笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

文字の大きさ
105 / 300
第七章 冒険編 極寒の楽園

深き眠りからの目覚め

しおりを挟む
 「さて、行くか」



 真緒達は、ケイと一緒に“アンダータウン”へ戻る為、小屋の外で供に一晩を過ごしていた。



 「そうですね、早くこの王冠をスゥーさんに届けて、安心させないといけませんね」



 「あ、すまん。行く前に妹に声を掛けておきたい」



 眠っているとは言え、唯一の家族に何の言葉も無く出掛けるのは、ケイの良心が許さない。



 「ええ、勿論いいですよ」



 「ありがとう、少し待っててくれ」



 そう言うとケイは、足早に小屋の中へと入って行った。



 「さてと…………えっ?」



 ケイの目の前には、信じられない光景がそこにあった。



 「イ、イウ…………?」



 ずっと眠り続けていた筈のイウが、体を起こし目を覚ましていた。



 「お兄ちゃん?うーん、おはよう」



 大きく背伸びをする妹に、兄であるケイはあまりの嬉しさに身震いさせる。



 「イウ、イウ、イウ!!!」



 ケイはイウに駆け寄ると、思いっきり強く抱き締めた。



 「い、いきなりどうしたのお兄ちゃん!?それに、苦しいよ……」



 「ああ、ごめんごめん。お前が起きてくれた事がうれしくてつい……な」



 強く抱き締めるあまり、息苦しくなってしまった妹に慌てて力を弱める兄。



 「もぉー、お兄ちゃんは大袈裟なんだから……ちゃんと一人で起きられるよ」



 「あ、そっか、寝ていたから記憶は無いのか…………」



 「??」







***







 「ええっ、妹さん目を覚ましたんですか!?」



 「ああ、俺も驚いたよ。今までの苦労が嘘みたいだ」



 現在、ケイは小屋の外で待っていた真緒達に、妹のイウが目を覚ました事を伝えていた。



 「よかったですね、ケイさん!」



 「そうだな。だけど、どうして眠りについてしまったのか、よく覚えていないらしいんだ」



 残念ながら、ピクシーデビルに取り付かれた時の記憶は、覚えてはいなかった。それにより真緒達が真相に辿り着く事は無くなった。



 「結局、何が原因だったんだろうな?」



 「もういいじゃありませんか、結果的に妹さんは助かったんですから……」



 「そうだな……」



 真緒達は深く追求せず、そっとしておく事にした。



 「それで、今妹さんは?」



 「寝むちゃったよ」



 「「「「ええーーー!!?」」」」



 「あ、ああ、違うそうじゃない。今度のは正真正銘普通の眠りだ。イウが言うには、まだ寝たりないらしい……」



 「「「「…………」」」」



 心臓が飛び出るかと思った。折角目覚める事が出来たというのに、二度寝して、再び目覚められなくなってしまったら本末転倒である。



 「そ、それなら一安心です……」



 「それとな、イウが目覚めても俺はお前達について行くからな」



 「駄目ですよ!!何言っているんですか!?やっと妹さんの目が覚めたと言うのに、側にいてやって下さい!!」



 妹のイウが漸く目覚めたと言うのに、何故か真緒達と一緒に“アンダータウン”について行くと公言するケイ。



 「昨日言っただろう?イウが目を覚ました時にこんな汚れた兄を見せたく無いって、イウは目を覚ました。だけどまだ肝心の俺が汚れたままなんだ…………だから、スゥーさんにきちんと謝って綺麗な体になってから、イウと一緒に暮らそうと思う」



 「ケイさん……」



 「……ってイウに説明したら『当たり前でしょ!!いくら私の為だと言っても、他人の大切な物を盗んで来るなんてお兄ちゃん最低だよ!!もう、早くその人に謝って来て!そうじゃないと、二度と家の敷居を跨がせないからね!!』……そう言われてしまってな……」



 「…………つまり、妹さんと一緒にいたいけど本人が謝罪して来るまで家には入れないと、言われてしまったという訳ですか?」



 「ああ、その通りだ」



 「「「「…………」」」」



 真緒達は呆れていた。あんなカッコいい事を公言しておいて、結局は妹に説得されただけであった事に……そして、それを自慢げに語る男に対しても呆れていた。



 「……それじゃあ、出発しましょうか……」



 「おう、出発進行!!」



 一人だけテンションが激しい中、真緒達はスゥーが待つ“アンダータウン”に戻るのであった。その道中、林にてエジタスと合流した。



 「師匠!!」



 「おや~、マオさ~ん。戻って来たのですね~」



 「あの、実はですね……ケイさんの妹さんが目を覚ましました!」



 「何と!?……どうやら、私の考えは間違っていた様ですね~。マオさんの両方助けたいという考えこそが、正しい答えだったのですね」



 「し、師匠の考えは間違っていません!私のは、只のお人好しです……」



 自身の考えを否定するエジタスに対して、間違っていないと主張する真緒。



 「……では、そのお人好しを大切にして下さい」



 「えっ?」



 「人間、誰にでも個性があります。ですが人はその個性を殺して、周りの人達と同じになろうしてしまいます。同調圧力というやつですね。だからマオさん、あなたはそんな人達と同じにならない様に、皆を助けたいというその考えを、個性を、大切に育てて下さい」



 「師匠……分かりました!私、この個性を大事にしていきます!そしていつか、周りの人達が幸せになれる様にして見せます!!」



 「良いですね~、夢は小さくてはいけません。夢は、大きく持つ物ですよ~」



 エジタスと合流を果たした真緒達は、真緒の大きな夢と共に“アンダータウン”に歩みを進めるのであった。







***







 「戻って来ましたね」



 「本当に雪が積もっている……前に来た時は、野花が咲き乱れる良い場所だったのに……」



 真緒達は、ケイと供に歩き続け洞窟の入口までやって来た。



 「なぁ、マオ……」



 「どうしましたか?」



 「何か、前よりも雪の量が増えていないか?」



 足踏みをしながら、フォルスが問い掛ける。



 「気のせいじゃないですか?」



 「……そうなのか?」



 「ほらほら、そんな事より早く行きましょう!」



 「あ、ああ…………」



 疑問に感じながらも、フォルスと真緒達は洞窟の中へと入って行った。



 「…………マオぢゃん」



 「ん、どうしたのハナちゃん?」



 真緒達が、滑る例の地面を転ばない様にゆっくり歩いていると、ハナコが真緒に話し掛けて来た。



 「何だが、前よりも寒ぐ感じねぇだがぁ?」



 「うーん、そう?前もこんな感じじゃ無かった?」



 「ぞうがなぁ……オラ、熊人の筈なのに寒ぐ感じるだよぉ」



 「あははは、それはハナちゃんがそんな服装だからだよ」



 真緒は、ハナコのへそ出しタンクトップを指摘する。



 「ぞうなのがなぁ……?」



 フォルスと同じく、疑問が拭えないまま一行は先に進んで行く。



 「着きましたよ。“アンダータウン”です」



 「こ、これは…………」



 ケイは目を疑った。前に来た時は、町の人々の笑い声が絶え間無く聞こえ、活気に満ち溢れていた。しかし、今はその全てが凍り付き静寂が町を支配していた。



 「俺は、とんでも無い事をしでかしてしまったんだな……」



 「大丈夫ですよ!この王冠をスゥーさんに返してあげれば、きっとこの町も元に戻る筈です!」



 「……そう言って貰えると、少し気が楽になるよ」



 「さぁ、行きましょう!」



 「ああ…………」



 真緒達はスゥーを捜す為、町の中に足を踏み入れた。



 「いったい何処にいるんだろう…………あ、いた!!」



 町中を捜索していた真緒達は、噴水広場にて見覚えのある後ろ姿の女性を発見した。



 「スゥーさん、炎の王冠を見つけましたよー!」



 真っ白な着物を着た真っ白な女性は、ゆっくりと真緒達の方を振り返った。



 「あら、これはまた氷付けのしがいがありそうな人間だわ」



 「えっ…………?」



 真緒達を見つめるその目は、恐ろしく冷酷な物だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...