【魔法使いの世界を旅する一年 2010/12〜】

Zezilia Hastler

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ニホニア編 Side空

2日目 武器を作る

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「ーーどうしたの?」あざとい系女子アラサーのノエルさんが声をかけてきた。

 ここはホステルの中庭。

 ぼくの足元には、魔力で生み出した、銀色の鉄屑が転がっている。

 鉄屑は、ナイフや、短剣や、長剣、弓、クロスボウなど、様々な形をしていた。

「ぼくも武器を作ろうかと思って」

「なるほど」ノエルさんは頷いた。「扱える魔力の性質は?」

「素の魔力と、生命の魔力と、炎と土です」

 ノエルさんは、その緑色の目で、ぼくの目を見つめた。「万能の魔力は?」

「へ?」

 ノエルさんは、丸い手鏡を生み出して、自分のメイクをチェックして、髪を整えて、「うん、まあまあね……」と呟いてから、鏡面をこちらに向けてきた。

 なんだろう。
 今更鏡なんか見なくても、ぼくが可愛いのは知っているけど……。
 そう思いながら、鏡の中の自分の目を見て、首を傾げた。

 目の色がおかしい。

 ぼくの目の色は黄金色だが、今は、少しばかりの琥珀の色味が加わっていた。

 琥珀色の目は、万能の魔力の象徴だった。

 琥珀色の目、万能の魔術……、グロリア。

 メイクなんかしないし、鏡を見る習慣もあんまりなかったから、今まで気づかなかった。

 ぼくは、グロリアがくれた指輪を見た。

 この指輪の影響だろうか。

 そうなるとおかしい。

 グロリアは、指輪には、雷の魔力だけを込めたと言っていた。

 嘘を吐かれたのかもしれない。

 まあ、良いか。

 損をするわけでもないし、むしろ、このサプライズは、ぼくの身を守るのに役立つものだ。

 それに、目の色が変わっても、ぼくは相変わらず可愛い。

 文句はなかった。

「指輪の影響かも。友達がプレゼントしてくれたんです」

「良い友達を持ったわね」ノエルさんは微笑んだ。「万能の魔術を使えるなら、それなりに良い魔鉄を生成出来るはずよ。白金色もいけるかも」

「ミスリルとかは?」

「なにそれ」

「あ、ファンタジー小説に出て来る金属です。すっごく良質な鉄みたいなものです」

 ノエルさんは興味深げな様子で頷いた。「ソラの世界って面白そうね」

「ぼくにとってはこっちの世界の方が面白いですよ」

「本当にラシアでキャンプするつもり?」

 ぼくは、昨夜の会話を思い出しながら頷いた。

「やめておいた方が良いわよ。猛獣とかたくさんいるし、魔力を宿して暴走しちゃった魔獣もいるし」

「村のそばなら平気じゃないですか?」

「キャンプ場にしておきなさい」

 ぼくは頷いた。「そうします」

 ノエルさんはニヤニヤした。「そうする気ないわね」

 バレていた。「……前から憧れてたんです」

「見識ある者の話を聞かないのは感心出来ないけど、自分を持ってるのは良いことよ。それに、夢を叶えるのは大切なことね。じゃあ、手伝うわ」

「なにを?」

「武器作り」ノエルさんは、杖を振るった。

 ぼくの足元に転がっていた数キログラムの銀色の鉄屑が、宙を舞い、砂状になり、短剣の形になって、宙に浮いた。

 ノエルさんは、その短剣を掴んで、そのセクシーな指先で刃を撫でたり、振るってみたりして、納得したように頷くと、こちらに差し出してきた。「わたしからのプレゼント」

 ぼくは、短剣を受け取った。

 ずっしりと、重量感がある。

 数キログラムの鉄屑が、この小さな短剣に凝縮されたのだろう。

「頑丈に作っておいたし、素材はあなたの魔力から生まれた鉄だから、自分の魔力の通りも良いはずよ」

「ありがとうございます」

「刃のあたりの重量を操作したから、投げると刺さりやすいようになってる」

 ぼくは、早速中庭の端に行った。

 そこは簡素な訓練場のようになっている。

 ぼくは、丸太の的に向かって、20mほど離れた場所から短剣を投げた。

 短剣は、するりと、吸い込まれるように、丸太に刺さった。

 ぼくは、指を振るって短剣に魔力を送った。

 短剣は、丸太から抜け、ぼくの手元にやってきた。

 ずっしりと重たいが、握りやすく、振り心地も良い。

「なんかもう、これで良いんじゃないかって気がしてきました」

「他にも作った方が良いわよ。ニホニアにはあと何日滞在するの?」

「決めてません。2、3日くらいにしようかと」

 ノエルさんは頷いた。「じゃあ、寝込む余裕はあるわね」

「へ?」この世界特有の誘い方か何かだろうか、と思いながら、ぼくは、首を傾げた。

「いや、魔力を限界ギリギリまで注ぎ込んで、武器を生成するのよ。そうすれば、最高の一品が出来る。1日寝込む事になるけどね」

 ぼくは頷いた。

「魔力を蓄える指輪を作ったらどうかしら」

「なんですかそれ?」

「魔力を蓄える貯水槽のようなものよ。魔力が枯渇したときに、そこから魔力を供給出来るから、スタミナ切れを起こしにくくなる」

「便利そうですね」

「ソラは、どんな戦い方が得意なの?」

「わかりません。メインは旅行だし」

 今作ろうとしているのは、戦いっていうよりは護身のための武器だ。
 地球には半魔とか人間とかばかりで、魔獣も幻獣も少ないから、戦う必要に迫られたこと自体ないのだ。

 体育の授業では護身術や武器の扱いなども学んだが、戦闘術などは学ばなかった。

 そもそも、そんな物必要ないのだ。

「戦ったことなんてないし」と、ぼくは言った。

「お友達の指輪があるなら、魔力量も人並み以上だし、杖で良いんじゃない? その短剣もあるし……、いや、待った」と、ノエルさんは、何かを思い出すように、宙を見つめた。「生命の魔力を使えるなら、タネを作ると良いわ」

「タネ?」

「中心に生命の魔力の核をあしらった、魔力の塊よ。持ち主の想像力によって形を変えるのよ。頻度が多い物に育っていって、数ヶ月ほどで、花になる」

「頻度?」

「例えば、種が剣の形になったり短剣の形になったり弓の形になったりする。それで、数ヶ月後、一番多く経験した形状が短剣だったら、短剣の形に定まるの。イメージを具現化するのに最適な方法の一つよ」

「良いですねそれ。どうやるんですか?」

「生命の魔力の核を、万能の魔力で覆っても良いし、火の魔力と土の魔力を使っても良い。火の剣なんてかっこよくない?」

 ぼくは声を上げた。

 漫画みたいだ。

 素の魔力と、万能の魔力と、火の魔力と土の魔力で、種を4つ作っても良いかもしれない。

「クオリティにこだわるなら、核を作るにはありったけの生命の魔力を使う必要があるわ」

「あ、大丈夫です。ほどほどで良いんで。何事もほどほどが一番です。闇落ちのドラゴンを狩るわけでもありませんし」

 ノエルさんは、顔を曇らせた。「闇落ちのドラゴンね……、108年前に、この世界を恐怖に突き落とした存在……。ソラ、知ってるのね……」と、勝手にシリアスモードに突入した様子のノエルさんに、ぼくは戸惑った。

「えっと……」ぼくは頷いた。なんかまずいことを言っちゃった気がする。「その、あっちの世界に、本があるんです。ヴェルの冒険っていう本なんですけど」

「ヴェル? ヴェル……、闇落ちのドラゴン……、ヴェル……、なるほどね」

「なにがですか?」

「その著者の名前は?」

「ヴェル-G・パーキンスです」

「パーキンス……、ヴェル、G、パーキンスね。なるほど。そういうこと……」ノエルさんは頷いた。「やっぱ、わたしも行ってみたいわね。そっちの世界」

「え、どういうことですか?」

「闇落ちのドラゴンを倒したのは、そのヴェルって人よ」

「あ、やっぱりそうなんですね」

 ノエルさんは頷いた。「彼女は、ヴェルは、この世界における、史上最高の魔女よ」

「ほうほう」

「しかも絶世の美女」

「……ほう」

『ヴェルさんヴェルさんヴェルさん……』

と、聞いたこともないクラリッサの声が、頭の中で鳴り響いた。


ーーー


 ノエルさんから教わった方法で、タネを3つ作ったぼくは、ベッドの上に寝込んでいた。

 魔力が枯渇していた。

 目眩がするし、頭痛がする。

 頑張りすぎた。

 マークくんとビルギッタちゃんは、『ソラちゃんの看病をするっ!』と、頼もしいことを言ってくれていたが、今はソファの上で仲良く身を寄せ合い、すやすや眠っていた。

 可愛いかった。

 ゾーイさんは、ユアンさん、フィリップさん、ノエルさんと一緒に街に繰り出してしまった。

 具合の悪い時に一人きりというのは、心細い物だった。

 だが、こういう物にも慣れないといけない。

 これから、ぼくはゾーイさんと別れて、一人で旅をするのだから。

 しかし……。

 ぼくは、寝返りを打って、ハードカバーの本を取った。

 ヴェルか……。

 本を開いて、読もうとしたが、頭痛がしたので、すぐに閉じて、瞼を閉じた。

 この旅の目的が、一つ出来た……、そう思いながら、ぼくは、深呼吸をして、息を吐くと共に、全身から力を抜いて、眠りについた。
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