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最終章 笑顔の絶えない世界

ラクウンの正体

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 今のシーラが出せる最高のスキル“龍の華”、フォルスのアシストによって身動きが取れなくなったラクウンに叩き込まれた。



 「がはぁ!!!」



 シーラのスキルを受けて、ラクウンは勢い良く吹き飛ばされ、そのまま壁へと激突した。壁は脆く崩れ落ち、瓦礫から土煙が上がる。



 「す、凄い……あのラクウンを一撃で…………」



 「はぁ……はぁ……ど、どうだ……これが今の私が出せる最高のスキル……うっ……ぐぁあああ!!!」



 「シ、シーラ!!大丈夫か!?」



 ラクウンを吹き飛ばした途端、シーラが悲鳴を上げその場に踞った。その突然の悲鳴に、フォルスが心配して駆け寄って来る。



 「あ……ああ……ぐぅ……!!」



 「いったいどうしたんだ……こ、これは……!?」



 フォルスが様子を伺うと、シーラの両腕は青く変色して、大きく腫れ上がっていた。



 「へへ……やっぱり……まだ完全に扱うのは難しそうだな……」



 シーラの両腕は、スキルの反動に耐えきれず深傷を負ってしまった。



 「悪いが……私はこれ以上戦えそうに無い……せっかくエジタスの奴と、本気で殺り合えると思っていたのに…………」



 「シーラはよくやってくれた。深傷を負ったとはいえ、あのラクウンを倒す事が出来たんだからな。後は俺に任せてくれ、俺が代わりにシーラの想いをエジタスさんに伝えてくる」



 「そう言って貰えると……ありがたいね……」



 両腕の負傷により、これ以上の戦闘は不可能と自己判断したシーラは、エジタスにぶつける想いをフォルスに託した。



 「それじゃあ行って来る。シーラは休みながらここで待っていてくれ」



 「頼んだわよ…………ん、何この物音?」



 フォルスが先に進もうとすると、崩れ落ちた瓦礫の方から物音が聞こえて来た。



 「まさか……そんな……!?」



 「あ、あり得ない…………!!?」



 信じられなかった。信じたくなかった。奇跡と言ってもいい程に上手く行っていた筈だった。不安の残る未完成なスキル、避けられない様にする為の適切なサポート、自らの体を犠牲にした魂の一撃。倒したと思っていた。勝ったと思っていた。しかし、現実はいつも残酷なものである。崩れ落ちた瓦礫は、物音を立てた瞬間全て吹き飛ばされ、その中心にはラクウンが立っていた。



 「驚きました……まさかあなたがこんな隠し玉を持っているとは、これは重症ですね。見てください、あまりの衝撃で服に大きな穴が空いていますよ」



 そう言いながらラクウンは、シーラの捨て身のスキルによって空いた服の穴から、自身の肌を優しく撫でる。



 「それにこんな怪我まで負ってしまうとは……さすがは、魔王軍の四天王と言ったところですかね?」



 心根しか、優しく撫でているラクウンの肌は、ほんのり赤くなっていた。これがラクウンが言った怪我である。彼にとって今の言葉は皮肉では無く、心の底から発せられた本音なのだ。



 「私の最高のスキルを持ってしても……あれだけしか、ダメージを与えられないのか…………」



 「くそっ!!もう打つ手は無いのか!?」



 「さて……それではそろそろ、あなた方には死んで頂きましょうか……」



 「「!!!」」



 フォルスとシーラが、何か策はないかと思考を練っていると、腹部を撫でていたラクウンが二人目掛けて跳んで来た。



 「まずは……動けなくなったあなたからです!!」



 「ま、不味い!!早く槍を……っ!!」



 ラクウンの最初の標的はシーラだった。シーラは、慌てて自身の槍を拾って戦おうとするが、両腕の激しい痛みによって持つ事すら出来なかった。



 「シーラ!!くそっ、来るんじゃねぇ!!“三連弓”!!」



 するとフォルスが、シーラを庇う様に前へと立ち塞がり、迫り来るラクウン目掛けて三連続の矢を放った。



 「…………“ブレス”」



 放たれた三連続の矢に対して、ラクウンは鼻から大きく息を吸い込み、あの時と同じ様に口から炎を吐いた。吐いた炎は三連続の矢を消し炭にし、そのまま直線上にいたフォルスにまで直撃した。



 「ぐぁあああああ!!!」



 「フォルス!!」



 羽に炎が燃え移り、全身を燃やし始める。フォルスはもがき苦しみのたうち回りながら、全身に燃え移った炎を鎮火させる。



 「余所見している場合ではありませんよ?」



 「しまった!!」



 フォルスの事を心配し過ぎるあまり、自身への注意力が散漫になっていた。



 「スキル“龍帝の拳”」



 「がはぁ!!?」



 シーラは、目の前までやって来たラクウンに殴られた。その拳は、まるで巨大なドラゴンに殴られたかの様に、とても重たい拳であった。



 「こ、こいつまたドラゴン専用のスキルを…………ぐっ……ああああああああ!!!」



 前にも説明したが、シーラの職業はドラゴンスレイヤー、ドラゴンに対して与えられるダメージが倍になる職業。またシーラ自身が龍人である為、与えられるダメージはドラゴン関係無く、倍のダメージを与えられる。しかし、ドラゴン系の技に対してはその倍、四倍のダメージを受けてしまう。まさに諸刃の刃な職業である。今現在、シーラはラクウンからドラゴン系の技を受けてしまった。通常の四倍のダメージがシーラを襲う。



 「ああああああああああああああああああああ!!!」



 想像絶する痛み、そのあまりの痛みからシーラは一瞬、意識が飛ばされそうになる。



 「情けは掛けませんよ。あなた方には、確実に死んで貰います」



 「く……そ……シーラ……」



 何とか、全身に燃え移った炎を鎮火させられたフォルスだったが、既に満身創痍の体であった。



 「はぁ……はぁ……はぁ……こんなぼろぼろの体で、出来るかどうか分からないけど……やるしかないよな……」



 「何をぶつぶつ言っているのか知りませんが、すぐに楽にしてあげますよ!!」



 「シーラ!!!」



 「“龍覚醒”」



 「「!!!」」



 その瞬間、シーラの体がまるで心臓の様に大きく脈打った。その振動は次第に大きくなる。



 「グ……ググ……グググ……!!!」



 「な、何をしているのですか!?」



 「これは“龍覚醒”……無茶だ!!そんなぼろぼろの体で変身するつもりか!!?」



 「これしか方法が無いんだよ……どうせ死ぬなら……全てを出しきってから死にたい!!」



 シーラの体は膨張しており、どんどん大きくなっていった。体から始まり、手、足、尻尾、顔と体全体が巨大化していく。



 「ま、まさかこれは……ドラゴン?」



 「…………なった……凄いぞ……シーラ……あんなぼろぼろの体で、ドラゴンになりやがった!!」



 “龍覚醒”により内なるドラゴンの血が目覚め、シーラは白銀の鱗を持つ巨大なドラゴンに変身した。



 「あ、あなたはいったい何者なのですか?」



 『私は……かつて世界の均衡を保っていた白銀のドラゴンの末裔だ』



 そう言いながら、ドラゴンと化したシーラは、その巨大な手を薙ぎ払いラクウンを吹き飛ばした。



 「ごふっ!?」



 「あのラクウンを、意図も容易く吹き飛ばした!?」



 「な、中々やりますね。ですが私を倒すにはまだまだ……『“ブレス”』…………!!?」



 シーラによって、吹き飛ばされたラクウンは余裕の笑みを浮かべようとするが、間髪入れずにシーラは炎を吐いた。



 「人の話は最後まで聞くものですよ!!」



 『興味ない。お前に勝てればそれで良い…………スキル“白銀竜のイカヅチ”』



 その瞬間、室内だと言うのにシーラの周りに暗雲が立ち込める。そしてその暗雲から、ラクウン目掛けて鋭いイカヅチが無数に放たれた。



 「…………っ!!」



 ラクウンは、その無数のイカヅチを凄まじい反射神経で避けていく。



 『スキル“ホワイトドラゴン・スタンプ”』



 「!!!」



 しかし、ラクウンが避ける場所を見越してシーラがスキルを放った。すると、シーラの左前足が光輝き始める。シーラは自身の左前足を振り上げ、避けて来るラクウン目掛けて振り下ろした。



 「ぐはぁああああ!!!」



 さすがのラクウンも避けられず、巨大な左前足に押し潰された。



 「つ、強い……シーラの奴、俺の時は手加減していたな……あれがシーラの本来の強さなんだ…………」



 自身の戦いの時は、手加減されていた事を知ったフォルスは、少し残念に思いながらもラクウンを圧倒する姿に喜んでいた。



 「はぁあああああ!!!」



 『…………!!』



 左前足に押し潰されたラクウンは、シーラの左前足を押し退けた。そして一瞬で後方へと跳び、体制を立て直した。



 「…………正直……ここまでやるとは思っていませんでしたよ……」



 『ラクウン、お前の負けだ。満身創痍の体で変身出来るかどうか、一か八か賭けだったが見事真の姿に戻る事が出来た。お前はもう、この姿の私を倒す事は出来ないぞ』



 「…………ふふ……ふふふ……あははははははは!!!」



 『「!!!」』



 勝利を確信したシーラだったが、突如として高笑いを始めるラクウンに一抹の不安を抱く。



 『何がおかしい!!?』



 「ははは……すみません、まさかこんな所でお会い出来るだなんて、思ってもいませんでしたから……」



 「お会い出来る……?お前はシーラと会った事があるのか!?」



 「いえ、直接の面識はありません。私が言っているのは、この白銀のドラゴンの事ですよ」



 『「!!!」』



 するとラクウンは、着ていた服を引き裂き上半身を出した。



 「かつて世界の均衡を保っていたと言われる白き龍。しかしお忘れですか?その世界の均衡には、もう一頭のドラゴンがいた事を…………」



 『もう一頭のドラゴン……まさか!?』



 ラクウンの話から、シーラの脳裏には白銀のドラゴンと対になる、もう一頭の龍が思い浮かんでいた。



 『お前“漆黒のドラゴン”の末裔か!!?』



 「お前と一緒にするな!!!」



 『!!!』



 シーラの予想に、常に冷静だったラクウンが初めて声を荒げた。



 「ドラゴンは本来、唯一無二の個体であるべきなのだ!!それを“あの女”は未来を繋ぐ為だと言って、あろう事か別個体のドラゴンと交わり子孫を残した!!」



 ラクウンの感情が高ぶったその瞬間、ラクウンの体が大きく膨張し始める。



 「おいおい……嘘だろ……?」



 『ドラゴンになった私の鱗が震えている……これは末裔なんて生易しい者じゃない……それじゃあまさか……そんな……!!?』



 シーラがドラゴンに変身した様に、ラクウンの体はどんどん大きくなっていった。体から始まり、手、足、尻尾、顔と体全体が巨大化していく。シーラよりも大きく、正反対の真っ黒な色をしていた。



 『我こそは“漆黒のドラゴン”、かつて世界の均衡を保ちながら、世界の均衡を崩した者だ』
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