ひとまず一回ヤりましょう、公爵様3

木野 キノ子

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第一章 観劇

13 ゾンビたちとの攻防

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舞台のすぐ近くにいた人間達は、みんな私の髪の毛に群がり、奪い合って
くれたが、やはり後方の連中は、私たちに飛び掛かって来た。

私は細かく分けた髪の束を、その都度投げつけ、そいつらをなるべく寄せ付け
ないようにした。
それでも寄ってくる奴は、ベンズ卿が足で蹴倒した。

しかし髪の束も残り少なく、ホールの出口までは遠い…。
おまけにゾンビは後から後から、ひっきりなしに湧いてくるし、あ~!!

私は最後の髪の束を、できるだけ遠くに投げつつ、後は全力で逃げるだけ…
と、思った時。

「きゃあぁ!!」

フェイラがスッ転んだ。

…ほんとーに、キミは!!
期待を裏切らない行動してくれるね、悪い意味で!!

私はフェイラに覆いかぶさろうとしていたゾンビに蹴りを入れ、

「早く立って!!」

「もうヤダ~!!」

「泣くのは後!!」

私はさらに寄ってくる人間達を睨みながら、怒鳴る。
泣くフェイラを、ルイーズが何とか立たせる。

ヤバい!!
前方のゾンビたちは、ベンズ卿が蹴倒してくれるだろうから、いいとして…。

問題は脇からくる奴ら。

…ん?

こいつら…。

「とにかく二人とも走って!!
前の二人に遅れないで!!」

私は二人が走り出したのを確認し、わざと蛇行で走る。

…やっぱりだ。

私が血を流していることと、私の髪色に赤が混じっているから、それに引きつけ
られてきているんだ。

もうあまり、思考力もなさそうだね。
かなり動きも鈍いし…。

ホントにゾンビみてーだな、オイ!!

私は蛇行しながら、スイスイと人波をかわす。

よし!!
これなら、逃げきれそう…って。

私がゾンビたちに気を取られていると、いつの間にか私の横に、あのシルクハットの男
が…。

「くっ!!」

腕を掴まれ引っ張られる。
…すごい力…。

私はそのままスッ転ばされ、ゾンビたちの真ん中に、倒れ込んだ。

「オルフィリア嬢!!」

「私は大丈夫だから、走って!!」

ベンズ卿に怒鳴る。

私は服の中に隠していた短刀を振り回すと、手を切ったゾンビたちが、

「ぎゃぁぁあ!!」

「い、痛ぇえ!!」

と、ひるんでくれた。
やっぱ本物のゾンビより、しょべぇ。

私はすぐに体制を立て直す。
その時、後ろから来た奴に、髪を掴まれる…が同時に、短刀を腕に突き刺してやった。

映画のゾンビと違って、痛みを感じるから、やっぱりすぐに私の髪を離して
のたうち回ってくれた。

私はその隙にまた、走り出す。

甘いな!!
前世のアタシのピンチの中には、複数人に追い掛け回されたり、髪掴まれたりも
含まれんだよ!!
二度と経験したくなかったけどな!!

その時…会場を見渡せる、観覧場で、

「ああ、もう!!惜しい!!
もっと気合い入れなさいな!!まったく!!」

一人キーキー言う、レティア王女殿下。

「レティア、あまり声を出さないように。
ここに私たちがいることは、絶対に知れてはならないのですから」

「でも、お母様!!
もう少しで、あの女をボロボロにできたのに!!」

「気持ちはわかりますが、時間の問題でしょう。
最初はどうなるかと思いましたが、随分と楽しめる劇になって、良かったでは
ないですか」

「ええ、それだけはあの者に感謝していますわ。
このままあの女をぼろ雑巾にできたら…たくさん褒美をあげなきゃね」

レティア王女殿下は不敵な笑みを浮かべつつ、観覧席から乗り出すように、
私の姿を凝視している。

そんな会話が繰り広げられているとは、つゆ知らず、

「ああもう、キリが無い!!」

ベンズ卿だって、手がふさがっていなければ、もう少し軽快に動けるのだろうが、
ケガをさせるわけにはいかない人間を抱いてでは、どうしても速度が落ちる。

「もう少しだ!!頑張れ!!」

確かに出口は近い…だが…。

「くぁあっ!!」

私は柱の陰から出てきた奴に、再度髪を掴まれる。

しまった!!
また短刀で切りつけるも、かわされたうえ、手も掴まれた。

私は近くにあったテーブルに残りの手を伸ばし、何か武器になりそうなものを探すが、
手に何も当たらない。

「オルフィリア嬢!!」

ベンズ卿がこちらに来ようとした時、私の体の横を、鋭い風が吹き抜けた。

「がああああっ!!」

ゾンビがのけぞった。
そして、風の主を見て、私は思わず叫んだ。

「ジェード!!来てくれたんだ!!」

私はこの時、始めて安堵した…でも…。

ジェードの服が、一目見てわかるくらい、血だらけだ。
おまけに息も荒い。
服についた血が、返り血だけではないことは、一目でわかった。

「遅くなりました、奥様…」

「ジェード、怪我して…」

「たいしたことは無いです。
それより、早く逃げましょう!!」

私は両頬を叩いて、気合を入れる。

「わかった!!
色々あるけど、全部終わった後!!」

「まったくです、さあ!!」

私はジェードと一緒に走り出す。

一方、高台の観覧席では、

「ちょっと!!何なのよ、あの男はっ!!
もう少しの所で!!」

「だから、落ち着きなさいな、レティア」

「落ち着いていられませんわ!!
もうすぐあの女が、逃げおおせてしまうでしょう!!」

その時どこからか、シルクハットの男が現れる。

「あ、丁度いい所に!!
もうすぐあの女が逃げてしまうわ!!
何とかなさい!!」

するとシルクハットの男は跪き、

「王后陛下、王女殿下…、大変申し訳ございませんが、お帰りのお時間です」

告げる。

「はあぁ!!何言っているの!!
これからがいい所なのに…」

「全くです、ここまで来て…」

王后陛下も王女殿下も、当然納得できないと言うが、

「王立騎士団と近衛騎士団が、現在こちらに向かっております」

「なんですって?」

王后陛下の顔色が、一気に変わる。

「確かか?」

「はい」

「しかし、いかがわしいという噂だけで、踏み込むことはできまい。
時間を稼ぐか、門を開けねば…」

「それが…」

シルクハットの男も口惜しそうに、

「この会場より逃げ出した数名が、違法薬物を所持及び、使用しておりまして…。
会場外で倒れた時に、元王立騎士団の従者にそれを確認されてしまったのです」

言葉を…

「それによって、王立騎士団は許可なくこのルベンディン侯爵家に押し入るための、
大義名分を得ました。
また、近衛騎士団も現在副団長であるベンズ卿が、危機に瀕しているかもという
大義名分で、おそらく王立騎士団と共に、入ってくるでしょう」

紡ぐ。

「あいわかった、レティア」

「いやよ、お母様!!
もう少しであの女を…」

「レティア!!」

王后陛下の口調が激しくなる。

「お前の気持ちはよくわかりますが、これ以上はダメです!!
これ以上お前の立場が悪くなったら、さすがの私も庇いきれません!!
安心しなさい。
今回の舞踏会で、あの女の悪い噂を流すのに、十分な材料は集まりました。
またの機会を楽しみに、今は引きなさい!!」

王后陛下の声には、かなりの気迫が込められている。

「……わかりました、お母様」

レティア王女殿下は唇をかみしめ、下で立ち回っている私を睨みながら、
観覧席の奥に消えていった。
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