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第一章 新たなる旅立ち
タイムリミット
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「どうぞー」
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
レッマイルで潜入調査を始めた真緒達は現在、他の団員達と一緒にスラム街で暮らす貧困層の人々に、パンとスープを無償で提供していた。
「まだまだ沢山ありますからね。慌てずに並んで下さいね」
「あぁ…………ありがとうございます……あなた方のお陰で、今日も飢えで苦しまずに済みます……本当にありがとうございます」
「いえ、少しでも皆様の助けになっているのなら、こちらも嬉しいです」
団員が慣れた手付きで列を捌く中、老人が弱々しく感謝の言葉を述べる。そんな老人に対して、団員は100点満点の対応を取る。
「……凄い人だかりですね……」
「ごんなにも貧困層の数が多いだなんで……知らながっだだぁ……」
「このカルド王国という国は、一見豊かに見えますが、それは城下町や城に住む富裕層の人達だけであり、貧しい人達はこうした陰に爪弾きにされているのです」
思ってた以上に貧困層の数が多く、リーマとハナコが驚いていると、その横からヴォイス団長が話し掛けて来た。
「そんな貧しい人達を少しでも多く救う為にも、私達“レッマイル”が頑張らなくてはいけません……」
「ヴォイスさん…………?」
ヴォイス団長の話に聞き入っていると、リーマの目線にリップが入り込み、三本指を立てながら腕を縦に回し、必死になってアピールをしていた。
「!!!」
その時、リーマは指に嵌められた指輪を咄嗟に確認する。リップは指輪の効果時間が、残り三十分になった事を伝えに来ていた。そして、何とかそこから抜け出す様にジェスチャーでアピールしていた。
「あ、あのー、ヴォイスさん……ちょっといいですか?」
「何ですかマリーさん?」
「あのー、そのー、ちょっとお手洗いに行って来てもよろしいですか?」
リーマが考えた抜け出す方法。それは人間の生理現象とも言えるお手洗いを利用した方法だった。それっぽく見せる為、両足をもじもじさせる。
「あぁ!! 気付かなくてすみません!! どうぞ行って来て下さい!!」
「それではすみません、ちょっとの間外れます……」
そう言いながらリーマは、足早にその場を離れて行く。
「あんなに急いで……まさか……」
「…………っ!!」
足早に離れて行くリーマを睨み付けるヴォイス団長。そんな様子に、側にいるハナコは息を飲んだ。
「そんなに我慢していたんですかね?」
「あ、あはは……ぞうがもじれないですなぁ……」
的外れな答えを導き出してくれて、ホッと一安心するハナコ。
***
「……はぁ……何とか抜け出せた…………誰!!?」
レッマイルから離れ、スラム街の奥へと身を隠したリーマは指輪を外した。すると容姿が瞬く間に元に戻った。その時、背後から何者かの足音が聞こえ、リーマは咄嗟に身構える。
「まっ、待って下さいリーマさん!! 僕です!!」
「あっ、何だリップさんですか……脅かさないで下さい」
「す、すみません……次の交代が円滑に進む様、相談しようと思いまして……」
足音の正体はリップだった。次に交代する人物を誰にするのか、リーマと一緒に決めようと相談しに来たのだ。
「そうですね……皆さんが今いる立ち位置から考えると、一番早く抜け出せそうなのは私の側にいたハナコさん……次に、列を正しているフォルスさん……そして、スラム街の人達にパンとスープを配っているマオさんの順番でしょうか……」
「ですが……残り二十五分しかありません……指輪が回復するのに掛かる時間は十分……これでは間に合いませんよ」
「…………」
タイムリミット。四人いるのに対して、指輪の効果時間は残り二十五分。リーマが抜け出して五分が経過しているが、それでも一人だけタイムオーバーしてしまう。そうなってしまっては、大勢の目の前で容姿が元に戻ってしまい、潜入調査が水の泡となってしまう。
「こうなっては仕方ありません……残り五分の所で、残った一人にもその場から外れて貰いましょう」
「待って下さい!! それじゃあ、実質二人がその場から外れる事になります!! 僕の様に、ある程度働いている人なら、数人外れても気付かれにくいでしょう……ですが、まだ今日入ったばかりの新人……それもついさっき皆の前で自己紹介した人達が、一気に外れてしまえば不自然に思われ、怪しまれてしまいます!!」
「それでもやらなければ、潜入調査している事がバレてしまうんですよ!! 覚悟を決めるしかありません……」
「…………」
***
それから五分後、リーマは回復した指輪を嵌めて、レッマイルの元へと戻って来た。
「お疲れ様です。只今戻って来ました」
「戻って来ましたか。いやすみませんね、お手洗いに行きたい事に気付いてあげられなくて……」
「いえいえ、全然気にしていませんので…………」
そう言いながらリーマは、ボランティア活動に戻ろうとする際、近くにいたハナコの横を通り過ぎ、擦れ違い様に耳打ちをする。
「(次、ハナコさんの番ですよ)」
「…………」
リーマの耳打ちに、ハナコはゆっくりと瞬きをして返事を返した。
「…………」
「あれ? ハラコさん何処に行くつもりですか?」
リーマと入れ替わる様に、ハナコは足早にその場から離れようとする。だがその直後、ヴォイス団長によって呼び止められてしまう。
「あ、あの……オ、オラ……」
「困りますよ。只でさえ、人手不足なのに……何処に行かれるつもりですか?」
「ド、ドイレに……」
「あなたもですか!? それなら何故さっきマリーさんと一緒に行かなかったんですか!? というより、本当にトイレなんですか?」
「…………」
この時、ハナコの思考はかつて無い程のピンチに、高速回転を起こしていた。そして、通常ハナコでは導き出せない答えを導き出した。
「実はオラ……“あの日”なんだぁ……」
“あの日”ハナコはこの言葉の意味を知らない。しかし、カルド王国の城下町で暮らしていく中、女性がよく口にしていたのを耳にしていた。そんな意味も知らない言葉で、この場を乗り切ろうとしていた。
「“あの日”…………あぁ!! す、すみません!! 女性に対してデリカシーの無い発言をしてしまって!! 成る程、それは確かに一緒に行く事は出来ませんね……どうぞ、行って来て下さい」
「…………どうも……」
そう言いながらハナコは、足早にその場を離れて行くのであった。
「……はぁー、女性の方は大変ですね……」
「あはは……そ、そうですね……」
ヴォイス団長の言葉に、リーマは苦笑いを浮かべるしかなかった。
***
それから十分後、ハナコは回復した指輪を嵌めて、レッマイルの元へと戻って来た。
「(次は……フォルスざんの番だぁ……)」
その場から外れた後、奥で待っていたリップがリーマの時にした会話と同じ内容をハナコに伝えていた。その為、次に交代させるのがフォルスだと知っている。ハナコは、持ち場に戻る際に列を正しているフォルスの横を通り過ぎ、擦れ違い様に耳打ちをする。
「(フォルスざんの番だよぉ……)」
「…………」
ハナコの耳打ちに、フォルスはゆっくりと瞬きをした。
「(さて、どう抜け出そうか……)」
出来る限り自然に抜け出したい。そんな事を考えながら列を正していると、目の前に腰の曲がった老人がいるのに気が付いた。
「…………」
杖を持った七十代位の高齢者。フォルスは列を正す振りとして、右腕を大きく揺らし始める。
「(…………すまない!!)」
「はう!?」
目にも止まらぬ手刀。老人は瞬く間に気絶してしまった。
「大丈夫ですか!? 大丈夫ですか!?」
フォルスは老人を必死に揺らし、安否を確かめる。そして不自然に思われない様、老人を抱き抱える。
「どうしました?」
すると騒ぎを聞き付け、近くにいたレッマイルの団員が駆け寄って来た。
「急にこの御老人が倒れてしまいまして……近くにある診療所に預けて来てもいいでしょうか?」
「そう言う事でしたら、あなたにお任せします」
「ありがとうございます」
そう言いながらフォルスは、老人を抱き抱えながら足早にその場を離れて行くのであった。
「(上手く抜け出せたな……しかし、このスラム街の連中……人が倒れたと言うのに、見向きもしなかったぞ……)」
***
フォルスが老人を気絶させたこの時、真緒の方でも動きがあった。
「どうぞ、熱いですから気を付けて食べて下さいね」
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
「大丈夫ですか!? 大丈夫ですか!?」
「……何か、あったんでしょうか?」
真緒がスラム街の人達に、パンとスープを配っていると、列の奥から誰かの大声が聞こえて来た。
「(……マオさん……マオさん……)」
「!!?」
その時、真緒の側にリップが近寄って来ていた。
「(何だリップじゃないですか、どうしたんですか?)」
「(どうしたんじゃありませんよ!! もう残り時間十分を切っているんですよ!!)」
「(えっ、もうそんなに経っているんですか!? 配るのに夢中で気付かなかった……)」
「(熱心なのは感心ですけど、今は自分の事に気を向けて下さい!! リーマさんとハナコさんはもう先に済ませています。残りはフォルスさんとマオさんの二人だけです)」
「(で、でも確か指環の回復には十分掛かるって……間に合わないじゃないですか!?)」
「(だから、二人で抜けて頂くんですよ!! 今、フォルスさんが騒ぎを起こしたみたいですから、その隙にマオさんも抜け出して下さい!! パンとスープを配るのは僕に任せて下さい!!)」
「(わ、分かりました!!)」
そう言うと真緒は、リップと入れ替わる様にして足早にその場を離れて行く。
「さぁ、まだまだ沢山ありますからね。慌てずに受け取って下さい」
そしてリップは、真緒の代わりにパンとスープをスラム街の人達に配って行く。
「(よし、何とか上手く抜け出せた!!)」
「あの、ちょっと待って下さいソルトさん!!」
「!!?」
真緒がその場から離れようとしたその時、ヴォイス団長に呼び止められてしまった。
「な、何でしょうか?」
「いや、何でしょうかじゃなくて、何処に行くつもりなんですか?」
「えっと……その……」
「マリーさんと言い、ハラコさんと言い、そして先程ルフォスさんが外れて行きました……偶然にしては……出来過ぎていると思うのですが……えっ、どうなんですか?」
冷や汗が流れる。タイムリミットが五分を切った。早く抜け出さなければ、全てが水の泡となってしまう。
「あの……私……私……」
「何?」
焦りと緊張から、思わず俯いてしまった真緒。そんな様子が、更に疑惑の目を向けさせる。
「もしかして……何か隠してる?」
「わ、私……」
もう駄目だ。タイムリミットが残り三分を切った。全てを諦め掛けたその時!!
グゥ~
「…………えっ?」
何と真緒の腹から音が鳴り響いたのだ。ずっとパンとスープの配給をしていた真緒だからこそ出せた音。正に奇跡の音と言えた。
「も、もしかして……お腹が空いちゃったの?」
「…………」
真緒は顔を真っ赤にしながら、ヴォイス団長の言葉に頷く。
「あぁー、そうか……そう言う事か……そうだよね……貧困層に配るパンとスープを食べる訳にはいかないもんね……うん、良いよ。食べておいで……」
「……あ、ありがとうございます……」
そう言いながら真緒は、顔を赤く染めながら足早にその場を離れて行くのであった。そして身を隠した直後、強制的に容姿が元に戻った。何とかギリギリバレずに済んだが、この日真緒は気まずさと恥ずかしさで死にそうになった。
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
レッマイルで潜入調査を始めた真緒達は現在、他の団員達と一緒にスラム街で暮らす貧困層の人々に、パンとスープを無償で提供していた。
「まだまだ沢山ありますからね。慌てずに並んで下さいね」
「あぁ…………ありがとうございます……あなた方のお陰で、今日も飢えで苦しまずに済みます……本当にありがとうございます」
「いえ、少しでも皆様の助けになっているのなら、こちらも嬉しいです」
団員が慣れた手付きで列を捌く中、老人が弱々しく感謝の言葉を述べる。そんな老人に対して、団員は100点満点の対応を取る。
「……凄い人だかりですね……」
「ごんなにも貧困層の数が多いだなんで……知らながっだだぁ……」
「このカルド王国という国は、一見豊かに見えますが、それは城下町や城に住む富裕層の人達だけであり、貧しい人達はこうした陰に爪弾きにされているのです」
思ってた以上に貧困層の数が多く、リーマとハナコが驚いていると、その横からヴォイス団長が話し掛けて来た。
「そんな貧しい人達を少しでも多く救う為にも、私達“レッマイル”が頑張らなくてはいけません……」
「ヴォイスさん…………?」
ヴォイス団長の話に聞き入っていると、リーマの目線にリップが入り込み、三本指を立てながら腕を縦に回し、必死になってアピールをしていた。
「!!!」
その時、リーマは指に嵌められた指輪を咄嗟に確認する。リップは指輪の効果時間が、残り三十分になった事を伝えに来ていた。そして、何とかそこから抜け出す様にジェスチャーでアピールしていた。
「あ、あのー、ヴォイスさん……ちょっといいですか?」
「何ですかマリーさん?」
「あのー、そのー、ちょっとお手洗いに行って来てもよろしいですか?」
リーマが考えた抜け出す方法。それは人間の生理現象とも言えるお手洗いを利用した方法だった。それっぽく見せる為、両足をもじもじさせる。
「あぁ!! 気付かなくてすみません!! どうぞ行って来て下さい!!」
「それではすみません、ちょっとの間外れます……」
そう言いながらリーマは、足早にその場を離れて行く。
「あんなに急いで……まさか……」
「…………っ!!」
足早に離れて行くリーマを睨み付けるヴォイス団長。そんな様子に、側にいるハナコは息を飲んだ。
「そんなに我慢していたんですかね?」
「あ、あはは……ぞうがもじれないですなぁ……」
的外れな答えを導き出してくれて、ホッと一安心するハナコ。
***
「……はぁ……何とか抜け出せた…………誰!!?」
レッマイルから離れ、スラム街の奥へと身を隠したリーマは指輪を外した。すると容姿が瞬く間に元に戻った。その時、背後から何者かの足音が聞こえ、リーマは咄嗟に身構える。
「まっ、待って下さいリーマさん!! 僕です!!」
「あっ、何だリップさんですか……脅かさないで下さい」
「す、すみません……次の交代が円滑に進む様、相談しようと思いまして……」
足音の正体はリップだった。次に交代する人物を誰にするのか、リーマと一緒に決めようと相談しに来たのだ。
「そうですね……皆さんが今いる立ち位置から考えると、一番早く抜け出せそうなのは私の側にいたハナコさん……次に、列を正しているフォルスさん……そして、スラム街の人達にパンとスープを配っているマオさんの順番でしょうか……」
「ですが……残り二十五分しかありません……指輪が回復するのに掛かる時間は十分……これでは間に合いませんよ」
「…………」
タイムリミット。四人いるのに対して、指輪の効果時間は残り二十五分。リーマが抜け出して五分が経過しているが、それでも一人だけタイムオーバーしてしまう。そうなってしまっては、大勢の目の前で容姿が元に戻ってしまい、潜入調査が水の泡となってしまう。
「こうなっては仕方ありません……残り五分の所で、残った一人にもその場から外れて貰いましょう」
「待って下さい!! それじゃあ、実質二人がその場から外れる事になります!! 僕の様に、ある程度働いている人なら、数人外れても気付かれにくいでしょう……ですが、まだ今日入ったばかりの新人……それもついさっき皆の前で自己紹介した人達が、一気に外れてしまえば不自然に思われ、怪しまれてしまいます!!」
「それでもやらなければ、潜入調査している事がバレてしまうんですよ!! 覚悟を決めるしかありません……」
「…………」
***
それから五分後、リーマは回復した指輪を嵌めて、レッマイルの元へと戻って来た。
「お疲れ様です。只今戻って来ました」
「戻って来ましたか。いやすみませんね、お手洗いに行きたい事に気付いてあげられなくて……」
「いえいえ、全然気にしていませんので…………」
そう言いながらリーマは、ボランティア活動に戻ろうとする際、近くにいたハナコの横を通り過ぎ、擦れ違い様に耳打ちをする。
「(次、ハナコさんの番ですよ)」
「…………」
リーマの耳打ちに、ハナコはゆっくりと瞬きをして返事を返した。
「…………」
「あれ? ハラコさん何処に行くつもりですか?」
リーマと入れ替わる様に、ハナコは足早にその場から離れようとする。だがその直後、ヴォイス団長によって呼び止められてしまう。
「あ、あの……オ、オラ……」
「困りますよ。只でさえ、人手不足なのに……何処に行かれるつもりですか?」
「ド、ドイレに……」
「あなたもですか!? それなら何故さっきマリーさんと一緒に行かなかったんですか!? というより、本当にトイレなんですか?」
「…………」
この時、ハナコの思考はかつて無い程のピンチに、高速回転を起こしていた。そして、通常ハナコでは導き出せない答えを導き出した。
「実はオラ……“あの日”なんだぁ……」
“あの日”ハナコはこの言葉の意味を知らない。しかし、カルド王国の城下町で暮らしていく中、女性がよく口にしていたのを耳にしていた。そんな意味も知らない言葉で、この場を乗り切ろうとしていた。
「“あの日”…………あぁ!! す、すみません!! 女性に対してデリカシーの無い発言をしてしまって!! 成る程、それは確かに一緒に行く事は出来ませんね……どうぞ、行って来て下さい」
「…………どうも……」
そう言いながらハナコは、足早にその場を離れて行くのであった。
「……はぁー、女性の方は大変ですね……」
「あはは……そ、そうですね……」
ヴォイス団長の言葉に、リーマは苦笑いを浮かべるしかなかった。
***
それから十分後、ハナコは回復した指輪を嵌めて、レッマイルの元へと戻って来た。
「(次は……フォルスざんの番だぁ……)」
その場から外れた後、奥で待っていたリップがリーマの時にした会話と同じ内容をハナコに伝えていた。その為、次に交代させるのがフォルスだと知っている。ハナコは、持ち場に戻る際に列を正しているフォルスの横を通り過ぎ、擦れ違い様に耳打ちをする。
「(フォルスざんの番だよぉ……)」
「…………」
ハナコの耳打ちに、フォルスはゆっくりと瞬きをした。
「(さて、どう抜け出そうか……)」
出来る限り自然に抜け出したい。そんな事を考えながら列を正していると、目の前に腰の曲がった老人がいるのに気が付いた。
「…………」
杖を持った七十代位の高齢者。フォルスは列を正す振りとして、右腕を大きく揺らし始める。
「(…………すまない!!)」
「はう!?」
目にも止まらぬ手刀。老人は瞬く間に気絶してしまった。
「大丈夫ですか!? 大丈夫ですか!?」
フォルスは老人を必死に揺らし、安否を確かめる。そして不自然に思われない様、老人を抱き抱える。
「どうしました?」
すると騒ぎを聞き付け、近くにいたレッマイルの団員が駆け寄って来た。
「急にこの御老人が倒れてしまいまして……近くにある診療所に預けて来てもいいでしょうか?」
「そう言う事でしたら、あなたにお任せします」
「ありがとうございます」
そう言いながらフォルスは、老人を抱き抱えながら足早にその場を離れて行くのであった。
「(上手く抜け出せたな……しかし、このスラム街の連中……人が倒れたと言うのに、見向きもしなかったぞ……)」
***
フォルスが老人を気絶させたこの時、真緒の方でも動きがあった。
「どうぞ、熱いですから気を付けて食べて下さいね」
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
「大丈夫ですか!? 大丈夫ですか!?」
「……何か、あったんでしょうか?」
真緒がスラム街の人達に、パンとスープを配っていると、列の奥から誰かの大声が聞こえて来た。
「(……マオさん……マオさん……)」
「!!?」
その時、真緒の側にリップが近寄って来ていた。
「(何だリップじゃないですか、どうしたんですか?)」
「(どうしたんじゃありませんよ!! もう残り時間十分を切っているんですよ!!)」
「(えっ、もうそんなに経っているんですか!? 配るのに夢中で気付かなかった……)」
「(熱心なのは感心ですけど、今は自分の事に気を向けて下さい!! リーマさんとハナコさんはもう先に済ませています。残りはフォルスさんとマオさんの二人だけです)」
「(で、でも確か指環の回復には十分掛かるって……間に合わないじゃないですか!?)」
「(だから、二人で抜けて頂くんですよ!! 今、フォルスさんが騒ぎを起こしたみたいですから、その隙にマオさんも抜け出して下さい!! パンとスープを配るのは僕に任せて下さい!!)」
「(わ、分かりました!!)」
そう言うと真緒は、リップと入れ替わる様にして足早にその場を離れて行く。
「さぁ、まだまだ沢山ありますからね。慌てずに受け取って下さい」
そしてリップは、真緒の代わりにパンとスープをスラム街の人達に配って行く。
「(よし、何とか上手く抜け出せた!!)」
「あの、ちょっと待って下さいソルトさん!!」
「!!?」
真緒がその場から離れようとしたその時、ヴォイス団長に呼び止められてしまった。
「な、何でしょうか?」
「いや、何でしょうかじゃなくて、何処に行くつもりなんですか?」
「えっと……その……」
「マリーさんと言い、ハラコさんと言い、そして先程ルフォスさんが外れて行きました……偶然にしては……出来過ぎていると思うのですが……えっ、どうなんですか?」
冷や汗が流れる。タイムリミットが五分を切った。早く抜け出さなければ、全てが水の泡となってしまう。
「あの……私……私……」
「何?」
焦りと緊張から、思わず俯いてしまった真緒。そんな様子が、更に疑惑の目を向けさせる。
「もしかして……何か隠してる?」
「わ、私……」
もう駄目だ。タイムリミットが残り三分を切った。全てを諦め掛けたその時!!
グゥ~
「…………えっ?」
何と真緒の腹から音が鳴り響いたのだ。ずっとパンとスープの配給をしていた真緒だからこそ出せた音。正に奇跡の音と言えた。
「も、もしかして……お腹が空いちゃったの?」
「…………」
真緒は顔を真っ赤にしながら、ヴォイス団長の言葉に頷く。
「あぁー、そうか……そう言う事か……そうだよね……貧困層に配るパンとスープを食べる訳にはいかないもんね……うん、良いよ。食べておいで……」
「……あ、ありがとうございます……」
そう言いながら真緒は、顔を赤く染めながら足早にその場を離れて行くのであった。そして身を隠した直後、強制的に容姿が元に戻った。何とかギリギリバレずに済んだが、この日真緒は気まずさと恥ずかしさで死にそうになった。
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