ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 7

木野 キノ子

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第2章 危急

1 スペードの心境

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王都を離れた片田舎…。
馬車がごとごと揺れ動く中に、トランペストの姿があった。
周りは民家より、圧倒的に山や森が多く、時折畑が姿を現す…と言った感じだ。

そんな山間に…ひっそりと隠れるように、一軒の家があった。

広さ的には…2DKぐらいじゃないかな…。
周りの敷地には、やっぱりこじんまりとした畑があった。
もうほとんど収穫を終えたようで、枯れているか、引っこ抜いた後しかない。

そして馬車を降り、4人はその一軒家に近づいていくと…、

「あ!!帰って来た!!」

「お帰りなさ~い」

子供たち…年のころは5~10歳ほど。
女の子3人と男の子2人がまとわりついてきた。

その子たちに、トランペストは笑顔で…優しく接している。

「おかえり…」

その声は…とても静かで…穏やかだった。
年のころは60くらい…。
肩口まで延びた白髪を無造作に垂らしている。
顔は…皺は深いが、造形から昔は良い男だったんだろうなと、容易に想像できる。
腕には2歳くらいの男の子を抱いて、その場に佇んでいた。

「ただいま帰りました…先代…」

トランペストの4人は、全員揃ってあいさつした。

「ずっと便りも送れなくて…すみませんでした…」

ダイヤが言うと、

「ん?昨日届いたぞ。
500ゴールドと…手紙。
随分と金払いの良い客に会ったんだな。
ずっと音沙汰無いから、少し心配しとったが…肌つやも血色もいいし…逆にいいもん
食わせてもらってたんだなぁ」

はっはっはって感じで、とても嬉しそうに…陽気に笑った。

すると…なぜかスペードが震え出し、

「何なんだよ…」

「スペード?」

ダイヤが振り向くと、

「もうとっくの昔に!!人間の扱いを受ける事なんか、諦めたのに!!
期待するだけ無駄だって…ようやっと諦めたのに!!
なのに何で…」

スペードの目からは、大粒の涙がとめどなく落ちていた。

「何でいまさら…」

「人間として扱うんだよぉ…」

その場に崩れ落ちて…いつまでも泣き続けた…。

午後…昼を食べた子供たちが、お昼寝を始めた。
それを見計らったように、

「落ち着いたか…?」

ダイニングテーブルのような所に…先代とトランペストの4人が座っている。
先代は、彼らと自分に茶を入れると、

「なら、何があったのか、話せ」

彼らは…ルベンディン侯爵家の仮面舞踏会から始まって、狩猟大会、さらにゴギュラン病に
侵され、死ぬ寸前だった彼らを、私が救ったことまで、かなり正確に話した。

「なるほどな…オルフィリア公爵夫人の好評は、こんな辺鄙な地にも伝わってきていた。
ギリアム公爵の溺愛ぶりと、もともとの身分から、多少なりとも誇張されていると思って
いたが…、すべて真実か…」

先代はゆっくり茶をすすりつつ、

「そもそも何で、ファルメニウス公爵家なんぞに手を出した?
割が合わなすぎる仕事は、引き受けるなと言っただろうが」

するとスペードが、

「…ファルメニウス公爵家だとは…知らなかった…。
ある男爵令嬢を…殺す必要はない…むしろ殺さず痛めつけるだけだから…って」

「誰が持って来たんじゃ」

「イシュロのギルドの奴だ」

「あそこは、止めておけと言っただろうが…。
依頼の内容を、完全には言わないうえ、金払いも悪い」

「わかってたよ…けど…」

スペードは拳を握り、

「あの時…必要な金を賄えたのは…そこの依頼だけだったんだ…」

「本当なんだ、先代…。
あとは、下っ端仕事しかなかったから、殆ど金にはならなかった」

「みんなで相談して決めたんだ」

「そうなの!!」

4人とも…必死に訴えている。
すると先代は、

「…お前たちに、言うべきではなかったかな…。
病気になって…薬が必要だってこと…」

この地方…少し前に伝染病が流行ったんだよ。
決して治らない物じゃなかったんだけど…、薬がもともと高いのに…一部のバカな奴が
独占したせいで、さらに値が吊り上がっちまった。
こう言う事を禁止したくて、私はあの法律を、絶対に作りたかったんだ。
もちろんギリアムも大賛成してくれたし。

「蓋開けてみて…かなり割に合わないことは、すぐわかった…。
でも…手付が返せない以上、やるしかなかった…」

「全く…運よく離脱できたからよかったものの…一歩間違えれば大変なことになっとったぞ」

死ぬ…だけならいいけれど、それより酷いかも…ってことか。
先代って、闇の世界に長くいた分、本当に色々なものを見たんだろうなぁ。

「反省してます…」

4人ともかなり小さくなった。

「しかしよく、離脱させてくれたもんじゃ。
普通は…もっとごねるぞ」

「それはオレも…思っていました…。
相手が相手なだけに…」

スペードも早々に見抜いてはいたんだろう…、王家とジョノァドがどんな奴か。

「相手は誰だ?」

「…王家です」

すると先代の空気が一瞬で戦慄し、眼の色がぴしゃりと変わった。

「王家が闇に直接依頼するなど、あり得ん!!
窓口になったのは、誰じゃ!!」

「ジョノァド・スタリュイヴェ侯爵…」

すると先代の空気が、さらに…。

「このバカどもが―――――――――――――――――っ!!」

もう…魂の叫びって言っていい、雄たけびだった。

「なぜ一番関わっちゃいかん奴に、関わったんだ!!
あ奴だけは、絶対に近づいちゃいかんのに!!!」

「え…」

その時…。

「――――――――――――――――っっ!!!!!」

複数の窓ガラスの割れる音が響いた。

「なな…なんだ!!」

窓ガラスの割れる音は、鳴りやまない…、そして同時に壁に何かが、かなりの数当たって
いる音も響く。

「子供たちを連れてこい!!早く!!」

先代が手早く指示し、トランペストの4人がやっぱり手早く子供たちを確保。

そのころ、家の外では…。

「その位にしておけ…最悪死体があればいいとはいえ、できれば生きたまま捕えたい…」

何やら大勢の兵士たちが、物騒な話をしている。
兵士は皆、弓矢だけでなく、様々な武器を携帯している。

家は…見事に矢の雨を浴びていた。
窓を破壊し、壁に当たる音の正体は…無数の矢だった。

「では…斥候隊を入れろ。
油断するなよ…ジョノァド様の話では…かなりの手練れだそうだ」

「はっ!!」

指令を受けた兵士たちが、一斉に家になだれ込む。
さして広くもない家は、瞬く間に兵士で満たされた。

だが…。

「誰もおりません!!」

「なに…」

隊長らしき兵士は、初めて動揺して、

「探せ!!まだ近くにいるはずだ!!
こんな短時間で、遠くに行けるわけがない!!」

指示されて…兵士は家を中心に、近くに散っていく。

家の周りは茂みが多く、人が隠れようと思えば隠れられる。
そして…その茂みを越えると、野山が広がっている。

「ちっ、面倒だな…」

残っている兵士たちに、隊長は、

「お前たちも行け!!必ず夜明けまでに探し出すんだ!!」

「はっ!!」

皆…チームを組む形で、方々に散っていった。

辺りには…もうすでに夜の帳がかかり始めていた…。
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