笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

文字の大きさ
135 / 300
第八章 冒険編 狂乱の王子ヴァルベルト

狂乱の王子ヴァルベルト(中編)

しおりを挟む
 十字聖騎士軍。神に仕える者として、神の象徴的とも言える十字架を意味嫌う“ヴァンパイア”を、根絶やしにしようとしている過激な一団。



 「あの聖騎士様……申し訳ありませんが、仰っている意味がよく分かりません……」



 村長らしき男が代表として、三人の聖騎士に疑問を投げ掛ける。すると真ん中にいた聖騎士が前へと歩み出る。



 「村長か……分からぬなら詳しく教えてやろう。この村に“吸血鬼”がいるという情報を掴んだ!その情報が真実であるかどうか確かめる為に、我々が参ったのだ!!」



 真ん中の聖騎士が高らかに宣言して、腰に添えた剣を抜き取り、天高く掲げた。



 「…………そうでしたか、それはわざわざお越し頂きありがとうございます。しかし、残念ながらこの村に吸血鬼などおりませぬ……」



 「いるかいないかは我々が決める事、村の者達には申し訳ないがしばらくの間は、我々の調査に協力して貰うぞ!」



 「そ、そんな…………」



 横暴。勝手に村に押し入り、吸血鬼調査に協力を迫って来た。



 「案ずるな、飯や寝床を用意しろなどとは言わん。只もし、吸血鬼らしき者を見かけた時は我々に報告して欲しい。謝礼は弾むぞ!」



 「「「おおーーー!」」」



 村の何人かは、“謝礼”という言葉に歓喜の声をあげた。



 「ヴァルベルト……どうしよう?」



 「…………」



 その光景を村の入口から見ていたエルとヴァルベルトは、身に迫る危険に戸惑いを感じていた。



 「それでは頼んだぞ村の者達よ。我々はこの地域を今一度捜索して来る!」



 話が終わったのか、三頭の馬それぞれに跨がっている聖騎士達は、入口の方へと走り出した。



 「「…………」」



 エルはヴァルベルトを背後に隠して、通り過ぎる聖騎士達に気づかれない様にした。



 「…………行ったわね。はぁー、緊張した……まさか、吸血鬼を狙う一団がこの村まで来るだなんて……」



 「おお、エルにヴァルベルト!戻ったか!!」



 聖騎士達の姿が見えなくなり、一安心するエルとヴァルベルトに村長が気がつき、声を掛けて来た。



 「村長!!いったい何がどうなっているんですか!?」



 「うむ……お前達も聞いていたと思うが……どうやら奴等は吸血鬼を殺しに来たらしい……つまり、“ヴァルベルト”を殺すつもりみたいだ……」



 「そんな!!?」



 ヴァルベルトが吸血鬼である事は、村の皆が知っている。先々代の村長からずっとこの村の秘密として、外部に漏れない様に最善を尽くして来た。



 「だが心配するな、わしも含めて村の全員がヴァルベルトを守る事を誓った」



 「よ、良かったー」



 「…………」



 「ん、どうしたヴァルベルト?」



 村の皆が守ってくれるというのに、何処か思い詰めた表情をするヴァルベルト。



 「……どうして、俺なんかを庇うんですか……?」



 ヴァルベルトは信じられなかった。村が危険に晒されるかもしれないこの状況で、何故自分を守ろうとするのか理解出来なかった。



 「……ヴァルベルト、わしはな幼き頃からお前さんの背中を見て来た。だからこそ分かるのだ……お前さんが悪い奴では無いとな……」



 「村長……」



 「わしだけじゃない。この村の全員が幼き頃から、お前さんの背中を見て育って来たのだぞ。そんな親の様な存在のお前さんを、あの聖騎士達に差し出す事など出来る筈が無い!」



 「…………ありがとう」



 ヴァルベルトは、自身の心が温かくなるのを感じていた。自分がこの村で成して来た事は決して無駄では無かったのだ。



 「さぁ、そうと決まればあの連中がいなくなるまで、ヴァルベルトには身を隠して貰わなければならないな……」



 「それなら、私の家にある地下室を使えば良いわ。入口さえ隠してしまえば分からないでしょう?」



 ヴァルベルトの隠れ蓑として、エルは自分の家にある地下室を提案した。



 「おお、それは良いかもしれないな!どうだヴァルベルト、お前さんもそれで良いか?」



 「あ、ああ、それで大丈夫だよ」



 「よし、そうと決まれば早速手分けして数日分の水と食料をかき集めて、地下室へと運ぶぞ!!」



 「「「「おおーーー!!」」」」



 「…………」



 村総出でヴァルベルトを守る為に、水と食料を集める事となったが、この時ヴァルベルトは別の事を考えていた。



 「(ち、地下室って事は実質エルの家に泊まるって事だよな!?そ、それはつまり一つ屋根の下…………いやいや!これは村の皆が俺を守ろうとしてくれている行動であって、そう言うやましい気持ちじゃ無いんだ!…………だけど、ちょっと位なら……いやいや駄目だって!!)」



 ヴァルベルトは、恋の悩みで頭が一杯だった。



 「……ベルト……ヴァルベルト……ヴァルベルト!」



 「えっ!あっ、何どうした?」



 「どうしたじゃ無いわよ。皆あなたの為に動いてくれているんだから、あなたも動きなさい!」



 妄想を膨らませ過ぎていたせいで、エルが声を掛けているのに気づかなかった。



 「あ、ああ、悪い悪い!すぐ準備するよ!」



 そう言うと、ヴァルベルトは食料を集める為、入口付近へと走り出した。



 「全く……しょうがないわね……」



 エルは呆れた様子で、走り去るヴァルベルトを見つめるのであった。



 「いやー、今のは失敗だったな……浮かれてた俺が全面的に悪いんだけどね……」



 エルに叱られて、入口付近で食料集めをし始めるヴァルベルト。



 「えーっと、確かこの辺にいくつか在庫が残ってた筈だけど…………ん?」



 ヴァルベルトが食料を探していると、ふと視界に先程真ん中で喋っていた、聖騎士がいた。しかし、近くに乗っていた筈の馬は見当たらなかった。



 「……何やってんだ?あいつら、草原を捜索しに行った筈だろ?」



 見つからない様に、物陰に隠れながら様子を伺う。



 「ジョッカー様!!」



 すると残りの聖騎士二人が、ジョッカーと呼ばれる真ん中で喋っていた聖騎士の側に寄る。そしてこの二人も馬には乗っておらず、走って来ていた。



 「戻ったか……それで、何か掴んだか?」



 「はっ、どうやら我々が村から出た途端、村の者達は何やらいそいそと食料と水をかき集めておりました!」



 「!!!」



 見張られていた。あの馬は、村の者達を油断させる為のエサだった。馬でやって来て、馬で去れば、必然的に次来る時も馬であろうという人間の心理を逆手に取られていた。実際は去り際に飛び降りて、馬達だけを遠くに追いやって自分達は側で監視していたのだ。



 「やはりそうか……どうもきな臭いと感じてはいたが、まさか吸血鬼を庇っていたとはな……」



 「いかがなさいましょうか?」



 「吸血鬼は神の名を汚すおぞましき存在だ。その吸血鬼を匿おうとする者達は、神に歯向かうのと同じ事だ!村に火を放ち全てを消し炭にする!!」



 「!!!」



 ヴァルベルトは自分の耳を疑った。自分を守ろうとした村の人達を、皆殺しにすると言っていた。脳が理解するのを拒んでいる。



 「全兵を集めよ。万が一吸血鬼が生きていた場合に備えて、待機させておくのだ」



 「かしこまりました!」



 「…………」



 ジョッカーの命令で、二人の聖騎士は兵を集める為に走り去って行った。ヴァルベルトは物陰で俯いたまま、思い詰めるのであった。







***







 「聖騎士達が戻って来たぞー!!」



 それからしばらくして、村では戻って来たジョッカー率いる三人の聖騎士達に慌てていた。



 「くそっ!思ったよりも早く戻って来たか!まだ食料と水が足りないが仕方がない!エル!!ヴァルベルトを早く地下室に避難させるんだ!!」



 「そうしたいんだけど……肝心のヴァルベルトが何処にもいないのよ!!」



 「何!!?」



 エルがヴァルベルトを地下室に避難させようと辺りを見渡すも、その姿は何処にも無かった。



 「村長……さっきぶりだな……」



 「こ、これは聖騎士様……随分とお早いお帰りで……もう草原の捜索は終えたのですか?」



 村長は何とかバレない様に、自然に振る舞おうとする。



 「その事だが村長、貴様何か隠して「うわはははは!!!」な、何だこの笑い声は!?」



 ジョッカーが問おうとしたその時、村中に笑い声が響き渡った。



 「ジョッカー様!!あそこに誰か居ます!!」



 聖騎士の一人が指差す方向、高い屋根の上に一人の男が立っていた。その男は赤と黒が特徴的なスーツで、真っ黒なマントを翻した。



 「ようこそ聖騎士の諸君、我こそが神の名を汚す“吸血鬼”ヴァルベルトだ。諸君らを心より歓迎しようじゃないか…………」



 そう言うとヴァルベルトは、ニヤリとほくそ笑むのであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

処理中です...