ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 7

木野 キノ子

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第1章 来訪

6 ファルメニウス銀行

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ファルメニウス銀行は…新設当初より、大変な人気を誇った。
ギリアムの人気ももちろんだが、その誠実な性格により、ある意味国営銀行より、
ずっと資産を任せられる…と、こぞって貴族・平民問わず、皆が銀行に金を預けに来た
からだ。
実際…ウチの銀行が一番堅実にやっているし。
正にギリアムの性格がそのまま出てるなって、私も感じた。
急ごしらえだったのに、よくぞここまで…。
まあ、もちろん今でも色々改善をして、日々進化しているみたいだけど。

さて通常、国営も含め、他の銀行は貴族用窓口と平民用窓口を分けている。
入り口や出口も分けている。
だがギリアムの方針で、ファルメニウス銀行では一切そういう区別をしてない。
だから入り口はいくつかあっても、原則誰でもどこからでも入れる。

ダイヤは…一番大きな入り口から中に入った。

中は…凄い人でごった返していた。
ファルメニウス銀行って、時間帯関係なく、万年混んでる。
人気のせいでね。
有難いんだけどさ…ただ…そういうところって必ず…。

「一体いつまで待たせるんだ!!
私はチェロス・ベルヴェデ伯爵なんだぞ!!」

家の名前でずるしようとする奴が出る。

「失礼ながら…ギリアム様の方針で、平民・貴族関係なく、順番でお待ちいただくようにとの
指示を受けております」

「そこを何とかするのが、お前たちの仕事だろうが!!」

要するに…ギリアムの意志がどうであれ、いないんだったら、使用人のお前らが、
貴族である自分を優遇しろ…と?
だったら、よそ行け、よそ!!
よその銀行は、当然混んでようが、空いてようが貴族が最優先。
ウチはてめぇに頼んで、来てもらってねぇ。

あ、補足入れさせてもらうけど。
金の引き出しみたいな雑用、通常は使用人に任せるモノだろう。
しかし額が大きい場合と、銀行内で行わねばならない取引があると、貴族本人が来ることがある。
また、取引相手が安全のためと手間を省くために、銀行を交渉の場として指定する場合もあり。
ファルメニウス銀行は…ギリアムのお膝元で、まさか諍いなど起こさないだろう…という
安心感から、むしろ指定されること多し。

「それでしたら…VIP待遇の権利を請求なさってはいかがでしょうか?
審査に通ればすぐにでも、VIPルームへお通しいたします」

これ…実はこういう客対策なんだよ。
完全に貴族・平民を分けないのも、問題が生じてしまう可能性がある。
だから、特権を認めて欲しい奴らに、請求権を与えたらしい。
請求を受けたら審査して、VIPと認められたら、特別待遇が受けられるってね。
審査は…バリ厳しいよ。

「そ、そんな権利を請求しなくても、私は貴族なのだから!!」

「当銀行では、そう言った方針ですと、何度もご説明しております」

因みに一度通れば、その後ずっとVIP待遇をしてもらえるわけじゃない。
もし何か…問題ありと判断された場合は、取り消される可能性もあるし、最悪出禁だ。
ギリアムの品行方正っぷりに合わせた審査だから、当然店員に強引にごねる奴なんか
通るわけない。

だいたい文句があるなら、ギリアムに直接言えや。
無理だろーけど。

さて、そんな喧騒を全く意に介さず、ダイヤはキョロキョロとあたりを見回す。

(参ったな…)

どうやら…迷っているようだ。

(そもそも銀行なんて、使ったこと無いからな…。
どこで何すりゃいいんだ?)

「いかがされましたか?お客様…」

混んでいるとはいえ、そこは天下のファルメニウス。
困っている客を見つけるのは得意だ。

「あ~、金を…おろしに…来たんですよ…多分…」

ダイヤよ…。
それ…他の銀行だったら、完全不審者扱いでしょっ引かれるかもよ?

「そうですか…貯蓄の窓口はあちらになりまして…。
必要書類を書いた後、並んでいただく形になります。
そして、手続きが終わりましたらお呼びしますので…それまで中で待機していただけ
ますか?」

貯蓄窓口には長蛇の列。
待っている人も、大人数…。

(こりゃ…えらい時間かかりそうだな…)

ちょっとげっそりしつつも、

「えっと…書類の書き方…教えていただいても?」

「もちろんです」

職員は、書類を書く場所まで、誘導してくれた。

「書類はこちらになります…。
書き方の見本は、こちらにありますから、これに沿ってお書きください。
書けましたら、最後尾に並んでいただくよう、お願いいたします」

ダイヤは書類の書き方見本に目を通す。

(え~っと、取引札の…種類?と…番号??
後は…)

ここまで追った時…ダイヤの目に暗い色が灯る。

(以下の…いずれかの身分証の提示…か…)

ダイヤは必要書類を置き、

「オレは帰る…あと…」

己の懐から、取引札を出し、職員に投げつけるように渡した。

「それも返す。
やっぱりオレの来るところじゃ、なかったみたいだ」

「は、はあ?」

訳の分からない職員だったが、渡された取引札を見て、戦慄する。

「もっ、申し訳ございません!!お客様!!
VIP待遇のお客様を、一般窓口にお連れするなど…完全な当方の失態です!!
すぐにこちらにいらしてください!!
速やかに手続きいたします!!」

「は?」

今度はダイヤがわけわからなく、なったようだ。

「さあさ、どうぞお客様。
本当に失礼いたしました…」

「???」

そして導かれるまま通されたのは…明らかに場違いな部屋だった。
上品で美しい調度品が、程よい配置で並んでおり、ここの美をより引き立てている。
家具の上品さもさることながら、ソファーや椅子も明らかに最高級品であることが
わかる造りになっている。

そして応接ソファーの中央に座っているダイヤは…とても居心地が悪そう。

そんなダイヤの前に…スッとやって来たのは、背は低いが鍛えてはいる…という風貌の
60代の男性だった。
丸眼鏡に口髭と顎髭…白髪頭をピシッとオールバックにまとめたその姿は…明らかに
地位の高さをにじみ出させている。
そして、ダイヤに深々とお辞儀をして、

「この度は…こちらの不手際で、お客様を大変場違いな場所にご案内し、誠に申し訳
ございません。
今後はこのような事が無いよう、誠心誠意務めさせていただきますので、今回だけは
寛大なご処置をお願いいたしたく存じます」

(いや…この部屋こそ、オレみたいなのには場違いだと思うんだが…)

「別に構わんよ。
こんな格好した奴が、VIP客とは思わないさ」

居心地悪いし、動揺はしているようだが、そこは腐ってもプロ。
顔には出さない。

「ありがとうございます、そう言っていただき、胸をなでおろしました。
ああ、ご紹介が遅れましたが…私、このファルメニウス銀行本店の総括をしております、
ニフェイ・ビジェッツ伯爵と申します…。
以後お見知りおきを…」

(伯爵がオレに頭下げるのか?しかもこんなに丁寧に?)

慇懃無礼はさんざん見てきたのだろうが、丁寧な扱いは慣れていないようだ。

「して、今日はどういったご用件でしょうか?」

「え、あ~、金をおろしに…だな、うん」

やっぱりまだ、自分が銀行口座ってものを持てたことを、信用していないよう。

「かしこまりました。
取引札を確認いたしまして、2万5千ゴールド入金されておりますが、いかほど
引き出して、お渡しいたしますか?
それとも…どこかに送られますか?」

「へ?送って…もらえるのか?郵便局の仕事だろう?
あ…そう言えば、少し前に宅配っていう…システムを作ったんだったか…?」

「その通りでございます。
オルフィリア公爵夫人が考案されたもので、大変なご好評をいただいております。
お金の郵送や…ご希望されるならお手紙の同封もさせていただいております」

「そ、そうなのか?」

「もしよろしければ、お手紙こちらで書かれますか?
筆記用具とインクと便箋は、こちらで用意いたします。
VIP待遇の方は、全て無料ですので、ご遠慮なさる必要はありません」

「じゃ、じゃあ、お願いします」

用意された便箋に、手紙をしたためる最中、

(紙もインクもペンも…全部、最高級品だ…)

おや、お目が高いねダイヤよ。
そのとーり。

手紙を書き終え、渡す。

「えっと…送る代金って…」

「そちらもVIP待遇のお客様は無料です。
しっかりと届けさせていただきますので、何卒ご安心ください」

かなり驚いてるね…。
郵便局の現金書留は…金貨の重さもあって、かなり高い。
そして保証などない…。
さらに、郵便局員の盗みが一定数いる、悲しいけど。

「お送りになる金額は、いかがいたしますか?」

「えっと…それじゃ500ゴールドほど…」

「かしこまりました」

「あと…100ゴールドほど、持ち帰りたいんだが…」

「了解いたしました。
では全部で600ゴールドのご利用でございますね」

「あ、ああ。ところで…」

「何でございましょう」

「オレは身分証というものは、一切ないんだが…」

「VIP待遇のお客様は必要ございません。
では、こちら…お持ち帰りの100ゴールドでございます。
お納めください」

お盆に乗せられ差し出された100ゴールド…。
包まれている袋も、最高級品らしく頑丈だ。

「ああ、ありがとう…」

ダイヤは無造作に、懐にしまう。

「他にご用件はございませんか?」

「あ、ああ」

「では、出口までお見送りいたします」

(…そこまでしてくれるのか?)

何だか夢でも見ているような気持ちのまま、VIP待遇のお客様用応接間を出た時…、

「一体どういうことだ!!これはぁ――――――――っ!!」

品のない怒声を放ったのは…、先ほどもめていた、チェロス・ベルヴェデ伯爵だった。
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