笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

文字の大きさ
40 / 275
第三章 冒険編 私の理想郷

真緒パーティー VS キメラ軍団

しおりを挟む
 「コケェエエエ!!!」



 押し寄せる異様な見た目をした大群。鳥の頭に体が蟹の生物は、口から泡を吐き出しながらその巨大なハサミを使い、目の前にいる真緒目掛けて襲い掛かって来た。



 「遅い!!」



 そんなハサミの攻撃に対して真緒はバックステップを取り、華麗に避ける。



 「スキル“ロストブレイク”!!」



 「ゴゲェエエエ!!!」



 更にそのまま、流れる様にスキルを発動し、鳥の頭に体が蟹の生物を貫いた。体内は鳥と同じ肉と内蔵が入っており、血の色も赤だった。



 「いったい何なんですか、この生き物は?」







***



 「はぁー、おじさん……仕事、クビになっちゃったんだ……」



 「えっ……」



 リーマは酷く困惑していた。押し寄せる異様な見た目をした大群の中で、人間の頭に兎の体をした生物を相手にしようとしたのだが、突然深い溜め息を吐き、仕事が無くなった事を口にし始めた。



 「娘が帝国に就職したいって言っててさ……その為に金が必要なのに、突然の解雇……」



 「は、はぁ……」



 「まだ妻と娘には話していないんだ……二人には余計な心配を掛けたくないんだ……おじさんの気持ち……分かるよね?」



 「た、大変ですね……」



 顔はおじさん、体は可愛らしい兎。重たい話を一方的に聞かされるリーマは、同調する事しか出来ない。



 「君は……若いのに立派だね……だけど人生は理不尽だ……ある時突然、思いがけない事で不幸のドン底に叩き落とされるかもしれない……気を付けなさい」



 「は、はい……分かりました」



 自身の不幸話からいつの間にか、若者に向けての説教に変わっていた。おじさんの説教を素直に聞いているリーマの背後に、兎の頭に人間の体をした生物が歩み寄っていた。



 「(ぐふふ……間抜けな女だ。戦闘の最中、こんなデタラメな話を素直に聞くとは……これ程までに、俺の口が達者という訳だ)」



 嘘。まるで本物の人間を思わせるおじさん。巧みな話術で、リーマの注意を引く。



 「常に周りを気にするんだ。そうじゃないと……死んでしまうぞ?」



 「……その点については、大丈夫です」



 「……えっ?」



 その瞬間、リーマの背後に歩み寄っていた兎の頭に人間の体をした生物は、炎の槍によって体を貫かれ、焼け死んだ。



 「“炎の槍”……魔法使いが、自分の間合いを注意しない訳がありません」



 「あ、あぁ……ひぃいいいいい!!!」



 おじさんは目の前の光景に恐怖し、慌ててその場から逃げ出した。



 「あんな生き物がいるとは……油断出来ませんね」



 そう言いながらリーマは、貫いた炎の槍を引き抜いた。







***







 「ブブ……ブブブ……」



 「スキル“インパクト・ベア”!!」



 ハナコは囲まれていた。ハエの頭に蛇の体をした生物は力こそ無いものの、数が多かった。



 「ブブ……ブブブ……」



 「くぞぉ……潰しても潰しても、切りが無いだぁ……」



 「ブブ……ブブブ……」



 「ブブブ……ブブ……」



 「ブブブブ……」



 「む、虫の顔っで……間近で見るど気持ぢ悪いだぁ……」



 人間の頭サイズに巨大化しているハエの頭。虫特有の複眼が、気持ち悪さを強調している。



 「ブブブ……ブブ……」



 「うぅ……ごっぢに来るなぁ!!! スキル“鋼鉄化(腕)”!!」



 ジリジリと迫って来るハエ頭の蛇達。するとハナコは、自身の両腕を鋼鉄に変化させた。



 「うわぁあああああ!!!」



 そしてそのまま、叫び声を上げながら勢いに身を任せ、両腕を地面に叩き付けた。



 「ブ……ブ……ブブ……!!!」



 「来るな!! 来るな!! 来るな!!」



 何度も何度も地面を叩き付ける。地面にヒビが入り、衝撃波がハエ頭の蛇達に遅い掛かる。衝撃波によって体がバラバラになったり、割れた地面の隙間に落ちるなど、一網打尽に成功した。



 「はぁ……はぁ……気持ぢ悪がっだだぁ……」



 額から冷や汗を流しながら、ホッと胸を撫で下ろすハナコ。







***







 「パクパクパク」



 「…………」



 「パクパクパク」



 「…………」



 「パクパクパク」



 「……これは何の冗談だ……魚が空を飛んでいる……」



 目の前の光景を疑った。フォルスの周りを魚の頭に鳥の体をした生物が旋回していた。



 「危険性は……無さそうだな……」



 「パクパクパク」



 魚頭の鳥は旋回するだけで、フォルスに襲い掛かって来る様子は見受けられなかった。



 「パクパクパク……ギラ!!」



 と、思っていた矢先に魚の口から鋭い牙が生えた。



 「……まぁ、そうなるよな……」



 魚頭の鳥は、生やした牙で噛み付こうと、フォルス目掛けて襲い掛かる。



 「“ウィンド”……」



 フォルスが弓を構えると、矢に風がまとわりつく。強い力に、カタカタと震える弓矢を確りと指で押さえる。



 「ギシャアアアアア!!!」



 「貫け……“ブースト”!!」



 大きく口を開け、牙を剥き出しにしながら襲い掛かって来る魚頭の鳥目掛けて、勢い良く矢を放った。



 「ギジャ!!?」



 放たれた矢が、肉眼では捉えきれない速度で魚頭の鳥の口に入ると、体の中を傷付けながら通り、そして貫通した。



 「空なのか海なのか、どちらかに統一してから出直して来い」



 魚にも鳥にもなれない出来損ない。事切れてしまった魚頭の鳥は、垂直に落下していく。そんな光景を静かに眺めるフォルスだった。







***







 「はぁ……はぁ……」



 「コケェエエエ!!!」



 「はぁ……はぁ……」



 「おじさんさ……今年で40歳になるんだよ……」



 「はぁ……はぁ……」



 「ブブブ……ブブ……」



 「はぁ……はぁ……」



 「パクパクパク」



 戦闘開始してから約一時間、最初こそ優勢だった筈の真緒達だったが、今では互いに肩を預ける程まで追い詰められていた。



 「か、数が全然減らない……」



 「それどころか、増えていないか?」



 「一体、一体はぞごまででも無いのに……」



 「長期戦になると厳しいですね……」



 追い詰められた理由。それは、圧倒的な数の多さだった。倒しても倒しても減らない、寧ろ増えている。延々と続く戦いに、真緒達は疲労し始めた。



 「くそっ!! こいつらはいったい何処からやって来るんだ!!?」



 「こんなに数が多く、奇妙な見た目をしているのに、噂にすらなっていないだなんて……」



 「はぁ……はぁ……も、もう駄目だぁ……オラ、限界だぁ……」



 「そんなハナコさん!! 諦めないで下さい!!」



 無限に湧いて来る異様な見た目をした生物達。真緒達を中心に、取り囲もうとする。



 「不味いな……皆、一先ず逃げよう!! このままじゃ、全滅してしまう!!」



 「わ、分かりました!!」



 「仕方が無いか……」



 「分がっだだぁ……」



 これ以上の戦闘は、パーティーの全滅を招くと考えた真緒達は、一目散にその場から逃げ出した。



 「コケェエエエ!!!」



 「おい、何処に行く!! 全く最近の若いのは人の話を聞かない……」



 「ブブ……ブブブ……」



 「ギシャアアアアア!!!」



 一目散にその場から逃げ出した真緒達の後を追い掛ける、異様な見た目の生物達。



 「お、追い掛けて来ますよ!!?」



 「取り敢えず今は、全力で走るんだ!!」



 「でもこのままじゃ……何処かに隠れないと……フォルスさん!! 空から何か見えませんか!!?」



 「何か!? そんな事、突然言われたって…………ん?」



 フォルスが空中から辺りを見回していると、真緒達が走っている先に巨大な館があるのが見えた。



 「おい、皆!! この先に大きな館があるのが見えるぞ!!」



 「……何とかその館で匿って貰えないかな?」



 「考えている暇はありません!! 無理矢理でも、入れて貰いましょう!!」



 「はぁ……はぁ……オ、オラも賛成だぁ!!」



 息を切らしながら、全力疾走で先にあるであろう館に向かう真緒達。その後を追い掛ける異様な見た目をした生物達。



 「あ、あれじゃありませんか!!?」



 リーマが指差す方向には、フォルスが言った通り、巨大な館が建っていた。



 「そうだ!! あれだ!!」



 「フォルスさん!! 先に行って、家主の人に匿って貰える様、説得して来て下さい!!」



 「はぁ……はぁ……頼むだぁ!!」



 「分かった!!」



 空を飛んでいるフォルスは、地上を走っている真緒達よりも先に、館の玄関へと辿り着いた。館の玄関は豪華な両開きになっており、黄金色をしたライオンのドアベルが取り付けられていた。フォルスは慌てて、黄金色をしたライオンのドアベルを鳴らした。しばらくして片方の扉が開き、中から水色の髪をした非常に落ち着きのある優しそうな大人の女性が現れた。



 「はい? どちら様ですか?」



 「すまない!! しばらくの間、俺達を匿ってくれないか!?」



 「えっ? 匿う? 何を仰っているのですか?」



 「兎に角、説明は後だ!! 頼む!! この通りだ!!」



 説明している余裕の無いフォルスは、頭を地面に擦り付けて、匿って貰える様に頼み込んだ。



 「えっ、ちょ、何を!?」



 「頼む!!」



 「…………分かりました」



 「本当か!?」



 フォルスは慌てて頭を上げ、再確認する。



 「困っている人を放っておく訳にはいきません。どうぞ、中に……」



 「あ、ありがとう!! 皆、急いで中に入るんだ!!」



 フォルスの声に答える間も無く、真緒達は慌てて館の中へと駆け込んだ。そして急いで扉を閉める。



 「コケェエエエ……」



 「…………ちぃ」



 「ブブ……ブブブ……」



 「パクパクパク……」



 異様な見た目をした生物達は、館には近付こうとはせず、何かから逃げる様に散り散りに離れて行った。後に残ったのは、大きく聳え立つ館だけだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。 それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。 ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。 彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。 剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。 そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...