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番外編 魔王城のとある一日
初めての料理
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「料理が作りたい!!」
ある日、サタニアは玉座の間に、エジタスを除いた四天王全員とクロウトを呼び出し、大きく宣言した。
「料理…………ですか?」
「ごめんなさい魔王ちゃん、まだ上手く理解が出来ていないわ。最初から説明してくれないかしら?」
突然呼び出され、突然言い渡された料理宣言に、頭の理解が追い付いていなかった。
「えっと…………今、エジタスはどうしてるかな?」
「エジタス様なら現在、自室の方でお休みになられています。…………何でも、今回は勇者の成長を促す為に苦労されたそうです。水がどうの…………クラーケンがどうの…………と、独り言を呟いていました」
「そう、今エジタスは自室にいてとても疲れている。だから、そんなエジタスに何か出来ないかなって僕なりに考えたんだけど…………やっぱり、美味しい物を食べると疲れなんかも吹き飛ぶと思うんだ。でも、只美味しい料理を食べて貰うんじゃ無くて、想いの詰まった料理を食べて貰いたいんだ。その為に僕、料理を作りたい。だけど、料理の“り”の字も知らないから、誰にも喋らない身近な皆に集まって貰ったんだ」
万が一、料理を作っている事をエジタスにバレてしまったら、食事の時に正直なコメントが貰えなくなってしまう。どんな料理を出しても“美味しい”と言われてしまう恐れがあるからだ。その為に、口が固いであろう四天王と側近のクロウトに料理を教えて貰うと考えたのだ。
「成る程…………そう言う事でしたか」
「そう言う事なら任せて!あたし達は、魔王ちゃんのお料理作りを手伝うわ!」
「オマカセアレ…………」
「…………だけどよ、本当に大丈夫か?そもそも、この中に料理が出来る奴はいるのか?」
シーラの当然の疑問に、一同は目配せをし合う。
「それなら安心して、多少なりとも料理の知識は持っているわ」
「へぇー、流石はアルシアさんだ」
「じゃあ早速、調理室の方へ行こう!」
そう言うとサタニアは、調理室がある方へと走り出した。
「サタニア様、走っては危険です!転ぶ可能性があります!」
「魔王ちゃんったら、健気ねー」
「リョウリハオレガ、ハカイツクシテヤル」
「ゴルガ…………お前、意味分かって言ってるのか?」
他の四人は、サタニアの後を追いかける様に走り出した。
***
「それで……何を作ったら良いと思う?」
「そうねー、やっぱり定番のフロッグトロールのハンバーグじゃないかしら?」
フロッグトロール。魔王城周辺に生息しており、その凄まじい自己回復力から滋養強壮に良いとされ、魔族達が良く好んで食べる一品である。
「しかしアルシア様、初めての料理を作るサタニア様には、ハンバーグは難易度が高いのでは無いでしょうか?」
「…………それもそうね。誰か他に良い料理の案がある?」
「やっぱ、ポイズンドラゴンのステーキだろ!全身が猛毒の鱗で覆われているが、その下は極上の肉だ。噛む度に肉汁が溢れ出て、それでいて後味はスッキリとしている…………クゥー!考えただけで涎が止まらねぇ!」
「ですから、料理初心者にハンバーグやステーキは、難易度が高すぎると言っていますでしょう。ステーキに至っては、焼き加減が少し違うだけでも味や肉質が格段に落ちるのですよ」
四天王達が提案する料理はどれも、初めて料理をするサタニアには、難易度が高すぎる料理ばかりであった。因みに、唯一残ったゴルガは…………。
「……ピュアダイヤモンド」
「それは……ゴルガ様しか食べられない物でしょう!!」
鉱石という、的外れな回答を出して来た。
「…………味噌汁」
「「「「えっ?」」」」
皆が作る料理に頭を悩ませていると、サタニアがボソリと呟いた。
「前に、エジタスが教えてくれた料理の一つに味噌汁が好きだって言ってた。特に、なめこの味噌汁が一番好きなんだって!」
「…………味噌汁って何かしら?」
「いやぁ、さっぱりだ……」
「オナジク…………」
しかし魔王を含め、四天王達は味噌汁という名前に聞き覚えがなかった。一人を除いては…………。
「私、知っています」
「本当!クロウト!?」
「はい、味噌汁とは人間達が好んで食べている野菜や豆腐等を入れ、味噌で味付けをした汁の事です」
「人間の!!…………そうね、それだったらクロウトちゃんが知っているのも納得だわ」
クロウトによる味噌汁の説明は、まだ終わらない。
「なめこの味噌汁とは、基本的な味噌汁に“なめこ”と呼ばれる茸を加えた料理になります。作り方の工程は、全て私が知っていますので困った際はお助けします」
「ありがとうクロウト!よぉーし、頑張るぞー!!」
そして、サタニアによる初めての料理が始まったのである。
***
「今日の晩御飯は何でしょうねぇ~」
エジタスは現在、サタニア達と一緒に食卓を囲み、夕食を供にしていた。これはエジタスが帰って来た日は皆で食事をしようというサタニアの考えで、毎度行われている。
「…………じゃあクロウト、今日の料理を持ってきて……」
「…………はい」
サタニアとアルシア、シーラ、ゴルガの四人とアイコンタクトを取ったクロウトは、調理室から“例の料理”を運んで来た。
「おお~こ、これは…………!」
エジタスの目の前に出された料理は、茶色の茸に白い豆腐が入っている紛れもないなめこの味噌汁であった。少し可笑しい所があるとすれば、味噌汁がスープ皿に入っている事位であろう。
「食べてみてよ…………」
「それでは、お言葉に甘えて…………」
サタニアの言葉に従う様に、エジタスは、仮面越しに口の隙間から味噌汁を流し込んだ。
「美味しい~!!」
「やった!」
エジタスの美味しいという一言に、サタニアは小さくガッツポーズを取った。
「いや~、まさか魔王城で大好きななめこの味噌汁を味わう事が出来るとは、今日は素晴らしい日ですね~」
「うふふ、実はねエジタスちゃん。このなめこの味噌汁は、魔王ちゃんが作ったのよ」
「ちょっとアルシア!!それは言わない約束でしょ!?」
アルシアの言葉に思わず立ち上がって、大声を上げてしまうサタニア。
「それは、本当ですかサタニアさ~ん?」
「う、うん…………」
「素晴らしい~!!」
エジタスは立ち上がると、サタニアの方へと歩みより、片手を取り両手で被せる様に包み込んだ。
「エ、エジタス!?」
「サタニアさん、私はとても嬉しいですよ~。私の為に作って下さるなんて、感謝感激とはこの事を言うのですね~」
エジタスに触れられ、その体温を感じているサタニアは徐々に頬を赤く染めていった。
「そうだ!!今度は私と一緒に料理を作っては下さいませんか?」
「エジタスと一緒に?」
「はい、こう見えても私、料理には自信があるのですよ!サタニアさんと料理仲間になりたいのですよ~」
「うん!やりたい!僕、エジタスと一緒に料理がしたい!」
エジタスの申し出に快く答えるサタニアは、もう片方の手でエジタスの手を握り返す。
「では、約束ですからね。その際は、皆さんに私達の料理を振る舞って差し上げましょう!!」
「あら、それは楽しみね」
「センセイノリョウリ、タノシミデス」
「期待してるぜ、エジタス!」
「サタニア様の料理でしたら、食べても構いません……」
「それじゃあ皆、冷めない内に食べよっか」
クロウトと四天王全員分の料理を作る事を約束し、サタニアの言葉を切っ掛けに席に座り直すエジタス。
「せーの、いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
こうして、サタニア達は自分達が作ったなめこの味噌汁を堪能するのであった。
ある日、サタニアは玉座の間に、エジタスを除いた四天王全員とクロウトを呼び出し、大きく宣言した。
「料理…………ですか?」
「ごめんなさい魔王ちゃん、まだ上手く理解が出来ていないわ。最初から説明してくれないかしら?」
突然呼び出され、突然言い渡された料理宣言に、頭の理解が追い付いていなかった。
「えっと…………今、エジタスはどうしてるかな?」
「エジタス様なら現在、自室の方でお休みになられています。…………何でも、今回は勇者の成長を促す為に苦労されたそうです。水がどうの…………クラーケンがどうの…………と、独り言を呟いていました」
「そう、今エジタスは自室にいてとても疲れている。だから、そんなエジタスに何か出来ないかなって僕なりに考えたんだけど…………やっぱり、美味しい物を食べると疲れなんかも吹き飛ぶと思うんだ。でも、只美味しい料理を食べて貰うんじゃ無くて、想いの詰まった料理を食べて貰いたいんだ。その為に僕、料理を作りたい。だけど、料理の“り”の字も知らないから、誰にも喋らない身近な皆に集まって貰ったんだ」
万が一、料理を作っている事をエジタスにバレてしまったら、食事の時に正直なコメントが貰えなくなってしまう。どんな料理を出しても“美味しい”と言われてしまう恐れがあるからだ。その為に、口が固いであろう四天王と側近のクロウトに料理を教えて貰うと考えたのだ。
「成る程…………そう言う事でしたか」
「そう言う事なら任せて!あたし達は、魔王ちゃんのお料理作りを手伝うわ!」
「オマカセアレ…………」
「…………だけどよ、本当に大丈夫か?そもそも、この中に料理が出来る奴はいるのか?」
シーラの当然の疑問に、一同は目配せをし合う。
「それなら安心して、多少なりとも料理の知識は持っているわ」
「へぇー、流石はアルシアさんだ」
「じゃあ早速、調理室の方へ行こう!」
そう言うとサタニアは、調理室がある方へと走り出した。
「サタニア様、走っては危険です!転ぶ可能性があります!」
「魔王ちゃんったら、健気ねー」
「リョウリハオレガ、ハカイツクシテヤル」
「ゴルガ…………お前、意味分かって言ってるのか?」
他の四人は、サタニアの後を追いかける様に走り出した。
***
「それで……何を作ったら良いと思う?」
「そうねー、やっぱり定番のフロッグトロールのハンバーグじゃないかしら?」
フロッグトロール。魔王城周辺に生息しており、その凄まじい自己回復力から滋養強壮に良いとされ、魔族達が良く好んで食べる一品である。
「しかしアルシア様、初めての料理を作るサタニア様には、ハンバーグは難易度が高いのでは無いでしょうか?」
「…………それもそうね。誰か他に良い料理の案がある?」
「やっぱ、ポイズンドラゴンのステーキだろ!全身が猛毒の鱗で覆われているが、その下は極上の肉だ。噛む度に肉汁が溢れ出て、それでいて後味はスッキリとしている…………クゥー!考えただけで涎が止まらねぇ!」
「ですから、料理初心者にハンバーグやステーキは、難易度が高すぎると言っていますでしょう。ステーキに至っては、焼き加減が少し違うだけでも味や肉質が格段に落ちるのですよ」
四天王達が提案する料理はどれも、初めて料理をするサタニアには、難易度が高すぎる料理ばかりであった。因みに、唯一残ったゴルガは…………。
「……ピュアダイヤモンド」
「それは……ゴルガ様しか食べられない物でしょう!!」
鉱石という、的外れな回答を出して来た。
「…………味噌汁」
「「「「えっ?」」」」
皆が作る料理に頭を悩ませていると、サタニアがボソリと呟いた。
「前に、エジタスが教えてくれた料理の一つに味噌汁が好きだって言ってた。特に、なめこの味噌汁が一番好きなんだって!」
「…………味噌汁って何かしら?」
「いやぁ、さっぱりだ……」
「オナジク…………」
しかし魔王を含め、四天王達は味噌汁という名前に聞き覚えがなかった。一人を除いては…………。
「私、知っています」
「本当!クロウト!?」
「はい、味噌汁とは人間達が好んで食べている野菜や豆腐等を入れ、味噌で味付けをした汁の事です」
「人間の!!…………そうね、それだったらクロウトちゃんが知っているのも納得だわ」
クロウトによる味噌汁の説明は、まだ終わらない。
「なめこの味噌汁とは、基本的な味噌汁に“なめこ”と呼ばれる茸を加えた料理になります。作り方の工程は、全て私が知っていますので困った際はお助けします」
「ありがとうクロウト!よぉーし、頑張るぞー!!」
そして、サタニアによる初めての料理が始まったのである。
***
「今日の晩御飯は何でしょうねぇ~」
エジタスは現在、サタニア達と一緒に食卓を囲み、夕食を供にしていた。これはエジタスが帰って来た日は皆で食事をしようというサタニアの考えで、毎度行われている。
「…………じゃあクロウト、今日の料理を持ってきて……」
「…………はい」
サタニアとアルシア、シーラ、ゴルガの四人とアイコンタクトを取ったクロウトは、調理室から“例の料理”を運んで来た。
「おお~こ、これは…………!」
エジタスの目の前に出された料理は、茶色の茸に白い豆腐が入っている紛れもないなめこの味噌汁であった。少し可笑しい所があるとすれば、味噌汁がスープ皿に入っている事位であろう。
「食べてみてよ…………」
「それでは、お言葉に甘えて…………」
サタニアの言葉に従う様に、エジタスは、仮面越しに口の隙間から味噌汁を流し込んだ。
「美味しい~!!」
「やった!」
エジタスの美味しいという一言に、サタニアは小さくガッツポーズを取った。
「いや~、まさか魔王城で大好きななめこの味噌汁を味わう事が出来るとは、今日は素晴らしい日ですね~」
「うふふ、実はねエジタスちゃん。このなめこの味噌汁は、魔王ちゃんが作ったのよ」
「ちょっとアルシア!!それは言わない約束でしょ!?」
アルシアの言葉に思わず立ち上がって、大声を上げてしまうサタニア。
「それは、本当ですかサタニアさ~ん?」
「う、うん…………」
「素晴らしい~!!」
エジタスは立ち上がると、サタニアの方へと歩みより、片手を取り両手で被せる様に包み込んだ。
「エ、エジタス!?」
「サタニアさん、私はとても嬉しいですよ~。私の為に作って下さるなんて、感謝感激とはこの事を言うのですね~」
エジタスに触れられ、その体温を感じているサタニアは徐々に頬を赤く染めていった。
「そうだ!!今度は私と一緒に料理を作っては下さいませんか?」
「エジタスと一緒に?」
「はい、こう見えても私、料理には自信があるのですよ!サタニアさんと料理仲間になりたいのですよ~」
「うん!やりたい!僕、エジタスと一緒に料理がしたい!」
エジタスの申し出に快く答えるサタニアは、もう片方の手でエジタスの手を握り返す。
「では、約束ですからね。その際は、皆さんに私達の料理を振る舞って差し上げましょう!!」
「あら、それは楽しみね」
「センセイノリョウリ、タノシミデス」
「期待してるぜ、エジタス!」
「サタニア様の料理でしたら、食べても構いません……」
「それじゃあ皆、冷めない内に食べよっか」
クロウトと四天王全員分の料理を作る事を約束し、サタニアの言葉を切っ掛けに席に座り直すエジタス。
「せーの、いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
こうして、サタニア達は自分達が作ったなめこの味噌汁を堪能するのであった。
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