笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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第九章 冒険編 雲の木の待ち人

エジタスとアーメイデ

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 「あっ…………」



 アーメイデから話があると外に呼び出されたエジタスは、食事を早めに終えてアーメイデの下へと赴くと、どう言う訳か水車小屋の壁に追い詰められ、両手で退路を塞がれてしまった。いわゆる“壁ドン”状態だ。



 「そんな……アーメイデさんったら……凄く大胆ですね……」



 迫られたエジタスは、まるで乙女の様に頬に手を当て恥ずかしがった。



 「ふざけないで!!……いい?私の質問に正直に答えなさい!…………あなたは“あの”エジタスなの?」



 「…………」



 その瞬間、空気が一変した。先程まで乙女の様な仕草をして恥ずかしがっていたエジタスだったが、アーメイデの顔をじっと見つめた。それはより一層不気味さを際立たせていた。



 「えぇ、私は“あの時”から何も変わっていませんよ」



 「!!……やっぱり……そうなのね……」



 予想していた返答にアーメイデは落ち着きを取り戻し、壁に当てていた両手を離してエジタスを解放した。



 「でも……あなたはあの時確かに……」



 「“死んだ筈だ”?あなたも早計な人だ……服の一部だけが残っていたからといって、結果死んだとは結び付かないでしょ?」



 エジタスとアーメイデ、二人にしか分からない会話が行われていた。



 「まぁ、つまりあの二人は無駄死にだったという事ですね~」



 「!!!」



 その言葉で頭に血が上ったアーメイデは、エジタスをひっぱたこうとする。



 「おっと~!」



 「っ……!!」



 しかしその攻撃は空振りに終わった。事前に気づいたエジタスが、タイミングを合わせて避けた。



 「二千年経って、弱くなりましたか~?動きが止まって見えましたよ~?」



 「私は魔法専門なのよ!!」



 「負け犬の遠吠えですね~」



 「!!!…………駄目よ……エジタスのペースに乗せられては駄目……」



 またもエジタスの言葉で、頭に血が上りそうになったアーメイデだが、何とか怒りを抑え込んだ。



 「それで?私をわざわざ呼び出したのは、本人かどうかを確かめる為ですか?」



 「……いえ、それもあったけど、本題はここから…………単刀直入に聞くわ……何故あなたがあの子達と一緒にいるの?」



 「それは勿論、供に世界を巡る為ですよ~」



 「嘘をつかないで!!」



 アーメイデは、エジタスの返答を全面的に否定した。



 「あなたが生きている時点で驚きだけど…………それよりも、二千年経った今になってどうして姿を見せたの?」



 「これは異な事を、私の目的は二千年前から変わっていませんよ……」



 「まさか……二千年前の悲劇を繰り返そうと言うの!?」



 アーメイデは耳を疑った。エジタスの目的が、二千年前から変わっていないと聞いて恐怖を感じた。



 「悲劇とは失礼ですね~。私は只、この世界を“笑顔の絶えない世界”に変えたいだけですよ~」



 「あんなの……誰も認める訳が無いじゃない!!」



 「認めなくて結構!世の中というのは、初めての物に対してはどうしても抵抗を覚えてしまう。しかしそれも長い年月を掛ければ、当たり前の物として世の中に定着するのですよ!初代勇者が遺したカレーや味噌汁が、良い例ではありませんか!?最初は食べ物としても認められていなかったのに、年月が経つにつれて今では、当たり前の料理として認識されているではありませんか!?」



 「あいつとあんたのを一緒に扱うんじゃない!!」



 初代勇者の話を出されて、アーメイデは声を荒げた。



 「一緒ですよ~?例え世界と料理、大きさが違えども行き着く先は同じなのですからね~」



 「そうだとしても……あんたのはエゴの押し付けだ!!」



 「エゴの押し付け……良いじゃないですか~。元より、私は誰かの許可など得ようとは思っていません。誰でも意見を出せば、その感じ方によってエゴの押し付けに変わってしまうものです。ならば、始めからエゴの押し付けだと割り切って行えば、少しは気が楽になるってもんですよ~」



 「あんた…………狂ってるよ……」



 「いいえ……本当に狂ってるのは、こんな私という存在を認めている世界の方ですよ……」



 常人とは違う考えを持った人間。エジタスの考えは、アーメイデの頭では理解出来なかった。いや、理解しようとしなかった。



 「…………二千年前から変わっていない……まさか!!新しく着任したって言う四天王は…………!!」



 「…………」



 何かに気がついたアーメイデは、急いで真緒達のいる小屋へと戻ろうとする。



 「何処に行かれるのですか~?」



 しかし、その行く手をエジタスが塞いでしまった。



 「決まっているだろ!あんたの化けの皮を剥いでやるのさ!マオ達に全部暴露して、あの子達を救ってやるんだ!」



 「…………ぷっ、あはははははは!!!」



 「何が可笑しい!!?」



 突然笑い出したエジタスに、アーメイデは怒りながら問い掛けた。



 「あなたがマオさん達を救う?…………何正義感ぶっているんですか……気持ち悪いですよ?」



 「な、何だって!?」



 「あなたがマオさん達を救える訳が無い。そうでしょ?……“初代勇者を裏切った”アーメイデさん?」



 「!!!」



 エジタスの言葉で、アーメイデの顔は瞬く間に青ざめていった。



 「わ、私は……」



 「あなたが裏切らなければ、生きていたかもしれませんね~。だからこそ、あの人も恨んでいるでしょうな~?“アーメイデ、どうして裏切った?どうして……どうしてなんだ……”ってね」



 「だ、だからその為に私が……!!」



 「マオさん達を助けて、罪滅ぼしをしようって訳ですか?あなたにマオさん達を救う資格なんてありませんよ。それに助けた所で、あの人が喜ぶとは思えませんね~寧ろマオさん達は助けたのに、どうしてこっちは助けてくれなかったんだと、更に恨まれるかもしれませんね~」



 「そんな……それじゃあ私はどうしたら…………」



 心に迷いが生まれた。過去のトラウマがアーメイデの覚悟を鈍らせる。



 「答えはもう出ています。私の目的を成就させれば良いのですよ~」



 「で、出来る訳が無いでしょ!!」



 「ですがこのままでは、一生掛かってもあの人に許して貰えませんよ?」



 「…………」



 遂に黙り混んでしまったアーメイデ。そんなアーメイデの肩に、エジタスがそっと手を添える。



 「確かに……私の考えは非常に危険な行いなのかもしれない。しかし、少なくとも今の世界よりは素晴らしい世界が生まれる筈です。それをあの人も望んでいます……」



 「本当に…………?」



 「えぇ……だって、世界が笑顔に包まれるのを嫌がる人がいると思いますか?」



 「…………そう……だよね……あいつも……望んでいる筈だよね……」



 先程までの強気な彼女は、次第に弱々しくなりエジタスの言葉を受け入れ始めた。



 「さぁ、戻りましょう。今回の事は、私とアーメイデさんの二人だけの秘密という事で……」



 「…………コウスケ……」



 アーメイデは、誰かの名前を呟きながらエジタスと一緒に小屋へと戻るのだった。







***







 「ただいま戻りましたよ~!」



 「あっ、師匠お帰りなさい!アーメイデさんも、庭のお手入れお疲れ様です!」



 「え……あ、そうね、ありがとう……」



 エジタスとアーメイデが、話を終えて小屋へと戻って来ると、真緒達が出迎えた。



 「ん?マオさん、その分厚い本は…………?」



 エジタスが真緒に顔を向けると、真緒の手には古ぼけた分厚い本が握られていた。



 「さっき、寝室で見つけたんです。アーメイデさん、この本はいったい何ですか?」



 「それは……“伝記”よ」



 「“伝記”……ですか?」



 伝記とは記録や文書、または古来から伝わる事柄の記録。伝説・伝承を書き記した物である。



 「その本には、この世界の始まりが記されているのよ。本当かどうかは分からないけどね……」



 「この世界の始まり……読んでもいいですか?」



 「えぇ、構わないわよ……」



 この時のアーメイデには、真緒達にエジタスの真実を教えて救おうと思う気持ちは微塵も残っていなかった。



 「ありがとうございます……」



 真緒達は、世界の始まりが記されているという伝記のページをゆっくりと開き、読み始めるのだった。
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