ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 7

木野 キノ子

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第4章 恩赦

4 雇用条件といふもの

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トランペストの処遇が決まった数日後…私はファルメニウス公爵家の奥深い庭で、彼らと
相対する。
ここには…ファルメニウス公爵家の演習場がある。
武器鍛錬が当たり前というか、率先してやらねばならないファルメニウス公爵家の演習場は…、
国家の物より、よっぽど広くて立派だ。
私のそばには…フォルトとエマ…それに護衛騎士が数人。
私はいらないって言ったんだけど…フォルトが連れてきちゃったのよね~。
まあ、今回は…それでいいけど。

非常に礼儀正しく…私の前に現れた彼らは…終始平伏していた。

「さてと…じゃあ、形式的な挨拶もお世辞もいらないから、本題に入りましょう」

ファルメニウス公爵家でこれは、通常営業。
だって…無駄ななんだもん。
そもそも少し話をすれば…、相手がこっちに敬意を持っているかぐらい、わかるし。

「まず…私の私兵とはいえ、ファルメニウス公爵家に入ることには変わりはない。
だから…雇用条件は、ジェードを基準にしようと思う。
異論はないかしら?」

「もちろんです、奥様…」

スペードが代表して答えたけど…他の人も心はいっしょみたい。

「じゃあ…まず、ジェードは契約金で雇ったから、日々のお給料は貰っていないわ」

お、これちょっと護衛騎士の空気が変わったね…。
ジェードって…相当ギリアムに重宝されているから、結構たっぷり貰ってると思われてても
おかしくない。
護衛騎士や使用人に関しては…契約金なんて物無いから、ある意味当たり前の措置なんだけど。

「ただし…特別いい働きをした時は…臨時ボーナスを出すことになっているから…これは
適用します」

これは護衛騎士や使用人に適用しているものだから、問題なし。
逆にそろえなきゃ、不平等。

「ああ、そうそう。
ジェードもしっかり確認してね。
ギリアムの所から、正式に私の所に移るんだから」

「はい、奥様」

ジェード…すっごくいい笑顔。

「ああ、あと、ジョーカー…アナタも契約金の形にしようと思うんだけど、いいかしら?」

「奥様のお好きなように」

すっごいニコニコしてら。

「じゃあ…ジェードと同じ2万ゴールド…銀行口座にすでに入れてある。
これ…取引札。
引き出し方は…一度ダイヤが行っているから、聞いてちょうだい」

「おやおや、この老骨をそれほど評価してくださるとは…」

「当たり前でしょう?
トランペストは…アナタが仕込んだと聞いているわ。
だったら…それだけで質の良さがわかる。
もっと多くてもいいくらいよ」

「それはそれは…」

嬉しそうだなぁ…。
この人もトランペスト同様…やっぱあまり、眼の確かな人間に、使ってもらえなかったのかな…。
いや…。
裏社会は多かれ少なかれ、ジョノァドみたいなののほうが多いんだろうなぁ。
そんな所でなまじ…能力が高いと、それはそれで厄介なんだよなぁ。

「後これは…私の騎士だと証明するエンブレム。
みんなそれぞれ、持っていてくれる?」

実はこれ…ファルメニウス公爵家ではなく、オルフィリア・ファルメニウス…まあ正確には、
ファルメニウス公爵夫人のエンブレムだ。

補足すると…ファルメニウス公爵家初代が娶ったのが、王女であったため…、護衛は
ファルメニウス公爵家の騎士はもちろんだが、私兵…という形で、王家から来た人間がいる。
その人たちに与えられたもの。
ファルメニウス公爵家はもちろんだが、一番に…ファルメニウス公爵夫人を守ることを主とした
人間達に与えられた称号だ。

一見するとファルメニウス公爵家の紋章だが、裏に夫人を示すマークが入っているのさ。
ファルメニウス公爵家であるが、私の…と、一目で区別ができる。

「えっとそれから…ジェードから聞いていると思うけど…一応、住むところはこっちで用意するわ。
そこにいたの?ジェード」

「いいえ。
野宿してました。
オレはもともと訓練のために、その予定でしたので」

「ありゃりゃ…」

「奥様、お気になさらず。
わしら慣れとりますから」

全員が…同じようなこと言っている眼だ…。

まあね…。
私はトランペストのアジトに行ってみたんだけど…下水道の中にあって…ハッキリ言って、人間の
居られる場所か?ここ…って状態だった。

「わかった…じゃあ、後で案内するわ。
それから、他の条件については…基本ここの護衛騎士や使用人と同じにする。
ジェードもそうだから」

「わかりました」

「えっとまず…住むところはこっちで用意する。
光熱費(おもに薪やランプの油)は支給するから、無くなったら言ってちょうだい。
あ、そうそう水道はね、王都は…一応上下水道完備だからね。
ファルメニウス公爵家はそこに、独自の改良を加え、お湯まで蛇口から出るようにしてあるわ。
基本好きに使っていいから」

「……」

「食事は使用人用の食堂があって、3食そこで出すわ。
それを部屋に持って帰って食べてもいい。
外に出る時は、そこでお弁当を作ってもらうのもいいし、もし外で外食するなら、フィリアム商会
関連の飲食店なら、エンブレムを見せると、原則ただよ。
お金のかかるところなら…後で請求してくれれば、任務中に関しては、全額こちらが負担する。
あと着るものは、式典用の制服と…任務に使う衣服に関しては、経費として認めるから、こちらで
用意するわ。
プライベート用の物は自分で用意してもらうけど…フィリアム商会の試供品やB級品が一定数出るから、
それでよければ、原則ただで配ってる。
日用品も結構あるから、後で見て。
それからケガや病気は、ファルメニウス公爵家内の医療施設で対応するから、ちょっとおかしかったら
すぐ行って。
もちろんお金はかからない。
緊急で外で医者にかかった場合、任務のせいなら、お金はこちらで支給するわ」

私はここまで一気に言って、ジェードの方を向く。

「ギリアムが出した条件とこれで一緒だと思うけど…いいかしら?」

「ええ、変わりありません」

んで、私がトランペストのほうを見れば…キミたちは、なぜ顎を外して、眼玉をどこかに
旅立たせているのかね?

「あ…あああ、あの…奥様…」

スペードがかなり動揺した声を出している。

「おおお、オレたち…本当に、ここにいて、いいんですか…?」

場違いだとでも、言いたいようだ…。

「いや…説明聞いていたでしょう?
ジョーカーとジェードはまだしも、アンタたち4人は強制終身雇用なのよ。
もう、ファルメニウス公爵家を出られないわ。
で、アンタたちを一度追い出した時に言ったように…、雇用すると決めたなら、条件は同じにするのも
ファルメニウス流よ。
経緯はどうあれ…ね」

私はあっさり言ってのける。
だって…これギリアムの主義でもあるんだもん。

「奥様ぁ―――――――――――――――――――――――――っ!!」

うおぉっ!!
全員めっちゃ、食いついてきた。

「オレたち…奥様のために、身を粉にして働きます!!
損はさせません!!
お約束します!!」

嬉しい事を言ってくれる…。

「じゃあ、日常の話はこれくらいにして…一番重要な所に入るわよ。
その前に…フォルト…ジェードの武器、仕上がったんでしょ?
渡して」

するとフォルトが、何やら高級そうな…かなりの大きさの箱を出してきた。

「中には…年季が入っていそうながら、新品のように研がれた武器と…、何やら見たことのない武器…。
ロープ?鎖…の様なものの両側に、重しがついている」

ジェードは…眼が見えないからこそ、ゆっくり触って確認している。

「どう?ジェード…もともとの武器はしっかり研いだけど…新しい武器の具合は?」

するとジェードはにいぃっと笑って、

「素晴らしいです、奥様…。
まさにオレの…イメージ通りだ」

「なら…早速使ってみる?」

「ええ…」

ジェードは…かなり手慣れた手つきで、それらを装備し…演習場の真ん中へ。
鎖とおもりの武器は…トランペストが襲ってきたころ、ジェードに頼まれていたモノ…。
一対多数に対応できるように…と。

重りの片方を持ち、軽やかに振り出したジェードは…瞬く間に人型を模した人形の首にそれを飛ばす。
巻きついたそれは…人形の首をバキバキと破壊した。
それだけで終わらず…即座に4つ…ジェードが投げた鎖は、同じように他の人形の首も破壊した。

感嘆の声が上がる…。

それだけ…ジェードの動きが…素早すぎたから。
まるで…4人の人間を、同時に倒した…そう言う風に見えただろう。

「すっごーい、ジェード!!
さすが、さすがぁ!!」

「こちらこそありがとうございます、奥様…。
このような素晴らしいものを、作ってくださって…」

「当たり前じゃ~ん、アンタは私専属の護衛になるのよ。
この程度のものは、最低限持ちなさいな」

きゃっきゃとはしゃぐ私達。

「あ、そうそう、言っておくけど!!」

トランペストに向かい、

「武のファルメニウスでは…武術の抜き打ちテストは常にあると思ってちょうだい。
演習ってものは…ほとんどやらない。
そもそも…前々からあるって言われているものなら、国主催のものが結構あるし」

武術大会、それなりに多いのよ、この国。

「ファルメニウスでは…一切前置きなしで、腕試しが基本。
非常時ではなく、常日頃から臨戦態勢が基本だから。
一度だけで追い出されることは無いけれど…、成績がずっと芳しくなければ、解雇もありうる
からね…。
特に終身雇用の4人は…解雇=死刑か終身刑だから、心しなさい!!
ファルメニウスでは…手厚く庇護するぶん、甘えは許さないからね!!」

すると5人全員が、私の前で頭を下げ、

「かしこまりました、奥様…」

とだけ。
まあ…そう言う世界で、生きてきた人たちだからなぁ。
心配ないとは思っているが…一応ね。

「それがわかっていれば良し…!!
じゃ、フォルト!!
もう一つの持ってきて!!」

するとフォルトはいかにも怪訝な顔をして…、

「奥様…本当にアレを…この者に与えるおつもりですか…?」

スペードをちらりと見た。

「もちろんよ。
アレは…私が持っていても、宝の持ち腐れもいい所…。
さっさと出してちょうだい」

フォルトはため息一つつき、細長い大きな桐箱を出してきた…。
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