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第九章 冒険編 雲の木の待ち人

勇者に必要な物

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 「ここが……“クラウドツリー”がある村……」



 真緒達は長い旅路の末、遂に“クラウドツリー”がそびえ立つ村に辿り着いた。



 「ここまで長かったですね……」



 「始まりは水の都の人魚の町で、女王の話から始まったんだよな……」



 「ぞうぞう、オラ達を呼んでいる人がいるっで言われで…………」



 元を辿れば、真緒達が“クラウドツリー”を目指す切っ掛けとなったのは、水を通して遠くを見る事が出来る人魚の女王が、“クラウドツリー”で誰かが真緒達を呼んでいると、伝えた事だった。



 「いったい誰なんだろう?私達を呼んでいるのって…………」



 「…………それでしたら!マオさん達は先に“クラウドツリー”に向かって下さい!」



 真緒達は、誰が呼んだのか頭を悩ませていると、エジタスが先に行く様に勧める。



 「えっ!?師匠は何処に行くんですか!?」



 「私はこの村の村長に挨拶しに行ってきますよ~」



 「それだったら、私達も行った方が……」



 「な~に言っているんですか?全員でぞろぞろ行っても、効率が悪いだけです。それよりも、誰か一人が挨拶に行って残りの人達は“クラウドツリー”を登る方法を考えて下さい。幸い私には“転移”があるので、万が一マオさん達が先に登ってしまっても、追い掛ける事が出来ます!」



 五人全員で行くよりも、二つのグループに分かれて効率良く作業した方が良いとエジタスは言う。



 「で、でも…………」



 「それじゃあ私は早速、この村の村長に会いに行きますね~!」



 そう言うと、エジタスは真緒の返答を聞かず、走って行ってしまった。



 「あっ、し、師匠!!」



 真緒の呼び掛けも届かず、そのまま走り去ってしまった。



 「行っちゃった…………どうしよう?」



 「…………まぁ、エジタスさんの言う通り……効率を考えて、俺達は先に“クラウドツリー”に行くとするか…………」



 「……そうですね、行きましょう!」



 そうして真緒達は、挨拶をエジタスに任せて、自分達は先に“クラウドツリー”に向かう事にした。







***







 「凄い……大きい…………」



 真緒達の目の前には、肉眼では収まりきらない程の巨大な木がそびえ立っていた。



 「これが、世界一の高さを誇る木。“クラウドツリー”か…………実際に見るのは初めてだが、想像以上だなこれは…………」



 「…………樹齢は何年位なのでしょうか?」



 「……見でるだげで、ごう……パワー的な何がを得られでいる気がするだよぉ…………」



 皆、開いた口が塞がらない状態であった。そのあまりの迫力に、一同目線を外す事が出来なかった。



 「それで……どう登りましょうか?」



 「師匠に言われた通り、登る方法を考えようか……」



 「…………やはり無難に、空を飛べる俺と“虚空”の力で十分間飛べるマオの二人で、残りのリーマとハナコを運ぶのが良いんじゃないか?」



 今いる四人の中で、空を飛べるのは真緒とフォルスの二人。そんな二人が、残りの二人を持ち上げて飛ぼうというのだ。



 「そうですね、それが一番無難だと思いますけど…………因みにフォルスさん、ハナちゃんはどっちが持つんですか?」



 「…………」



 その瞬間、場が凍り付いた。



 「あ、あはは……実はオラ、また体重が増えだんだぁ……」



 「「!!」」



 ハナコの身長は、約二メートルある。二メートル一般女性の平均体重は約88kg。しかし、ハナコは熊人で一般の女性とは明らかに違う。今回体重が増えた原因として、まず筋肉量が増えた事、そして何よりも胸に付いている巨大な脂肪の塊が大きくなった事が、体重の増えた一番の原因であろう。あの二つの脂肪でいったい何kgあるのか…………想像も出来ない。それを含めて、ハナコの体重は軽く見積もっても約120kgはあるだろう。



 「駄目か…………」



 フォルスの考えは、最初から破綻していた。



 「他の手を考えましょう「旅のお方……」……え?」



 突然声が聞こえたかと思うと、いつの間にか真緒達の側に老婆が立っていた。老婆は腰が完全に曲がっており、杖をついていた。



 「お、おばあさん……いつからそこに?」



 「そんな事よりも、あんた達旅の人達だろ?聞きたい事があるんだが、時間は空いてるかい?」



 「えっ、あっ、ど、どうしよう?」



 老婆の突然の出現に、真緒は戸惑いの表情を浮かべる。



 「うーん、目上の人を無下にも出来ない。それに時間なら沢山あるしな」



 他の二人も、フォルスの意見に頷いた。



 「そうですね…………おばあさん、私達に聞きたい事って何ですか?」



 「なぁに、そんな大した事では無いよ…………“勇者に必要な物”って何だと思う?」



 「“勇者に必要な物”ですか……?」



 「ああ……答えておくれ」



 老婆が出した質問に、しばらく考え込む真緒達。



 「やっぱり……“優しさ”じゃないでしょうか?」



 一番最初に答えたのは、リーマだった。



 「ほぉ、何故だい?」



 「勇者は、誰にでも隔てなく優しく無ければ、なれないと思うからです」



 「成る程……他には?」



 「オラは……“包容力”だど思うだぁ」



 次に答えたのは、ハナコだった。



 「それは何故だい?」



 「人の悩みを真剣に受げ止められる。ぞれごぞが、勇者に必要な物だど思っだんだぁ」



 「成る程……他には?」



 「俺は……“要領の良さ”だと思う」



 次に答えたのは、フォルスだった。



 「何故だい?」



 「勇者は魔王を相手にしたり、困っている人を助けたりと多忙だ。そんな勇者にこそ、要領の良さは必要不可欠だと俺は思った」



 「成る程…………それで最後、あんたの意見を聞かせておくれ」



 最後に残ったのは、真緒だけだった。真緒は他の三人よりも時間を掛けて考え込んでいた。そして、ゆっくりと口を開いた。



 「私は…………無いですね」



 「…………えっ?」



 「マオ……何を言っているんだ?」



 「マオぢゃん?」



 「マオさん?」



 散々考えた末、真緒が出した答えは“無い”だった。



 「それは……どう言う意味だい?」



 「言葉通り、勇者に必要な物は無いと思います。だって…………勇者は名乗るものではなく、語られるものでは無いんですか?勇者というのは言わば称号で、勇者かどうかを決めるのは第三者だと思います」



 「!!!」







 『何言っているんだ。勇者は名乗るもんじゃない。語られるもんだろ?俺達は、歴史に名を残す程の存在になるんだ!』







 老婆の頭に何かが、フラッシュバックしていた。真緒の言葉を聞いた老婆は口元が緩み、微笑んだ。



 「やっと…………見つけた……」



 「えっ?」



 「よし!あんたら合格だよ!それじゃあ、早速行くとしようかね!」



 何かを呟いたと思った老婆が、突然真緒達に向かって合格宣言を言い放った。



 「い、行くって何処に?」



 「そりゃあ……この“クラウドツリー”の頂上さ。あんたら、頂上に行きたいんだろ?」



 「え、えぇ、そうですけど……」



 「それなら、もっと近くに寄りな!遠慮する事無い、早く寄りな!」



 「は、はい…………」



 訳が分からず、真緒達は言われるがまま老婆の側に寄った。



 「じゃあ行くよ…………“無重力”」



 その瞬間、真緒達の体が空中に浮かび始めた。



 「えっ!!?な、何これ!?」



 「オラ達、浮がんでいるだぁ!?」



 「こ、これは魔法ですか!?こんな魔法見たことありません!?」



 「翼を羽ばたかせていないのに、飛んでる…………」



 突然体が浮いた事に、驚きを隠せない真緒達。



 「ほらほら、早くついて来ないと置いてくよ」



 そう言いながら、老婆は“クラウドツリー”の頂上へと飛んで行ってしまう。



 「ま、待って下さい!!まだ上手く……動けなくて……」



 「仕方ないね……いいかい?上に引っ張られるイメージを持つんだ」



 「引っ張られるイメージ……」



 老婆に貰ったアドバイスを元に、真緒達は上に引っ張られるイメージを持った。すると…………。



 「…………い、行けました!上に移動出来ました!!」



 「私も出来ました!」



 「オラも!!」



 「俺にも出来た!」



 「やれば出来るじゃないか。さぁ、行くよ」



 見事、自由に飛べる様になった真緒達は、“クラウドツリー”の頂上を目指して、老婆の後について行くのであった。







***







 「さぁ、着いたよ。ここが“クラウドツリー”の頂上さ」



 「こ、ここが……」



 真緒達が“クラウドツリー”の頂上に辿り着くと、そこは草花に囲まれ中心には大きな池があり、中では綺麗な色をした魚が泳いでいた。



 「凄く……凄く綺麗で、そして何だかとても不思議な感覚がします……」



 「へぇー、初めて来たにしては良い感覚を持っているじゃないか?わしは、もうずっとここに住んでいるから、そんな感覚にすらならないよ……」



 「ここにずっと住んでいるって…………あなたはいったい何者なんですか!?」



 真緒達全員を空中に浮かび上がらせて、こうして“クラウドツリー”の頂上まで連れて来た事に、真緒は老婆の正体が気になっていた。



 「ん?あぁ、そう言えばまだ名乗っていなかったね…………それ!」



 そう言うと老婆は、持っていた杖で地面を強く叩くと、途端に白い煙に包まれた。



 「お、おばあさん!?」



 「ふふふ、どうも最近年寄りに化けるのが癖になってしまってね。まぁ、年寄りには違い無いんだが……」



 白い煙に包まれた老婆の声は、段々と若々しい女性の声へと変わっていった。そして、白い煙の中から現れたのは先程の腰が完全に曲がった老婆では無く、セクシーな大人の女性が現れた。



 「私は“アーメイデ”只の老いた魔法使いさ」



 「「「「えっ…………えぇーーーーー!!!」」」」
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