ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 7

木野 キノ子

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第4章 恩赦

5 仕込み杖

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「あのさ、スペード…アナタ仕込み杖を、メインの武器にしているって聞いたけど…。
それで間違いないかしら?」

「え?あ、はい…。
オレは貴族の相手をするとき、正装でステッキ持つから…自然とそうなりました」

ジェードからの情報は、間違いない…と。

「なら…これ、使ってみない?」

私はフォルトが私の前に置いた、桐箱を開ける。

その中には…とてもシンプルで、でも洗練された…と、表現していい、杖が入っていた。
水の流れのような木目が、控えめに…でもしっかりと入っており、上部の突起の部分に
収束し、一つの芸術をそれだけで表現している。

「これ…結構…いや、かなり良い物じゃ…」

「あら、外見だけでよくわかったわね。
目がしっかりしているのは、いい事よ。
せっかくだから、持ってみなさい」

そう言われたスペードは…おずおずとゆっくり…手を伸ばす。
そして木目を撫でながら…やがて柄を握り、持ち上げた。

「あ…、あれ…?」

「どうした?」

スペードの反応に、ダイヤが横から口をはさむ。

「これ…本当に、仕込み杖ですか…?
凄く…軽い…」

スペードがそう言うのは当たり前。
仕込み杖って、つまるところ木の中に、鉄を仕込むわけだから、どうしても重くなる。
特に…この国の剣は、分厚いから余計だ。

「タタラ刀…って、知っているかしら?」

「ほお…タタラ刀とは…さすがファルメニウスと言ったところですな」

ジョーカーは…わかってるっぽい。

タタラ刀ってさ…この大陸のかなり外れの方にある、小さい国で作られている刀の事。
小さい国ではあるが、良質の鉄が豊富に取れることで、財政は割と安定している。

ただ…私の見た限り、フィリアム商会に持ち込まれたタタラ刀は…日本刀っていうより、
中国の青龍刀に近かった。
それでも…この国の剣に比べれば、よく切れるので、愛好家は沢山いるし、軍事的にも
利用されている。
ただ…量産は無理。
作る工程が難しい上、コストがかかりすぎて。

「でもこれは…タタラ刀に近いけど、タタラ刀ではないわ」

「ほおぉ…」

ジョーカー…とても興味津々っぽい。

「もう10年前ぐらいになるんだけどね…私がこの国の外れで暮らした時…すっごく変わった
刀工職人に会ったのよ」

この人は…とにかく…一言で言うなら狂気の刀マニア…それも珠玉の逸品を作ることに、
己の命を懸けている人…。
私がこの人に会ったのは…山に薬草取りに行ったとき…偶然動けなくなっているこの人を
発見し、人を呼んできたことが発端だ。
後日この人は…私にお礼を言いに来てくれた。
かなり変人と言われており、皆近づかないが、私はこの人が悪い人ではないと見抜いていたので、
少し話をした。
私の太客に、日本刀マニアがいたからね。
ある国では…こう言う形で刀を作ってますよ~って…まあ、世間話的にね…。

そしたら…。

その人の目の色…一気に変わっちゃったんだよね。
この時のことは…鮮明に覚えている。
そうしてその人は…そのまま一目散に自分の工房へ帰って行った。
私はこのすぐ後、この地を離れてしまったから、すっかり忘れ去っていた。

でも…フィリアム商会でタタラ刀を見た時…ふいに思い出して、その地に行ってみた。
刀工職人さんは…私を覚えていた。
そして会うなり、めっちゃ…本当にめっちゃ、お礼を言われた。
私のおかげで…10年で3本だけだけど、自分の…本当に納得いくものができたって。

それを聞いて私も嬉しくなったんだが…、なんと刀工さん…私にその3本をもらってくれと言った。
お金を払うと言ったのだが、受け取ってくれない。
まあ…山で食べ物は取ってるみたいで、暮らしてはいけるようだ。

ちょっとの間、押し問答の末…その人は今後も作り続ける刀を、私に献上したいと言い出した。
それを了承するなら…最低限度の材料費は受け取る…と。

破格すぎて、めまいがした。

だってさぁ…その人の作った刀って…、青龍刀って言うより…完全に日本刀だったんだもん。

3本のうち、1本はギリアムに…1本はフォルトにあげた。
だって…フォルトはそれだけの価値ある働きを、ファルメニウスでしていたし、これからもしてくれると
思っているから…。
フォルト…めっちゃ喜んでた。

「まあ、そういうワケでね…残り一本は私がとりあえず持っていたんだけど…。
私は剣を使わないし、そもそも使えるようになりたいとも思わないから…」

これ、ホントそう。

「だから…今後、私の護衛として活躍する…アナタに与えるのが適所と判断したわ。
ただ…取り扱いには、十分注意して…並みのタタラ刀なんかとは…比べ物にならないぐらいの
切れ味を持つから…」

ギリアムに実際使ってもらったんだけど…本当に日本刀の…名刀って言える切れ味だった。

私にそう言われたスペードは…静かにその刀身を、柄から抜き出した…。

私は日本刀マニアではないが…そんな私ですら、日本刀は美しいと思う…。
鉄を極限まで薄く叩き、自然と出現した美しい模様は…なぜか人をひきつけてやまない。
人を害する武器を…よくぞここまで、芸術として昇華させたものだ…というのが、私の意見。

そして…。
一流の目を持つスペードもまた…私が渡した仕込み杖の美しさが…わかったようだ。
無駄なものを…一切合切、捨て去った…究極の美が。

「奥様…」

「なに?」

何だか…絞り出しているに近い声だなぁ。

「これ…本当に…オレが…、オレなんかが貰っても…いいんですか…?」

まあ…今までの不当な評価が定着してれば、そう言うのも無理はない。

「もちろんよ。
ジェードにも言ったけれど…、仮にも私の護衛なのだから、最高の物を持ってもらわなきゃ
困るわ。
もちろん、使いこなせていないと判断したら、返してもらうわよ。
私の夫…ギリアム・アウススト・ファルメニウスは、超厳しい目でそういうの見るから、
覚悟しないさい」

「はいっ!!奥様!!」

めっちゃいい返事。
よっしゃよっしゃ。

と、思っていたら、

「ずっるーい!!なんで、スペードだけ、そんな良い物貰ってるのよぉ!!(ハート)」

「ホントだぜ!!オレこれから、銀行に金引き出しに行って、武器買ってくるつもりなんだぞ!!
(クローバ)」

「オレらはチームなんだから、4つに分けろ!!(ダイヤ)」

「いや、5つに分けるべきじゃ、ほれ、早く(ジョーカー)」

他のみんなから、凄まじいバッシングと要求が…。

「うるっせーな!!5つに分けたら、そもそも使い物にならんわ!!
これはオレが奥様からもらったんだから、オレのだ!!」

スペードが必死に守りに入る。

ああそう言えば…大事なことを、先に言っとくべきだったなぁ…。

「あのさぁ…武器・防具に関しては…日用品なんかよりよっぽど仕事で使うんだから、
こちらからの支給が当たり前よ」

そしたら…みんなが少しフリーズしてから、バッと一気に私を見る。

「事実ジェードは…ファルメニウス公爵家に仕えるようになってから…一度も自分の武器と
防具にお金払ってないからね。
そうよね、ジェード」

「ええ。すべてファルメニウス公爵家が、払ってくれましたよ」

ジェードはシレっと答えてくれた。

「じゃあ…これからみんなで武器庫に行ってみる?
ちょうどこの…演習場の近くにあるから。
あ、そうそう。
ファルメニウス公爵家お抱えの鍛冶職人はみんな腕がいいから…、ちょっとしたカスタマイズや
サイズの調整は、お手の物だから言ってね。
もちろん使いこなせば、お金は全部こちらが負担するわ」

ニコニコしながら言う私に…、

「奥様ぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――――――――――っ!!」

再度、すっごい勢いで食いついてくるみんな…。

「一生ついて行きますぅぅぅ――――――――――――――――――――――っ!!」

今まで…本当に苦労してきたんだねぇ…。

んで、武器庫に行ったみんなは…。

「うっお、すっげぇぇぇ―――――――――――――――――――っ!!
何だこれ、見たこと無いのが沢山あるぞぉ――――――――――――っ!!(クローバ)」

「いやーっ!!これ、どれを使っても、いいの?いいのぉ?(ハート)」

「凄いな…前のオレらじゃ、逆立ちしても買えないようなものばかりだぞ…(ダイヤ)」

「さすが武のファルメニウス…(ジョーカー)」

みんな…初めておもちゃ屋に連れてきてもらった、子供のようにはしゃいでおります。
何だか…おばちゃん嬉しいよ。

ぎゃあぎゃあ言いながら武器を選ぶ4人に対し、一人大人しいスペード。

「どうしたの?
アナタは選ばないの?」

声をかければ、

「オレは…奥様からもらった仕込み杖を…使いこなすのに集中したいので…」

と、これまた嬉しい事を言ってくれた。

「わかったわ。
でも、他に使いたいものが出来たら、いつでも言ってね」

「はい…」

私のあげた仕込み杖を…随分大事に抱えてくれている。
嬉しいなぁ。

そんなこんなで、その日は…更けていった。
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