ひとまず一回ヤりましょう、公爵様4

木野 キノ子

文字の大きさ
42 / 47
第4章 結婚

9 諜報部と参謀長

しおりを挟む
諜報部…もともと近衛騎士団には無かったのだが、3年ほど前に様々な事情から作られた部署だ。
そもそも近衛騎士団は、いわばSP…要人護衛が主な役割ゆえ、それに特化した者たちで構成され
ている。
王家が知りたい様々な情報を調べたり、情報操作などを行う部署は他にちゃんとある。
ただ…どうしても情報を扱う調査の段階で、犯罪者と接触することが少なくないから、近衛騎士団内にも
一部そういう部署をつくり、もともとあった部署と連携しては…との話が持ち上がった。
ちょうど王立騎士団の変革期も重なり、たくさんの貴族が近衛騎士団に流れ込んできていたから、
新たな部署をつくる人員は、十分に確保できた。
この際、近衛騎士団も改革の一端として、新たな部署をつくるべき…という事で発足した。

これが、建前です。

では本音は…と言うと…もそっと後に説明します。

「そもそも参謀長をあいつにしたのも、諜報部を作ったのも、ケイルクス王太子殿下でしょう?
一体何が問題なんです?」

「いや…しかし、あいつは…」

「オレは何度も言いましたよね?
イヤなら辞めさせるなり、諜報部を解体するなりすればいいって。
でもしないでしょう?」

「い、いや…それは…色々事情がだな…」

「実際、他の連中から不満が出ているんです。
ちっとも仕事しないのに、給料だけはしっかり貰っているって。
ここらでしっかりと、仕事させた方がいいですよ」

「う…うーん…」

「とにかく声をかけて…オレたちは通常業務に戻ります」

ローカス卿とベンズ卿は、足早に王太子殿下の部屋を後にする。

「団長…お疲れ様です」

「別にいいよ、ああ、交流会の件はみんながいる前で話す」

「はい」

やはり近衛騎士団は全員貴族ゆえ、どういう性質のものか知っているのだろう。
今の王立騎士団、平民率が高いしなぁ。
ローカス卿が団員が集まる場所に入ると、

「団長!!どうでした?」

「交流会の話、何か出ましたか?」

「団長!!」

そんな皆に、静まるよう促すベンズ卿。

「えーと、まずだな。
交流会については、まだはっきり決まっていないから、詳細を話すことはできないんだが…」

皆様の、不安そうな声。

「しかしオルフィリア公爵夫人は…こう言っていた。
悪しき伝統など粉々に砕いて更地にして…、新しくいいものを作っていくのがギリアム公爵閣下と
オルフィリア公爵夫人のやり方だ…と」

「だからオレは、断言するよ」

ローカス卿が一呼吸置き、

「お前らが心配していることは…杞憂に終わる…って!!」

すると一斉に歓声が上がった。
みんな心配してたのね。

そんな皆を見回しながら、ローカス卿は、

「おい…参謀長どこ行った?」

と聞くと、途端に皆が暗くなり、その中の二人が喋りにくそうに、

「あ~、医務室です」

「なんだよ、ま~たさぼりか?」

参謀長…よく腹が痛い、頭が痛いと医務室にこもる。
しかも怒られたり、失敗したりした時決まって。
これもまたひとつ、団員たちを苛つかせている理由だ。

「いや…それが…」

「どした?」

「誰かに…殴られたみたいで…」

「はぁ?」

2人の話によると…警備している時、茂みで倒れている参謀長を発見したそうな。
殴られていたとはいえ、致命傷ではないから、ひとまず医務室に運んだそう。

「侵入者か?」

「いえ…一応疑って調べましたが、そんな痕跡は無くて…」

「参謀長は何と?」

「何も喋りませんでした」

「あ~、またかぁ」

またってことは、日常茶飯事か…。

「あの…団長…オレらの勝手な予想何ですが…」

「うん?」

「王宮内部の人間の仕業かと…」

「…オレもあんまり考えたくないけど…侵入の形跡がないなら…その可能性大だな」

実はこの参謀長…近衛騎士団始まって以来の無能と言われている…。
剣の腕なし、頭悪い、仕事できない、統率力ない、判断力なし、ちょっとの事ですぐ怯える、すぐに
具合が悪くなる…などなど。
当然、書類不備もかなり多く、近衛騎士団内だけでなく、外部の人間からも疎んじられている始末だ。

「今まで本人の爵位が高いから、苦々しく思っていても手を出せなかった奴らが…今回手を
出したのでは…と」

ローカス卿はため息つきつつ、

「みんな、通常業務に戻ってくれ、ベンズ卿は一緒に来い」

そう言って、近衛騎士団の待機場所のすぐ近くにある、医務室に向かった。

「おい、具合はどうだ?参謀長」

ベッドで横になってはいたが、眼はぱっちり開けていた参謀長。
父親や妹と同様、鮮やかな金髪に、深く青い目…。
だがその顔には、うっすらと腫れた跡がある。

「あ、だ、団長…ごっ、ご迷惑を…お掛けしっ、しまして…」

上半身だけ起こしたと思ったら、すっごいペコペコし始めた。

「まあ、いいよ。
それより誰にやられた?」

すると参謀長は、キョロキョロとあたりを見回すように首を振った後、

「あの…いきなりだったので…わかりません…」

「わかった…動けそうか?」

「え…えと…えっと…」

かなりどっちつかずな言葉しか発しない。

「ケイルクス王太子殿下がお呼びなんだけどな…。
無理そうなら…」

参謀長は、ケイルクス王太子殿下ときいて、顔色が変わり、

「だ、だだ、大丈夫です!!
ケイルクス王太子殿下のお呼び出しには、絶対に従うようにと、お父様に言われています
ので…」

すぐに立ち上がると、さっさと医務室を出てしまった。

「性格が悪いわけではないから、余計難しいですね…」

ベンズ卿もため息をつく。

「まあなぁ…でも、近衛騎士団は騎士だ。
自分の身を守るだけじゃなく、王家の人間や要人の護衛が仕事…。
自分に適性が無いなら、身を引くべきなんだがなぁ…」

そんな二人の視線を知ってか知らずか、足早に参謀長は、ケイルクス王太子殿下の部屋へと走る。
そしてやってくると…。

「お、お待たせいたしました!!ケイルクス王太子殿下!!
ジージョン・スタリュイヴェ小侯爵、ただ今参りました!!」

「ああ、来たか…」

ケイルクス王太子殿下は、面倒くさいものを見るような目を隠さず、役所支部の調査と、ズサンな
対応をした職員を探し出すよう、指示した。

「わ、わかりました…」

「わかったなら、こらからどう動くか言ってみろ」

そういわれたジージョン卿は、

「え、えと…皆に指示して、探させます…はい…」

「だから、探す方法を聞いているんだ!!」

「ほ…方法…?」

「そうだ」

「え…えと…みんなと相談して…」

「お前の意見は?お前の考える方法は?」

かなり口調がきつくなっている。
しばらくジージョン卿はまごまごしていたが…、

「と、とにかくすぐに、探しますぅ!!」

とだけ言って、逃げるように部屋を出てしまった。

ケイルクス王太子殿下はぐったりと背もたれに寄りかかり、

「あいつと話をすると、10倍疲れる…オレだけか?」

オリバー卿は何とも答え難そうだ。

「あ~、もう、今すぐ追い出したい!!」

「現状それは、不可能です」

「わかっているから、余計ムカつくんだ!!」

ジージョン・スタリュイヴェ小侯爵…スタリュイヴェ侯爵家の次男でレベッカの兄。
3年…正確には4年近く前だが、ギリアムが王立騎士団団長に就任した時…近衛騎士団に
移って来た。
というか、父親が移した。
そして父親は、ケイルクス王太子殿下にある契約を持ち掛けたのだ。
ちょうど商会を立ち上げようとしてたケイルクス王太子殿下に、自分が裏からサポートを惜しみなく
する。
その代わり、ジージョン卿を近衛騎士団で、ある程度のポジションに置かせろと。
だから諜報部を作り上げ、そのトップにジージョン卿をすえたのだが…。

「あそこまで無能ってわかってたら、受けなかったんだが…」

「しかし…、現時点でスタリュイヴェ侯爵は約束を守り、裏から様々なサポートをしてくれています。
彼がいたから、キンラク商会は短期間でここまで大きくなれたと言っても、過言ではありません」

「だから余計、ムカつくんだ!!
何で父親と長男と長女は文句なく優秀なのに、次男だけああなった!!」

「まあ同じ教育を行っても、違いが出る時は、出ますから…」

興奮するケイルクス王太子殿下と、やれやれ…という顔をするオリバー卿。

「まあ…ひとまず暫くは見守りましょう…今後スタリュイヴェ侯爵家がどうなっていくか、
全く分からなくなりましたから」

「…例の破門か」

「ええ…あれで随分スタリュイヴェ侯爵家の爵位は転落しましたから…。
これによって、前のようなサポートができなくなるなら…場合によって王宮に置くとしても、重要な
ポジションは外すことができるのでは?」

「それはそれで…喜んでいい事なのかわからんなぁ…」

「いい方向に考えませんか?ケイルクス王太子殿下…。
最近サバクアシの売れ行きがかなり良くて、どんどん潤ってきているのですから」

そんな二人の会話は、その後しばらく続くのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

処理中です...