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第3章 事後
5 フレイア伯爵夫人の心残り
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「ファルメニウス公爵夫人にお会いできない事だ…と」
「……」
「きっとお話ししたいこと…お願いしたいことがたくさんあったのでしょうね…」
これについては、テオルド卿、リグルド卿、両名共に心に何か思うところがあるようで、
何も話せなかった。
エリザ伯爵夫人は少し置いてから、
「先ほども話したように、フェイラとルイーズには、時間が必要です…。
ただ一つだけ、お二人にお願いがあります」
「なんでしょう?」
「オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢と、会わせてください」
「なぜ…?」
「クレアのお茶会とルベンディン侯爵家の仮面舞踏会…オルフィリア嬢はどちらも当事者として
関わっています。
オルフィリア嬢からも、お話をお聞きしたいのです」
テオルド卿とリグルド卿は顔を見合わせたが、
「わかりました、お願いしてみます。
しかし、多忙な方故…」
「もちろんです、急ぐ必要はありません」
その辺の柔軟性は、とても高いようだ。
「それと…これからの大まかな流れについても、ご説明しておきます。
お二人にもご協力いただくことが、あるかもしれませんので…」
「わかりました」
「まずは…二人の状態について。
ショックを受けてはおりますが、大分私に話をしてくれていますので、少しずつ外に出るように
した方がよろしいと思います」
「と言うと…庭や公園を散歩などと言う事ですか?
あとはショッピングとか…」
リグルド卿が言えば、エリザ伯爵夫人は笑顔になり、
「ええ、最初はなじみの店や…いい思い出があるところなど、見繕っていただけると助かります」
「承知しました」
リグルド卿は人の好さと世話好きも相まって、結構妹たちのショッピングに付き合っていた。
使用人並みに好みを熟知している。
「後これは…本人たちの希望を最重要視致しますが…」
「はい…」
「少し大丈夫になったら…私の懇意にしている貴族家に…臨時雇いの使用人として、雇ってもらう
事も考えております」
「それは…またどうして?」
テオルド卿もリグルド卿もびっくりしていた。
「まず二人とも…この先社交界でどうしたいかにもよりますが…」
エリザ伯爵夫人は一呼吸おいて、
「社交界から一生背を向けて生きる方も、中にはいらっしゃいますし、それをどうこうと私は
申し上げませんが…逃れられなくなる例も見ているのです」
「なるほど…」
「その時に必要に駆られて勉強するのもありかとは思いますが…環境が許すなら、社交界という場の
雰囲気や、そこでの立ち居振る舞いなど、勉強しておくに越したことはありません」
「それは…その通りですね」
「ですが令嬢として参加することは、今のフェイラとルイーズには荷が重いと思います。
なので一番いいのは使用人の中でも裏方…あまりお客様のお相手をせずに済むポジションに身を
ひそめることです」
「そんなことが、可能ですか?」
さすがに二人は人を育てる立場故、言わんとしていることがすぐにわかったようだ。
使用人というのは、参加者でないようで、お茶会や社交パーティーのほぼすべてに参加している
ようなものだ。
もちろん参加者の邪魔をするような真似はご法度だが、そうでなければ一番近くで人々がどのように
交流しているかを見ることができる。
「ええ…私の懇意にしている方の中に、全ての事情を承知の上で、お茶会や社交パーティーの場で
のみの、臨時雇いを受け付けてくださっている方がいるのです。
ハッキリと決まらない限り、お名前は申し上げられませんが…、その方が主催するお茶会や
社交パーティーは大変良質であると評判でしてね」
「そんな方が…」
「私が今までお願いしたご令嬢やご婦人に対しても、気さくに接してくださり…何かあればさりげなく
フォローもしてくださるんです。
もちろんその場には、私も絶対に参加しますがね」
「おかげで社交界の手練手管を、短期間で身につけられた方もいるくらいですので…。
上手くいく、いかないはさておき、フェイラとルイーズも社交界についての何かを学ぶには、もってこい
かと思います」
「それは…是非ともお願いしたいです」
「わかりました…私からも話しますが、一つだけお約束を」
「なんでしょう?」
「決して二人に無理強いしないでください」
「もちろんです、学ぶ姿勢が無ければ得られるものは殆どないでしょうし…。
そもそも協力してくださる方に失礼です」
するとエリザ伯爵夫人はとてもいい笑顔になり、
「お二人はその辺のことが良くわかってらっしゃるから、本当に助かります」
そうしてルイザーク伯爵邸に、久しぶりの明るさが戻るのだった。
----------------------------------------------------------------------------------------
さて、私は今日、王立騎士団に来ている。
レイチェルは大分元気になったことと、ホッランバック家の使用人などの準備を、デイビス卿と
一緒にやりたいと希望して、数日前に帰ったのだ。
もちろん、それ以外にも理由はあるのだが。
そんなレイチェルが、ルベンディン侯爵家の仮面舞踏会で活躍した王立騎士団の皆様に、
お礼が言いたいというとこで、今日来ることになっている。
んで、私はフィリアム商会の新作が出来上がったので、本日来ている。
「これなんですか?オルフィリア嬢~」
団員たちが、目を輝かせて寄って来た。
「ポップコーンと名付けた、フィリアム商会の新商品です」
いやね、先日のホッランバック家の騒動を見ている時に、下手な映画より映画っぽいな~、
映画と言えばポップコーン…ポップコーンってこの世界にあったっけ?
などと連想ゲームのように思いついて、調べたらなかった。
で、作った…と言う流れ。
みんながバクバク食べている中、
「オルフィリア嬢…少々よろしいでしょうか?」
テオルド卿とリグルド卿が神妙な面持ちで近づいてきたから、
「はい、どうぞ」
フェイラとルイーズの事だとすぐわかった。
「そうですか…わかりました。
このところ忙しい日が続きますが、それが終わったらお会いするとお伝えください」
「重ね重ねありがとうございます!!」
2人とも明るくなって、良かった良かった。
気づけば、いつの間にやらローカス卿が来ていた。
「あ、オルフィリア嬢!!ごち!!」
「たくさん食べて行ってくださいね」
笑顔で応対すると、
「や~、オルフィリア嬢はどっかの公爵閣下と違って、本当に人ができているねぇ」
と、本人隣にいるのに、嫌味たっぷりに言っていた。
この二人は、ずっとこんな関係なんだろうなぁ…と思い、眼を細めていると、
「失礼いたします」
むっさい男たちの中に、とても上品な声が響いた。
レイチェルだとすぐわかる。
「皆様…この度は危ない所をお助けいただき、ありがとうございました。
レイチェル・ホッランバックが御礼申し上げます」
ホント、上品だな~。
私と全然違うよ。
レイチェル含め、しばし団員たちと談笑したが、やがて昼休みが終わり、皆持ち場に
戻っていった。
残ったのは、いつものメンバー。
ほぼ定例となりつつある、報告会だ。
「まあ予想はしてたけど、ルベンディン侯爵家はお取りつぶしね」
当たり前だけどね。
持ってるだけで、罪に問われる禁止薬物の売買所となる場所を、提供してたんだから。
父親はこの仮面舞踏会に関しては、ノータッチだったらしいけど、今までの経緯から、
同情の余地なしとして、全てに領地・財産・爵位を剥奪されたらしい。
……まあ、殆ど残ってなかったそうだけど。
「でも…」
レイチェルの顔が暗い。
「不思議と…悲しくもなければ、つらくもないんです…。
むしろ…ホッとしたというか…」
ああ、なるほど。
暗い理由がわかった。
だから、
「そんなの当たり前じゃないですか」
「え…?」
レイチェルは随分と意外そうに、私を見た。
「今までひどい目にしか合わされなかったのに、身内だから悲しめなんてのは無理
ですよ」
「……」
「生んでくれたことにだけは、感謝すべきと思いますが…それ以外の感情は持たなくて
良いと思いますよ?」
あっけらかんと言い放つ。
ちなみにこれ、前世の親が死んだとき、私が人に言って欲しかったことね。
「そう…でしょうか…?」
「あくまで私は…そう思うだけです。
人に同意は求めません。
ただ、いろんな人間がいるんだから、レイチェル夫人はレイチェル夫人の好きにしたらいいと
思います。
どうせ、今すぐ決めなくてもいい事なんだし」
私が終始明るく言うと、レイチェルの顔が少し緩んだ。
やっぱりね…。
前世の私と同じだ。
身内の死を悲しめない自分が、どこか酷い人間だと思ってたんだね。
「それで…おばあ様はどうしたのですか?」
すると途端に、レイチェルの顔がぱっと輝き、
「無事に…ホッランバック家に引き取れました…。
主人がいいと言ってくれて…本当に感謝しています」
レイチェルがルベンディン侯爵家に逆らえなかった理由は…前当主の妻である祖母の為だ。
とてもしっかりした人だが、貴族の離婚は簡単にはできないため、結局ルベンディン侯爵家に
残らざるを得なかった人。
レイチェルがルベンディン侯爵家の要求を受け入れないと、会わせてももらえなかったらしい。
祖母はもういいからと何度も言ったらしいが、レイチェルがダメだったんだろう。
「当然のことをしたまで…ところでオルフィリア嬢」
「はい?」
「例の件なのですが…」
ああ、さっそく話し合ったのね。
良かった良かった。
「……」
「きっとお話ししたいこと…お願いしたいことがたくさんあったのでしょうね…」
これについては、テオルド卿、リグルド卿、両名共に心に何か思うところがあるようで、
何も話せなかった。
エリザ伯爵夫人は少し置いてから、
「先ほども話したように、フェイラとルイーズには、時間が必要です…。
ただ一つだけ、お二人にお願いがあります」
「なんでしょう?」
「オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢と、会わせてください」
「なぜ…?」
「クレアのお茶会とルベンディン侯爵家の仮面舞踏会…オルフィリア嬢はどちらも当事者として
関わっています。
オルフィリア嬢からも、お話をお聞きしたいのです」
テオルド卿とリグルド卿は顔を見合わせたが、
「わかりました、お願いしてみます。
しかし、多忙な方故…」
「もちろんです、急ぐ必要はありません」
その辺の柔軟性は、とても高いようだ。
「それと…これからの大まかな流れについても、ご説明しておきます。
お二人にもご協力いただくことが、あるかもしれませんので…」
「わかりました」
「まずは…二人の状態について。
ショックを受けてはおりますが、大分私に話をしてくれていますので、少しずつ外に出るように
した方がよろしいと思います」
「と言うと…庭や公園を散歩などと言う事ですか?
あとはショッピングとか…」
リグルド卿が言えば、エリザ伯爵夫人は笑顔になり、
「ええ、最初はなじみの店や…いい思い出があるところなど、見繕っていただけると助かります」
「承知しました」
リグルド卿は人の好さと世話好きも相まって、結構妹たちのショッピングに付き合っていた。
使用人並みに好みを熟知している。
「後これは…本人たちの希望を最重要視致しますが…」
「はい…」
「少し大丈夫になったら…私の懇意にしている貴族家に…臨時雇いの使用人として、雇ってもらう
事も考えております」
「それは…またどうして?」
テオルド卿もリグルド卿もびっくりしていた。
「まず二人とも…この先社交界でどうしたいかにもよりますが…」
エリザ伯爵夫人は一呼吸おいて、
「社交界から一生背を向けて生きる方も、中にはいらっしゃいますし、それをどうこうと私は
申し上げませんが…逃れられなくなる例も見ているのです」
「なるほど…」
「その時に必要に駆られて勉強するのもありかとは思いますが…環境が許すなら、社交界という場の
雰囲気や、そこでの立ち居振る舞いなど、勉強しておくに越したことはありません」
「それは…その通りですね」
「ですが令嬢として参加することは、今のフェイラとルイーズには荷が重いと思います。
なので一番いいのは使用人の中でも裏方…あまりお客様のお相手をせずに済むポジションに身を
ひそめることです」
「そんなことが、可能ですか?」
さすがに二人は人を育てる立場故、言わんとしていることがすぐにわかったようだ。
使用人というのは、参加者でないようで、お茶会や社交パーティーのほぼすべてに参加している
ようなものだ。
もちろん参加者の邪魔をするような真似はご法度だが、そうでなければ一番近くで人々がどのように
交流しているかを見ることができる。
「ええ…私の懇意にしている方の中に、全ての事情を承知の上で、お茶会や社交パーティーの場で
のみの、臨時雇いを受け付けてくださっている方がいるのです。
ハッキリと決まらない限り、お名前は申し上げられませんが…、その方が主催するお茶会や
社交パーティーは大変良質であると評判でしてね」
「そんな方が…」
「私が今までお願いしたご令嬢やご婦人に対しても、気さくに接してくださり…何かあればさりげなく
フォローもしてくださるんです。
もちろんその場には、私も絶対に参加しますがね」
「おかげで社交界の手練手管を、短期間で身につけられた方もいるくらいですので…。
上手くいく、いかないはさておき、フェイラとルイーズも社交界についての何かを学ぶには、もってこい
かと思います」
「それは…是非ともお願いしたいです」
「わかりました…私からも話しますが、一つだけお約束を」
「なんでしょう?」
「決して二人に無理強いしないでください」
「もちろんです、学ぶ姿勢が無ければ得られるものは殆どないでしょうし…。
そもそも協力してくださる方に失礼です」
するとエリザ伯爵夫人はとてもいい笑顔になり、
「お二人はその辺のことが良くわかってらっしゃるから、本当に助かります」
そうしてルイザーク伯爵邸に、久しぶりの明るさが戻るのだった。
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さて、私は今日、王立騎士団に来ている。
レイチェルは大分元気になったことと、ホッランバック家の使用人などの準備を、デイビス卿と
一緒にやりたいと希望して、数日前に帰ったのだ。
もちろん、それ以外にも理由はあるのだが。
そんなレイチェルが、ルベンディン侯爵家の仮面舞踏会で活躍した王立騎士団の皆様に、
お礼が言いたいというとこで、今日来ることになっている。
んで、私はフィリアム商会の新作が出来上がったので、本日来ている。
「これなんですか?オルフィリア嬢~」
団員たちが、目を輝かせて寄って来た。
「ポップコーンと名付けた、フィリアム商会の新商品です」
いやね、先日のホッランバック家の騒動を見ている時に、下手な映画より映画っぽいな~、
映画と言えばポップコーン…ポップコーンってこの世界にあったっけ?
などと連想ゲームのように思いついて、調べたらなかった。
で、作った…と言う流れ。
みんながバクバク食べている中、
「オルフィリア嬢…少々よろしいでしょうか?」
テオルド卿とリグルド卿が神妙な面持ちで近づいてきたから、
「はい、どうぞ」
フェイラとルイーズの事だとすぐわかった。
「そうですか…わかりました。
このところ忙しい日が続きますが、それが終わったらお会いするとお伝えください」
「重ね重ねありがとうございます!!」
2人とも明るくなって、良かった良かった。
気づけば、いつの間にやらローカス卿が来ていた。
「あ、オルフィリア嬢!!ごち!!」
「たくさん食べて行ってくださいね」
笑顔で応対すると、
「や~、オルフィリア嬢はどっかの公爵閣下と違って、本当に人ができているねぇ」
と、本人隣にいるのに、嫌味たっぷりに言っていた。
この二人は、ずっとこんな関係なんだろうなぁ…と思い、眼を細めていると、
「失礼いたします」
むっさい男たちの中に、とても上品な声が響いた。
レイチェルだとすぐわかる。
「皆様…この度は危ない所をお助けいただき、ありがとうございました。
レイチェル・ホッランバックが御礼申し上げます」
ホント、上品だな~。
私と全然違うよ。
レイチェル含め、しばし団員たちと談笑したが、やがて昼休みが終わり、皆持ち場に
戻っていった。
残ったのは、いつものメンバー。
ほぼ定例となりつつある、報告会だ。
「まあ予想はしてたけど、ルベンディン侯爵家はお取りつぶしね」
当たり前だけどね。
持ってるだけで、罪に問われる禁止薬物の売買所となる場所を、提供してたんだから。
父親はこの仮面舞踏会に関しては、ノータッチだったらしいけど、今までの経緯から、
同情の余地なしとして、全てに領地・財産・爵位を剥奪されたらしい。
……まあ、殆ど残ってなかったそうだけど。
「でも…」
レイチェルの顔が暗い。
「不思議と…悲しくもなければ、つらくもないんです…。
むしろ…ホッとしたというか…」
ああ、なるほど。
暗い理由がわかった。
だから、
「そんなの当たり前じゃないですか」
「え…?」
レイチェルは随分と意外そうに、私を見た。
「今までひどい目にしか合わされなかったのに、身内だから悲しめなんてのは無理
ですよ」
「……」
「生んでくれたことにだけは、感謝すべきと思いますが…それ以外の感情は持たなくて
良いと思いますよ?」
あっけらかんと言い放つ。
ちなみにこれ、前世の親が死んだとき、私が人に言って欲しかったことね。
「そう…でしょうか…?」
「あくまで私は…そう思うだけです。
人に同意は求めません。
ただ、いろんな人間がいるんだから、レイチェル夫人はレイチェル夫人の好きにしたらいいと
思います。
どうせ、今すぐ決めなくてもいい事なんだし」
私が終始明るく言うと、レイチェルの顔が少し緩んだ。
やっぱりね…。
前世の私と同じだ。
身内の死を悲しめない自分が、どこか酷い人間だと思ってたんだね。
「それで…おばあ様はどうしたのですか?」
すると途端に、レイチェルの顔がぱっと輝き、
「無事に…ホッランバック家に引き取れました…。
主人がいいと言ってくれて…本当に感謝しています」
レイチェルがルベンディン侯爵家に逆らえなかった理由は…前当主の妻である祖母の為だ。
とてもしっかりした人だが、貴族の離婚は簡単にはできないため、結局ルベンディン侯爵家に
残らざるを得なかった人。
レイチェルがルベンディン侯爵家の要求を受け入れないと、会わせてももらえなかったらしい。
祖母はもういいからと何度も言ったらしいが、レイチェルがダメだったんだろう。
「当然のことをしたまで…ところでオルフィリア嬢」
「はい?」
「例の件なのですが…」
ああ、さっそく話し合ったのね。
良かった良かった。
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