルメニウス公爵夫人の扱いを受けることを
決めましたから」

「そ、そうですか…」

ホッとすなや。
ここからが重要なんじゃ。

「ですので私はファルメニウス公爵夫人として…下の夫人&令嬢方が危機に瀕したら、
助けに行く義務が生じます」

あ、一気に悲痛な表情になった。
わかったんやね、上の役割が生じること。
ギリアムって、頭いいし回転も速いのに、どうも私関連の事はお花畑になっちゃうんだよなぁ。
まあ、調教に精だそう。

「で、でしたら私が…」

「あのー、ギリアム様では私以上に名目が付きませんよ?
男性をお招きすることもあるでしょうが、原則会員は女性なのですから」

その通り過ぎて何も言えんのか…。

「しかしそうなりますと…どうしますかねぇ」

フォルトが考え始めた…。
切り替え早くて助かる。
しかし私には…とっておきのジョーカー、切り札がある。

「ギリアム様が…お話をつけてきていただけますか…」

「奥様…失礼ながら、ギリアム様では、アイリン夫人に話をつけることは…」

エマが慌てて出てきた。
理由はわかる。
私が現れる前に、ギリアムが行った社交界での数々の失礼伝説…。
当然辟易してるやろからな。

「私が話をつけて欲しいのは…ツァリオ・シェルツキ・ガルドベンダ公爵閣下です」

「「「!!!」」」

あ、3人ともめっちゃ驚いてる。

「奥様!!失礼ながら、ツァリオ公爵閣下はアイリン夫人以上に…」

フォルトが慌てるのもわかる。

ツァリオ・シェルツキ・ガルドベンダ公爵閣下…。
文を司るガルドベンダ公爵家の現当主にして、アカデミーに代表される国の教育機関の
総括をしている人…。
アカデミーを1年で飛び級しただけでなく、あらゆる分野で専門の学者顔負けの知識を持ち、
まさに文を主としている人間達の畏敬の念を、今なお集めている人だ。

そもそもファルメニウス公爵家とガルドベンダ公爵家の違いはほんのわずかしかない。
両方一位でもいいぐらいなのだが、ファルメニウス公爵家の初代当主が、初代国王の
娘(王女)を娶ったために、ファルメニウス公爵家の方が爵位が上がったに過ぎない。
貢献度はほぼ一緒。
だから…国内全貴族の中で唯一、ファルメニウス公爵家の威光が通じない家でもある。

「慌てないでフォルト…私に手があります」

「は?」

いや、呆けないでよ、しかも全員揃って。

「ギリアム様…ガフェルおっちゃんの研究資料について…ツァリオ閣下が知りたがって
いらっしゃったのでしょう?」

「!!」

ギリアムの戦争での、驚異の進軍速度を助けたものはいくつかあるのだが…。
その一つが、おっちゃんの纏めた、風土病に関する本だ。
戦争における大きな障害となる物の一つに、風土病があげられる。
進軍速度が遅くなるどころか、風土病によって軍が壊滅し、戦争自体が続けられなくなる
場合も少なくない。
ギリアムの軍も、もれなく風土病の被害にあった。
しかしおっちゃんの本の丸暗記で、大陸中の風土病に詳しくなっていたギリアムは、いち早く
どの病気か見抜き、的確な治療を施させた。
それゆえ風土病で進軍速度が落ちることは、ほぼなくなったのだ。

やがて戦争が終わると、軍医に請われる形で、ギリアムは軍がかかった風土病…3つだったらしいが
その詳細な症状と治療法を書いたものを渡した。
つまりおっちゃんの本の抜粋ね。
ページ的に10ページぐらいだったらしい。

しかしその10ページぐらいの物を見たツァリオ公爵閣下は、それがすぐさま高度な専門知識を持った
人間の手で書かれたもの…さらに抜粋…一部だけしかギリアムが出さなかったことに気が付いた。

凄すぎ…。

学者の中には、一部偏屈な人間がいて…自分の研究結果を一切発表することなく、ただ持っている
だけのものがいることを知りすぎるくらい知っていたツァリオ公爵閣下は、ギリアムに直談判して
来たらしい。
費用は全部自分が負担する。
著者の希望も叶える。
この本は、世に出すべきものだ…と。

まあ、おっちゃんの本を世に出せば、多くの人が助かるだろうから、私もそれは賛成。
もちろんギリアムもそうだったろうが…。

おっちゃんは有名になりたがっていない。
静かに暮らしたいんだって、ギリアムは知っていた。
何より私同様、おっちゃんはギリアムの命の恩人でもある。

結果ギリアムは、ツァリオ公爵閣下に、

「自分が知っているのは、あの10ページだけです」

の一言で、その後のすべての話を拒否したそうな。
……ギリアムらしいっちゃ、らしいなあ。

「フィリー…アナタらしくもない…。
ガフェルおっちゃんの本は、ガフェルおっちゃんの好きにすべきものです」

うん、私もそう思う。

「実はギリアム様に、ご報告していなかったことがあります」

私はフィリアム商会に入ってから…実はずっとガフェルおっちゃんをスカウトしていた。
何度断られても続けた。
ガフェルおっちゃんは本のこと以外にも、私のやりたいことには欠かすことのできない
能力を持っていたから。

ガフェルおっちゃんは本当に星の数ほどの薬草を自分の舌で味わった人だ。
そのおかげか…今じゃ薬効成分がどの程度含まれているかまで、舌で舐めればわかるように
なった。

まさに、人間検出器!!

その能力を私も欲しくてずっと続けているのだが…まだまだだと思った。
だからガフェルおっちゃんにそばに来て、教えてもらいたかったんだ。

私は本の事も含め、慈善事業として医療の提供を考えている事。
それをどのように計画しているか…など、何度も何度も考え、書き直して、企画書を
おっちゃんに送り続けた。

何より…私は救ってあげたい人がいたから。

その私の熱意に根負けしたようで、おっちゃんはようやっと重い腰を上げてくれた。
おばちゃんと共に、王都へ来ると。
もちろんあの村には、代わりの医者を派遣する手筈は整えた。

ついでに本を出版することも、条件付きだが了承してもらえた。

「ここまでの事がすべて決まったのが、2日前だったので…ご報告できなかったことは
お詫び申し上げます」

「詫びなど必要ないです。
ガフェルおっちゃんの本が出版されれば…たくさんの命が救われるのだから」

「ええ…ですので…」

私はギリアムに紙を差し出し、

「この紙に書いた条件を…ツァリオ公爵閣下が飲んでくださるなら…本の著者と
全容を明かす…という話を、してきていただきたいのです」

私はおっちゃんとの話がまとまった時、いろんな意味で喜んだ。
医療が飛躍的に進歩するであろうことももちろんだが、ガルドベンダ公爵家への
最大の切り札を持つことができた…と。

…………………………………まさか!!
その切り札を、こんな事につかうことになるなんてぇ~~~~~~!!
別に計画してたこと、あったのにぃ~。

…………………………………。

ま、世の中なんて、所詮こんなもんよ。
使わなきゃいけない時に、最適な道具があったってことに、感謝しよ。

あとはギリアムに任せましょーかね。


---------------------------------------------------------------------------------


ガルドベンダ公爵家…。

「なんだ…随分とゆっくりしているんだな…。サロンの準備は良いのか?」

低くて重い…コントラバスのみを演奏したような声…。
この家の主、ツァリオ公爵閣下だ。
年齢は50いくか、いかないか。
学者らしく、片方だけの丸眼鏡にかかった金の鎖が耳の後ろに伸びている。
身長は意外と高く、180くらいはありそうだ。
白髪の混じった黒髪オールバック、顎は意外と太いため、顔全体は四角く見える。
鋭い目つきと太い眉毛、しっかりと伸びたごつい鼻に、手入れの行き届いた顎髭を
たたえている。
学者らしい線の細さは見受けられず、それどころかそれなりに武術をたしなんで
いそうなくらい、しっかりした体つきた。

「あら、あなた…。
私がそんなに無能だと思っていらっしゃるのですか?
不測の事態に備えて、準備は一週間前に終わらせております」

その言葉を受けたのは、アイリン公爵夫人…。
40は当の昔に超えているハズなのだが、清潔な装いと細い顎が、30代をに見せている。
目鼻立ちの美しさもさることながら、全身の所作から垣間見える気品は、上位中の上位に
位置する人間の奥方に、まさにふさわしいものだった。
しっかりと手入れしているのももちろん、本人の管理がいいようで、健康的な体の線に
薄めの金髪がすらりとかかっている。

「なるほど…これは失礼した」

絶対に分かって言っていた…とわかるようなやり取りだった。
そんな中、

「失礼いたします、ご主人様…。
急ぎのお手紙が…」
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