ひとまず一回ヤりましょう、公爵様3

木野 キノ子

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第二章 黒幕

2 黒幕の正体

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「私もそれは不思議ですが…。
しかし黒幕の正体がわからない以上、何か隠れた事情があるのでしょうな。
王立騎士団も長く在籍していれば、逆恨み的なこともよくありますし…」

テオルド卿の意見ももっともだが…。

「だったら、一つ一つ考察しましょうか」

私が言えば、

「あ、待ってました!!(ヴァッヘン)」

「オルフィリア嬢の推測って、よく当たるんだよな(ガイツ)」

「へー、そうなんだ(ローカス)」

「ですよ~、結構的を得ていて、みんな驚いてるんです(レオニール)」

……あんまり期待せんでくれんか?
わたしゃ元娼婦の、フツーの還暦越えおばちゃんだぞ。

「まず…黒幕の一番の狙いって、何だと思います?」

「そりゃ、フィリーを傷付ける事でしょう?」

ギリアムが即答える。

「確かにそれもありますが…他にもいますよ」

「ふむ…我々夫婦と、ルイザーク伯爵令嬢姉妹、そしてレイチェル伯爵夫人か…」

確かにそう思うのも無理はないのだが…。

「ん~、ちょっとそれだと混同していますね。
私の考えでは、黒幕が痛めつけたかったのは、私とベンズ卿…そしてフェイラ嬢です。
対して、ブライト小侯爵が痛めつけたかったのは、私…と後ろにいるギリアム、
コウドリグス侯爵夫妻、レイチェル伯爵夫人…ってとこだと思います」

するとみんなの眼の色が変わった…。

「あくまで推測ですよ、推測…」

「オルフィリア嬢の推測は、よく当たりますので(デイビス)」

だから!!
買い被らんでくれ!!

「みんなにそこまで言われるオルフィリア嬢の、推測ってのをぜひとも聞きたいね」

ローカス卿…完全に楽しんでるね。
でも今回の推測は、ちょっと真面目にヤバいんだよね…。

「その前に、お話しておきたいことがあります」

私は超真面目な顔をして、

「今から私が話すことは、あくまで私の状況判断を基にした、推測です。
ですが他言すれば最悪、不敬罪に問われかねません」

そこまで言うと、ギリアムが、

「どこまで懲りないんだ…まったく…。
今からでも例の一件の証拠を携えて、お灸をすえに…」

だから、それ、やめえって!!

「やっぱりかよ~、当たってほしくなかったんだけどなぁ~」

ローカス卿が頭を抱える。

さすがの二人。
もうすでに黒幕について、ある程度の目星はつけていたんやね。
でも、私のも推測だよ、推測!!

「ですから、聞けば後戻りはできなくなります」

私は一呼吸おき、

「だからこれ以上聞きたくなければ、部屋を出てください。
人にはそれぞれ、事情がありますので…」

まあ…みんな、出て行かなかったんだけどね…。

「わかりました…では、お話しいたします」

全員が、私の方を向いて、言葉を待つ。

緊張すんな~。

「黒幕の正体は…高い確率で王女殿下です…」

みんな驚かん。
やっぱそれなりに頭いいから、予想付いたのかな…。

「ただし、王女殿下だけでなく…王后陛下も加担しているかと…。
プラスαでかなり頭のいい、実行犯グループもいますね。
今回はこれらがチームになったと考えられます」

「王后陛下も…ですか?(ガイツ)」

「意外そうな顔するなよ。
王后陛下の娘びいきは、結構有名だぜ(レオニール)」

「なんで王后陛下も関わってると思うんですか?(ヴァッヘン)」

そう聞かれた私は、

「まず王女殿下はかなり直情的な性格なので、こんな手の込んだ複雑な…
ゲーム性に富んだ企画は、考えつかないと思うんですよ」

「そうなると、別の人間が考えたと言う事…。
ですが王女殿下が、自分のすべての希望を盛り込ませたとは思えない。
なぜなら、このゲームの抹殺者リストに、ローカス卿が含まれていない
からです」

「は?オ、オレ?」

突然のことに、あっけにとられるローカス卿…。
ここまでは、予測できなかったのかな…。

「思い出してください…、クレア嬢のお茶会…。
ローカス卿とベンズ卿は、規範にのっとって、例の近衛騎士2人の罪を裁きました。
しかし、王女殿下には、私の肩を持ったとしか映らなかったでしょう」

「それこそ言いがかりですね」

ベンズ卿、呆れてる…。
だよねぇ…。

「だから最初、王女殿下はローカス卿とベンズ卿、両方をリストに入れたはずです。
しかし二人は仮にも、近衛騎士団の団長と副団長。
この二人に、同時に何かあれば、当然、近衛騎士団の指揮系統は乱れる…。
王家の利にならないどころか、最悪自分たちの首を絞める結果になる…」

「しかしこういった事を、下々がつらつらと述べたところで、王女殿下は引き下がる
性格ではありません。
つまり王女殿下より地位が上で…王女殿下がその発言を無視できない…しかし、
王女殿下の希望は最大限聞いてあげるような、存在がいたという事…と、推測しま
した」

「なるほど~」

「まあ、ローカス卿がリストから外されたのは、私が考える限り、あと3つほど
理由があると思いますが…」

「え?そんなに?
詳しく!!」

ローカス卿、むっちゃ聞きたそう…。

「ローカス卿、ケイルクス王太子殿下と、個人的に仲いいでしょ?
ローカス卿に何かやった場合、ケイルクス王太子殿下の怒りを買うことになります
からね。
これがまず一つ」

「二つ目は隠れ蓑&トカゲのしっぽにする予定の、ブライト小侯爵です。
ブライト小侯爵はおそらく、ファルメニウス公爵家に恨みの一端があるため、今回
黒幕たちと手を組みましたが…ケイシロン公爵家まで相手にするとなると…高い確率で
しり込みしてしまうでしょう。
それでは黒幕たちが困るからです」

「三つめは舞踏会の最後…私たちをああいった形で追い詰めるなら…男手は少ないに
越したことは無いです。
ましてローカス卿は、腕が立つのですから」

するとローカス卿は何とも愉快そうに、

「いや~、みんなが言うだけあって、オルフィリア嬢は凄いなぁ」

感心してくれて何より。

「しかしそれなら…」

ん?ベンズ卿。

「私も除いた方が、良かったのでは…?」

まあ、これも当然の疑問やね。

「いいえ。
追い詰めるメンバーの一人は…必ず男…それもベンズ卿である必要があったのです」

「ほほう」

ベンズ卿は興味深げに私を見る。

「なぜならブライト小侯爵は、コウドリグス侯爵家にもかなり恨みを持っています。
だから、ベンズ卿は外せないんです」

「なるほど」

「おそらく黒幕たちの、筋書きはこうです。

レイチェル伯爵夫人に毒を盛ったと見せかけて、実際は睡眠薬を飲ませる(これは後で
実際盛られていたこと、確認済み)。

しかし毒物だと嘘をつき、さらに解毒剤は私のドレスに縫い付けてあると嘘をつく。

ドレスを脱ぐためのドレスルームは遠いし、そんな所まで行ってる間に、レイチェル
伯爵夫人は死ぬかもしれないと脅す。

私が…って言うより、普通の令嬢だったら、まず、ドレスの切り離してもいい部分から
切り離していくでしょうね。
何とも卑猥なショーのように。

そしてここで、私が一部とはいえドレスを切り離し、肌をあらわにするようなことが
あれば、それはそのまま私の醜聞にもつながります。

そしてせっかく頑張って、恥を晒したにも関わらず、何の成果もなく、そもそも毒など
狂言でした…じゃ、傷つかない人間の方が少ない。
(わたしゃ、全く傷つかんがね)」

「聞けば聞くほど、悪趣味だな」

ベンズ卿、素直に憤慨してる。

「さらに付け加えると…この一連の行為の中にベンズ卿がいることで、ベンズ卿を
貶めることもできます」

「どーやってベンズ卿を、貶める気だったんだ?」

ローカス卿が間髪入れずに聞く。
ちょっと怒ってるね…、まあ、無理もないか。

「先ほど切り離していい部分から切り離すと言いましたが…、怖がったり緊張したり
している人が、うまくできると思いますか?」

「!!」

「そしてあのドレスには様々な飾りがついていました。
小瓶一つくらいなら、隠せそうなものばかり」

まあこれも、計算の内だろうな。

「一刻の猶予もない中、体に傷をつけないように上手に服を切り離したり、飾りを
引きちぎったりするなら…力があり、刃物の扱いに慣れているベンズ卿は最適です」

「なるほど…だいたいわかってきました…。
ともすれば敵になる私に、短刀とはいえ手入れの行き届いた刃物など持たせるなんて、
おかしいと思っていた…」

ベンズ卿は一段と声が重たい。
怒ってる、怒ってる…。

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