笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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第八章 冒険編 狂乱の王子ヴァルベルト

獣を越えた存在

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 現在、真緒達は信じられない光景を目の当たりにしていた。



 「ハ、ハナちゃん!?」



 それは今の今まで、眠り茸の効果で眠っていた筈のハナコであった。



 「もしかして……正気を取り戻したの!?ハナちゃん!!」



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 真緒が助けに入ったハナコに声を掛けるも、反応は雄叫びでありとても正気を取り戻した様には見えなかった。



 「いったい……どうなっているんだ?」



 「いや~、上手く行った様ですね~」



 真緒達が戸惑いの表情を浮かべていると、エジタスがいつの間にか側へと近寄っていた。



 「師匠!!もしかして、これは師匠が!?」



 「マオさん……私には“強制的に戦闘を引き起こさせる”スキルがあるのをお忘れですか~?」



 「“一触即発”!!」



 「その通~り!!」



 真緒の脳裏に嫌な記憶が甦る。エジタスと出会ったばかりの頃、修行という事でスキルの説明をする為に強制的に“キラーフット”と戦闘させられていた時の事を……。



 「ぐっ……どういう事だ!?あの熊人は我の眷属である筈だ!!主人に牙を向けるなどあり得ない!!」



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 ハナコは雄叫びをあげながら、不意打ちを食らわしたヴァルベルトに更に追撃を加えようと襲い掛かる。



 「止まれ!!これは命令だ!!」



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 しかし、ハナコはその命令を無視しヴァルベルト目掛けて、スキル“インパクト・ベア”を放った。



 「がはぁ!!な、何故だ……!?」



 ハナコのインパクト・ベアをまともに食らってしまったヴァルベルトは、勢いよく壁に激突した。



 「無駄、無駄、無駄ですよ~私のスキル“一触即発”は緊迫した状況を作り出すもの。言うなれば、本能を刺激するのです!!命令などと言う低級な要求が通る筈がありません!!」



 要求には優先度が存在する。お願いと命令であれば、命令の方が上。しかし本能となるとそれは生物が、長い歴史によって体に染み付いたものであり、とても命令などでは越える事は不可能である。



 「本能だと!?そんなもので……我の“眷属化”を上回ったと言うのか……」



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 「!!!」



 自身のスキルが破られた事に驚いていると、ハナコの更なる追撃が始まった。



 「クソが!!あまり調子に乗るなよ!!」



 追撃して来るハナコに対してヴァルベルトは素早く避け、持っていた深紅の槍を突き刺す。



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 「くっ……か、硬い……」



 だかしかし、深紅の槍はハナコには突き刺さら無かった。



 「どうですか~自分で作った眷属に殺られる気分は?今までに無い程の屈辱でしょ~?」



 「嘗めるなよ!我が作り出した存在に負けるなど、あり得る筈が無いのだ!!」



 そう言うとヴァルベルトは、深紅の槍を捨て流れ出る血液から新たな武器を作り出した。



 「“深紅の斧”我の作り出した武器の中で、最も攻撃力の高い武器だ。こいつで貴様を殺してやろう」



 それは斧だった。両側にある刃は今までの剣や槍よりも、殺傷能力が高い事が見て取れる。



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 「せっかくの眷属を殺すのは、勿体ないが仕方ない……我の糧となって死ぬがいい」



 ハナコは“絶望の爪”を発動し、ヴァルベルトを切り裂こうとする。



 「遅いな……確かにこの遅さは致命的かもしれないな。次からはバランスの良い眷属を作るとしよう」



 「危ないハナちゃん!!避けてーーー!!!」



 ハナコの攻撃はものの見事に避けられてしまい、ヴァルベルトは作り出した深紅の斧で無防備となったハナコに全身を使って振り下ろした。



 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 しかし、ハナコが傷つく事は無かった。



 「何!?」



 そして透かさず、ハナコのインパクト・ベアがヴァルベルトに叩き込まれた。



 「ぐはぁ!!!!」



 二度に渡る渾身の一撃を食らったヴァルベルトの深紅の鎧は、ひびが入り砕け散った。



 「す、凄い……私達が苦戦していたヴァルベルトさんを圧倒している……」



 「それはそうですよ。眷属化による潜在能力の引き出し、そして一触即発の本能の刺激でハナコさんは、獣すら越えた存在となったのですから……」



 「獣すら越えた存在…………」



 生存を掛けた闘争に、ハナコの身体能力は飛躍的に向上している。これは俗に言うアドレナリンの分泌で、本来あるリミッターを外したのだ。



 「こんな……こんなバカな事があり得るか!!」



 「惨めですね~ヴァルベルトさん……」



 「何だと!?」



 深紅の鎧が砕かれてしまったヴァルベルトに、エジタスが煽りを入れて来た。



 「さっきから『何!?』とか、『何だと!?』とか言うばかりじゃないですか~そんなんで、よく“殺してやる”なんて言えましたね~?」



 「くっ…………!!」



 「し、師匠……何もそこまで言わなくても……」



 「大丈夫ですよ。それに、これくらい言わなければ話を聞いて貰えませんよ?」



 真緒が心配するも、エジタスはお構いなしにヴァルベルトを煽る。



 「エルさんの仇を打つとか言っていましたけど、この様子じゃ無理そうですね?」



 「…………」



 「もう諦めたらどうですか?そうすれば「そうだな」……へっ?」



 “そうすれば本物のエルさんに会えますよ”そう言おうとしたエジタスだったが、突如ヴァルベルトに遮られてしまった。



 「…………エルの仇を打つんだ……その後の被害など気にしてはいけないよな………もう諦めよう…………“人である事を”」



 「い、いったい何を…………?」



 「“血の渇望”」



 「「「!!!」」」



 その瞬間、ヴァルベルトの全身から血が吹き出した。今までの比にならない程の血が全身から止めど無く、溢れ出て行く。



 「あ……ああ……あああ!!!」



 「な、何だか不味くありませんか!?」



 「エジタスさん……これは……」



 「越えてはいけない一線を、越えさせてしまいました…………?」



 ヴァルベルトの全身から、全ての血が流れ出た。辺り一面が血の海と化していた。



 「…………」



 当の本人はというと、全身から血が無くなりカラカラに干からびて、まるでミイラだった。肌はひび割れ、骨が皮を通してはっきりと見えていた。そして只じっと床を見つめていた。



 「ヴァルベルトさん…………?」



 「!!」



 真緒が声を掛けると、ヴァルベルトは勢いよく顔を上げて、まるで獣の様に雄叫びをあげた。



 「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 「「「!!!」」」



 微かに見えた希望は、またも雲隠れしてしまった。
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