笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第二章 冒険編 不治の村

必ず帰って来る(前編)

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 気が付くと、僕は知らない場所に着いていた。心地好い風が肌をくすぐる。足には感じた事の無い感触。後で知ったけど、足下に生えている植物は“草”と呼ぶらしい。僕は広大な草原に着いていた。見上げるとそこには青空が広がっており、雲が優雅に泳いでいた。僕の知らない世界がそこにはあった。感じる全ての物が初めて経験する事だった。



 「う~ん、的が外れましたね~。あそこになら、手頃な人材がいると思ったのですが……」



 初めての世界に干渉していると、僕を連れ出してくれた仮面を被った彼が、何かを語り始めた。彼に構って欲しい僕は、足下に近付いて行く。



 「残りのロストマジックアイテムは“四つ”……別に急ぎの案件じゃありませんから、気長にやっていくつもりですけど……それでもせめて、百年以内には“三つ”に減らしたい所ですね~」



 「ミー、ミー」



 彼に気が付いて貰う為に、僕は彼が履いているズボンの裾を引っ張りながら、鳴き声を上げる。



 「…………ん?」



 すると彼は足下に視線を向けて、僕に気が付いてくれた。嬉しい!!



 「ミー、ミー」



 「おやぁ~、何処から来たのですか~?」



 「ミー、ミー!!」



 僕は彼に構って貰う為、四つん這いの体制から、前足部分だけを何度も上げて必死にアピールする。



 「(……まさか、さっきの場所から一緒に転移して来た? あの時、気配は全く感じられなかった。気づかなかったのか、この私が……? もしかして……)」



 すると彼は僕の前足の両脇に、そっと手を差し込んで持ち上げてくれた。僕、それなりの大きさなのに、持ち上げられるなんて……とても力持ちなんだね!!



 「(やっぱり……前足の爪に微量ですが、血が付着しています……十中八九、このドラゴンが、あのドラゴンに傷を負わせたのでしょう……成る程、確かにポテンシャルは先程までいたドラゴン達より、高い様ですね~……このドラゴンになら、この腕輪を渡せる…………)」



 「ミー、ミー!!」



 彼は僕をしばらくの間持ち上げ、そのまま地面に下ろした。欲を言えば、もう少し持ち上げていて欲しかったな。



 「(いや、無理ですね。ポテンシャルは高い様ですが、ドラゴンとして必要不可欠な鱗、翼、尻尾が無い。これは致命的と言えます)」



 ドラゴンが生態系の頂点と呼ばれる理由。それはドラゴンの性能が、他の種族よりも圧倒的に高いからである。ドラゴンの鱗は、至近距離から発射された大砲の玉をも弾く。ドラゴンの翼は、羽ばたきだけで周囲の物を吹き飛ばす。ドラゴンの尻尾は、一振りで地面を抉る。まさに歩く災害とも言える性能、この性能がドラゴンを生態系の頂点と言わしめる要因となっている。



 「ミー、ミー」



 「あぁ~、とても愛くるしい鳴き声をしますね~。でも残念、もっと聞いていたい所ですが、こう見えて私は非常に忙しい身でしてね~。この辺で、お開きとしましょうか~」



 「ミー?」



 すると彼は、僕の目をじっと見つめながら右手の親指と中指をくっ付けた。



 「ミー!?」



 そんな!? まさかまた何処かに行ってしまうの!? そんな嫌だよ、もっと彼の側にいたい。離れたくない!!



 「それでは、さようなら~」



 「ミー!!」



 置いてかないで!! 僕は彼が指を鳴らす寸前に、自身の舌を伸ばして彼の足にくっ付けた。その瞬間“パチン”という音と共に、再び景色が一変する。







***







 切り立った岩山。先程までの草原とは違い、草木は一本も生えていなかった。あるのはゴツゴツとした岩や石だけ、植物と呼べる物は全く生えていなかった。



 「……さて、気を取り直して次の候補を探すとしましょうかね~。取り敢えず目ぼしいのは、犯罪が横行しているという町……もしくは……」



 彼はまた何かを語り始めた。一人で話すのが好きなのかな? そんな彼の姿は、ずっと見ていたいけど……少しは僕にも構って欲しい。



 「ミー、ミー」



 「!!?」



 僕の鳴き声に反応して、彼が僕を見てくれた。何だか驚いている様子だけど、どうしたのかな?



 「(……転移魔法を唱える寸前に、私の体に触れて付いて来るとは……反射神経だけは一人前ですね……ならば今度は、指を鳴らさずにノーモーションで転移するだけです!!)」



 「ミー?」



 何だろう……凄く嫌な予感がする。彼が何処か遠くに行ってしまう様な……でも、指はくっ付けていないし……大丈夫な筈……でも、もしかしたら……。



 「ミー!!」



 「何!?」



 僕は咄嗟に、彼目掛けて自身の舌を勢い良く伸ばした。彼は驚きの声を上げながら、僕が伸ばした舌を避けた。避けられた事を確認した後、僕は慌てて伸ばした舌を引っ込めた。



 「……まさか、感じ取った? いや、動物的本能か……それなら……」



 「!!?」



 すると突然、彼は僕と距離を取り始めた。どんどん遠ざかって行く……このままじゃ、彼と離れ離れになってしまう。そんなの嫌だ!!



 「ミー、ミー!!」



 僕は遠ざかる彼目掛けて、自身の舌を限界まで伸ばした。



 「よっ、ほっ、はっ!!」



 彼は右に避けたり、左に避けるなど僕の舌から避ける様に動き回る。僕は必死に彼の後を舌で追い掛ける。



 「(……こんなに動き回っているのに、まるで蛇の様に追い掛けて来る……何て執着心の高い舌なんでしょうか)」



 「ミー、ミー!!」



 何とか避け続ける彼に追い付く為、思い切り舌を伸ばした。すると僕の舌は、これまでより速い速度で彼に向かって行った。



 「勝負を急ぎ過ぎましたね~」



 「ミー!?」



 しかし彼は、それを予見していたのか。僕が伸ばした舌を、体を少し捻る事で回避した。



 「それでは今度こそ、さようなら~」



 「ミー、ミー!!!」



 嫌だ、嫌だ。彼と離れたく無い。もっと彼の側にいたい。動け、動け僕の舌!! 彼の下まで辿り着くんだ!!







          ギュン!!!







 僕の願いが通じたのか。はたまた、意識を向けた事で操れる様になったのか。真っ直ぐ伸ばした筈の舌先は、放物線を描く様に百八十度回転し、彼の背中へとくっ付けた。その瞬間、三度目、景色が一変する。







***







 沼地。薄暗く、湿気でじめじめとするこの場所は、これまでの草原や切り立った岩山とは違う。新感覚を味わっていた。



 「……ふぅ~、ここまで来れば大丈夫な筈……「ミー、ミー」……です……」



 僕が鳴き声を上げると、彼が僕の方を向いてくれた。僕は甘えたい一心で、彼の足へ顔を擦り付ける。



 「…………殺すか」



 すると彼は、懐から小さなナイフを取り出した。それに構わず、僕は彼の足に顔を擦り付けて思う存分甘える。彼の取り出したナイフが、僕の首元に当たる。



 「ミー、ミー」



 「…………」



 その時、かの道化師の心に迷いが生じた。嬉しそうに甘えて来る目の前のドラゴンの姿と、かつて“オモト”の所で世話をしていた三つの頭を持つ犬“ワーフ”の姿を重ね合わせてしまったのだ。



 「(……っ!! もう駄目だ……人は一度決心が鈍ると、二度と同じ決断が取れなくなる。例え取れたとしても、それは心残りとして一生付きまとって来る……だが、どうにかして追い払わなければ…………あぁ、この方法しか無いのか……本来なら絶対にやらない行為なんだがな……背に腹はかえられない……)」



 僕が甘えていると、彼は持っていたナイフを懐に仕舞い、後ろを向いた。そして被っていた仮面を取り外した。そして…………。



 「ガァアアアアア!!!」



 「ミー? ミー!!」



 そして彼は、自分の素顔を僕の目の前で見せてくれた。嬉しい!! 僕の身長に合わせる為、わざわざ屈んで近付けてくれるだなんて。僕は嬉しさのあまり、近付けてくれた彼の顔に、僕の顔を擦り付けて甘える。



 「ミー、ミー」



 「…………」



 彼はまるで、石の様に固まっていた。自分が何をされているのか、まだ理解出来ていない様子だった。そんなのお構い無しに、僕は顔を擦り付けて甘え続ける。



 「……は、ははは……ははははは……」



 しばらくして、彼は突然笑い始めた。とても乾いた笑いだったけど、その笑いは何処か嬉しそうで、同時に切なそうにも感じた。



 「……あぁ、世界中の生き物が……お前の様に純粋無垢なら、良かったんだけどな……」



 そう言いながら彼は、僕の体を優しく撫でてくれた。僕は益々嬉しくなり、甘えまくった。彼は、僕が満足するまで撫で続けてくれた。







***







 「……こうなっては仕方が無い。俺は、お前が気に入った。お前に腕輪を託したい」



 思う存分甘え続けた後、彼はゆっくりと立ち上がり、何やら語り始めた。僕は黙って、その語りを聞く事にした。



 「……だが、今のお前の実力では意図も簡単に殺されてしまうだろう。腕輪を託すのに相応しい実力になるまで、俺が鍛えてやろう」



 すると彼は、僕に向けて左手を差し伸べた。



 「ミー?」



 「一緒に来い。お前を一人前のドラゴンにしてやる」



 「ミー、ミー!!!」



 よく分からないけど、一緒にいてくれるなら、何でも良いよ。僕は嬉しくなって、彼から差し伸べられた左手に自身の前足を乗っけた。



 「それじゃあ……行きましょうか~」



 すると彼は、外していた仮面を再び被り直した。途端に口調が変わり、右手の親指と中指をくっ付ける。でももう慌てる必要は無い。だって彼の左手を確り握っているからね。絶対に離れないよ。



           パチン




 “パチン”という音と共に本日四度目、景色が一変する。
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