ひとまず一回ヤりましょう、公爵様3

木野 キノ子

文字の大きさ
23 / 43
第3章 事後

2 私に振るなよ、オイ!!

しおりを挟む
突然、私に被ってきた言葉…。
何が私のせいなん?

「アナタはレイチェルを実家において、すぐに帰ってくればよかったのです!!
そうすれば、あなたも私も被害を受けることは無かったのですから!!」

いや…ディエリンおばはんよぉ…、八つ当たりだってことはわかってるが、
それにしたって、言ってる事、支離滅裂やぞ。

「いえ…レイチェル伯爵夫人の実家は、酷い所だと聞いていましたので…。
ディエリン夫人はそうでも、私は置いて帰るなんて、絶対嫌ですよ?」

とりあえず、普通に答えてみる。
私とアンタは違う人間だ。

「そ…そんなことは、あの子が自分の実家で何とかすれば、いいんです!!」

あ~あ、墓穴二つ目…なんてことを私が思っていたら、

「だったら、母上もご自分の実家なのですから、自分で何とかしてください」

デイビス卿がすかさず突っ込む。
さすが王立騎士団副団長殿。

「本当に全く…レイチェルがあなたに何をしたというのです?」

何もしてないよね…。
レイチェルって、自分がいじめられても、人をいじめられるタイプじゃない。

「あの子はいずれ、ホッランバック伯爵家を破滅させます!!」

…なんでじゃ?

「あの子は社交性の欠片もなくて、何をやってもどんくさいし、気の利いた
会話の一つもできないし、いつも暗いし!!」

…間違っちゃいないが、アンタが言うな!!
ファルメニウス公爵家に来た時、最初こそ表情も態度も堅かったが、打ち解けたら
結構笑ってくれたし、博識だし、特技もあるぞ。
接し方の問題だろうが、要は。

「貴族社会において、夫人の役割とは、社交界での地位をいち早く作り、家を繫栄に
導くことです。
その役割を担うどころか、たった一度の失敗で逃げ出したのは、あの子です!!」

「周りに誰も味方がいないでは、逃げ出したくもなりますよ」

私は思わず口をはさんだ。
だってさぁ…ちょっとねぇ…。
いい年こいたおばはんが、あんまり若い子にダメ出しすんなや。
みんな若いころはあったし、みんな違う人間なんだぜ。

「な…何を言って…」

「…ディエリン夫人があまりにも、レイチェル伯爵夫人に敵愾心をむき出しにしている
から、フレイア伯爵夫人がレイチェル伯爵夫人に色々教えた時期が、あったそうですね」

これ、ジュリアからの情報。

「レイチェル伯爵夫人は…覚え自体はかなり良かったようですよ。
しかし実践は…本人の気弱な性格もあり、少しずつ、時間をかけてやっていく方が…と
言われたようですね」

「ほら、御覧なさい!!だからあの子は…」

「欠点のない人間なんて、いませんよ!!」

私も口調が強くなる。

「実際、お茶会や舞踏会を複数人で主催する方は珍しくない。
サポートに回った方を、侮辱する人はいないでしょう?
そういうやり方だってあるんです。
何事も陣頭指揮を、必ず取らねばならないことはない。
適材適所ってそう言う事です」

「あの子にオルフィリア嬢の手伝いなど、できません!!
本当にできることが何もない子なんだから!!」

いや、いい加減にせぇよ、おばはん。

「ディエリン夫人の意見はよくわかりました。
では私は、レイチェル伯爵夫人と二人で、できることを探してみることにします」

サラッと答えた。
こういうおばはんに、怒ってもエネルギーの無駄やし。

わたしゃ、ああ言えばこう言うは大得意だかんね、はっは。

するとディエリン夫人はやはり…かなり激高したようで、

「わかりました!!
オルフィリア嬢とギリアム公爵閣下は、ホッランバック伯爵家を潰したいんですね!!」

お~い、ついにギリアム公爵閣下の方まで八つ当たりが行ったかい…。
いよいよ頭おかしくなってきているな、おばはん。

「それは聞き捨てなりませんね。
私は、そんなことは毛ほども思っていませんよ」

さすがにギリアムも、黙ってられんよね、これは。

「もちろんです、団長。
母が大変失礼いたしました」

デイビス卿が謝ってくれた。

「だって…だって、あんな子をウチの息子にあてがうなんてっ!!」

あの~怒りで頭、おかしくなってませんか~?
だって…。

「あてがう?
私はレイチェル伯爵夫人との結婚を、デイビス卿に勧めたことなど一度もないぞ。
ルベンディン侯爵家になかなか結婚を許してもらえないと、相談を受けて初めて知った。
私が間に入ったのだって、デイビス卿の意志を確認したうえでのことだ」

「その節は、本当にありがとうございました、団長」

ディエリンおばはん、ここにアンタの味方はいないから、もう観念した方がいいぞ。

「では母上、私が実家までお送りします…直々に」

デイビス卿…かなり怒ってるな…。
するとディエリン夫人はさすがにマズいと思ったのか、

「オルフィリア嬢!!」

なんだよ、まだ私になんか用か?

「わ…私なら…私ならあの子よりずっと、あなたのお役に立てますわ。
ホッランバック家の女主人として、それをすぐに証明いたします!!」

あ、だめだ。
いよいよ、相手するだけ無駄になって来た。

「あの~、まずアナタは、ホッランバック家の元・女主人です」

めんどくさくなってきたから、

「あと、あなたが役に立つとおっしゃいましたが、私にはとてもそうは見えません」

言いたいこと言うことにした。

「そ、そんなことは!!」

「じゃあ、答えてください。
ディエリン夫人の今の状況は、間違いなく自業自得です。
アナタの何が悪くて、今の状況を作り出したと思われますか?」

「わ…私に悪い所など…」

「ほら、わかってらっしゃらない。
デイビス卿の言う通り、実家で反省なさった方がいいように見受けます」

「私は実家には行きません!!」

無駄な抵抗、よせや。

「じゃあ、質問を変えます。
ご当主と女主人では、どちらが上に来ると思いますか?」

「そ…それはご当主の方が…」

「なんだ、それはわかってらっしゃるのですね」

「と、当然です」

「ならなぜ…」

私はかなりキッツイ表情になってたと思う。

「ご当主たるデイビス卿の意向を、ことごとく無視されたのですか?」

「な、何を…」

「デイビス卿はレイチェル夫人を、ホッランバック家の女主人とすると決定しました。
そして、使用人たちにもそれを徹底するよう言いました。
でもあなたは…ことごとくそれを無視して、あまつさえレイチェル夫人をデイビス卿の
許可なく実家に返そうとまでした…」

「それは、あの子が役不足だからです!!」

「だったらあなたも、ご当主様に役不足と判断されたのだから、追い出されるのは
当然ですよね」

本当に自分の事は、棚に上げるおばはんやな。

「私のどこが、役不足だと!!」

「わからないんですか?」

口調に呆れが入りまくる。

「まず、ホッランバック家は今回、使用人をすべて取り換えることになった。
出ていく使用人の紹介状や、新しく雇用する人間の手配、入れ替わりの間の手間や不便…
デイビス卿はただでさえ王立騎士団で多忙なのに、その上さらにこんな負荷がかかったのは、
すべてあなたのせいです」

「それこそ言いがかりです!!
そもそも使用人を、すべて辞めさせる必要がどこにあるのですか!!」

それもわからんのかい。

「辞めさせる必要ですか?
ありますよ。
だって、理由はどうあれご当主の意向を、ほぼほぼ全員無視したんですから」

そう、根っこはそこさ。

ん~、なんだかようやっと、わかってきたみたいだな。
顔青いや。

「アナタはどうも、レイチェル夫人がホッランバック家の女主人にふさわしいかどうか…で
物事を見ようとしているようですが…もうそれは関係ないんですよ。
ここにいるほぼ全員が、ホッランバック家ご当主様の意向を…命令を、長い間無視してきた…
そのことにデイビス卿は重きを置いて、今回の処置を決めたのですから」

あ~、ちと喋りすぎたな。

「つまりあなたは、女主人としての一番大切な仕事…ご当主の意向を尊重し、家をしっかり
収めると言う事を、長い間怠ったんです。
そんなあなたが私の役に立つと言われても、とてもそうは思えません」

でも、もう少し行こか。

「もしあなたが、レイチェル夫人が役不足で、追い出した方がホッランバック家のためになると
言うのなら…まずはデイビス卿に許可を求めるのが先です。
そして、許可が出るまではレイチェル夫人に対して、しっかりとした礼儀をはらうべきです。
なぜならそれが、ご当主の意向なのですから」

まあ、デイビス卿は許可なんか出さなかっただろーけど。

「申し訳ございません、デイビス卿…。
少々喋りすぎました。
間違っている個所があれば、訂正してください」

「いいえ、オルフィリア嬢は私の言いたかったことを、全て言ってくださった」

随分と満足そうだから、とりあえずいいとしよう。

するとディエリン夫人は下を向いたまま、拳を握り体を震わせていたが、ふいに、

「もっともらしいことを言って、私を追い落としたつもりでしょうオルフィリア嬢…。
ですがアナタの性根の悪さが、これでよくわかりました!!」

……すまんが、ディエリンおばはんよ。
私は全く分からん。
説明求む。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】記憶を失くした旦那さま

山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。 目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。 彼は愛しているのはリターナだと言った。 そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...