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ニホニア編 Side空
2日目 武器を作る
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「ーーどうしたの?」あざとい系女子アラサーのノエルさんが声をかけてきた。
ここはホステルの中庭。
ぼくの足元には、魔力で生み出した、銀色の鉄屑が転がっている。
鉄屑は、ナイフや、短剣や、長剣、弓、クロスボウなど、様々な形をしていた。
「ぼくも武器を作ろうかと思って」
「なるほど」ノエルさんは頷いた。「扱える魔力の性質は?」
「素の魔力と、生命の魔力と、炎と土です」
ノエルさんは、その緑色の目で、ぼくの目を見つめた。「万能の魔力は?」
「へ?」
ノエルさんは、丸い手鏡を生み出して、自分のメイクをチェックして、髪を整えて、「うん、まあまあね……」と呟いてから、鏡面をこちらに向けてきた。
なんだろう。
今更鏡なんか見なくても、ぼくが可愛いのは知っているけど……。
そう思いながら、鏡の中の自分の目を見て、首を傾げた。
目の色がおかしい。
ぼくの目の色は黄金色だが、今は、少しばかりの琥珀の色味が加わっていた。
琥珀色の目は、万能の魔力の象徴だった。
琥珀色の目、万能の魔術……、グロリア。
メイクなんかしないし、鏡を見る習慣もあんまりなかったから、今まで気づかなかった。
ぼくは、グロリアがくれた指輪を見た。
この指輪の影響だろうか。
そうなるとおかしい。
グロリアは、指輪には、雷の魔力だけを込めたと言っていた。
嘘を吐かれたのかもしれない。
まあ、良いか。
損をするわけでもないし、むしろ、このサプライズは、ぼくの身を守るのに役立つものだ。
それに、目の色が変わっても、ぼくは相変わらず可愛い。
文句はなかった。
「指輪の影響かも。友達がプレゼントしてくれたんです」
「良い友達を持ったわね」ノエルさんは微笑んだ。「万能の魔術を使えるなら、それなりに良い魔鉄を生成出来るはずよ。白金色もいけるかも」
「ミスリルとかは?」
「なにそれ」
「あ、ファンタジー小説に出て来る金属です。すっごく良質な鉄みたいなものです」
ノエルさんは興味深げな様子で頷いた。「ソラの世界って面白そうね」
「ぼくにとってはこっちの世界の方が面白いですよ」
「本当にラシアでキャンプするつもり?」
ぼくは、昨夜の会話を思い出しながら頷いた。
「やめておいた方が良いわよ。猛獣とかたくさんいるし、魔力を宿して暴走しちゃった魔獣もいるし」
「村のそばなら平気じゃないですか?」
「キャンプ場にしておきなさい」
ぼくは頷いた。「そうします」
ノエルさんはニヤニヤした。「そうする気ないわね」
バレていた。「……前から憧れてたんです」
「見識ある者の話を聞かないのは感心出来ないけど、自分を持ってるのは良いことよ。それに、夢を叶えるのは大切なことね。じゃあ、手伝うわ」
「なにを?」
「武器作り」ノエルさんは、杖を振るった。
ぼくの足元に転がっていた数キログラムの銀色の鉄屑が、宙を舞い、砂状になり、短剣の形になって、宙に浮いた。
ノエルさんは、その短剣を掴んで、そのセクシーな指先で刃を撫でたり、振るってみたりして、納得したように頷くと、こちらに差し出してきた。「わたしからのプレゼント」
ぼくは、短剣を受け取った。
ずっしりと、重量感がある。
数キログラムの鉄屑が、この小さな短剣に凝縮されたのだろう。
「頑丈に作っておいたし、素材はあなたの魔力から生まれた鉄だから、自分の魔力の通りも良いはずよ」
「ありがとうございます」
「刃のあたりの重量を操作したから、投げると刺さりやすいようになってる」
ぼくは、早速中庭の端に行った。
そこは簡素な訓練場のようになっている。
ぼくは、丸太の的に向かって、20mほど離れた場所から短剣を投げた。
短剣は、するりと、吸い込まれるように、丸太に刺さった。
ぼくは、指を振るって短剣に魔力を送った。
短剣は、丸太から抜け、ぼくの手元にやってきた。
ずっしりと重たいが、握りやすく、振り心地も良い。
「なんかもう、これで良いんじゃないかって気がしてきました」
「他にも作った方が良いわよ。ニホニアにはあと何日滞在するの?」
「決めてません。2、3日くらいにしようかと」
ノエルさんは頷いた。「じゃあ、寝込む余裕はあるわね」
「へ?」この世界特有の誘い方か何かだろうか、と思いながら、ぼくは、首を傾げた。
「いや、魔力を限界ギリギリまで注ぎ込んで、武器を生成するのよ。そうすれば、最高の一品が出来る。1日寝込む事になるけどね」
ぼくは頷いた。
「魔力を蓄える指輪を作ったらどうかしら」
「なんですかそれ?」
「魔力を蓄える貯水槽のようなものよ。魔力が枯渇したときに、そこから魔力を供給出来るから、スタミナ切れを起こしにくくなる」
「便利そうですね」
「ソラは、どんな戦い方が得意なの?」
「わかりません。メインは旅行だし」
今作ろうとしているのは、戦いっていうよりは護身のための武器だ。
地球には半魔とか人間とかばかりで、魔獣も幻獣も少ないから、戦う必要に迫られたこと自体ないのだ。
体育の授業では護身術や武器の扱いなども学んだが、戦闘術などは学ばなかった。
そもそも、そんな物必要ないのだ。
「戦ったことなんてないし」と、ぼくは言った。
「お友達の指輪があるなら、魔力量も人並み以上だし、杖で良いんじゃない? その短剣もあるし……、いや、待った」と、ノエルさんは、何かを思い出すように、宙を見つめた。「生命の魔力を使えるなら、タネを作ると良いわ」
「タネ?」
「中心に生命の魔力の核をあしらった、魔力の塊よ。持ち主の想像力によって形を変えるのよ。頻度が多い物に育っていって、数ヶ月ほどで、花になる」
「頻度?」
「例えば、種が剣の形になったり短剣の形になったり弓の形になったりする。それで、数ヶ月後、一番多く経験した形状が短剣だったら、短剣の形に定まるの。イメージを具現化するのに最適な方法の一つよ」
「良いですねそれ。どうやるんですか?」
「生命の魔力の核を、万能の魔力で覆っても良いし、火の魔力と土の魔力を使っても良い。火の剣なんてかっこよくない?」
ぼくは声を上げた。
漫画みたいだ。
素の魔力と、万能の魔力と、火の魔力と土の魔力で、種を4つ作っても良いかもしれない。
「クオリティにこだわるなら、核を作るにはありったけの生命の魔力を使う必要があるわ」
「あ、大丈夫です。ほどほどで良いんで。何事もほどほどが一番です。闇落ちのドラゴンを狩るわけでもありませんし」
ノエルさんは、顔を曇らせた。「闇落ちのドラゴンね……、108年前に、この世界を恐怖に突き落とした存在……。ソラ、知ってるのね……」と、勝手にシリアスモードに突入した様子のノエルさんに、ぼくは戸惑った。
「えっと……」ぼくは頷いた。なんかまずいことを言っちゃった気がする。「その、あっちの世界に、本があるんです。ヴェルの冒険っていう本なんですけど」
「ヴェル? ヴェル……、闇落ちのドラゴン……、ヴェル……、なるほどね」
「なにがですか?」
「その著者の名前は?」
「ヴェル-G・パーキンスです」
「パーキンス……、ヴェル、G、パーキンスね。なるほど。そういうこと……」ノエルさんは頷いた。「やっぱ、わたしも行ってみたいわね。そっちの世界」
「え、どういうことですか?」
「闇落ちのドラゴンを倒したのは、そのヴェルって人よ」
「あ、やっぱりそうなんですね」
ノエルさんは頷いた。「彼女は、ヴェルは、この世界における、史上最高の魔女よ」
「ほうほう」
「しかも絶世の美女」
「……ほう」
『ヴェルさんヴェルさんヴェルさん……』
と、聞いたこともないクラリッサの声が、頭の中で鳴り響いた。
ーーー
ノエルさんから教わった方法で、タネを3つ作ったぼくは、ベッドの上に寝込んでいた。
魔力が枯渇していた。
目眩がするし、頭痛がする。
頑張りすぎた。
マークくんとビルギッタちゃんは、『ソラちゃんの看病をするっ!』と、頼もしいことを言ってくれていたが、今はソファの上で仲良く身を寄せ合い、すやすや眠っていた。
可愛いかった。
ゾーイさんは、ユアンさん、フィリップさん、ノエルさんと一緒に街に繰り出してしまった。
具合の悪い時に一人きりというのは、心細い物だった。
だが、こういう物にも慣れないといけない。
これから、ぼくはゾーイさんと別れて、一人で旅をするのだから。
しかし……。
ぼくは、寝返りを打って、ハードカバーの本を取った。
ヴェルか……。
本を開いて、読もうとしたが、頭痛がしたので、すぐに閉じて、瞼を閉じた。
この旅の目的が、一つ出来た……、そう思いながら、ぼくは、深呼吸をして、息を吐くと共に、全身から力を抜いて、眠りについた。
ここはホステルの中庭。
ぼくの足元には、魔力で生み出した、銀色の鉄屑が転がっている。
鉄屑は、ナイフや、短剣や、長剣、弓、クロスボウなど、様々な形をしていた。
「ぼくも武器を作ろうかと思って」
「なるほど」ノエルさんは頷いた。「扱える魔力の性質は?」
「素の魔力と、生命の魔力と、炎と土です」
ノエルさんは、その緑色の目で、ぼくの目を見つめた。「万能の魔力は?」
「へ?」
ノエルさんは、丸い手鏡を生み出して、自分のメイクをチェックして、髪を整えて、「うん、まあまあね……」と呟いてから、鏡面をこちらに向けてきた。
なんだろう。
今更鏡なんか見なくても、ぼくが可愛いのは知っているけど……。
そう思いながら、鏡の中の自分の目を見て、首を傾げた。
目の色がおかしい。
ぼくの目の色は黄金色だが、今は、少しばかりの琥珀の色味が加わっていた。
琥珀色の目は、万能の魔力の象徴だった。
琥珀色の目、万能の魔術……、グロリア。
メイクなんかしないし、鏡を見る習慣もあんまりなかったから、今まで気づかなかった。
ぼくは、グロリアがくれた指輪を見た。
この指輪の影響だろうか。
そうなるとおかしい。
グロリアは、指輪には、雷の魔力だけを込めたと言っていた。
嘘を吐かれたのかもしれない。
まあ、良いか。
損をするわけでもないし、むしろ、このサプライズは、ぼくの身を守るのに役立つものだ。
それに、目の色が変わっても、ぼくは相変わらず可愛い。
文句はなかった。
「指輪の影響かも。友達がプレゼントしてくれたんです」
「良い友達を持ったわね」ノエルさんは微笑んだ。「万能の魔術を使えるなら、それなりに良い魔鉄を生成出来るはずよ。白金色もいけるかも」
「ミスリルとかは?」
「なにそれ」
「あ、ファンタジー小説に出て来る金属です。すっごく良質な鉄みたいなものです」
ノエルさんは興味深げな様子で頷いた。「ソラの世界って面白そうね」
「ぼくにとってはこっちの世界の方が面白いですよ」
「本当にラシアでキャンプするつもり?」
ぼくは、昨夜の会話を思い出しながら頷いた。
「やめておいた方が良いわよ。猛獣とかたくさんいるし、魔力を宿して暴走しちゃった魔獣もいるし」
「村のそばなら平気じゃないですか?」
「キャンプ場にしておきなさい」
ぼくは頷いた。「そうします」
ノエルさんはニヤニヤした。「そうする気ないわね」
バレていた。「……前から憧れてたんです」
「見識ある者の話を聞かないのは感心出来ないけど、自分を持ってるのは良いことよ。それに、夢を叶えるのは大切なことね。じゃあ、手伝うわ」
「なにを?」
「武器作り」ノエルさんは、杖を振るった。
ぼくの足元に転がっていた数キログラムの銀色の鉄屑が、宙を舞い、砂状になり、短剣の形になって、宙に浮いた。
ノエルさんは、その短剣を掴んで、そのセクシーな指先で刃を撫でたり、振るってみたりして、納得したように頷くと、こちらに差し出してきた。「わたしからのプレゼント」
ぼくは、短剣を受け取った。
ずっしりと、重量感がある。
数キログラムの鉄屑が、この小さな短剣に凝縮されたのだろう。
「頑丈に作っておいたし、素材はあなたの魔力から生まれた鉄だから、自分の魔力の通りも良いはずよ」
「ありがとうございます」
「刃のあたりの重量を操作したから、投げると刺さりやすいようになってる」
ぼくは、早速中庭の端に行った。
そこは簡素な訓練場のようになっている。
ぼくは、丸太の的に向かって、20mほど離れた場所から短剣を投げた。
短剣は、するりと、吸い込まれるように、丸太に刺さった。
ぼくは、指を振るって短剣に魔力を送った。
短剣は、丸太から抜け、ぼくの手元にやってきた。
ずっしりと重たいが、握りやすく、振り心地も良い。
「なんかもう、これで良いんじゃないかって気がしてきました」
「他にも作った方が良いわよ。ニホニアにはあと何日滞在するの?」
「決めてません。2、3日くらいにしようかと」
ノエルさんは頷いた。「じゃあ、寝込む余裕はあるわね」
「へ?」この世界特有の誘い方か何かだろうか、と思いながら、ぼくは、首を傾げた。
「いや、魔力を限界ギリギリまで注ぎ込んで、武器を生成するのよ。そうすれば、最高の一品が出来る。1日寝込む事になるけどね」
ぼくは頷いた。
「魔力を蓄える指輪を作ったらどうかしら」
「なんですかそれ?」
「魔力を蓄える貯水槽のようなものよ。魔力が枯渇したときに、そこから魔力を供給出来るから、スタミナ切れを起こしにくくなる」
「便利そうですね」
「ソラは、どんな戦い方が得意なの?」
「わかりません。メインは旅行だし」
今作ろうとしているのは、戦いっていうよりは護身のための武器だ。
地球には半魔とか人間とかばかりで、魔獣も幻獣も少ないから、戦う必要に迫られたこと自体ないのだ。
体育の授業では護身術や武器の扱いなども学んだが、戦闘術などは学ばなかった。
そもそも、そんな物必要ないのだ。
「戦ったことなんてないし」と、ぼくは言った。
「お友達の指輪があるなら、魔力量も人並み以上だし、杖で良いんじゃない? その短剣もあるし……、いや、待った」と、ノエルさんは、何かを思い出すように、宙を見つめた。「生命の魔力を使えるなら、タネを作ると良いわ」
「タネ?」
「中心に生命の魔力の核をあしらった、魔力の塊よ。持ち主の想像力によって形を変えるのよ。頻度が多い物に育っていって、数ヶ月ほどで、花になる」
「頻度?」
「例えば、種が剣の形になったり短剣の形になったり弓の形になったりする。それで、数ヶ月後、一番多く経験した形状が短剣だったら、短剣の形に定まるの。イメージを具現化するのに最適な方法の一つよ」
「良いですねそれ。どうやるんですか?」
「生命の魔力の核を、万能の魔力で覆っても良いし、火の魔力と土の魔力を使っても良い。火の剣なんてかっこよくない?」
ぼくは声を上げた。
漫画みたいだ。
素の魔力と、万能の魔力と、火の魔力と土の魔力で、種を4つ作っても良いかもしれない。
「クオリティにこだわるなら、核を作るにはありったけの生命の魔力を使う必要があるわ」
「あ、大丈夫です。ほどほどで良いんで。何事もほどほどが一番です。闇落ちのドラゴンを狩るわけでもありませんし」
ノエルさんは、顔を曇らせた。「闇落ちのドラゴンね……、108年前に、この世界を恐怖に突き落とした存在……。ソラ、知ってるのね……」と、勝手にシリアスモードに突入した様子のノエルさんに、ぼくは戸惑った。
「えっと……」ぼくは頷いた。なんかまずいことを言っちゃった気がする。「その、あっちの世界に、本があるんです。ヴェルの冒険っていう本なんですけど」
「ヴェル? ヴェル……、闇落ちのドラゴン……、ヴェル……、なるほどね」
「なにがですか?」
「その著者の名前は?」
「ヴェル-G・パーキンスです」
「パーキンス……、ヴェル、G、パーキンスね。なるほど。そういうこと……」ノエルさんは頷いた。「やっぱ、わたしも行ってみたいわね。そっちの世界」
「え、どういうことですか?」
「闇落ちのドラゴンを倒したのは、そのヴェルって人よ」
「あ、やっぱりそうなんですね」
ノエルさんは頷いた。「彼女は、ヴェルは、この世界における、史上最高の魔女よ」
「ほうほう」
「しかも絶世の美女」
「……ほう」
『ヴェルさんヴェルさんヴェルさん……』
と、聞いたこともないクラリッサの声が、頭の中で鳴り響いた。
ーーー
ノエルさんから教わった方法で、タネを3つ作ったぼくは、ベッドの上に寝込んでいた。
魔力が枯渇していた。
目眩がするし、頭痛がする。
頑張りすぎた。
マークくんとビルギッタちゃんは、『ソラちゃんの看病をするっ!』と、頼もしいことを言ってくれていたが、今はソファの上で仲良く身を寄せ合い、すやすや眠っていた。
可愛いかった。
ゾーイさんは、ユアンさん、フィリップさん、ノエルさんと一緒に街に繰り出してしまった。
具合の悪い時に一人きりというのは、心細い物だった。
だが、こういう物にも慣れないといけない。
これから、ぼくはゾーイさんと別れて、一人で旅をするのだから。
しかし……。
ぼくは、寝返りを打って、ハードカバーの本を取った。
ヴェルか……。
本を開いて、読もうとしたが、頭痛がしたので、すぐに閉じて、瞼を閉じた。
この旅の目的が、一つ出来た……、そう思いながら、ぼくは、深呼吸をして、息を吐くと共に、全身から力を抜いて、眠りについた。
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