ひとまず一回ヤりましょう、公爵様3

木野 キノ子

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第二章 黒幕

5 私が気にしたのはさぁ

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私がベンズ卿が悪く言われていないか、どうして気にしたかってーとね、

「ベンズ卿…お子さんいらっしゃいますよね?
6歳と3歳の男の子…でしたね」

「!?」

「その年齢であるならば…多少の言葉の意味は分からなくても、貶められる、
蔑まれているという負の感情は…感覚として読み取れます。
いえ…語彙力が無いからこそ、子供というのは大人以上に己にそういった感情に
鋭いものですよ」

特に6歳の子は…コウドリグス侯爵夫婦の意向で、結構他人に接させているって
聞いたしね。

「私が心配したのは、それだけです」

本当にね。
ベンズ卿は自分からとった行動に、うだうだ言うタイプじゃ絶対ないもん。
テオルド卿だって、お茶会の件がすべて自分の行動の招いた結果で、本当に自分しか
被害を受けないなら、もっと毅然としていたと思う。
子供の事だったから、火消しをしなかったことも含め、これで本当にいいのか、
疑問に思って苦しんでたんだろーな、無意識かもだけど。

「オルフィリア嬢…重ね重ねのご好意…誠に感謝いたします」

固まったベンズ卿の後ろから、スッとジュリアが出てきた。
ジュリア…こうやって夫のフォローを幾度となくしてきたんだろーなぁ。
いい奥さんだ。

「ご好意、痛み入ります」

ベンズ卿も素直に、ジュリアに続いたか…。
良いご夫婦だ。

「じゃあ改めて…私は今回の件…完全に消すのではなく、真実を流布していただく
事を希望いたします」

「真実?」

「つまり、私がドレスを脱ぎ捨てたり、下着姿になったり…したのは事実ですから。
この辺はそのまま。
ただし、その理由については…明確に、正確に人々に伝わるように…ね」

「了承できません!!」

うっせーわ、ギリアム!!

「あのですね、ギリアム様。
今回の件…関わっている黒幕…とくに実行犯の方はかなり頭がいい。
その上、度胸もある。
そんな人間達を相手にするなら、嘘を嘘で塗り固めたり、事実をなかったことに
しようとしても、うまくいかないと思います」

だから!!
ぶすっとしたって、ダメだかんね!!

「それよりも…事実は事実として、正当にまっとうに、公表すべきです」

「それであなたに、何の得があるのですか!!
私と同じように…色ボケって罵られて…」

ギリアム、泣きそう…。
あ~、今回、みょーに譲らんなぁと思ったら…そこが引っかかってたのね。
よっしゃ、じゃあ…。

「色ボケの何が悪いんですか?」

これには周りのみんなが、かなりぎょっとした…。
まあ、両親の事と共に、禁句だろうからな~。

「ブライト小侯爵にも言いましたけど…人間が色ボケじゃなきゃ、とっくに滅んで
いたと思いますよ」

「そ…そういうことではなく!!」

「じゃあ、どういうことですか?」

「あたが罵られているという…」

「そんなことで罵る人は、別に私が色ボケじゃなくても、他の事で罵りますよ、きっと」

「……」

ぶすっとしたまま、黙っちゃった。
まあ、構わず続けよ。

「私は色ボケって言われても、気にしないですよ。
生き物の正しい形の一つ…そんな風に思っておりますので」

これ前世・今世通しての、ヘドネの本音よ。

「まあこれは…あくまで私の考え方ですから、同調していただかなくてもいいです。
でも一つだけ…ギリアム様は、私が色ボケだったら、私を嫌いになりますか?」

すると初めて顔を上げたギリアムは…ものすごく焦った顔になっていた。

「そんなこと…あるわけないじゃないですか!!」

物凄く必死に否定してる…。
ありがたいね。

「だったら、今回…私の考えを優先してくださいませんか?」

「アナタにどんな得があるのか…お聞きしても?」

「もちろん。
簡単に言えば、付き合う人間の選別が簡単になりそう…です」

デイビス卿の事例と合わせて、よりはっきりすると思う。

「?」

「今後、社交界に出るにあたって、どなたと付き合って、どなたと付き合わないか…
そういうのって、考え方を見て考察していくものですが…今回の件でそれが随分と
簡単にできそうだな…と思った次第です」

「オルフィリア嬢は、本当に転んでもただでは起きませんねぇ」

ジュリア、楽しそうやね。
私の考えが、読めてるっぽい。

「多少なりとも痛手を被ったのなら…利用しない手はないじゃないですか。
そもそも、やられっぱなしは性に合わないので…」

「それに今回の黒幕(実行犯)は、一筋縄では行かないチームだと判断しました。
ですから、火消しがいったん成功したように見せかけることも、おそらく考えていると
思われます。
そうなれば、いたちごっこになりかねません」

「フム…確かに…」

ここでベンズ卿が口を出した。

「私が舞台を離れられなかったのは、ブライト小侯爵のせいもあるが、どちらかと言えば
あのシルクハットの男のせいだ…。
一目見てわかったが、かなりの手練れ…もし何か行動を起こそうとすれば、私がいないと
…と、思いました。
事実、私が一瞬眼を離したすきに、気配を一切残さず消えてしまいましたから」

「お前が手練れって言うからには…相当だな」

「ええ、漂っている雰囲気が、全く違いました」

そこで私は、

「ああ、それについて一つ」

手を挙げる。

「私実は、襲ってくる人間達から逃げている際…一度シルクハットに捕まって、転ばされた
のですが…」

「聞いています!!
フィリーを傷付けたお礼は、次に必ず…」

勝手に殺気立ってるギリアムはほっといて…。

「そのシルクハットは…男ではなく、女でした」

「!!?」

「…なら…シルクハットの女…ですか?」

「いいえ…確実ではありませんが、あの舞台にいたのは、私もシルクハットの男…という
感じを受けました…。
しかし、私の腕を掴んだのは…確実に女です」

前世の仕事のおかげで、私は触れたり触れられれば、服の上からだって、男か女か高い
確率でわかるのよん。

「……なるほど…確かにあの衣装は、パッと見て男か女か、なかなか判別しずらかった
ですね…」

ベンズ卿も同意してくれた。

「ああ、そのことについて、オレから一つ」

ジェードだ。

「オレは舞台で奥様がブライト小侯爵と対峙したあたりで、奥様の元に行こうとしたんだ。
しかし、そんなオレの背後から攻撃してきた奴がいた」

「ほう…お前の後ろを取るとは、そいつもかなりの手練れだな」

ギリアムが感心したように言う…ってことは、ジェードかなり強いのね、やっぱ。
医者が驚いていたもんなぁ。
あのケガで戦うなんてって。
しかも回復早いし。

「ええ、達人の部類でしょう。
手傷は負わせましたが、オレも傷を受けましたし。
そいつが奥様の見た2人と同じ格好をしていたかどうかは…残念ながらオレにはわからん
ですが…奥様の話を聞いて、一つ思い当たったことがありました」

ジェード…いつになく饒舌だね。

「闇で動く組織は…とかく頭が誰かを隠したがります…。
だから替え玉を立てたり、本当に目立たないように周囲に溶けこむ格好をしていたり…
それは様々ですが…」

「その中でも、全員が似たような姿をし、全員が駒のような動きをする連中が居ました」

そこまでジェードが言うと、ギリアムが

「なるほど…誰が頭かわからないようにしているわけか…。
敵をかく乱させるには、もってこいだな」

「あとは…姿かたちを似せることによって、いったい何人のチームを組んでいるのか…
全容がわからないようにしていた…ってのもありました」

「なるほど…」

ジェードが言いたかった事って、これなのかぁ…。

「というワケですから…今回は特に!!
真実をありのまま、流布した方が得策です。
それで相手の出方を見て、また会議をした方がいいと思うんですよ…」

するとやっぱり腑に落ちなさそうな、レオニール卿が、

「オルフィリア嬢は…本当にそれでいいんですか?」

「はい?」

「人を救ったのに…ただ人前で下着姿になったことだけを取って…うるさく
言う奴は、必ずいます」

私は目をつぶり…

「わかっています。
ですが、どのみち避けては通れません」

再度開いて言った。

「わかりました…オルフィリア嬢の言う通りにします…けど!!
あまりひどい連中が多ければ…」

「ええ、その時はみんなでお話ししましょう」

軽めにまとめた。
笑顔でね。

「私はあなたにこれ以上、傷ついてほしくないです!!」

…………………………………。

ねえ…。

このやりとり、いい加減やめんか?

イヤ実はさ。
ジェードの報告受けて…私に対する噂は…私としてはその通り過ぎて、何の感情も
湧かんかったのよ、ホント。

だってさ~、的を得ているし、本当にその通りなんだもん。
私の前世そのものの姿よ?
今言われていることって。

つ・ま・り。
一ミクロンも傷ついちゃおらんっつの――――!!
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