ひとまず一回ヤりましょう、公爵様3

木野 キノ子

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第3章 事後

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「アナタは、私がホッランバック家の女主人であるよりも、あの子が女主人のほうが
都合がいいでしょう!!」

そりゃ確かだが…。

「あの子は口答えもせず、何も言わず、アナタの言う通りに動くでしょうから!!」

……ああ、意図が分かったわ。

「別に私は、子分が欲しくてレイチェル夫人に優しくしているワケではありません。
お間違いのないように」

これは言っとかんとね。

「嘘おっしゃい!!
そもそもレイチェル共々、イカガワシイ舞踏会にホッランバック家を巻き込んで!!」

「それはそもそも、ルベンディン侯爵家に言ってくださいませんか?」

むしろこっちが、巻き込まれた方だぞ、おい。

「そもそも私は最初から反対だったんです!!
素行の良くない家の、あんな役立たずを嫁に貰うなんて!!」

「それは…、デイビス卿に言ってください」

オメーの息子が選んだ嫁やぞ。

「オルフィリア嬢だって、素行のいい家の人間と付き合いたいでしょう!!」

「…家は大事だと思いますが、私は何より本人を重要視しております」

家がしょーもなくても、本人が良い人なら、付き合うよ、わたしゃ。
他の家ならまだしも、天下のファルメニウス公爵家。
こういうところで特権使わんで、いつ使うっつの。

「本人が、だらしがなくて能力が無くても…」

「アナタの評価は否定いたしませんが、私には私の基準があります」

どや。
こう言えばああ言うは得意っつったろ?

ディエリンおばはん、そろそろネタ切れかな。
怒りで震えてるけど、言葉は出ない。
…睨んだって、無駄やぞ。
わたしゃ今のアンタよりすごい眼付け、前世でいくらでも浴びた
からなぁ。

「やはり生来の品性のなさと、育ちの悪さは隠せませんねぇ。
下着姿で人前に立てるところが、いい証拠ですよ」

おいお~い。
私が下着姿になった理由、知らんのか~い。

そう思った時、物凄い笑い声が聞こえてきた。
しかしそれは…愉快だから笑っているというよりは…言い知れぬものを叫んでいるに
近いと、私は感じた。

「あ~あ」

笑い声の主は、デイビス卿だった。

「アンタ…とうとうオレに残ってた、ほんのわずかな肉親の情を…見事に消し飛ばして
くれたなぁ…」

……デイビス卿…、キャラ変わってない?
私は無言で首をごきりとひねって、ギリアムを見る。

「ああ、フィリーは初めてか…。
デイビス卿は本気で怒ると、一人称含め言葉使いががらりと変わるんだ」

ギリアムはさらりと言ってのける。
デイビス卿…変身キャラだったとわ。

「オレはアンタに言ったよな?
オルフィリア嬢がそんな姿になった理由も、してくれたことも…全部!!」

「オルフィリア嬢は本来…あんなパーティーに出席しなくてもよかったんだ!!
団長だっていい顔しないだろうし、実際オレは断られると思ってた!!」

「でも引き受けてくれて…レイチェルの事も親身になってくれて…。
暴漢から守ってくれて、命を助けるために必死になってくれて!!」

「自分だって、怖かったろうし、恥ずかしかったハズなのに!!」

いや、恥ずかしくは全くなかったよ、うん。
……言わないけどね。

「パーティー後に流された酷い噂だって…すごく傷ついたろうに、相変わらず
レイチェルに優しくしてくれた!!」

いや…体の傷はさておき、心の傷など全く負っておりませんよ、ええ。
……まあ、言わんけど。

デイビス卿はいつの間にか泣きながら、シャツの胸の部分を思い切り掴んでいる。
ぐしゃぐしゃになったシャツは、まさにデイビス卿の心理そのもののような
感じを受けた。

「オレは今回の件…処分を覚悟していた…いや、処分されるべきだと思っていた!!」

やっぱりかい…真面目やのぉ。

「ルベンディン侯爵家が酷いことは知っていたが、まさかあそこまでの事をするなんて…。
全てはオレの配慮のなさと、予測力のなさだから!!」

いや、あれは予想できんて。
私も予想外やった。

「でも後悔はなかった。
レイチェルは無事帰ってきてくれたから…なのに!!」

「団長はオレを処罰しなかった!!
逆の立場だったら、同じ行動をとっただろうから…って!!」

ああ、ギリアムちゃんと約束守ったんやね、えらいえらい。

「それに…」

デイビス卿、苦しそうやね。

「オルフィリア嬢も…処罰は望んでいないから…って!!」

それは言わんでも、よかったんやけど。

「レイチェルに文句があるなら、連れてきたオレに言えばいいだろう!!
一年前の件だってそうだ!!
あれはアンタが全面的に悪いだろうが!!
レイチェルは巻き込まれただけだ!!
なのにネチネチ陰湿に、レイチェルをいじめて何が楽しいんだよ、オイ!!
まして何の関係もない…むしろ何度も助けてくれているオルフィリア嬢に
失礼な態度しかとれないって、いったい何なんだよ!!」

一気にまくし立てた後、デイビス卿は呼吸を落ち着かせ

「本当はさ…アンタを実家に戻した後…定期的に様子は見るつもりだった…。
でももういい!!」

言い放つ。

「人間の心が無い奴に、心配りしてやる必要は無いからな」

デイビス卿が騎士たちに指示すると、ディエリン夫人は有無を言わさず連れていかれた。

「ホッランバック家には、私が絶対必要!!」
「頭を下げてきたとしても、協力してやらない!!」
「レイチェルはこの家の害にしかならない」

などなど…。
最後までやかましく叫びながらの退場だった。

そしてディエリン夫人が乗った馬車が、屋敷を出たことを確認すると、デイビス卿は改めて

「団長、オルフィリア嬢、この度はお騒がせして、申し訳ございません。
そして色々とありがとうございました」

深々と頭を下げた。

「まあ、こういうのは慣れているからいいが…」

慣れてんのかい、ギリアム!!
……そういや忘れてたけど、王立騎士団って警察の役回りだった…。
揉め事の仲裁とか、フツーにやってんやろな。

「しかし、最後まですごかったな…色んな意味で」

「まったくです。
あれでも父が生きていたころは、それなりにマトモだったし、静かだったんですけどねぇ…」

あ~、抑えが居なくなって、はっちゃけたタイプか…。
って、デイビス卿、口調戻った。
ひとまずよかった。

「ところで…ウチに何の御用でしょうか?」

あ、そうそう。
それもすっかり忘れてた。

「えっと…レイチェル夫人なんですが…暫く例の施設…太陽の家に、私と一緒に行って
もらっても良いでしょうか?」

「それはもちろん…構いません。
オルフィリア嬢と一緒なら、安心ですので」

「あと…それにまつわることで、レイチェルから色々な話があると思いますが、どうか真摯に
耳を傾けてあげてください。
もちろんデイビス卿は、頭ごなしに否定したり、却下したりする方ではないと思っておりますが
…、2人でよくよく話し合っていただきたいことなのです」

「…わかりました、オルフィリア嬢がそうおっしゃるなら」

うん、よかった。

かくして私たちは、ホッランバック家を後にするのだった。


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「この度は、引き受けてくださり、感謝いたします、エリザ伯爵夫人…」

テオルド卿が深々と頭を下げている。

「相変わらず硬いですね、テオルド卿…。
フレイヤがいた時のように、もう少し崩してもよいのでは?」

エリザ伯爵夫人と呼ばれた女性…年のころは40代、髪を後ろで団子に結い上げ、
年相応の皺がわずかに顔に出ているも、若いころ美人と評された美貌は、衰えていない。
物静かな容姿だが、口調はハッキリキッパリしており、やり手のそれを想像させる。

エリザ伯爵夫人は、フレイヤ伯爵夫人の従姉だ。
残念ながら子供に恵まれず、夫の死後、家を甥に譲り、本人は相続した屋敷で趣味と実益を
かねる仕事をしながら、つつましく暮らしている。
ルイザーク伯爵家とは、家族ぐるみの付き合いをしており、3兄妹のことも、赤子のころから
知っている人だ。

「それにしても…お茶会の件は驚きましたよ…」

エリザ伯爵夫人の眼が、遠くを見る。

「タニアは昔から気位が高くて、考えなしな所はあったけど…クレア共々、まさかあんなことを
しでかすとは…。
まあ、フェイラについてもしかりだけれど」

テオルド卿の顔が、やはり暗くなる。

「ああ、ごめんなさい。
アナタを責めているワケではないのだけれど」

「いいえ、責められても致し方のないことです。
しかし、大丈夫ですよ。
オルフィリア嬢が色々心を尽くしてくれたのに、男の私がいつまでもくよくよしているなど、
もってのほか!!
フェイラとルイーズにとって、今後何が必要か…どうすればいいのかを考えていきます」

テオルド卿の顔が明るくなったことで、エリザ伯爵夫人は少し安堵したようだ。
その時…。

「ただ今戻りました、父上…、あ、エリザ伯爵夫人…いらしていたのですね」

「まあ、リグルド…大きくなって…。
随分立派になりましたねぇ」

エリザ伯爵夫人感慨深そうに、リグルド卿を見つめる。

「甘やかさんでください、まだまだひよっこです!!」

「父上、酷いです!!」

リグルド卿はテオルド卿に文句を言いつつ、

「あの…妹たちの様子はどうでしょうか…?
エリザ伯爵夫人から見て…」

心配そうに尋ねるのだった。
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