ひとまず一回ヤりましょう、公爵様3

木野 キノ子

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第二章 黒幕

1 ブライト・ルベンディン小侯爵のその後

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さてさて、一週間後…。

ここは王立騎士団の本部…。
今日私がここにきているのは、合同報告会に参加するためだ。
参加者はギリアム、私、師団長5人とローカス卿、ベンズ卿、ジュリア侯爵夫人、
そしてジェードだ。
ジェードは普通、こういうところには出てこないのだけど、今日はどうしても
話したいことがあるそうな。

レイチェル、フェイラ、ルイーズの3人は、まだショックから立ち直っていない…
というワケで、不参加。

さて、全員集まったところで、開口一番ローカス卿が、

「ギリアム公爵閣下、誠に申し訳ございません!!」

すっごい勢いで頭下げて、詫びた。
しかもちゃんと、敬称をつけて。

理由を聞くと、近衛騎士団の牢屋に入れておいた、ブライト・ルベンディン小侯爵が、
その夜のうちに、毒を煽って自殺したそうだ。
だがもちろん、ローカス卿とベンズ卿は、ブライト小侯爵がそんなものを所持して
いないことは、確認済みだ。
つまり…自殺ではなく、何者かが毒殺したとみるほかない。

「仕方あるまい…相手が一枚上手だったと言うほかない…」

「え…?」

ローカス卿、物凄くぎょっとしたような、呆けたような顔になる。
きっと物凄~く、なじられると思ったんだろーね。
まあ、その辺は閨で調整したから、安心しや。

「でもこれで納得いきましたわ」

ジュリアが話し出す。

「ブライトは昔から悪さばかりでしたが、こんな大それたことができるような度胸は
持ち合わせておりません。
だから、おかしいと主人にも散々申し上げていたら…毒を煽ったと知らせが届き…」

何だか複雑な表情やね…。
まあ、いくら嫌っていたとしても、いきなり自殺したなんて知らされたら、驚くよね。
レイチェルもデイビス卿から聞いた時、気絶したくらいだし。
今も気分が優れなくて、ファルメニウス公爵家にいるけど…やっぱりこの件も関係して
よね、絶対…。

「まあ、近衛騎士団の警備のあり方を考える必要はあると思うが、それはローカス卿の
仕事だし、これでかなり容疑者も絞れた」

「まあなぁ…」

そう、王立騎士団の牢屋は、ともすれば平民でも、面会などで立ち入りできる場所だが、
近衛騎士団の牢屋は、端とはいえ王宮内、平民が原則入れる場所ではないし、貴族で
あったとしても、限られる。

私が参加した仮面舞踏会の資料だけが、一部欠落していたことと言い、かなり高い身分の
人間の仕業だというのが、これでまた一つ、確証を得たと言う事だろう。

因みに王立騎士団の牢屋ではなく、近衛騎士団の牢屋に入れたのは、ブライト小侯爵の
身分と、一番の罪が、やはり…ベンズ卿を含めた複数貴族の殺害未遂であったためだ。
もちろんその取り調べが終わったら、王立騎士団に移す予定になっていたそう。

話が終わると、デイビス卿が前に出て、

「改めまして、オルフィリア嬢、ベンズ卿、ジュリア侯爵夫人…。
私の妻を助けてくださり、ありがとうございます」

深々と頭を下げた。

「丁寧なお礼をありがとうございます、デイビス卿…。
ですが、どうかお気になさらず。
レイチェル伯爵夫人は、私にとって大切な従妹であり、妹のような…かけがえのない
存在です。
助けるのは当然です」

ジュリアが一番に口を開き、

「私としても、襲われている婦女子を見捨てる理由がない」

ベンズ卿が続く。

「私は最初から、危険を覚悟していたし、助けるって決めてましたから」

私も笑顔で話した。

「本当に、ありがとうございます。
ですがどうか、この先何らかの形で、ご恩を返させていただきたく存じます」

本当に礼儀正しいんだよね…、この人。
ホッランバック伯爵家がどうなったかは…またあとで聞こ。

「オルフィリア嬢…」

おや、テオルド卿とリグルド卿。

「遅くなりましたが…まさかあんな事をした娘たちを、暴漢たちから守ってくださる
とは…もはや言葉では感謝しつくせません」

「あ~、あれは、確かに私も頑張りましたが、最終的にはベンズ卿が助けてください
ましたので…」

「もちろん、ベンズ卿にも、御礼申し上げます」

「いやいや、それとて当然のことをしたまで。
嫌がる女性を無理やり引っ張っていこうなど、男の風上にも置けない者たちを見たら、
つい体が勝手に動いただけです」

うん。
やっぱあのお盆…ベンズ卿か…。

「お体はその後、大丈夫なのですか?」

テオルド卿の心配そうな顔ったら…。

「ええ、すっかり大丈夫ですよ。
もとよりわたくし、雑草ですので。
多少踏まれたぐらいでは、ピンピンしてますよ」

「アナタを踏んだら、踏んだ奴を殺します!!」

「ギリアム様…、少々黙っていてください」

私は笑顔で、眼だけ笑わずに言う。

「まあでも今回は…団長がそう言いたくなる気持ちも、わかりますよ」

あれ?いつものヴァッヘン卿らしからぬお言葉ね。

「ベンズ卿から、全て聞きましたが…大の男だって恐怖してもおかしくないのに、
そんな中にさらされて…それでも人に優しくできるなんて…」

ガイツ卿、なんか怒ってるんだか、感動してるのか…?

「しかも!!オルフィリア嬢のドレスには、結局何もないし、そもそも毒なんて狂言
だったんでしょ!!
完全に困らせたり、恥をかかせるのが目的じゃないすか!!
オレだって殺しますよ、そんな奴!!」

レオニール卿は、随分と私を気に入ってくれているようで、嬉しいねぇ。

「皆さん、本当にありがとうございます。
しかし…なぜフェイラ嬢とルイーズ嬢はあそこに…」

するとテオルド卿がため息をつきながら、

「2人には…幼いころからの友人である、ルーチェ嬢という、伯爵令嬢がいるの
ですが…」

「ほうほう」

「実は…お茶会後も私の眼を盗んで、ちょくちょく来ていたようなのです。
ただお茶会の件はフェイラが悪い…と言った上で、心配してくれたようで…。
オルフィリア嬢のことも悪く言わないから、使用人も多少の息抜きくらいは…と、
眼をつぶっておりまして…」

「あら…使用人ぐるみで家族のようですね。
とても素敵ですわ」

「そうですね、ありがたいことです。
一応バカ息子には、話を通しての事なので、なお良しです」

おお、抜け目もない。

「実は前々からルーチェ嬢に、父親の友人である、ジェフィシ男爵の
社交パーティーに2人を参加させたいと、申し出がありまして…」

リグルド卿、バツが悪いのかいきなり話し始めた。

「まあ、ルーチェ嬢がついているし、小規模なパーティーだからと言うことで、
許可したのですが…」

ここからまたテオルド卿に変わる。

「しかし会場に到着すると、ルーチェ嬢とフェイラ・ルイーズは引き離され、
ルーチェ嬢には、父親が倒れたから、すぐ帰るように知らせが届いたと言い、
フェイラ・ルイーズには、主催者側から伝えると言う事で、ルーチェ嬢は
急いで帰ったそうです」

「……ひょっとして、父親ピンピンしてた?」

何だか、色々読めてきた。

「その通りです」

あ~、あ~、あ~。

「ルーチェ嬢もおかしいと気付いて、すぐに会場に行こうとしたのですが、
そもそも迎えの馬車は会場側が用意したものだったらしく、控えていた舞踏会の
住所は、全く違う方のお屋敷だったそうです」

「と…なると…、ジェフィシ男爵の存在すら怪しいわね…」

「いえ…ジェフィシ男爵自体は、国から与えられた正式な爵位です」

「あら、意外…」

「ただ…」

テオルド卿が難しい顔になり、

「当のジェフィシ男爵自体は、生活苦から爵位自体を、もう何年も前に売り払った
らしく…今は平民に戻って生活していました」

「あれあれ」

「念のため、ルーチェ嬢の父親に面通しさせたのですが、父親にジェフィシ男爵と
名乗った人物とは、全くの別人だそうです」

「ジェフィシ男爵も…実は30年前の戦争の褒賞として、爵位だけが与えられた
名ばかり貴族だったらしく…、売り払った人間は代理人を通していたため、実際に
誰が買ったかは、全く分からないらしい」

随分と、手が込んでいるなぁ…。
私は顎に手を当てて、考え込む。
そんな私の代わりに、

「あ~、最近多いんだよな~、名ばかり貴族の爵位を買って、悪事に使う奴…」

ローカス卿が口を開く。

「一度、国側でしっかり把握する必要があるな…」

「オレも一応、話はしているんだけどね…」

これは私もフォルトとエマに聞いたんだけど、名ばかり貴族の数が増えすぎたせいで
国も管理が追っつかないらしい…。
……与えたのは国なんだから、本当に自業自得やな。

「ルーチェ嬢も両親も、まさかそんないかがわしいパーティーだとは夢にも思わな
かったらしく、連日ウチに来て、家族全員で謝罪している…。
その姿に嘘はないようなので、後で協力してもらうかもしれない旨了承させ、ひとまず
今回はお咎めなしとしました…」

「まあ、それが妥当だろうな」

ギリアムもそう思うよね、やっぱ。
その人たちだって、いわば被害者だし。

「しかし一つわからないのは…どうしてブライト・ルベンディン小侯爵…いえ、小侯爵を
操っていた黒幕は、そんな手の込んだことをしてまで、妹たちをあの会場に呼んだんで
しょう…?」

当然の疑問だね、リグルド卿…。

じゃあこれから、それを考察して行こか。
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