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第4章 旅行
9 どうしようもなかった…
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「アナタはそれでよかったでしょうよ!!
でも…私はアナタが消えた後…散々言われたんですよ!!」
ヴィネラェが身を乗り出し、
「きっと…痕跡を残さないようにして、意中の人と消えたんだって!!
堅苦しいから、捨てられるんだ…って。
私がアナタが消えたことを悲しんでいたって、ガルドベンダ公爵夫人の座は手に入ったのに、
被害者面してバカみたい…って!!
挙句…夫の尻拭いをするたびに、愛人からだって、同じようなこと言われたわ!!
その堅さじゃツェキオ様も愛想をつかすでしょうね…って!!
そんなのに晒されながら、必至でガルドベンダの為に働いて…働いて…きたの…に…」
……やっぱり、ツェキオ殿の為だったのかもな…。
この人がガルドベンダの為に、働いたのって…。
ツェキオ殿とツァルガ爺さんだったら、あきらかにツェキオ殿の方が力がある。
ツァリオ閣下がいるから、当主交代なんてことにはならないだろうが…。
それでも今までの頑張りから、ヴィネラェがツェキオ殿の元に行ったところで、誰も文句なんか
言わないだろう。
戸籍上がどうあれ、家の中の事なんて、外からじゃわかんないし…。
ツァルガ爺さんは…文句を言える立場じゃないだろうし…。
「わ、私は…アナタの為なら…何だって…私は…。どうして…。
どうして私に言ってくださらなかったのですか!!アナタの事なら、なんだって私は!!」
…受け入れられたのかな?本当に…。
還暦越えオババとしては、そんな簡単には無理だったと思うけど…。
「そういう事では、すまないんだよ」
ツェキオ殿の言葉尻が…大きくなった。
「私はキミが嫌いだったわけじゃないと言っただろう?
だが…それはいわゆる、妹や友達に対する感情と同じなんだ!!
私は…私の性質のせいで、決定的に一つ、当主としての大事な仕事ができないんだ!!」
ツェキオ殿の言葉は…さらに大きくなる。
「私は!!生まれてこの方一度も!!女性に対して性欲を感じたことが無いんだ!!」
これは…ヴィネラェだけじゃなく、周りの皆様の顔が…強張った。
「つまり私は!!女性と子供を作ることが、できないんだ!!
これは…当主としては、致命的な事だ!!」
信用してくれた時に、これは…話してくれたんだよね。
ツェキオ殿は性同一性障害であり、同性愛者でもある。
この人が抱きたいと…抱かれたいと思うのは…男性なんだ。
そういう人にとって…女性とエッチして子供を作れってのは、生理的に不可能だ。
「仮に…私が逃げ出さずに、キミと結婚したとしよう。
だが…私がキミと床を共にすることはできなかったし、強要されれば間違いなくキミを嫌いに
なっていただろう!!これはキミが悪いわけではないし、薬や医学で何とか出来るものでもない!!
私という人間が、そうだとしか言えない!!」
「そして…そうなれば…私のこの性質は、遅かれ早かれ父母にバレただろう…。
そうしたら何が起こるか…キミはわかるか?」
ヴィネラェは…震えるだけで、何も答えない…いや、答えられないのかも…。
「間違いなく…父はキミに指令を出しただろう。
ツァルガを誘惑して…子種だけもらうように…とね…。
そして、ガルドベンダの血を引く子を産むこと…。
もちろん、私の秘密はツァルガに一切ばらしてはいけない。ばらせば追い出すとも言っただろう。
それが出来ないなら、キミの不妊という事にして、離婚させ…その仕事をできる妻を、私の新たな
妻とする…とね。
それどころかツァルガが知るところとなれば…キミとツァルガが結託して、私を追い落とそうと
していると言って、ツァルガに対しても、処罰の名目で、どこぞに幽閉するぐらいしただろう。
そうすればキミも…連座して、幽閉されたかもしれん」
……本当に、家の為に冷徹になれる人だったんだなぁ…。
「あああ、兄上…。それは…」
ツァルガがいくら何でも言い過ぎ…と、言いたげに出てきたが、
「当時…ツァルガの口の軽さには、両親も頭を悩ませていた。
酒を飲んで酔っ払うと、聞かれてもいない家の事、ペラペラ喋って、何度も怒られていた。
そんなツァルガに私の秘密を、言うわけにはいかなかっただろう」
泡食ってるツァルガを見るに、真実なんだろう。
「なんだ、若いころからそうだったのですね。少しは直そうと思わなかったのですか?」
ツァリオ閣下の手痛い言葉は、より一層…ってか、この状況で辛辣ぅ~。
「い…やっかましいわ!!ツァリオ!!」
一応息子には強く出てるけど…負け犬の遠吠えだ。
「そして…こう言った事は、秘匿していても、いつかどこかから…バレてしまうと思ったほうがいい。
じゃあ、バレた時にどうなるか…。
間違いなく…キミが勝手に、ツァルガと不義密通を行ったと、全ての罪をキミに被せ、離婚させた
ろうな。ガルドベンダ公爵夫人として相応しくないと、社交界で吹聴もしただろう。
父も勿論、母も…その辺の事は、抜かりなくやれる人だった。
そして追い出した後…生んだ子供に、会う事など許すことはなかっただろう…」
ヴィネラェ…顔を覆ってとうとう泣き出したよ。
アイリン夫人が背中さすってやってる。
ラスタフォルス侯爵家ほどじゃないけど…この真実も、ギリアム共々悩んだんだよね。
外に出して…いい真実かどうか…ってね。
だから、言い方悪いけど、ツァリオ閣下に丸投げしたかったんだ。
結局は…ガルドベンダ公爵家の事だからね…。
アルフレッドとステファンに関しては…あほ面晒してるよ。
まあ…間違いなく優秀な脳みそをお持ちの方々でも、処理が追っつかないというか…。
そもそもこういう処理をするように、脳みそが出来ていないんだろうなぁ…。
「でも…」
誰も何も…言葉を発せない中、意外にも泣き伏せているヴィネラェが…喋り出した。
「でも…。バレるかどうかは…わからないじゃないですか…。
一生…バレずに秘密に出来るかも、しれなかった…。
だったら…私は…それに賭けたかったです…。アナタの…妻として…生きたかった…」
嗚咽交じりの声は…本当に心から…ツェキオ殿を愛していたんだとわかる。
本当に…神様のいたずらって言葉があるが、度が過ぎてるよ…。
「……ダメだ。どう考えても、バレた時のリスクが大きすぎる」
「そうだとしても、私はやってみたか…」
「キミは自分の子を不幸にする気か―――――――――――――――――っっ!!」
この時の声だけは…本当に怒号って言ってよかった。
「大人はいいさ!!ある程度…リスクを承知で覚悟してやる以上、どんな責苦を受けたとしても
自業自得だ!!
だが…それで生まれてきた子供には!!何の罪もないんだ!!それなのに!!」
ツェキオ殿が拳を握りしめる。
「お前は…不義密通の末に生まれた子なんだと…。穢れた子なんだと…。
事あるごとに揶揄されることになるんだ!!
それを聞いた子供が!!どんな思いをするか、考えたことがあるのか!!
どんな曲がり方をするか、わかったもんじゃない!!
いや…例え弾き返せるとしたって!!」
「その子が傷付けられなきゃいけない理由なんて、ひとかけらも無いんだ!!
子供は親の!!おもちゃでも道具でもないんだぞ!!そんな事、絶対に許されない!!
許されない事なんだ!!」
「そんな一生の枷を!!子供にしょわせる片棒を担ぐくらいなら!!」
目をカッと見開いたツェキオ殿が…まっすぐ前を見据え、
「この…ツェキオ・シェクス・ガルドベンダは…。
重責を投げ出し、身勝手に逃げた罪人として…断罪される道を選ぶ!!」
透き通った…重しの乗った声を…発した。
…………………………。
なるほどね…。
心ある者たちから…こぞって、この人だったら、先代ファルメニウス公爵に対抗できたのに…って
言わしめただけのことはある…。
先代ファルメニウス公爵やジョノァドみたいな…悪辣な奴と対抗するのに…最も必要な心構え…。
この人は、しっかりと持っている…。
「私は…失踪する決断をしたこと、正しかったとは思っていない」
「!!」
「だが…同時に間違っていたとも、思っていない…」
それだけ言うと…真っすぐにツァリオ閣下の方を向き、
「それでも…ガルドベンダ公爵家の行く末を、不安定なものにしてしまった事は、揺るがぬ事実」
静かに頭を下げる。
「ご処分を…。当代ガルドベンダのご当主様…」
……ツァルガ爺さんに当主が務まらない事も…わかってたんだよね。
「ツェッキーママ!!やめてよ!!アタシ達にはママが必要なのよ!!」
「そうよ!!ママ!!」
「行っちゃいやぁ~、ずっとここにいて!!ママ!!」
スージーさんをはじめ…店の皆がわらわらとツェキオ殿を囲み始めるが、
「止めなさい!!お前たちには言ってあっただろう!!いつか…こんな事になるかもと!!
その時は…私を黙って送り出して、処断した人間を責めないように…と!!」
「わかってる!!わかってるわよ、ママ…でもっ!!でも!!」
みんな…泣いて化粧が流れてら…。
例え覚悟してたって…。実際にそうなると…ね。
「1つ…」
そんな騒ぎの中でも…。
「1つどうしてもわからない事がある。お答え願います、伯父上…」
ツァリオ閣下の声は、通りがいい。
「なんでしょう…」
「なぜ…ギリアム公爵閣下の前で、筆跡を胡麻化すこと…やめたのですか?」
「……」
「わしもそうですが…あなたほどの人なら、複数の筆跡を使いこなせたはずだ。
だから…ガルドベンダは長年にわたり、アナタを見つける事が出来なかった…。
ギリアム公爵閣下の超のつく天才っぷりは、少し接すればわかったハズです。
なのになぜ…筆跡をアカデミーの著書と同じにしたのです?」
「その答えなら簡単ですよ…。ツァリオ閣下」
スージーさん達を落ち着かせつつ、ちょっとだけ目を細め、
「忘恩の徒になりたくなかったから…です」
「というと?」
ここで…ツェキオ殿の目は、憂いと悲しみを浮かべる。
「私は…自分の体が利かなくなってきたこともあり、いよいよ…人生の清算をせねばならぬ
時が来たのだろう…と、漠然と思い、10年前にこの国に返ってきました。
ですが…私が雑技団で世話をしていた子たちが、どうしても恩返しがしたいから、自分たちも
行くと言って、きかなくて…。
結局根負けして、みんなで帰ってきました…。
まあ…やっぱり私らみたいなのに対する扱いは、酷いもんでね…。
私はこの国の事を良く知っていたし、少し勉強すれば、今の法律がどうなっているかは分かったから
何とか交渉して、住むところや…一定の収入を確保できるようにはしました」
「しかし…流れ流れてではなく、定住するとなると、やはり…軋轢は避けられなかった。
私ができるだけ出たのですが、暴力的な事をする輩も多くてね…。
スージーが…自分が引き受けると言って…。今までの恩返しだから、気にするなと。
私にはできるだけ…長生きしてほしいから…って」
「私としては納得できなかったが、さりとて…法律的な事になると、私が出ていく機会もまだ
多かったから…。結局それを止められぬまま、気が付けば10年ほど経っていた…。
そんな折、殴られて帰って来たスージーが…随分と嬉しそうにしているから、どうしたのか尋ねたら…。
殴られている自分を見て、あんまりだと…止めに入ってくれた、貴族のご令嬢がいたと…。
自分の姿を見ても、一切態度を変えず、優しい言葉をかけてくれて、傷薬をくれたと言ってね…。
家紋は見えなかったが、立派な馬車に優秀な護衛騎士を連れていたから、あきらかに上位貴族の
ご令嬢だろうと…。
何だか…久々に嬉しくなった。
まだ歳若なご令嬢が…私らみたいな人種の事、理解してくれているとは…とね」
「だが…その後また、問題が発生した…。
仲間の大半が…どうやら騙されたらしく…かのギリアム公爵閣下の寵愛を一身に受けるご令嬢を
襲ってしまったと…」
……いや、襲ったってゆーか、ショーを見せてもらっただけやけど…。
そしてかなり…楽しめたんだけど…。
私は…ちょっと複雑な気分になりながら、ツェキオ殿の言葉を聞いた…。
でも…私はアナタが消えた後…散々言われたんですよ!!」
ヴィネラェが身を乗り出し、
「きっと…痕跡を残さないようにして、意中の人と消えたんだって!!
堅苦しいから、捨てられるんだ…って。
私がアナタが消えたことを悲しんでいたって、ガルドベンダ公爵夫人の座は手に入ったのに、
被害者面してバカみたい…って!!
挙句…夫の尻拭いをするたびに、愛人からだって、同じようなこと言われたわ!!
その堅さじゃツェキオ様も愛想をつかすでしょうね…って!!
そんなのに晒されながら、必至でガルドベンダの為に働いて…働いて…きたの…に…」
……やっぱり、ツェキオ殿の為だったのかもな…。
この人がガルドベンダの為に、働いたのって…。
ツェキオ殿とツァルガ爺さんだったら、あきらかにツェキオ殿の方が力がある。
ツァリオ閣下がいるから、当主交代なんてことにはならないだろうが…。
それでも今までの頑張りから、ヴィネラェがツェキオ殿の元に行ったところで、誰も文句なんか
言わないだろう。
戸籍上がどうあれ、家の中の事なんて、外からじゃわかんないし…。
ツァルガ爺さんは…文句を言える立場じゃないだろうし…。
「わ、私は…アナタの為なら…何だって…私は…。どうして…。
どうして私に言ってくださらなかったのですか!!アナタの事なら、なんだって私は!!」
…受け入れられたのかな?本当に…。
還暦越えオババとしては、そんな簡単には無理だったと思うけど…。
「そういう事では、すまないんだよ」
ツェキオ殿の言葉尻が…大きくなった。
「私はキミが嫌いだったわけじゃないと言っただろう?
だが…それはいわゆる、妹や友達に対する感情と同じなんだ!!
私は…私の性質のせいで、決定的に一つ、当主としての大事な仕事ができないんだ!!」
ツェキオ殿の言葉は…さらに大きくなる。
「私は!!生まれてこの方一度も!!女性に対して性欲を感じたことが無いんだ!!」
これは…ヴィネラェだけじゃなく、周りの皆様の顔が…強張った。
「つまり私は!!女性と子供を作ることが、できないんだ!!
これは…当主としては、致命的な事だ!!」
信用してくれた時に、これは…話してくれたんだよね。
ツェキオ殿は性同一性障害であり、同性愛者でもある。
この人が抱きたいと…抱かれたいと思うのは…男性なんだ。
そういう人にとって…女性とエッチして子供を作れってのは、生理的に不可能だ。
「仮に…私が逃げ出さずに、キミと結婚したとしよう。
だが…私がキミと床を共にすることはできなかったし、強要されれば間違いなくキミを嫌いに
なっていただろう!!これはキミが悪いわけではないし、薬や医学で何とか出来るものでもない!!
私という人間が、そうだとしか言えない!!」
「そして…そうなれば…私のこの性質は、遅かれ早かれ父母にバレただろう…。
そうしたら何が起こるか…キミはわかるか?」
ヴィネラェは…震えるだけで、何も答えない…いや、答えられないのかも…。
「間違いなく…父はキミに指令を出しただろう。
ツァルガを誘惑して…子種だけもらうように…とね…。
そして、ガルドベンダの血を引く子を産むこと…。
もちろん、私の秘密はツァルガに一切ばらしてはいけない。ばらせば追い出すとも言っただろう。
それが出来ないなら、キミの不妊という事にして、離婚させ…その仕事をできる妻を、私の新たな
妻とする…とね。
それどころかツァルガが知るところとなれば…キミとツァルガが結託して、私を追い落とそうと
していると言って、ツァルガに対しても、処罰の名目で、どこぞに幽閉するぐらいしただろう。
そうすればキミも…連座して、幽閉されたかもしれん」
……本当に、家の為に冷徹になれる人だったんだなぁ…。
「あああ、兄上…。それは…」
ツァルガがいくら何でも言い過ぎ…と、言いたげに出てきたが、
「当時…ツァルガの口の軽さには、両親も頭を悩ませていた。
酒を飲んで酔っ払うと、聞かれてもいない家の事、ペラペラ喋って、何度も怒られていた。
そんなツァルガに私の秘密を、言うわけにはいかなかっただろう」
泡食ってるツァルガを見るに、真実なんだろう。
「なんだ、若いころからそうだったのですね。少しは直そうと思わなかったのですか?」
ツァリオ閣下の手痛い言葉は、より一層…ってか、この状況で辛辣ぅ~。
「い…やっかましいわ!!ツァリオ!!」
一応息子には強く出てるけど…負け犬の遠吠えだ。
「そして…こう言った事は、秘匿していても、いつかどこかから…バレてしまうと思ったほうがいい。
じゃあ、バレた時にどうなるか…。
間違いなく…キミが勝手に、ツァルガと不義密通を行ったと、全ての罪をキミに被せ、離婚させた
ろうな。ガルドベンダ公爵夫人として相応しくないと、社交界で吹聴もしただろう。
父も勿論、母も…その辺の事は、抜かりなくやれる人だった。
そして追い出した後…生んだ子供に、会う事など許すことはなかっただろう…」
ヴィネラェ…顔を覆ってとうとう泣き出したよ。
アイリン夫人が背中さすってやってる。
ラスタフォルス侯爵家ほどじゃないけど…この真実も、ギリアム共々悩んだんだよね。
外に出して…いい真実かどうか…ってね。
だから、言い方悪いけど、ツァリオ閣下に丸投げしたかったんだ。
結局は…ガルドベンダ公爵家の事だからね…。
アルフレッドとステファンに関しては…あほ面晒してるよ。
まあ…間違いなく優秀な脳みそをお持ちの方々でも、処理が追っつかないというか…。
そもそもこういう処理をするように、脳みそが出来ていないんだろうなぁ…。
「でも…」
誰も何も…言葉を発せない中、意外にも泣き伏せているヴィネラェが…喋り出した。
「でも…。バレるかどうかは…わからないじゃないですか…。
一生…バレずに秘密に出来るかも、しれなかった…。
だったら…私は…それに賭けたかったです…。アナタの…妻として…生きたかった…」
嗚咽交じりの声は…本当に心から…ツェキオ殿を愛していたんだとわかる。
本当に…神様のいたずらって言葉があるが、度が過ぎてるよ…。
「……ダメだ。どう考えても、バレた時のリスクが大きすぎる」
「そうだとしても、私はやってみたか…」
「キミは自分の子を不幸にする気か―――――――――――――――――っっ!!」
この時の声だけは…本当に怒号って言ってよかった。
「大人はいいさ!!ある程度…リスクを承知で覚悟してやる以上、どんな責苦を受けたとしても
自業自得だ!!
だが…それで生まれてきた子供には!!何の罪もないんだ!!それなのに!!」
ツェキオ殿が拳を握りしめる。
「お前は…不義密通の末に生まれた子なんだと…。穢れた子なんだと…。
事あるごとに揶揄されることになるんだ!!
それを聞いた子供が!!どんな思いをするか、考えたことがあるのか!!
どんな曲がり方をするか、わかったもんじゃない!!
いや…例え弾き返せるとしたって!!」
「その子が傷付けられなきゃいけない理由なんて、ひとかけらも無いんだ!!
子供は親の!!おもちゃでも道具でもないんだぞ!!そんな事、絶対に許されない!!
許されない事なんだ!!」
「そんな一生の枷を!!子供にしょわせる片棒を担ぐくらいなら!!」
目をカッと見開いたツェキオ殿が…まっすぐ前を見据え、
「この…ツェキオ・シェクス・ガルドベンダは…。
重責を投げ出し、身勝手に逃げた罪人として…断罪される道を選ぶ!!」
透き通った…重しの乗った声を…発した。
…………………………。
なるほどね…。
心ある者たちから…こぞって、この人だったら、先代ファルメニウス公爵に対抗できたのに…って
言わしめただけのことはある…。
先代ファルメニウス公爵やジョノァドみたいな…悪辣な奴と対抗するのに…最も必要な心構え…。
この人は、しっかりと持っている…。
「私は…失踪する決断をしたこと、正しかったとは思っていない」
「!!」
「だが…同時に間違っていたとも、思っていない…」
それだけ言うと…真っすぐにツァリオ閣下の方を向き、
「それでも…ガルドベンダ公爵家の行く末を、不安定なものにしてしまった事は、揺るがぬ事実」
静かに頭を下げる。
「ご処分を…。当代ガルドベンダのご当主様…」
……ツァルガ爺さんに当主が務まらない事も…わかってたんだよね。
「ツェッキーママ!!やめてよ!!アタシ達にはママが必要なのよ!!」
「そうよ!!ママ!!」
「行っちゃいやぁ~、ずっとここにいて!!ママ!!」
スージーさんをはじめ…店の皆がわらわらとツェキオ殿を囲み始めるが、
「止めなさい!!お前たちには言ってあっただろう!!いつか…こんな事になるかもと!!
その時は…私を黙って送り出して、処断した人間を責めないように…と!!」
「わかってる!!わかってるわよ、ママ…でもっ!!でも!!」
みんな…泣いて化粧が流れてら…。
例え覚悟してたって…。実際にそうなると…ね。
「1つ…」
そんな騒ぎの中でも…。
「1つどうしてもわからない事がある。お答え願います、伯父上…」
ツァリオ閣下の声は、通りがいい。
「なんでしょう…」
「なぜ…ギリアム公爵閣下の前で、筆跡を胡麻化すこと…やめたのですか?」
「……」
「わしもそうですが…あなたほどの人なら、複数の筆跡を使いこなせたはずだ。
だから…ガルドベンダは長年にわたり、アナタを見つける事が出来なかった…。
ギリアム公爵閣下の超のつく天才っぷりは、少し接すればわかったハズです。
なのになぜ…筆跡をアカデミーの著書と同じにしたのです?」
「その答えなら簡単ですよ…。ツァリオ閣下」
スージーさん達を落ち着かせつつ、ちょっとだけ目を細め、
「忘恩の徒になりたくなかったから…です」
「というと?」
ここで…ツェキオ殿の目は、憂いと悲しみを浮かべる。
「私は…自分の体が利かなくなってきたこともあり、いよいよ…人生の清算をせねばならぬ
時が来たのだろう…と、漠然と思い、10年前にこの国に返ってきました。
ですが…私が雑技団で世話をしていた子たちが、どうしても恩返しがしたいから、自分たちも
行くと言って、きかなくて…。
結局根負けして、みんなで帰ってきました…。
まあ…やっぱり私らみたいなのに対する扱いは、酷いもんでね…。
私はこの国の事を良く知っていたし、少し勉強すれば、今の法律がどうなっているかは分かったから
何とか交渉して、住むところや…一定の収入を確保できるようにはしました」
「しかし…流れ流れてではなく、定住するとなると、やはり…軋轢は避けられなかった。
私ができるだけ出たのですが、暴力的な事をする輩も多くてね…。
スージーが…自分が引き受けると言って…。今までの恩返しだから、気にするなと。
私にはできるだけ…長生きしてほしいから…って」
「私としては納得できなかったが、さりとて…法律的な事になると、私が出ていく機会もまだ
多かったから…。結局それを止められぬまま、気が付けば10年ほど経っていた…。
そんな折、殴られて帰って来たスージーが…随分と嬉しそうにしているから、どうしたのか尋ねたら…。
殴られている自分を見て、あんまりだと…止めに入ってくれた、貴族のご令嬢がいたと…。
自分の姿を見ても、一切態度を変えず、優しい言葉をかけてくれて、傷薬をくれたと言ってね…。
家紋は見えなかったが、立派な馬車に優秀な護衛騎士を連れていたから、あきらかに上位貴族の
ご令嬢だろうと…。
何だか…久々に嬉しくなった。
まだ歳若なご令嬢が…私らみたいな人種の事、理解してくれているとは…とね」
「だが…その後また、問題が発生した…。
仲間の大半が…どうやら騙されたらしく…かのギリアム公爵閣下の寵愛を一身に受けるご令嬢を
襲ってしまったと…」
……いや、襲ったってゆーか、ショーを見せてもらっただけやけど…。
そしてかなり…楽しめたんだけど…。
私は…ちょっと複雑な気分になりながら、ツェキオ殿の言葉を聞いた…。
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★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
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第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
隠された第四皇女
山田ランチ
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ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
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幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
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※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。
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