笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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番外編 魔王城のとある一日

恋の行方

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 「はぁー…………」



 魔王城玉座の間にて、サタニアの深い溜め息が発せられる。





  「どうしたの魔王ちゃん?溜め息なんかついて……」



  「何か困り事でしょうか?」



  「アルシア、シーラ…………ううん、何でも無いよ」



 心配するアルシアに気を使って、何事も無い様に振る舞うサタニア。



 「何でも無い様には見えないわね」



 「私達は魔王様の配下です。主が悩んでいるのを、見て見ぬふりをする訳には行きません」



 「アルシア、シーラ…………」



 二人の言葉に説得されたサタニアは、自身の悩みを打ち明ける事にした。



 「実は…………」







***







 「それでですね、そのマオさんという方がそれはもう面白い人でしてね~」



 「ふ、ふーん、そうなんだ……」



 一週間に一度、エジタスと二人っきりで話し合える貴重な時間。この時間をサタニアはいつも楽しみにしていた。



 「いつも一生懸命で張り切る姿が、また何とも愛らしいの何の……」



 「そ、それよりさ!僕料理のレパートリーを増やそうと思っているんだけど……」



 「待って下さい。ここからが面白くなる所なんですよ」



 「ああ…………うん……」



 サタニアの言葉を遮り、真緒達の話を続けるエジタス。



 「それで私は言ったのですよ『キャーー!!マオさん達のエッチーー!!!』ってね」



 「そ、そうなんだそれは大変だったね…………」



 「全くマオさん達は、デリカシーが足りないと思うんですよ」



 「うん、僕もそう思うよ…………」



 エジタスの言葉に、只相槌を打つサタニアの目は既に腐っていた。



 「それでその後、私達はヘルマウンテンに行く事になるのですが……そこには……」



 「…………」



 延々とエジタスは、真緒達との冒険話を聞かせ続けるのであった。



 「すると今度は…………おや?もうこんな時間ですか、それでは私はそろそろ失礼させて頂きます。サタニアさん、また一週間後にお会いしましょうね~」



 そう言うとエジタスは、パチンと指を鳴らして、その場からいなくなってしまった。



 「…………はぁー……」



 以上が、ここ最近のエジタスとサタニアの状況である。







***







 「もぉー、エジタスちゃんったら乙女心を理解していないのね!」



 「魔王様は男の子だから、正確には“男心”と言うのでは無いか?」



 「…………そう言う事を言ってるんじゃ無いのよ」



 サタニアの悩みを聞いて、エジタスに腹を立てるアルシアと、的外れな回答をするシーラ。



 「というより、今の話の何処に悩んでいるんだ?いつも通りの勇者監視報告だろう?」



 「……そうね、一般的に見ればそう思うのかも知れないけど、魔王ちゃんはエジタスちゃんに恋しているのよ!愛する人が他の女の話ばかりだと、聞いてる方も気持ちが萎えちゃうでしょ!?」



 「ちょ、ちょ、アルシア!!?」



 突然エジタスが好きだという事を、アルシアに暴露されてしまったサタニアは、顔を真っ赤にしながら驚きの表情を浮かべていた。



 「成る程…………そう言う事か……つまり魔王様は、エジタスの事が好きなんだな?」



 「ええ、そう言う事よ」



 「ふ、二人供…………」



 二人に冷やかされて、あまりの恥ずかしさに、真っ赤に染まった顔から湯気が出そうになる。



 「それで…………私達は具体的にどうすればいいんだ?」



 「勿論、魔王ちゃんの恋を手助けするのよ!!」



 「え…………ええっ!!?」



 アルシアのまさかの言葉に臨界点を越え、顔から湯気が出て来た。



 「そ、そんな僕は只、もう少しエジタスとお話がしたいなって思っているだけだよ!!」



 「それが甘いのよ!!いい?恋愛って言うのはね、奥手になったら負けなの。相手の事を本気で思っているんだったらどんどん攻めないと、その内そのマオちゃんって子に取られてしまうかもしれないわよ!!」



 「…………!!」



 確かにそうかもしれない。今までずっと、直接エジタスに自分の思いを伝えられていなかった。料理や買い物をしたが、どれもめぼしい結果を得られてはいなかった。



 「一人で抱え込まなくてもいいのよ。だって恋愛は、一人で楽しむ物では無いんだから!」



 「…………アルシア、シーラ、僕やるよ!今度こそエジタスに、この気持ちを伝えて見せる!!」



 サタニアは決意を固め、アルシアとシーラに恋愛の手助けを頼む事にした。



 「その意気よ!!じゃあ早速、作戦を練るわよ!三人もいればきっと良いアイデアが生まれる筈よ!行くわよ!!」



 「「「おおーーー!!!」」」



 サタニア達は、エジタスを落とす作戦を考えるのであった。







***







 魔王城廊下。丁度角を曲がる所から少し離れた位置に、サタニアが自慢のワンピースを着て、両手には大量の書類を抱え込んで立っていた。



 「魔王ちゃん、準備はいい?」



 「う、うん大丈夫だよ」



 その場にアルシアとシーラの姿は無かった。サタニアの位置から更に離れた場所にある部屋の中にいて、扉を少しだけ開きその隙間からこちらの様子を伺っていた。何故遠く離れていても会話が可能なのか、それはアルシアが持っている“地獄耳”というスキルのおかげで、遠くにいる相手にも会話が成立させられるのだ。



 「でも、本当にこの作戦で大丈夫なのか?」



 アルシアの隣にいたシーラが、作戦に不安を抱いていた。



 「大丈夫に決まっているじゃない!!……まず、エジタスちゃんをこの部屋に来る様に呼び出す。この部屋に来る為には、あの角を曲がらないといけない。そして角から現れた瞬間、魔王ちゃんがわざとエジタスちゃんにぶつかって、持っている書類をばら蒔く。それを慌てて拾う二人の指と指が触れ合った時、お互い心臓の高鳴りが収まらない事に気がつく。すかさず魔王ちゃんが、愛の告白をする事によって二人は結ばれるという、この完璧な作戦の何処が不安なのよ!?」



 「いや、エジタスは転移が使えるから歩いて来ないんじゃないかなって……」



 シーラが不安の内容を明かすと、アルシアは得意気になって説明する。



 「その点は抜かり無いわ。エジタスちゃんの転移は、一度見ないと発動する事は出来ない。勿論この部屋にあたしはいない事になっているから、エジタスちゃんは歩いて来るしか無いのよ!」



 「流石アルシアさん、完璧な作戦ですね」



 二人が作戦の出来に喜び合っていると、奥の方から足音が聞こえて来た。



 「来たわ!魔王ちゃん用意は良い?」



 「は、はい!!」



 徐々に足音は大きくなって来た。数秒も経たぬ内に来る事は間違い無い。



 「さぁ…………来るわー……今よ!」



 エジタスの姿が見えた瞬間、アルシアは合図を送る。それに従う様に、サタニアはエジタスにぶつかろうとする。そして…………。



 「おおっと、危ない~」



 横に一回転をして、ヒラリと回避した。



 「避けんじゃねぇ!!」



 「!!ア、アルシアさん!!?」



 避けたエジタスに、思わずドスの利いた低い声を出してしまったアルシア。あまりの衝撃的な出来事に、背筋が凍るシーラ。



 「あ、あ、ああ!!」



 「おや、危ない」



 しかし、その声が功を奏したのかはたまたエジタスが避けたせいか、サタニアはバランスを崩し転びそうになったが、素早くエジタスがサタニアを持ち上げ、お姫様抱っこの状態になった。



 「エジタス…………」



 「こんな大量に持って行こうとするからですよ~、私も一緒に手伝ってあげます」



 「あ、ありがとう」



 そう言うと、エジタスとサタニアの二人は書類を分け合い、運んで行った。



 「…………どうやら、あたし達の手助けは不要だったようね」



 「どう言う意味ですか?」



 「おほほ、シーラちゃんにはまだ早かったかしらねー」



 「???」



 サタニア達の光景を見て、手助けは不要だったと微笑むアルシアと、未だに理解が追い付かないシーラであった。







***







 「~~~♪~~♪~~~♪」



 エジタスは、魔王城のバルコニーで鼻歌混じりに星空を眺めていた。



 「あ、エジタスこんな所にいたんだ」



 「おや、サタニアさんこそまだ起きていたのですか?夜更かしは美容の大敵ですよ~」



 「ちょっと、眠れなくて…………」



 真夜中。既にほとんどの者が眠りについている中で、サタニアは起きていてバルコニーにいるエジタスに気が付き、近づいて来た。



 「……何だかこうして二人だけでいるの懐かしいね」



 「そうですね~、初めてお会いした時以来でしょうか?」



 「初めてエジタスに会った時は、凄く驚いたなー。いきなり仮面を被った人が助けに来てくれたと思ったら、茸を取りに来ただけなんだもん」



 エジタスとサタニアは、迷いの森で初めて会った時の事を思い出していた。



 「それを言うなら私だってビックリしましたよ~。まさか、サタニアさんが男の娘だったなんて……」



 「それは……エジタスが勝手に勘違いしただけだよ……」



 星空を眺めながら思い出に浸っていると、サタニアが静かに口を開いた。



 「あの時、エジタスに会っていなかったら僕は生きる目的も無く、日々を過ごしていたと思う」



 「…………」



 「でも、今はクロウト、アルシア、シーラ、ゴルガ、そしてエジタスがいる。僕とっても幸せだよ」



 「…………」



 何を考えているのか、エジタスはサタニアの顔をじっと見つめる。



 「……さて、そろそろ行きましょうかね~」



 「もう……行っちゃうの?」



 「それが私の役目ですからね~」



 エジタスは真緒達の場所に戻る為、親指と中指を合わせ、転移の準備をする。



 「それではサタニアさん、また一週間後にお会いしましょう」



 「…………うん、待ってる」



 エジタスはパチンと指を鳴らすと、一瞬で姿を消した。



 「ずっと待ってるからね、エジタス」



 サタニアは、星空を眺めながら呟くのであった。









































 同時刻。エジタスも真緒達が寝ている中で、星空を眺めながら語り始める。



 「…………幸せとは、一種の感覚です。ある物事に自分が幸せだと感じても、相手が幸せとは限らない。たとえ、百人に聞いて九十九人が幸せだと答えても、必ず一人は幸せでは無いと答える。それは、他の人とは同じ答えになりたくないという思いからなるのでしょう。……サタニアさんの幸せは、私にとって幸せなのか幸せじゃないのか。はてさて、どっちでしょうかね~」



 長々と語るエジタスの言葉は、誰の耳にも届く事は無かった。
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