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第十章 冒険編 魔王と勇者

勇者 VS 魔王(中編)

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 真緒とサタニアが激しい戦いを繰り広げている中、リーマとゴルガは供に玉座の間へと向かっていた。



 「…………」



 「…………」



 気まずい雰囲気、つい先程まで命と命の削り合いをしていた相手と一緒に歩いていると思うと、何も喋れなくなってしまう。



 「…………あの」



 「ナンダ………」



 そんな静寂を打ち破る様に、リーマがゴルガに声を掛けて来た。



 「どうして……私を助けたんですか……?」



 「…………」



 満身創痍だった筈のリーマだが、ゴルガがリーマの懐に仕舞っていたポーションを飲ませた事で、かなり回復していた。しかし、中の骨自体はポーションでは治す事は出来ない為、未だにあばら骨は折れたままで、無理な動きをする事は出来ない。



 「ソレヲイウナラ……ソチラモナゼ、オレノアシヲナオシタ……?」



 右足を失った筈のゴルガだが、現在その右足には色合いこそ違うが、少し不格好な右足が作られていた。これはリーマが土属性魔法を活用して、ゴルガの新しい右足を作り出したのだ。



 「…………別に……あのまま見捨てるのは、後味が悪いと思っただけですよ…………」



 「ソウカ……オレモ……オナジリユウダ」



 「えっ…………?」



 「オレモ……ゼンリョクデ、タタカッタアイテヲ……ミゴロシニスルコトハ、デキナカッタ…………」



 互いに非道にはなれなかった。立場は違えども、エジタスと同じ時を過ごして来た同士。無抵抗な相手を殺す事は出来なかった。



 「…………リーマ」



 「??」



 「私の名前……リーマと言います……」



 「オレハ……ゴルガ……だ」



 リーマとゴルガ。二人はここに来て漸く、自己紹介をする事が出来た。



 「ゴルガさん……助けて頂き、ありがとうございます」



 「イヤ、コチラコソ……タスケテモラッタ……カンシャシテイル……」



 それぞれがお礼を述べて、少し打ち解けながらその先にある部屋の扉を開けた。するとそこには…………。



 「いやーフォルス、お前凄く強い奴だな!!ここまで本気になれたのは久しぶりだぞ!!」



 「いやいや、運が良くなければ負けていましたよ。総合的な実力で言えば、シーラさんが圧倒的です」



 そこには、空中を飛びながら談笑するフォルスとシーラがいた。床がまるごと無くなっている事から、壮絶な戦いが繰り広げられていたのは明白だった。フォルスが貸したのか、シーラの服装が黒い鎧から黒い下着に変わっていた。



 「おいおい、堅苦しいのは無しにしようぜ!!気軽にシーラって呼び捨てにしてくれ!!私もそうしてるんだからな!!」



 「……分かった、シーラ。先程の戦いは本当に素晴らしい物だった」



 「おぉ!!私も今まで戦って来た中でも、一番良かったぞ!!」



 その光景に、リーマとゴルガは一瞬目を疑ってしまった。



 「ん?おっ!?ゴルガじゃねぇか!!そっちも決着がついたみたいだな!!それで、どっちが勝ったんだ?」



 「オレノマケダ…………」



 「何だよー!負けちまったのかよー!……ってまぁ、引き分けだった私が言えた義理じゃ無いんだけどよ……」



 「フォルスさん」



 「リーマ、無事で何よりだ」



 リーマ、フォルス、ゴルガ、シーラの四人は合流する事が出来た。



 「いっ、いったい何をしているんですか?」



 「あぁ、戦いは引き分けになったんだが、そうしたら意気投合してしまってな。今から玉座の間に向かって勇者と魔王、互いに応援しようという話をしていたんだ」



 「そうだったんですか……私達と同じですね。私達も玉座の間に向かおうとしていたんです」



 「それなら丁度良い、一緒に行くとしよう」



 リーマ、フォルス、ゴルガ、シーラの四人は供に先へと向かうのであった。その際、ゴルガが床が無くなった部屋に四苦八苦するのは、また別の話。







***







 「もぉー、あなた美人さん何だから、もっとおしゃれした方が良いわよ?」



 「おじゃれだなんで、オラには必要無いだぁ」



 更にその先の部屋で、ハナコとアルシアがじゃれあっているのを目撃した。



 「あら?あなた達、来ていたのね。声でも掛けてくれたら、良かったのに…………」



 「リーマ、フォルスざん、済まないだぁ……オラ負げぢまっだだよぉ…………」



 「ハナコさん、気にしないで下さい」



 「そうだぞ、無事だったと知れただけで一安心だ」



 アルシアに負けてしまったハナコは、リーマとフォルスの二人に謝罪をするが、二人はハナコが無事だと分かっただけで安心だった。



 「それで……あなた達の方はどうだったの?」



 「ゴルガが負けで、私が引き分けという結果になりました」



 「あらあら、そうだったの?……という事は現状でお互い、一勝一敗一引き分けになるのね」



 リーマとゴルガの戦いではリーマが勝利し、フォルスとシーラの戦いでは引き分けとなり、ハナコとアルシアの戦いではアルシアが勝利した。これにより現状では、互いに一歩も譲らない結果となった。



 「残るは勇者と魔王、二人の戦いだけとなるわね」



 「「魔王様…………」」



 「「「マオ…………」」」



 「…………ほーら、そんな暗い顔しないの。今、あたし達に出来るのは二人を応援しに行く事、それだけよ」



 思い詰める五人を見かねたアルシアが、励ましの言葉を送った。



 「そうですね…… それ位しか、今の私達が出来る事はありませんね」



 「ドチラガカッテモ、オカシクナイタタカイダ」



 「せめて、マオが驚く位の応援をしてやるかな」



 「応援勝負か、面白い!今度こそ勝たせて貰うぜ!!」



 「戦いが終わっだら、魔王ども仲良ぐ出来るがなぁ」



 「出来るわよ。魔王ちゃんは心の優しい子ですもの。それじゃあ、行きましょうか」



 戦いが終われば自分達の様に仲良くなれる。真緒とサタニアの憎悪がどれだけ大きな物とも知らずに、そんな楽観的な考えを、そんな淡い希望を抱きながら向かうのであった。







***







 「!!!」



 サタニアが真緒を睨み付けたその瞬間、真緒は真横へと跳んで回避した。



 「…………っ!!?」



 そんな真緒の突然の回避に、サタニアは疑問を感じせざる終えかなかった。



 「(避けた!?まさかそんな……前動作の要らない完全な不意討ちの魔法なのに……偶然……そう偶然に決まってる!!)」



 避けたのはまぐれ、そう考えたサタニアは再び真緒を睨み付ける。



 「!!!」



 しかし、またしても真緒はサタニアが睨み付けた瞬間、真横に跳んで回避した。



 「そ、そんな……あり得ない……」



 二回続けて魔力譲渡を避けられた事に、サタニアは動揺を隠せなかった。



 「(ま、間違いない……魔力譲渡の気配に気がついてる……しかもあの避け方……後ろでは無く、真横に避けるだなんて……もしかして魔力譲渡の弱点に気がついた!?)」



 無敵とも思われる魔力譲渡。しかし、どんな魔法にも必ず弱点は存在する物である。魔力譲渡の弱点、それはサタニアが睨み付けた直線にしか魔力が譲渡されない事である。つまり、サタニアが睨み付けた直線上に対象となる人物が存在すれば、その者に魔力が自動的に送られてくる。しかし言い換えれば、睨み付けた瞬間にその直線上から外れてしまえば、簡単に避ける事が出来る。因みに、一度睨み付けた後に方向を変えるなどの行為は出来ない。



 「(そんな……勇者は魔力譲渡の情報を知らない筈……それなのに、たった一度の睨みで見抜いたと言うの!?)」



 「(…………危なかった……睨み付けて来た瞬間、何だか背中に悪寒を感じて咄嗟に避けたけど、どうやら避けて正解だったみたいね…………)」



 真緒は魔力譲渡の事を知らなかった。しかし、内に秘める生存本能が危険を知らせてくれた。それはまるで動物的直感、真緒の精神は動物と肩を並べる程に鋭くなっていた。



 「(だ、だからって、殆ど動きの無いこの魔法を意図も容易く避けるだなんて……あ、あり得ない!!)」



 これまで、この魔力譲渡を避けられる者は一人もいなかった。その為、サタニアは簡単には信じられずに何度も真緒を睨み付ける。



 「!!!」



 しかし、その度に真緒は真横に跳んで回避を繰り返した。



 「(くそっ!!くそっ!!くそっ!!)」



 サタニアは何度も、何度も同じ動作を繰り返した。真緒が避ければ、再び真緒を睨み付ける。



 「(どうして……!!どうして……!!)」



 「…………やっと辿り着いた」



 「!!?」



 いつの間にか、真緒はサタニアの側へと近づいて来ていた。



 「し、しまった!!」



 魔力譲渡を意識し過ぎて、真緒が少しずつ近づいて来ているのに、気が付かなかった。



 「だ、だけど距離的には、まだこっちが勝っている!!」



 現在の真緒とサタニアの距離は、ギリギリ剣の先が届かない距離だった。



 「一度離れてそれから……!?」



 しかしその時、届かない筈の真緒の純白の剣が、サタニアの体を斬り裂いた。



 「あああああ!!!」



 体を斬られ、サタニアは出血を必死に押さえながら、斬られた原因を探る。



 「……な、何……その剣……?」



 そこでサタニアが目にしたのは、真緒の持っていた純白の剣が、暖かそうな黄色に光輝いていた。



 「“エンチャント・ホーリー”光魔法を純白の剣に覆う事で、その長さと斬れ味を増加させる。これが私が編み出した、新しい技です!!」



 「そんな……単純な技で……!!」



 そんな単純な技で、サタニアの体は傷ついた。この時サタニアは真緒にでは無く、魔王という強さに慢心していた自分自身に対して、無性に腹を立てた。距離だとかそんな細かい事を気にしている時点で、戦いを甘く考えていた。多少の距離など簡単に覆す事が出来るのだ。



 「もう……どうにでもなれ……」



 サタニアは独り言を呟くと、持っていたティルスレイブを強く握り締め、天高く掲げた。



 「一つ目を望む!!!“ティルスレイブ”!!!」



 「!!!」



 それを切っ掛けに、ティルスレイブの柄、装身具、刀身、全体が真っ黒に染まった。



 「“一撃”で葬り去ってやる…………!!」



 「な、何……!?何だか分からないけど、今あの剣に斬られたら不味い気がする!!」



 ティルスレイブの能力。相手を無条件に一撃で葬り去る。しかし、三回だけしか使う事が出来ない。また、三回使い終われば使用者は必ず死ぬ。サタニアは、その一回目を使ったのだ。



 「“シャドウロック”」



 「し、しまった!!」



 サタニアが手から黒い針の様な物を生成したかと思うと、真緒の影に突き刺した。すると真緒は、その場から一歩も動けなくなってしまった。



 「逃がさない…………」



 「くっ…………!!」



 ゆっくりと近づいて来るサタニア、真緒は必死に体を動かして、影に刺さった針を振りほどこうとするが、中々上手くいかない。



 「今度こそ……これで……終わりだぁあああ!!」



 「!!!」



 一撃で葬り去るティルスレイブが、真緒目掛けて襲い掛かる。真緒は咄嗟に、全ステータスを生け贄の盾に捧げて、その攻撃を防いだ。



 「…………」



 「…………」



 静寂が場を支配する。サタニアのティルスレイブは真っ黒だった色から、元の色へと戻った。



 「…………っ!!」



 サタニアは舌打ちをすると、その場から跳躍して一気に離れた。



 「し、死ぬかと思った…………」



 そう、真緒は生きていた。一撃で葬り去るティルスレイブの攻撃を見事に防いだのだ。



 「あっ…………!!」



 しかし、その犠牲は大きかった。生け贄の盾にひびが入り、そのまま脆く崩れてしまったのだ。



 「一撃で葬り去る事は出来なかったけど……これはこれで良かったよ……」



 「…………」



 生け贄の盾が壊れた事で、捧げていた全ステータスは戻って来たが、これで真緒を守る盾は無くなってしまった。



 「これは……本当に不味いかもしれない…………」



 一撃で葬り去る剣。壊れた盾。真緒は、今世紀最大の絶望的状況に直面していた。
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